ギルド長が過保護すぎる   作:ピロリ菌ex

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3.激昂

 

 トブの大森林。

 

 森の中をフェンリルがゆったりと進む。その背に跨る主とその主の主、いくら魔獣とはいえ緊張はするものだ、すこしでも快適な乗り心地になるよう心掛けるフェンリル。

 

 そんな魔獣の気持ちをよそに、アインズはアウラと楽しく雑談していた。

 

(子供の情操教育か。闇妖精(ダークエルフ)の学校なんてあったらアウラやマーレを行かせたほうがいいのだろうか?学校……そういえばトンヌラ君の甥っ子が小学生だっけ、"やまいこさん"とよく話してたなぁ、彼も子供好きで………、彼がこの場にいたらどんなことを考えたのだろう。)

 

 ナザリックがこの世界に転移してから約一か月が過ぎた。

 王都で情報を集めさせていたセバス達からは未だギルドの仲間に関する報告はゼロ。さらにはシャルティアを洗脳させた敵の存在。この世界にも存在するワールドアイテム。

 本来であればすぐに仲間を探しに行きたい。

 

(……それはできない)

 

 ナザリックを守る者として。

 ギルド長として。

 優先すべきは、常に組織の安全。

 

「………」

 

「アインズ様、どうされましたか?」

 

「ん?……いや、少し考えていただけさ」

 

「………そうでしたか」

 

 アインズは骸骨であるため表情からは感情を読み取ることは難しい。

 しかしながら声色や雰囲気でアウラは感じることが出来た、どこか哀愁にも似た感情を。

 

 ナザリックが転移してからアインズが偶に見せるその雰囲気。

 どこか遠くを見てるような。

 哀愁にも似た、感情。

 

 当然それに気づいているのはアウラだけではない。

 守護者たちは一度、緊急会議を開いている。

 議題は一つ。

 

 ──アインズ様は、この地を去るのではないか。

 

 主にアルベドとデミウルゴスの間で意見が分かれ会議は平行線を辿った。

 最終的に、今はそれぞれの職務を全うして我々が有意義な存在であることを知ってもらいアインズ様にナザリックに君臨し続けてもらうこと、と決まった。

 

 なのに、とアウラは頭を抱えたくなる。

 プレアデスの一人──ルプスレギナ。

 自らに課された命令の意図を勘違いし、さらには『東の巨人、西の魔蛇』といったトブの大森林に生息するモンスターの報告を怠った。

 明確な失敗。

 

 しかしトブの大森林の調査は、アウラの担当。

 見逃したなら、それは自分の責任でもあると考えるアウラは、これを挽回の機会と考える。

 そう決意したアウラは拳を握る。

 

「そろそろです、アインズ様」

 

「よし。ではアウラ、魔獣達に周囲を包囲するよう伝えよ。逃亡する者は……そうだな、殺さず捕縛するのだ」

 

「畏まりました。みんな、仕事だよ!」

 

 アウラが号令を出すと森の木々がざわめき数体の影がそれぞれ四方へと飛んで行った。

 フェンリルはさらに先へ進み目的地であるモンスターの住処へと到着する。

 そこは大地に亀裂が走り、空いた空間は洞窟になっている。フェンリルから降りたアインズらは洞窟の先へと進むと、傾斜は浅いが奥までそれなりに広がっているようだ。

 

「うっ、ひどい匂いですね」

 

「ガス溜まりトラップか?」

 

 アインズはそう口にしながら気にせずに先へと進む。

 アンデッドであるアインズは呼吸が不要なため空気系攻撃に対して完全耐性を有している。もちろんアウラは呼吸を必要とするがアイテムなどによって守られているので安心して進む。

 

 さらに進むと数体のオーガがなにかを貪り食っている。

 アインズは右手を上げて魔法を発動しようとしたが、今回の目的と違うと思い出した。

 

「友好的に話し合いに来たのだったな。───おい、そこのオーガ、食事中悪い」

 

 今更アインズに気づいたオーガ達は咆哮を上げると近くの棍棒を持ち近寄ってくる。

 

「スケルトン!」

「スケルトン!スケルトン!」

「テキ!テキ!」

 

 だみ声を上げながらアインズに棍棒を振り下ろす、しかし魔法の力すら込められていない棍棒で傷ができようはずもなく無駄に終わる。

 

「勝手に家に入ってきたことは謝る、ただ────」

 

 アインズはいたって冷静に話しかけるがオーガ達は次々に無駄な攻撃を続ける。

 これにはさすがのアインズでも溜息を吐いた。

 

「そろそろ鬱陶しいな」

 

 アインズは空間から杖を取り出して、振るう。

 魔法の力はこもってない杖だが、それだけでオーガの頭部は爆散し、脳髄と肉片をまき散らす。隣に立っていたオーガは手に持っていた棍棒を落としながら、後退する。

 

「オ、オマエ、スケルトン、チガウ」

 

