ある日のダーザイン本部にある太刀花双輪華の事務所に、
宵月庵のゴルドーとドットが訪ねて来た。
「アポイントは取らせてもらったが、
ひとまずこちらを……いつもの品で申し訳ないが。」
ゴルドーが差し出したのは横崎町の和菓子アソート詰め合わせセットだった。
「はい、いつもありがとうございます。
では、執務室で要件を改めて伺わせていただきます。」
那由多は礼をしながら、丁寧に和菓子アソートを受け取りつつ応対していた。
「いつも丁寧な応対で助かる。
うちの隊長やワンダースケアも少しは見習ってほしいものだがな。」
「確かにうちの隊員でこういう事出来る人、少ないからなぁ。」
ゴルドーは営業スマイルを浮かべながら那由多の案内に従って入室し、ドットもゴルドーに同意しながらついていった。
「ゴルドーさん、ドットさん。
ようこそいらっしゃいました。」
執務室に藍が立ち上がりながら挨拶し、
その横にはアフロダイBもといアフロがノートとペンを用意していた。
「本日はよろしく頼む。」
「よろしくお願いします。」
ゴルドーがお辞儀すると、ドットもゴルドーに倣ってお辞儀した。
「さぁ、みんな座ってくれ。」
そしてアフロが全員に座るよう促したと同時に那由多も入室してお茶を汲み始め、
太刀花双輪華と宵月庵で向き合う形で座る事になった。
「今回は話の場を用意して頂き、感謝する。
早速本題だが、
今回は"バースセイバー"としての太刀花双輪華に向けた依頼ではない。」
ゴルドーの発言と同時に太刀花双輪華側の面々が耳を傾けていた。
「はい、そちらのアポイントメールで、
『霊や超常現象の類に関する』相談と聞きましたが、
つまり太刀花家、対魔師としての力を借りたいと……?」
「そうだ。」
藍の問いかけにゴルドーは静かに頷きながら答えた。
「ちなみに誰の依頼になるのかな?」
「……ドット、後は頼んでいいか。」
アフロに質問を投げかけられたゴルドーはドットの方を向きながら語り掛けた。
「はい……藍ちゃん。
いつだったか、私と実戦形式の訓練をしてくれた時に話した
『アーノルド』っていうヒーローの事、覚えているかな?」
「はい、
ドットさんが生まれる前から町を守っているベテランヒーローだと。」
ドットの質問に藍は答えた。
「実は今回の依頼人ってのは、そのアーノルドなんだ。」
藍とドットの会話から『ヒーロー』という単語を耳にした那由多が少し目を輝かせていた。
「差し支えなければ、依頼の経緯もお聞かせしてもよろしいでしょうか?」
藍が話しているのを見て、那由多は大人しく話に入ろうとしていた。
「はい、私は普段、
ダーザインと自分の世界にあるV.C.S横崎町支部を行き来していますが、
V.C.S横崎町支部にアーノルドがV.C.S公認ヒーローとして常駐し、
ダーザインの事情は支部長とアーノルドは知っていますが、
それ以外の人達には表向き『他のヒーローとの交流研修』という形にしていて、
宵月庵や藍ちゃん達の事を始めとしたみんなの事を話しているうちに、
アーノルドから
『幽霊と会話出来そうな人を知らないか?』
って話をもちかけられました。」
ドットは依頼の経緯を語った。
「君の世界には対魔を生業とするものはいなかったの?
以前魔法少女がいるかと聞いた事あったけど、頼る事は出来なかった?」
那由多はアフロが議事録を書いている横で質問をした。
「アーノルド本人も、
最初そういう詳しい人に頼ろうとしたみたいですが、
元々本人の交流が狭い上に、
V.C.Sにいる公認ヒーローの中にもあまり詳しい人がいなくて、
そんな中、私が藍ちゃん達の事を話したら、
『相談だけでも出来ないか?』って、頼まれちゃって……。」
ドットは困惑しながらも那由多の質問に答えていた。
「確かに下手な他人よりも知り合いから紹介してもらった方が安心出来るのは、
気持ちとしてもわかるけど……。」
「いくら依頼とはいえ異なる世界故、
勝手の違いもあるだろうし、すぐに決断をとは言わない。」
那由多がアーノルドの心理を理解している横で、
ゴルドーは太刀花双輪華側に慎重な姿勢を取るように求めていた。
「ちなみにその依頼の詳細は聞いておりますか?」
藍は思い切って、ドットに詳細を確認してみた。
「確か……
『剣に宿っている幽霊の過去を知りたい』
だ、そうです。」
ドットは思い出しながら答えていた。
「どういうことでしょうか?」
「えっと……アーノルドから聞いた話によると
なんでも私と同じくらいの年の頃に、
化け物に襲われて逃げていた所にどこからともなく飛んできた剣を握ったら、
甲冑の姿になってその化け物を倒した事から、
ヒーローとして活動するようになったのがアーノルドの始まり。
それでその剣には幽霊らしき存在がいるけど何を言っているのかわからないけど、
イエスかノーのどっちかは辛うじて理解できるみたい。
ずっと解消できずにいた疑問にようやく向き合う余裕が出来た事で、
今回の依頼に至ったわけなんですが。」
ドットは困惑しながらも藍達に依頼の詳細について語っていた。
「その剣にいる幽霊ってのは?」
「正直、アーノルドから言われて初めて知ったよ。
支部長……私の世界における上司はアーノルドの事を良く知ってたみたいですが、
『変なひとり言をしているのをたまに見た事あったが、そういう意味だったのか』
って言ってたくらいで、
本当、私の周り……というかアーノルドの周りに霊や超常現象の類がわかる人がいなかったんだ。
昔、神社とかで見てもらった事もあったみたいだけど、ダメだったみたい。」
ドットは那由多の質問に肩をすくみながら答えていた。
「その依頼……一度、持ち帰ってもよろしいでしょうか?」
藍は少し考えながらゴルドー達に問いかけた。
「それは構いません。
そちらの結論が決まり次第、連絡を頂けると幸いです。」
ゴルドーは営業スマイルを浮かべながら、ゆっくりと立ち上がった。
「あ、じゃあ、私達はこれで!」
ドットもゴルドーに続いて、退出していった。
ゴルドー達が去った後の執務室で、
藍と那由多、そして作成した議事録を見返すアフロで囲んでいた。
「今回の依頼、私は受けたいと思っていますが。」
藍が先に口を開いた。
「正直、迷っているなぁ……。
ドットちゃんの話を聞く限り、
その剣の幽霊とは対話出来そうだけど、
剣に宿っている幽霊なんて、あまりいい例がなかった気がする。
実は呪われてて、一度装備したら死ぬまで外せないとか、
自分よりも強そうな持ち主がいたらそっちに移ろうとするとか、
あり得そうなのが怖いんだ。」
那由多は藍を心配していた。
「アフロは、藍ちゃんの気持ちを尊重するよ。
