1.最後の時
『DMMO-RPG』
色々と略して、要はゲーム世界に実際入り込んだごとく遊べるゲームのこと。
その数々と開発されたDMMO-RPGの中でビッグタイトルの一つが
『
このゲームの特徴は「プレイヤーの自由度が異様なほど広い」……と
今思うと先輩が誘ってくれたことに感謝しないといけないな。
と、そんなことを思いながらログインする準備をする、本日サービス終了日のユグドラシルに。
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ログインすると自動的に
目の前にはゴシック装飾を施したとても大きな扉、この先で集合と聞いていたので止まることなく先へと進む。豪華な部屋の中央、巨大な円卓を囲むのは四十二人分の席。しかし、ほとんどが空席で今埋まっているのは二つだけ。
席に座るのは漆黒のローブを羽織り、顔をのぞかせるのは皮も肉も付いていない骸骨。アンデットの中でも最上位者、
もう一人はもはや人の形をしていない。黒色のどろどろした粘液の塊、スライム種の中で強力な酸能力を有する種族、
部屋に入ってきた人物を見て二人は笑顔のスタンプを出す。
「あぁ、トンヌラさん。お久しぶりです」
「こちらこそ、ヘロヘロさん。本当にお久しぶりです!…せんp、モモンガさんも遅れてすいません」
「残業だったんでしょ?仕方ないよ」
トンヌラと呼ばれた者が席に着く。また他の二人と同じくトンヌラも奇怪な見た目であった。
一見、ピンクの可愛らしい服を着たおよそ11〜12歳くらいの少女だ。しかし腰まである髪の毛は軟体生物、タコの足のような触手。大きな瞳、その中に爛々と輝く瞳孔は山羊のように横長になっている。
種類が豊富な異形種の中でも様々な条件や
「そういえばモモンガさんとトンヌラさんは同じ会社の先輩後輩でしたよね」
「そうです、僕が入社した当時に教育係としてついてくれたのがモモンガさんなんですよ。今では部署も職場も全然違って社内で会うことはないんですけどね」
「いやー、懐かしい」
モモンガは髪の毛生えていない真っ白な頭蓋骨をぽりぽりと掻く。
「そこからモモンガさんにユグドラシルを勧めてもらったんだっけ?」
「そうですそうです!いやーあの時モモンガさんに誘われて本当に良かったです!」
「トンヌラくんはそれいつも言うよね」
「いつも思ってますからね!」
満面の笑みのスタンプを出しながらそう言うトンヌラにモモンガは呆れたスタンプを出すのだった。
「ははっ、ほんと二人は仲が良いですね〜。あー、だんだん思い出してきました、トンヌラさんがギルドに入ってきた当初──」
そこからは昔話を楽しむ三人。
期間限定クエストで有給まで取り無茶して皆んなでクリアを目指したこと、課金アイテムにボーナスを全部突っ込んだこと、敵ギルドとの戦い、ギルドメンバーの小競り合いや面白エピソードなど。
笑い声が、時折こぼれる。
ただ。
その円卓はあまりにも広かった。
四十二の席。
埋まっているのは、三つだけ。
それでも、確かにここには四十二人がいたんだと、輝かしい時代の記憶を懐かしむ。
「ははは。………いやー、でも正直ここがまだ残ってるなんて思ってもいませんでしたよ」
「……ぇ」
この時にモモンガの動揺を感じ取ったのはトンヌラだけだった。
ヘロヘロが気づかないのも無理はない。このゲームでは表情は変わらないからだ。ただずっとモモンガが側で見てきた、そしてモモンガと一緒に最後までギルドに残り続けたトンヌラだからこそ、自身にも湧いた感情が、いやそれ以上にギルド長としてモモンガは感じていると察しることが出来た。
「モモンガさんがギルド長として、俺たちがいつ帰ってきても良いように維持していてくれたんですね。感謝します」
「………み、皆で作り上げたものですからね。誰が戻ってきても良いように維持管理していくのはギルド長としての仕事ですから!」
「そんなモモンガさんがギルド長だからこそ、俺たちはこのゲームをあれほど楽しめたんでしょうね」
「…………」
沈黙するモモンガ、やるせないその感情をどう表したものか。言葉が詰まって話すことができない。
──そこに。
「ヘロヘロさん、僕のこと忘れてませんか〜?」
「そうだった、トンヌラさんも最後まで残ってくれたんだよね。ありがとう」
「そうですよー、感謝してください!」
「ハハ」
トンヌラが胸を張るスタンプを出してそれに吹き出すヘロヘロ。それを見てモモンガの雰囲気も柔らかくなりトンヌラはホッと息を吐く。
「じゃ、そろそろ睡魔がヤバくて。……最後にお会いできて嬉しかったです。また何処かで会いましょう」
「こ、こちらもお会い出来て嬉しかったです。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした、いつかまた会いましょう!」