「スケルトンと一緒にされては困る。君たちのボスに会いに来た、呼んできてくれるかな?」

 

 アインズがそう言うとオーガは洞窟の奥へと一目散に駆けていった。

 

「友好的に事をことを進めようしたが。そういえば、ぷにっと萌えさんも『言うことを聞かせるために一発殴るのは悪い手ではない』と言っていた……いや、あれは武人建御雷(ぶじんたけみかづち)さんだったか?」

 

「至高の御方々が言っているなら間違いなく正しいですよ!」

 

 二人とも両極端だったからなぁ、と内心苦笑いするアインズ。

 すると奥からぞろぞろと大量のモンスターが歩み出してきた。

 

「トロールか。巨人という看板にはいささか偽りありだが、完全に噓というわけでもないな」

 

 アインズが目を引いたのは群れの先頭に立つトロール。他のより体格に優れ、装備も革鎧を着用し片手には巨大なグレートが握られている。

 

「お前が東の巨人だな?」

 

 反論がないので肯定ととる。

 アインズは東の巨人から右に行った場所に杖を突き付ける。何もいない空間だがアインズにはそこに隠れている異形の存在がはっきりと見えていた。

 

「ではそこのお前が西の魔蛇だと嬉しいのだが。不可視化で消えているつもりだろうが、私の眼はそれを見破る。無駄なことは止めて答えたらどうだ」

 

 ぐにゃりと空間が歪む。

 何もいなかった場所にモンスターが姿を見せた。それは胸から上は人間の老人でそこから下は蛇というユグドラシルにもいた種族。

 

「なんだナーガか。確かに蛇というのは間違いではないが」

 

「わしの透明化を見破るとは、おぬしただの──」

 

「何しに来た、スケルトン!東の地を統べる王である、『グ』に名乗ることを許してやる!」

 

「「ぐ?」」

 

 二人は一瞬理解できずに頭を傾ける、しかし名前を名乗ったことが分かり、こちらも名乗らなければならないとアインズは一歩前に出る。

 

「私の名は、アインズ・ウール・ゴウンと言う」

 

 アインズがその名を口にすると洞窟内がふっと静かになる、そして一斉に笑いが起きた。

 

「ふぁふぁふぁふぁ!俺のような力強い名前ではない!臆病者の名前だ!」

 

 笑い続けるモンスター達に殺意を覚えたアウラは一歩前に出ようとしたところ、アインズに制される。

 

「冷静さを保て」

 

「……っ、はい」

 

 歯を食いしばりながらもアウラは絶対の存在からの命令なので大人しく引き下がる。と、アインズの名前を笑わなかったナーガが説明し始める。

 

「謎のアンデットよ、こ奴らは長き名前を勇気なき証とみなすんじゃ」

 

「ふむ、それでお前も私を臆病者と思うのか?」

 

「いやそれはない、わしの名前も長い名だからな。おぬしの言うところの西の魔蛇、リュラリュース・スぺニア・アイ・インダルンじゃよ」

 

 ナーガが名乗ることでモンスター達にさらに笑いが起きる。

『グ』は笑いをこぼしながら馬鹿にしたようにアインズに質問する。

 

「それで、弱き者は何をしに来た!」

 

「私は森の中央でアンデットやゴーレムを使って砦を築いている者だ、知っているかね?」

 

 その一言で空気が変わる。

 笑いは収まりグの後ろに控えるモンスター達はアインズに明確な敵意を向け、ナーガも先程よりもさらに警戒している。

 

「知っているぞ!邪魔者!この蛇がギャーギャー言わなければ俺たちだけでお前をすぐに殺したんだ!よけいな手間が省けたぞ」

 

「非常に話が早くて助かる。私がここに来たのはお前達と交渉したいことがあったからだ。────命が惜しくば服従しろ」

 

 アインズは手を前に出して、伏せ、と会釈する。

 

「このバカが!俺が臆病者に従うはずがないだろう!」

 

「『グ』よ、侮るのは危険じゃ!」

 

「お前はここで食われるんだ!次にそのチビも食ってやる!」

 

 ナーガが忠告するが無視して啖呵を切る『グ』。自身の主にここまで言われて流石に不快感から顔を歪ませるアウラだったが、その主が突然大声で笑い始めたので困惑する。

 

「ハハハハッ!犬より立派に吠えるじゃないか肉ダルマ!」

 

「……何だとっ!」

 

「お前が臆病者と呼ぶ私から、力強い名前を持つお前に一騎打ちを挑むとしよう。まさか怖くて逃げたりはしないよな」

 

「面白い!お前などバラバラにして食ってやる」

 

「よし、お前の選択はなったな」

 

 アインズの眼光がギラリと光る。

 次の瞬間、アインズめがけて巨大なグレートソードが振り下ろされる。しかしアインズは避けようともせずに真正面から受け止める。

 

「なッ!?、────う?」

 

「何か不思議そうだな」

 