ただ、何かあった時の為にも、一人では行かせたくない。
せめて誰か一人サポートに連れていくべきだと思う。」
アフロは議事録をまとめながら、藍に助言した。
「これまでの話と私の意見を踏まえて、
一応、報告の体で太刀花家に伝えます。
その反応次第で、宵月庵の皆様にお伝えしましょう。」
藍は自分達の考えをまとめた。
藍からの報告を受けた太刀花家からは
「依頼の内容そのものは問題ないので、依頼を受けるかどうかは藍に一任する。
もし依頼を受ける場合、今回は異世界からの依頼故、守ってほしい事がある。
・対話が主軸になるのでこれまでの依頼を踏まえて那由他を必ず連れていく事
・現地世界の人間、特に対魔に関する問題が発生した場合に、
対応できそうな者を向こう側に手配できないか試みる事
・対話で判明した事実を伝えるのが役目で、
最終的な判断は現地世界の人間に委ねる事」
という旨の注意を受け取り、
藍達はドット、もといアーノルドからの依頼を受ける事を決めた。
その後、宵月庵に依頼を引き受けると連絡したところ、
現地へのガイドとしてドットと、
新しく宵月庵に入ったばかりのヨルネが同行してくれる事になった。
ドットは依頼人であるアーノルドの仲介、
ヨルネはV.C.S公認ヒーローに認定されている数少ない魔法少女でもあり、
ゴルドーが手配してくれたせめてもの応援だった。
《心表裏世界》と呼ばれるドット達の世界で、
現地ダーザイン支部からヨルネが運転するV.C.Sの所有車でV.C.S横崎町支部に向かっていた。
「そういえば、ちゃんと自己紹介してなかったわね。
私はヨルネ・フェリス、
最近宵月庵に入ったけどこの姿ではヨリ、と呼んでね。」
ヨリと名乗った女性は肩に届くくらいの長さのある水色の髪で、
頭頂部の左側に灰色の輪が引っかかるように乗っかっていて、
紺をベースにしたジャケットにタイトスカートといった職員らしき制服を身に包んで、
車を運転していた。
ドットは助手席に座っており、藍と那由多は後部座席に座っていた。
「ダーザインのデータではもう少し髪が長かったし、
それに頭の飾りが灰色の王冠だったような……。」
那由多は端末に映っているヨルネのデータと運転席にいる女性の姿を見比べていた。
「まぁ、そのデータでは魔法少女としての恰好で登録してるけど、
この格好は人間界、
もとい《心表裏世界》で活動する為に必要な仮初めの姿ってやつよ。」
ヨリは苦笑いしながら、カーナビを確認していた。
「あ、妖精なんですね!?」
那由多は端末から情報を確認していた。
「妖精の姿に戻ったら、
運転出来なくなるから目的地に着いたらちゃんと姿を見せるね。」
「でも、妖精って人目に付いてはいけないのでは?」
藍は疑問をヨリに投げかけた。
「私は妖精でもあり、魔法少女でもあり、
そしてV.C.S公認ヒーローでもあるの。
もともとV.C.S公認ヒーローになったのは、
魔法少女のみんなが正体を隠して自分達の生活を送れるよう、
V.C.Sに彼女達の正体を詮索させない為、
そしてもしもの時は彼女達の連絡役になる為になったの。」
ヨリは自分が3つの姿を持つ理由を語っていた。
「そうでしたか。」
「あ、来る前に聞いているだろうけど、
この世界でダーザインは秘密の存在になっているから、
君達2人は
『よそから来たヒーローで、
横崎町にはアーノルドと会談をする為に来た』
って事にしてあるから、
ドットがダーザインに行っている間も
『他のヒーローとの交流研修』
って事にしてるからそれに合わせる形にさせてもらってるよ。」
ヨリは横崎町が近くなっている事に気付いて、藍と那由多に向けて再度確認していた。
「はい、承知しております。」
「わかっております。」
「そして、
『人前でゴルドーの名前を口に出さない』
これだけは守ってね。」
2人の返事を聞いたヨリは最重要事項について釘を刺した。
そしてV.C.S横崎町支部である古い3階建てのオフィスビルを改装したビルの前に到着すると、
「『よそから来たヒーロー』ですね?
本部から連絡を受けておりました。
ようこそ、V.C.S横崎町支部へ。」
肩甲骨下あたりまでの長さのある赤い髪、茶色の瞳、
ヨリと同じ制服の上にグレーのコートを肩に掛けている長身の女性が出迎えていた。
「え、支部長!?」
真っ先に車を降りたドットが驚いていた。
「ドット、ドアを開けてあげろ。」
「あ、はいっ!」
支部長と呼ばれた女性は驚くドットに対し、指示を飛ばした。
藍と那由多がドットに開けられたドアから降りると、
「初めまして、私は支部長のマディアスと申します。
あなた方の自己紹介は中に入ってからでお願いします。」
マディアスは入り口にある端末にカードキーをかざすと自動ドアが開いた。
藍と那由多、そしてドットと駐車を終えたヨリはマディアスに続く形で中に入っていった。
ビルの中に入ってすぐにある応接間に通された藍と那由多は手前側のソファに座り、
ドットとヨリは反対側のソファの近くに立っていた。
「失礼します。」
ノックの後、マディアスと甲冑姿の男性が入って来た。
那由多、そして若干遅れて藍が立ち上がると、
「改めて私がV.C.S横崎町支部の支部長、マディアス。
そして今回の依頼人であり、V.C.S公認ヒーローの」
「……アーノルドだ、
今回、私の依頼を引き受けてくれて感謝する。」
アーノルドと呼ばれた男は全身甲冑姿で背中に青く古びたマントが広がっており、
武骨ながらも敵に対する決意と冷徹さを与えるような印象のヘルメットで覆われており、素顔は見えなかった。
そして、腰に古びているが存在感を放つ鞘に収まっている西洋の剣を携えていた。
「私は太刀花藍と申します。
こちらは姉の那由多です。
本日はよろしくお願いいたします。」
藍が那由多と共に自己紹介していると、
「さて、じゃあ私も元の姿の戻ろうかな?」
ヨリが突然煙に包まれたかと思った途端、
全長40cmほどの大きさで、
頭部に灰色の猫のような耳、そして右側の耳に灰色の輪がかけられており、
水色の髪が右目を覆っており、左目から水色の瞳を覗かせており、
青い胴体の中心に水色の宝石のようなものが付いているが、
顔や手足は白い妖精の姿で宙に浮いていた。
「一応、君達はともかく、V.C.S横崎町支部側にも自己紹介しておかないとね。
私は妖精ヨリ、またの名をヨルネ・フェリス!」
ヨリは妖精の姿で名乗っていた。
「なるほど、話には聞いていたが、本当に妖精だったとはな……。」
マディアスは感心しながら、ヨリの姿を見ていた。
「君は……もしや。」
「アーノルド、久しぶりだね!