最後に笑顔のスタンプを残してヘロヘロの姿が掻き消える。
「………」
「………」
沈黙が流れる。
その沈黙を破るようにモモンガは最後に言おうとした言葉を発する。
「今日がサービス終了の日ですし、せっかくですから最後まで残っていきませんか──」
「……先輩」
「はは。……まぁヘロヘロさん相当疲れてたし、無理強いはいけないよね」
「先輩は無理を言ってもいいと思います」
「………そうかな」
モモンガはヘロヘロの座っていた席に目を向け、そからまた視線を動かす。その先にあるのは空席、かつて仲間が座っていた席だ。
「皆どこかでまた会いましょう、だって。………いつ、どこで会うのだろうね」
モモンガの肩が震える。今まで抑えていた本心があふれる。
大きく振り上げた手をテーブルに叩きつけようして、……思いとどまる。
「……ふぅー、ごめん。かっこ悪い所見せちゃったね」
「──そんなことないです!」
トンヌラが思わず身を乗り出す。
「先輩は……!」
言葉が詰まるトンヌラ。
「最後まで残って、ナザリックを守って。みんなの帰る場所を残してくれたじゃないですか。……それって、すごく……すごくカッコいいです!」
いつも温厚で社交的な彼が大きな声を出して感情を振りまく姿を見て驚くモモンガ。我に返ったトンヌラは席に座りなして恥ずかしそうに「すいません」と頭を下げる。
「ちょっとこそばゆいけど…ありがとね。でも、君だってこうやって最後まで残ってくれたじゃないか」
「いやいや、僕は先輩がいたから」
と笑い合う二人に、最後の時間が迫る。
「っと、そろそろ時間ですね」
「……そうだね」
「先輩は最後、どうしますか」
「んー」
モモンガは顎に手を当てて考えている風ではあるが、その視線はチラチラと壁に飾られている一本のスタッフに向けられている。
それは各ギルドに一つしか所持することが出来ないギルド武器といわれもので、強大な性能を誇るがいくつかのデメリットが存在する。なのでギルド武器はその性能を発揮することなく、安全な場所で保管されることが多い。
モモンガに合わせて作ったにも関わらず、一度も持つことなく飾っていたギルド武器。
無意識に目を向けるモモンガに気付いたトンヌラ。
「今日くらいはわがまま言っても皆許してくれるんじゃないですか?」
「え、……そ、そうかな?」
「はい」
「じゃあ最後はギルド長らしいことをしますか!」
そう言うとモモンガは今の武装から彼が考えつくした最強の武装に変更する。性能だけでなく見るからに禍々しく邪悪なオーラを醸し出すその見た目は、まさにアインズ・ウール・ゴウンのギルド長に相応しい武装といえよう。
「俺はこのまま玉座の間で最後の時間を過ごそうと思うんだけど、トンヌラ君はどうする?」
「すいません、僕はナザリックを見て回ろうと思ってます」
「いや、いいんだ、最後は自分たちのやりたい事をしようじゃないか」
「ありがとうございます」
トンヌラは立ち上がりモモンガの前まで歩き出す。一瞬困惑するモモンガだったが直ぐに理解した。
「今まで、本当にお疲れさまでした」
ぺこりときれいなお辞儀をするトンヌラ、そのきれいな所作は彼が社会人として生きてきた証のようなものだ。そしてモモンガも先輩としてギルド長として誠心誠意応える。
「君もね、お疲れさまでした」
「また明日から頑張りましょう。あっ、時間があったら飲みに行きましょうね!」
「いいね、その時はまた連絡するよ」
そうして二人はこの部屋を後にする。
これからその身に起きることも知らぬまま、思い出を胸に歩き出した。
トンヌラはナザリックを逆走するように九階層から上層へと上がる。
第八階層「荒野」
第七階層「溶岩」
第六階層「ジャングル」
第五階層「氷河」
第四階層「地底湖」
第一、二、三階層「墳墓」
それぞれの場所に配置されたNPCやモンスター達を見て思い出に浸りながら上へ上へと足を進める。
辿り着いたのはナザリック地下大墳墓への入口、そして目の前には沼地が広がっている。ここ周辺の景色も見慣れたものだと笑う、もちろん表情は変わらないが。
ゆっくりと空を見上げ、感傷に浸る。
「このユグドラシルの空を見上げるのも、これで最後か」
右上に表示されるタイマーは
23:59:45
最後に目を閉じる。
明日からまた辛い現実に戻る。
ため息を押し殺す。
23:59:57
23:59:58
23:59:59
0:00:00
0:00:01
0:00:02
0:00:03
「……ぇ?」
終わらない?
その違和感を認識した瞬間。
トンヌラの意識は、途切れた。
ここから少しの間、トンヌラ君は待機してもらいます。
次の出番まで少々お待ちください。