君とは宵闇竜事件以来かな……。」
ヨリはアーノルドに対し、陽気に挨拶していた。
「え、宵闇竜事件で一緒に戦ってたのですか!?」
ドットはヨリとアーノルドを交互に見ながら驚いていた。
「当時、宵闇竜事件に参戦してた魔法少女達のサポートという形でね。
その頃はまだ魔法少女に変身出来なかったし、
アーノルドとは、直接一緒に戦ってたり話したわけじゃないよ。」
「そうか、君の事は女の子達がいる中に遠目で見えた程度だったが。」
「悪いが、昔の話をするのは別の機会にしてもらおう。」
マディアスはヨリとアーノルドを止める形で、本題に入ろうとしていた。
ヨリは立っているドットの肩に座り、
アーノルドが水平に持った状態で鞘からそっと剣を抜く様子を、
他の3人はそれぞれソファに座って眺めていた。
「これが今回の依頼となる剣、私は一応不敗の剣(つるぎ)と呼んでいる。」
アーノルドは抜き身となったブロードソードに酷似した形状の刃を持つ剣と
その鞘を静かにテーブルの上に置いた。
「私が見てマズそうだったらすぐに動くけど、
ひとまず、君達の好きにやってもらっていいよ。」
ヨリは藍と那由多に語り掛けた。
「わかりました、じゃあ準備を始めましょう。」
藍は那由多に促しながら、幽霊との対話の為の準備を始めた。
ドットやアーノルドに頼んで応接間のソファをどかして、
テーブルの上に置かれた剣を中心に
(今回は異世界で多くのリソースを持ち出せなかったのもあり)
簡易的な祭壇を用意し、
藍と那由多、そして剣を結界で囲うようにした。
こうする事で他のみんなに危害が被る事が無くなり、
ヨリは万一の時にその結界を破ってでも、ドットと共に藍達を助けられるように整えた。
「では……手始めに私は剣に接触してみます。
それで何も反応が無かったら、藍ちゃんが本格的な儀式を。」
「はい、那由多お姉様。」
那由多は自分の横で藍が水晶玉を構えているのを確認してから、そっと剣に手を伸ばした。
那由多の指が剣の柄に触れた途端、剣の刀身が淡い光を発した。
《オレの・・・コエが、聞コエルの・・・か?》
突如、男性の声がノイズ交じりで響いた。
「藍ちゃん、聞こえましたか?」
「いいえ、聞こえません。」
「やはり、直接触れた相手にしか聞こえないみたいですね。」
藍に確認した那由多が自分の脳内にしか聞こえない事を確信した。
《何者……ダ、アーノルドは……ドコだ?》
「私の名前は太刀花那由多、
アーノルドからの依頼であなたの話を聞きに来ました。
あなたからは結界で見えないと思いますが、彼は近くにいます。」
那由多は剣からの質問に答えていた。
《何を……話セバいい……?》
「あなたの過去を教えてください。」
《長ク話せなイ、から……コうすル!》
「えっ!?」
突如、剣が放っている光が強くなり、那由多の視界は眩い光に包まれていった。
那由多の視界から次第に光が収まっていったと思った直後、
先程までいたV.C.S横崎町支部の応接間ではなく、
いかにもゲームや映画に出てくるようなファンタジー世界の城の謁見の間にいた。
『ええ、これって一体……あれ?』
そこで那由多は自分の体が半透明になっている事に気付いた。
《これは俺が人間だった頃の記憶だ。》
光に包まれる直前に触れていた剣の幽霊の声がより鮮明に聞こえた。
『あなたの記憶……ですか?』
《俺は話すのがあまり得意ではない、
だからこうして俺の視点から少し後ろの方からの様子を見た方が早いと思った。
前を見ろ、当時の俺がいる。》
那由多は剣に言われるがまま前を見ると、
恰幅のいい王様らしき男性が王座にふんぞり返り、
その前には鎧を纏っているものの、
晒されている素顔とわずかに見える肉体は恐ろしく精悍な様子の男がいた。
「わが闘技場で不敗の伝説を築き、
ついには"不敗の剣"と呼ばれた勇敢なる剣闘士よ。
よくぞ、来てくれた!」
王様は仰々しい様子で男を迎え入れた。
「さて、実は……我が国でも魔物なる存在が暴れており、
農村を始めとした多くの場所で被害が出ておる。
兵隊を向かわせてはいるが、被害を食い止めるので手一杯じゃ。
このままでは多くの民が苦しみ、
周りの国がそれに乗じて攻め込んできてもおかしくはない。
余はこの状況をどうにかしたいと思っていた中、
魔物を倒す少女がいるという話が出てきた。
兵士の話ではその少女が姿を変えた途端、魔物を全て蹴散らしたそうだ。
余としては信じられない話だが、つい昨日その少女がここに来て、
『魔物の根源を見つけたが、自分一人では倒すのが難しい。
その為、兵士の力をお借りしたい。
3日後に改めて尋ねます。』
と言ってあっという間に去ったのじゃ、
しかもここに入る為に止めに入った兵士を全員眠らせていたので、
捕まえる事も追う事も出来なかった。」
王様はひとしきり話すと、王座に座り直してため息をついていた。
「ハッキリ言ってその少女が胡散臭くてたまらない。
だが、魔物の問題はどうにかしないといけないのもそうだ。
その根源とやらをどうにかすれば解決するのなら、
余としても兵隊を送るのもやぶさかではないが……。
ただでさえ、魔物の対応で消耗していて送る余裕もない。
そこでだ、
『兵隊は編成が整い次第送るので、
まずは我が軍で最も強い剣士を送る』
と言って、お前をやつに送ろうと思う。」
王様が男に対し、指さしながら笑みを浮かべていた。
「よいか、
お前にはその少女と共に魔物を倒し、問題の解決を目指すとともに、
その少女が危険な存在かどうか見極めてほしいのじゃ!
もし危険な存在だとわかっても、
すぐに倒そうとせず一緒に戦え、そうすればやつも油断するだろう。
問題が解決した暁には褒美を与えると余が言ってたと伝え、
ここへ向かう途中の森にでも背後から……突き刺すのじゃああああああああああ!!」
王様の声と同時に世界が歪み、辺りが真っ黒になった。
直後、日光が強く差していき、那由多は王国近くの森にいる事に気付いた。
「いくら『もっとも強い剣士』と言っても、
一人しか送らないなんてひどくない!」
そこにどこにでもいそうな少女は、
自分が手にしている杖に向かって文句を言っているように歩いていた。
少女が持つ杖の先端は持ち主に合わせるかのように光っていた。
その後を先程の男が黙って歩いていた。
「はぁ……ねぇ、そういえば名前を聞いてなかったわね?」
少女は思いついたかのように振り返りながら、男の顔を見ていた。
「………………。」
男は何も言わず突っ立っていた。
「一緒に戦うんだから、せめて名前くらいは教えなさいよね。」
「……アルハルト、だ。」
「そう、アルハルトね。
私の名前はフレイヤ……よろしくね、アルハルト。」
フレイヤと名乗った少女はアルハルトに向って手を差し伸べた。
今度は岩山にて、アルハルトとフレイヤが魔物に囲まれていた。
「これが魔物……!」
アルハルトが深刻そうな顔で剣を構えていると、
「ちょうどいいわ、私達の力を見せてあげるわ。」
「そんな杖でどうやって戦うと……!?」
フレイヤが杖を高く掲げた途端、姿が変わった。
「す、姿が変わった……王様が言ってた通りだとっ!?」
「アルハルト、見てなさいっ!!」
アルハルトが茫然としている間、
フレイヤが杖を向けた途端、放たれた光線が魔物を焼き尽くした。
その後、しばらくはアルハルトとフレイヤによる魔物との戦いと旅の記憶をめぐっていった。
ほとんど、フレイヤによる一掃で魔物を蹴散らしていったが、
アルハルトが魔物の不意討ちからフレイヤを救った事で、
彼女はアルハルトに対し、信頼を寄せ始めた。
旅を続けていくにつれて、
アルハルトとフレイヤは次第にお互いの心を通わせていったが、
アルハルトは王様から与えられた任務を思い出していた。
(残念ながら王様の予想は正しい。
この力はいずれ魔物がいなくなった時、王国の脅威になる……だが、俺は)
しかし、まだ魔物の根源という目的地までたどり着いてない事を理由に決断を先延ばしにしていた。
そして、目的地には魔物の根源という名の邪神がいた。
おぞましく嫌悪感を抱く外観をした巨体で、
アルハルトの剣術も、フレイヤの魔法も決定打に欠けていた。
消耗こそしているが、お互い五体満足でいる事が奇跡的だった。
「こうなったら……。」
「何か、手はあるのか?」
邪神に対して倒す方法を見出したフレイヤに対し、
アルハルトは息を切らしながら声をかけた。
「ええ、まさに最後の手段。」
「何をすればいい?」
「見届けて欲しい。」
「何……を?」
茫然とするアルハルトを置いて、フレイヤは光を纏いながら宙に浮かんだ。
「私の命をもってして、世界の裏に封印するっ!」
「何を言ってるんだ!」
「もう、これしかない。」
「やめろ、お前には帰る村があるだろ!」
「だから、この様子を見届けて、
村のみんな、そして多くの人達に伝えて欲しい。」
「命が必要なら、俺の命を使えっ!!」
「ダメだよ、大切な人の命は使えない……だから、ごめんっ!!」
フレイヤは光の玉になってそのまま邪神に突っ込んでいき、
衝突と同時に邪神共に消えてしまった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
アルハルトは必死にフレイヤの後を追いかけようとしたが、
衝突の際に生じた光の雨に当たってしまい気を失っていた。
直後、アルハルトの視界はモノクロになっていた。
王様を始めとした人々が魔物の問題が解決した事にお祭り騒ぎだった。
その中心にアルハルトはいたが、彼の眼は生気を失っていた。
その後、アルハルトは王様から魔物の残党狩りという名目で王国内を歩き回る自由を得て、
魔物の残党を狩りながらフレイヤを求めて彷徨っていたある日、流行り病に倒れてついには息を引き取った。
《これがお前が知りたかった、俺の過去だ。
……アーノルドに伝えて欲しい事があるから、
彼が剣を手にした時からの記憶の一部も見せておく。》
「……お……姉……さ……ま、那由多お姉様!」
「はっ!?」
那由多は藍に起こされて、目を覚ました。
「ううっ……藍ちゃん、一体何が?」
「よかったぁ、剣が光った途端、急に倒れたんですよ?」
「そっかぁ。」
(どうやら、さっきのは周りからすれば一瞬の出来事ってわけか。)
那由多は藍から直後の出来事を聞き、
自分達を心配そうに見つめるドット達を結界越しで見ながら理解した。
「儀式を続けましょうか?」
「藍ちゃん、剣の幽霊もといアルハルトさんから言葉を聞いた。
一旦、結界を解除して、みんなに伝えたいんだ。
彼の過去、そしてなぜアーノルドさんに言葉が伝わらなかったのか、を。」
那由多は藍の助けを借りながら起き上がりながら、アーノルド達に伝えようとした。
そして那由多は自分の身に起きた事、
剣の幽霊ことアルハルトの記憶を要約しながら伝えた。
「話を聞く限り、中世辺りの欧州のどこかにあった小さな国って所か。」
マディアスはタブレットで調べながら、該当しうる伝承を探そうとしていた。
「やっぱり、ご先祖様の話に繋がっちゃうかー。」
ヨリは納得するようなそぶりを見せていた。
「どういう事ですか?」
「教えてください!」
藍と那由多は前のめりになって聞こうとした。
「実はご先祖様の一人は、
私達の世界で邪神と呼ぶ危険な存在を追っているうちに、
邪神が空間を捻じ曲げて作った穴に飛び込んでいったのをそのまま追いかけた。
その飛んで行った先はどうやら昔のこの世界みたいで、
結局ご先祖様は邪神と戦ったけど負けて、
文字通り吹っ飛ばされた先の農村で女の子に拾われて、
負傷していた事もあり自分だけでは満足に戦えないと悟ったご先祖様は、
拾ってくれた女の子に協力を求めて、
自ら杖に化けた上で杖を通して力を貸すようにした。
その少女がこの世界における最初の魔法少女であり、
後に女神と呼ばれる存在として、今もなお邪神の封印を守り続けているってわけ。
ご先祖様も運命を共にして、ご先祖様の仲間がその一部始終を見届けてたみたい。」
ヨリは自分達の先祖が、アルハルトの話と絡んでいた事を語っていた。
「そうか……それがこの不敗の剣、アルハルトの過去だったのだな。」
アーノルドは那由多達の話を聞いて静かに頷きながら鞘に納めた剣をなぞる様に触っていた。
「あと、アーノルドさんがアルハルトの言葉がわからなかった原因についてですが……。」
那由多は少しためらいながらも話しかけた。
「何か、言ってたのか?」
「はい……大きく理由は2つありました。
一つ目は、アルハルトさんは自分が死んだ後、
魂を剣と甲冑にしがみつく形で宿った状態で
数え切れないほどの持ち主の間を転々としていたが、
次第に戦いから離れていき、倉庫などに眠らされていくうちに、
魂が摩耗していって、言語から先に朽ちていったそうです。
実際、私が触った時もノイズ交じりで聞き取りにくい印象でした。
私達の世界でもそういった事例はありますが……。」
「何か……言いにくい事でも?」
アーノルドは那由多がどこか気まずそうにしている事に察した。
「二つ目に関してですが、
ある日、魔物の気配を感じて、剣の状態でそのまま飛び出して行った先で、
魔物に襲われそうになっている少年だったあなたを見つけて、
肉体と精神の相性がほぼ一致していたので、あなたに力を貸し、
あなたがヒーローとして戦う力を得たのは良かったのですが……。」
「確かに私がこの力を得た経緯は君の言う通りだが、何が?」
アーノルドは自分がヒーローになった経緯を肯定していると、
「その……あなたの霊感がほぼ皆無だったので、
意思を伝える事が出来なかった……とのことでした!」
那由多は両手を合わせて謝るかのような所作でアーノルドがアルハルトの声が聞こえなかった真相を語った。
直後、アーノルドが目に見えて落ち込み、
ヨリとマディアスが腹を抱えて笑い、藍とドットはその様子を困惑しながら見ていた。
「なるほど、昔、化け物の仕業としか思えない事故が頻発して、
町中の奴らが化け物に対して恐怖を感じていた中、
妙に冷静だな……って思ってたが、そもそも感じてなかったって事かぁ!!」
マディアスは笑い涙をぬぐいながら昔を振り返っていた。
「支部長がここまで笑っているの、初めて見た。」
「そ、そうでしたか。」
ドットは引き気味に藍に呟いていた。
「そっか、霊感がないせいでアルハルトと通じる事がほとんど出来ないから、
アルハルトは本当に必要な時に全力で最低限の意思表示しかしなかったのかー。
まぁ、この中で一番霊感がないのはアーノルドなのは事実だけどねwww」
ヨリも宙に浮いたまま、お腹を抱えて笑い続けていた。
「………………。」
アーノルドはずっと黙り込んでいた。
突然、警報が鳴り響いた。
ドットとマディアス、アーノルドが真っ先に反応し、
応接間に設置されている館内放送のスピーカーに視線を向けた。
『横崎町東通り方面にて、Vレーダー反応あり!
警察からのヴィランサー事件発生の連絡も確認!』
館内放送が流れてきた。
マディアスはすかさず、設置されていた受話器に手を取って、
「横崎町第一小隊の出撃を許可する、私も管制室に向かう。」
と伝えて、藍達に顔を向けた途端、
『更に横崎運動場で、Vレーダー反応あり!』
と立て続けに館内放送が流れて、
マディアスはぎょっとした様子でスピーカーの方を振り返っていた。
「……ドット、すまないが」
「横崎運動場の方は私が向かいます!
予備のホバーボードをお借りします!!」
ドットはマディアスの言葉を待たずに、応接間から駆け出していった。
「申し訳程度ないが、私はこれで失礼する。
ドットを待つなら、ここにいてくれると助かる。」
「いえ、お気になさらず。」
藍が受け答えすると、マディアスは軽く頭を下げながら応接間を出ていった。
「あの」
「どうやら、ヴィランサー事件、
つまり代理ヒーローが出動する案件が2件も立て続けに発生したみたいだね。」
ヨリは那由多が聞こうとした問いを先回りして答えた。
「だが、この町で2件も立て続けに発生するのはおかしいな。」
アーノルドはこの事態を重く見ていた。
「あ、そうなんだ……ん?」
ヨリは何かを感じて遠くを見るような仕草を見せた。
「藍ちゃん、この感覚って。」
「はい、ここから少し遠いですが、恐ろしい気を感じます。」
那由多と藍はお互いに顔を見合わせながら、
お互いが感じていた事は同じだった事を確認していた。
「一体何が……ん?」
アーノルドは2人に話しかけようとした途端、
腰に差し直した剣が光っている事に気付いた。
「これは……まさか、化け物が。」
アーノルドがつぶやいた途端、藍と那由多、そしてヨリが興味を示すように見ていた。
「……この剣が光る時は、
この町のどこかで化け物が暴れている合図だった。
これを最後に見たのは宵闇竜事件以来だったが……。」
アーノルドはそう語りながら、受話器を手に取って、スピーカーボタンを押した。
「マディアス、聞こえるか?」
「どうした、こっちは忙しいのだが。」
「この町で10年ぶりに化け物が現れた。
『よそから来たヒーロー』も妖精も、化け物の気配を私より先に察知している。」
「なっ……!?」
アーノルドからの報告にマディアスは驚きのあまり、一瞬言葉をなくしていた。
「……出撃を許可する。
ドットの方は大丈夫だろうが、
横崎町第一小隊の方が危ない時は事前に待機させておいたワンダースケアを向かわせる。
お前は彼女達と連携して、戦闘開始後15分以内に決着をつけるんだ。
くれぐれも、『よそから来たヒーロー』に怪我をさせたら承知しないからな……。」
「ありがとう、直ちに出動する。」
マディアスから出撃許可を得たアーノルドは静かに受話器を置くと、
「来ていただいて申し訳ないが、手を貸してくれないだろうか?」
藍達の方を向きながら頭を下げて頼んだ。
「はい、お任せください!」
「ここまで来たら、やるしかないよね……でも、町のヒーローと一緒に戦うなんて滅多にないよね!」
「乗り掛かった舟、というやつだね……任せて!!」
藍と那由多、そしてヨリはアーノルドの依頼を快諾した。
アーノルドに続いて、V.C.S横崎町支部を出た藍達は異変のある方角を確認していた。
「2人とも、大体の方角はわかるよね?」
「はい、大丈夫です。」
「近づけばより正確な位置はわかるかと。」
「うーん、ただあっちの方は雑木林か何かで車では入りにくそうだね。
それにこの辺は初めてだから土地勘ないし……。」
2人の探知能力を確認したヨリは移動手段について考えていると、
「方角はあっちだな?
なら、移動に関してはなんとかなる。」
アーノルドが目的地の方角を確認しながら前に出た。
「10年ぶりと言ってたけど、
君はどうやって現場に駆けつけたの?
10年前だとまだV.C.Sはなかったはずだけど」
「君は私の肩にしっかり捕まってなさい。」
「え……?」
ヨリが質問を終えるか否かのタイミングで、
アーノルドはヨリを自分の肩の上にそっと乗せた。
「2人は……私が現場まで抱えて運ぶので、
どうかセクハラ等で訴えないで欲しい。」
「「え?」」
そしてアーノルドは藍と那由多をそれぞれ両脇に抱えだした。
「行くぞっ!!」
「「「ええええええええええええっ!!?」
アーノルドは2人を抱え、ヨリを肩に乗せたまま、
1メートル程助走し勢いをつけてから、ジャンプして
まるで古典的なヒーローのように青く古びたマントをはためかせながら飛んで行った。
目的地の雑木林に静かに着地したアーノルドは、
両脇に抱えていた二人をそっと降ろしたと同時に、ヨリは自ら浮いてアーノルドから離れた。
「なるほど……君の鎧には女神の力が宿っていたのか。」
ヨリはアーノルドの鎧に関心していた。
「どういう事でしょうか?」
「那由多の言ってた話通りなら、
アルハルトが女神……フレイヤを追いかけようとした時に当たった、
光の雨の正体は魔法少女……フレイヤの力の残滓だったんだ。
それが当たったおかげで、
ただの剣闘士だったアルハルトは対魔の力を会得し、
死んでもなお、剣と鎧に魂をしがみつく事が出来て、
アーノルドと共に戦う事になった際、
純粋に肉体が強化されるだけでなく、空を飛ぶ力までも得られた……という訳さ。」
那由多の疑問をヨリが代わりに答えた。
「どうやら気配は向こうみたいだな。」
アーノルドはいつの間にか剣を抜いており、
その刀身が目の前を差しこむように光を放っていた。
「そして、その光を頼りに化け物……私達ランディガードでいう怪異の位置を探ってた、と。」
ヨリは感心しながら、アーノルドの後をついていこうとした。
「ところで、マディアスさんが言ってた『15分以内』ってどういう意味でしょうか?」
「………………。」
藍が投げかけた疑問にアーノルドは黙り込んでしまった。
「それは知ってるし、原因も見当がついている。
君、アルハルトの力を少年の頃から酷使してたから、
宵闇竜事件とある事件で、
君の体に積み重なってたダメージが致命的になったんでしょ?」
「……あ、ドットさんが
『アーノルドが怪我をしてしまった』って言ってましたが。」
「そう、ダメージの貯金がついに溢れたって事。」
藍とヨリが話していると、
「そう、君達の仮説はあっている。
そして今の私は医者から
『一度に戦っていいのは15分まで、
その後1時間以上インターバルを開けなければいけない』
と制限されている。」
アーノルドは自分に課せられている制限を語りながら、化け物の気配を探っていた。
「まぁ、これに関しては私達がしゃしゃり出るものじゃないか。」
ヨリは仕方ないとでもいいたげな表情を浮かべながらアーノルドと共に先を進み、
藍と那由多も遅れてついていった。
「おや、せっかく陽動の為に、
ヴィランサーシステムを2つも使ったのにバレてしまいましたか。」
アーノルド達が進んだ先にはサイコと、
コウモリのような翼に細長い尻尾を持ち、
両肩、そして体の真ん中に赤い水晶のようなものが埋め込まれており、
まるで絵にかいたような悪魔の外見をした細身でありながら巨体の化け物がいた。
「お前は……。」
「こんなところで『邪神狩りのサイコ』と出くわすとは……《二分使徒世界》以来ね!」
アーノルドが剣を構える一方、ヨリは険しい顔で青い宝石らしいものを構えていた。
「ああ、宵闇竜事件に飛び入り参加した剣闘士に、
ランディガードの妖精……いや今は魔法少女か。
それと……。」
サイコは遅れて現れた藍と那由多に気付いて、
「バースセイバーで有名な対魔師までも……。
あの白くて小さな子がいたらついでに狙うのもありかと思ったが、
不在な上に一番厄介な居合の使い手ですか。」
更に渋い顔をしていた。
「……宵月庵で追っている界賊、ですね?」
「そう、『邪神狩りのサイコ』。
あらゆる世界に存在する邪神と呼ばれる存在を復活させる見返りに、
その力をもらうか、その存在を奪う事を目的とし、
その過程で世界が滅んでも何とも思わない、危険なヤツ。
この世界で起きた宵闇竜事件の本当の黒幕で、
かつてフレイヤが命を懸けて封印した邪神を狙ってた。」
藍の問いかけに対し、ヨリが答えた。
「白くて小さな子って……まさか、杏樹ちゃんの事?」
「いつの頃だったか、
そちらの家をこっそり覗いた事がありましてね。
いい邪神がいると思いましたが、
想像以上に用心棒が多すぎて諦めて、すぐに引っ込みました。
もしここに来ていたら、交渉から始めようかと思いましたが……。」
サイコは那由多の発言に便乗し、以前藍達の世界に現れた事を告白した。
「うわ……まさかロリコンだとは。」
「失敬なっ!
確かにそう受け取られても仕方ないですが、流石に失礼でしょう!!」
那由多が漏れ出た本音にサイコは憤慨していた。
「もういいです……邪神の封印を解く依代になるかと思い、
せっかくこいつを蘇らせたものの、
これはもうただ暴れるだけの存在にしかならないので、
そちらにお譲りしますね……では。」
「待てっ!!」
サイコはヨリの制止を待たずに、地面に溶け込むかのように消えてしまった。
「グオオオオオオオオオオオッ!!」
そしてサイコが消えた途端、化け物が咆哮した。
「仕方ない。
サイコは諦めて、こいつを何とかしよう!」
ヨリは手に持ってた青い宝石らしいものを掲げると宝石から強い光を発して、
魔法少女ヨルネ・フェリスに変身した。
「あの化け物はかつて倒したはずだが……サイコが復活させたのか。」
アーノルドが剣を構えると、刀身が強く光り出した。
「アーノルドさん、
以前倒した事があると言ってましたが、どのような感じでしたか?」
「……申し訳ないが、あの個体と戦ったのは10年よりも前ですぐに思い出せない。」
アーノルドは那由多からの質問に対し、すぐに答える事が出来なかった。
「では、私から行きますので早めに思い出してください!」
「じゃあ、援護するわ!
アーノルド、あなたの強さは知ってるからとどめは任せるけど、
思い出したらすかさず助言して!」
藍とヨルネが化け物に対し、先制攻撃を仕掛けた。
「では、私は分析をっ!」
那由多は鳥型の式神を呼び出して、
2人の邪魔にならないように化け物を観察する事にした。
藍が真っ先に居合を放つと、化け物は身を後ろに捩って避けた。
「隙ありっ!」
「ギャアアアッ!?」
そこにヨルネがすかさず回し蹴りを放つと、
化け物は吹っ飛んで近くの木に背中から直撃した。
直後、化け物の左肩の水晶が光った。
「グオオオオオオオオオオオッ!!」
化け物はよろめきながらも立ち上がると、翼と両腕を大きく広げて威嚇した。
「む……確か。」
アーノルドは化け物の行動を見て、既視感を覚えた。
「あの化け物……威嚇したのに、あの場所から一歩も動いてない?」
那由多は式神を通して化け物の動きを見て、疑問を抱いた。
「なぜ、動かないのでしょう?」
藍は構えながら様子を見ていた。
「動かないなら、距離を取ったまま攻撃するまで!」
ヨルネが銃を構えるかのように指を向けた途端、
「なっ!?」
草むらから触手が飛び込んできて、ヨルネの両腕を拘束し、
立て続けに2本目の触手がヨルネの足を絡めようと迫って来た。
「助けますっ!」
藍がヨルネの腕に絡まってたのと迫ってた触手を斬り落とした。
その時、化け物の右肩の水晶が光った。
「ありがとう!」
自由になったヨルネはすぐさま距離を取ったが、
「藍、後ろっ!!」
藍の背後から多数の触手が迫って来た。
「……ごめん!」
ヨルネに声をかけられた藍は回避が間に合わないと悟り、
とっさに札を地面に叩きつける勢いで投げた。
札が落ちた場所を中心に光を放ち、アフロが召喚された。
「藍ちゃん、一体なn」
召喚されたアフロは藍を探しながら状況を確認しようとしたが、
「ウワーーーーーーーッ!?」
あっという間に複数の触手に絡めとられてしまった。
「「「「………………」」」」
ほんの一瞬、化け物とアフロ以外の全員がシュールな光景に対し、唖然としていた。
「ごめんね、アフロ……今、助ける!」
藍はすぐさまアフロを助けるべく、触手に向かって刀を振ったが、
「えっ!?」
先程まではあっさりと斬り落とせたはずが、弾かれてしまった。
「さっきよりも硬くなってるっ!?」
「……そうかっ!」
困惑する藍をよそにアーノルドは剣を構えながら、アフロに向かって飛んで
「はあああっ!!」
あっという間にアフロに絡まっていた触手だけを斬り落とした。
最後に化け物の体にある水晶が光った。
触手に絡まれて宙に浮いてたアフロはそのまま地面にバウンドしながら落ちて、
そのまま那由多のいるところまで転がっていった。
「奴の戦い方とその能力を思い出した……早く思い出すべきだった。」
アーノルドは悔やみながら、化け物について思い出した事を伝えた。
「どんな内容?」
「奴は自身の体躯の大きさを囮にして、
自身の尻尾から分裂・枝分かれさせた触手を作って、
周辺の木々に紛れ込ませて、我々の動きを封じてから攻撃する。」
「だから、自分から攻撃を仕掛けてこなかったわけですね。」
アーノルドはヨルネの問いに答えていると、那由多は納得していた。
「更に問題なのは、
やつは一度受けた攻撃は耐性を持つ。
あの水晶が光った時は攻撃に耐性を得た合図で、
現に藍の刀で触手を斬り落とせなくなっただろう?」
「……確かに最初はあっさり斬れたのに、
さっきはまるで鋼鉄のように硬かった。」
藍は自分の刀に刃こぼれがない事を確認しながら、先程の感触を思い出していた。
「って、事はアーノルドの攻撃も通用しなくなったって事!?」
ヨルネはアーノルドの剣と藍の刀を見比べていた。
「いや、1つ弱点がある!
やつは一度に3つしか耐性を得る事が出来ない!
また別の種類の攻撃をすれば、その攻撃で上書きされる。
最低でも4種類以上の攻撃をローテーションで繰り返せば倒せる。」
「えっと確か、
最初のヨルネさんの回し蹴りで、
次は藍ちゃんの刀……そしてアーノルドさんの剣でしたね!」
那由多は化け物に対して当てた攻撃を思い返していた。
「攻撃と認識されれば、私のキックでもありなのか……。
じゃあ、私と藍ちゃん、それと……アフロ。」
ヨルネは周りにいる面々を確認しながら声をかけた。
「みんなで攻撃を仕掛けるわよ、手数優先で!」
「わかりました!」
「正直、状況が飲み込めてないけど、
アフロも藍ちゃん達の力になるよ!」
ヨルネの提案に藍とアフロは快諾した。
「とはいえ、
あの触手がどれぐらいあるのかわからないから、元を断つべきか……。
那由多はその式神を使って、
触手の根本を確実に攻撃できるルートを探して、アーノルドを導いてくれる?」
「はい、任せてください!」
「心得た。」
続いて、那由多とアーノルドも承諾した。
「行くわよ!!」
ヨルネの掛け声と同時に、全員行動を起こした。
「ぷすっとスナイプ!」
ヨルネの掛け声と同時に銃のように構えた指から青い矢じり状の魔力の塊が飛んで、
化け物の足に刺さると左肩の水晶が光った。
「参りますっ!」
その隙に藍が化け物のわき腹に目掛けて一太刀を浴びせると、右肩の水晶が光った。
「くらえっ、うどんのようにしなる耳アタック!!」
今度はアフロが化け物の頭に目掛けて、
勢いよく耳を叩きつけると体にある水晶が光った。
「アーノルドさん、光っている式神の後を追ってくださいっ!」
「わかったっ!!」
化け物は那由多が操る式神の後を追うアーノルドに気付いて、
触手を仕掛けようとするが
「ぴかっとカッター!」
ヨルネが両手から丸ノコ状の魔力を生成し、
化け物に投げつけて注意をそらしつつ、片方を肩に命中させた。
「続いて、胴!」
藍が化け物の胴を剣道の突きの要領ですれ違い様に攻撃を与えた。
「こんしんのすてみタックル!!」
アフロは藍が下がったタイミングを見計らって、化け物に目掛けて転がっていった。
しかし、化け物には避けられてしまった。
「ああ、しまったぁぁああああっ!?」
そして、アフロはそのまま雑木林の中へ消えてしまった。
「今のうちに、どかんとキック!」
ヨルネは化け物がアフロに注意が逸れたのを利用して、
右足に魔力を貯めた状態で飛び蹴りを放った。
「これで!」
そして、全員の陽動が功を奏して、
アーノルドが化け物の背後に回り込んで尻尾を切断すると、触手の動きが止まった。
「那由多もお願い!」
「はああああああっ!」
那由多はヨルネの声掛けに応じて刀を抜いて正面から突っ込んで袈裟斬りを放ち、
「ぷすっとスナイプ!」
ヨルネが至近距離で放った後、那由多を抱えて離れ、
「これで」
「終わりだっ!!」
化け物から見て、
前方から藍の居合と後方のアーノルドによる渾身の一閃が同時に炸裂し、
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?」
化け物は体を上下に両断されて、断末魔を上げながら消滅していった。
その後、V.C.S横崎町支部に戻った藍達はドットと合流した。
「まさか、今回のヴィランサー事件の裏で、
サイコが関わっていたなんて……。」
事の顛末を聞いたドットは自分が戦っていた裏で、
他のみんなも戦っていた事に戸惑いを隠せなかった。
「だが、全員がそれぞれ戦ってくれたおかげで、
被害は最小限で済んだ、そこは喜んでいいだろう。」
マディアスは腕を組みながら、頷いていた。
「そう言えば、横崎町第一小隊は大丈夫だったんですか?」
「ああ、ワンダースケアが待機している、と言ったら、
あいつら必死にヴィランサーを食い止めているうちに、
無力化してくれたよ。
普段からそうしてくれるといいのだがな……。」
「あはは……。」
マディアスはどこか呆れるように語っているのを見て、
ドットは乾いた笑いしか出なかった。
「そう言えば、横崎町第一小隊って……。」
「ああ、言い損ねてたな。
ドットが"そちらの交流研修"に行っている間、
この町を守っている3人の代理ヒーローだ。
本来、代理ヒーローは最低でもスリーマンセルで、
ヴィランサーから町を守るものだが、
ドットは守るを通り越して、一人で倒してくれるんだ。」
マディアスは那由多の質問をしれっと答えていたが、
(そう言えば、
ダーザインでドットさん以外の代理ヒーローは今のところ見たことないけど、
ドットさんが最初に来てしまったせいで、ハードルが上がりすぎたって事?)
那由多は困惑していた。
「さて、そろそろ帰ろうか?」
「あ、そうですね……一応、依頼は達成でよかったっけ?」
「……あ、アーノルドさん!」
既に人間の姿に戻ったヨリとドットが話していると、
那由多はアーノルドに声をかけた。
「そうだ、ちゃんと礼を言ってなかったな。
ありがとう……報酬はこの世界のお金をそのまま渡せないから、
ダーザインを通すので少し時間はかかる事」
「それはそれで手続き等は進めていただければと思います。
それよりも、アルハルトさんから伝言を預かっております!」
那由多はアーノルドに伝言がある事を伝えた。
「……なんだろうか?」
「えっと……
『俺はお前に拾われた事で、
フレイヤが守ろうとした世界を守り続ける事が出来た事を感謝している。
だが、そのせいでお前は人らしい人生を送れなくなり、
せっかく得た幸福を踏みにじられた事もある。
正直に教えてくれ、
お前は"アーノルド"になって、今でも後悔しているか?』
だ、そうです。」
「………………。」
那由多がアルハルトからの伝言を伝えると、
アーノルドは少しだけ黙っていたが剣を掲げる形で抜いて、見つめていた。
「確かに苦しい事も辛い事もあった。
結婚して、子供を得たと思ったら、私を狙う悪のせいで亡くしたのも事実だ。
……だが、私はこの町を守る為に、
君の力を得て、"アーノルド"になった事は後悔してない。
今回、君の過去を知って、
改めてこれからも町を守るヒーロー"アーノルド"でいようと思えたよ。
だから……これからもよろしく頼む。」
アーノルドは自らの過去を振り返りながら、
アルハルトに、そして周りの人に向けて誓うように那由多の伝言に対する返事を語った。
「……藍ちゃん、これで依頼は完了だよ。」
「ありがとうございます、那由多お姉様。」
藍は那由多に頭を下げていると、
「2人とも、
こっちはいつでも車出せるけど、忘れ物はない?」
「みんなが戻ってくるまでの間、
私の方で片付けはしたから大丈夫だとは思うけど……一応、確認はお願い。」
車の運転席からヨリが顔を出しながら声をかけ、ドットが車のトランクを開けた。
「……はい、大丈夫です!」
「じゃあ、帰りましょう。」
トランクの中を確認した藍と那由多は、改めてマディアスとアーノルドの元へ向かった。
「本日はこちらの依頼だけでなく、
化け物案件の解決にまで力を貸していただき、ありがとうございました。」
「君達には迷惑をかけてしまった……すまなかった、そしてありがとう。」
マディアスとアーノルドが同時に礼をした。
「いえ、今回は依頼の方は那由多お姉様が、
化け物案件の方はアーノルドさんの援護という形でしたので、
私自身、あまり大した事は。」
「そう謙遜なさらずとも、
ダーザインの方でもトップクラスの実力の持ち主だと、
ドットから伺っております。
これからのご健勝をお祈り申し上げます。
それと機会がありましたら、
純粋にこの世界……欲を言えば、この町に遊びに来ていただければ幸いです。
そうだ、これを……そちらの仲間のお土産にでも。」
マディアスは藍達を称賛と次の訪問へのお誘いをしつつ、和菓子アソートを手渡した。
「……はい、次はみんなで行かせて頂ければ、と思います!」
藍はなんとか困惑の表情を出さないように注意しつつ、マディアスからの和菓子アソートを受け取った。
「ドット、宵月庵の隊長代理にもよろしく伝えておいてくれ。」
「あ……はい!」
ドットはマディアスに声をかけられて、
藍と那由多の為に後部座席のドアを開けながら、返事した。
帰りの車の中、
「………………あ、アフロ。」
藍はふと、とんでもない忘れ物をした事に気付いた。
雑木林にて、
「藍ちゃああ~ん、どこに行ったんだあああ~~い!」
枯れ葉や小石、さらに土汚れまみれになったアフロは戦いが終わった事に気付かず、彷徨っていた。
さらに、V.C.S横崎町支部2階にある待機ルームにて、
「おい、
せっかく俺様が待ってやってたのに、
全員そろってスルーかよ!
しかも、横崎町第一小隊のやつら、
普段はピンチになったらアーノルドに泣きついてたくせに、
今回は揃いも揃って、必死になって俺様を頼ろうとすらしないなんて、酷くねぇか!!」
ワンダースケアがスマホで動画を見ながら、自分の出番がないまま終わった事に不貞腐れていた。