 アインズはびくともしない。『グ』はその顔を驚きから歪ませるが、さらに一撃、二撃目と何度も剣を振るうが、やはりアインズには傷一つ付いていない。

 

「『グ』よ、奴は異常じゃ!協力して──」

 

「黙れっ!」

 

 本気を出したのか、『グ』の連打はアインズがこの世界で見てきた存在の中でもトップクラスの破壊力を持っていた。

 しかしアインズはすでに興味がなくなったのか目を逸らして服を整え始めた。

 

「やれやれ、シワを作るのは止めてほしいものだ」

 

「ぐっ、──があぁぁぁぁ!」

 

 剣での攻撃は効かないと判断した『グ』は、最後は信じられる己の肉体で攻撃を仕掛けた。その丸太のような腕でアインズの顔面に叩きつける。

 しかしアインズはその攻撃をものともせず、『グ』の手を汚いもののように払う。そして膝めがけて杖をただ振り下ろす。

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!?」

 

 アインズが振った杖が『グ』の片足を半分ほど吹き飛ばすと、立っていられなくなったことで後ろに倒れこんだところに、追撃として、いやアインズはたまたまいいところに顎があったという理由から杖を振り上げる。

 

「ごふっ!?」

 

 顎を無くした『グ』は、無様に血を垂れこぼしながら手で顔を覆いのたうち回る。やれやれとため息を吐くアインズ、しかし周囲に対して警戒を怠ることはない。

 

「アウラ、それだけは逃すな」

 

 アインズの圧倒的な力とオーラを感じたナーガは不可視化で逃げようとするが、それはアウラによって簡単に阻止される。

 

「アインズ様、捕まえましたがどうなさいますか?」

 

「そうだな」

 

 アインズは目の前の『グ』を無視してアウラの方へと振り返る。目の前にいる『グ』など相手にするまでもない、とその行動で示していた。

 

『グ』はその小さな脳みそで必死に考える。

 

(な、なんだ!何をされた!魔法か!)

 

 アインズに潰された箇所はほとんど治り痛みを和らいでくる。

 思考もスムーズになってきたようだ。

 

(なぜ攻撃が効かない!あの防御、防御さえなんとか出来れば!)

 

 自分の能力を過信し、スケルトン程度に負けるわけがないと、何かタネがあると考える『グ』。

 そこであることを思い出す。

 

(防御?……そうだ!俺も持ってるじゃないか!なぜか分からないが、物凄く硬いヤツを!)

 

 数週間前に部下のトロールが持ってきた人間。

 結局傷一つ付けられなかった人間。

 ものすごく硬い人間。

 

 ならばそれを盾にすれば良いと閃いた『グ』。

 

 なんとも頭の悪い思いつきか。しかしトロールとしては頭の切れるほうだと言う。

 そしてそのどんぐり脳みそでさらに浅はかな考えを思いつく。

 

 こちらも盾を持って骸骨の攻撃を防げれば勝てる!と。

 

 いや、仮に防御力が同じになったとしても勝てるとはかぎらない。

 どんぐり脳みそと散々言ってきたが、まだリスや鳥といった小動物の方が賢いだろう。このトロールには野生の勘や本能なんて大層なものはどうやらないらしい。

 

 完全に傷を完治した『グ』は少しアインズから距離をとり部下に叫ぶ。

 

「お前らぁ!アレを持って来い!」

 

 急に元気になった『グ』に振り返るアインズ。

 

「ん?なにか秘密兵器があるのかね?」

 

「く、くふぁふぁふぁ!お前はもう終わりだ、スケルトン!」

 

「いいぞ、そのグレートソードのように魔法の力があるものであれば私も興味がある。見せてみろ」

 

「ぐっ、……おい、早く持ってこい!」

 

『グ』が急かすと奥から若いトロールが持ってきたのは、大きな木の板だった。

 それは特別なものには見えず、どこにでもあるようなもので、とても魔法の力があるようには見えない。

 

 

 アインズはそれを見て落胆する。

 

 

 

 

 

 その表面を見るまでは。

 

 

 

 

 

「────────は?」

 

 

 

 

 

 植物の蔓で無造作に、乱暴に。

 

 まるで"物"のように、木の板へと縛り付けられていた。

 

 小さな身体。

 

 力なく垂れる腕。

 

 うなだれる首。

 

 その姿を見てアインズは言葉が出ない、時間が止まる。

 

 そして、その少女の名をこぼしたのは後ろで控えていたアウラだった。

 

 

 

「……………ト、ンヌラさま?」

 

 

 

 

 

「ふぁふぁふぁふぁ!!これぞ俺様の盾だぁ!この盾と剣があればスケルトンなんぞに負けるわけがない!!」

 

 下品な笑い声が洞窟に響き渡る。

 

 盾に貼り付けられた少女はぐったりとしていて生きてるのか死んでるのかも分からない状態。

 

「覚悟しろ、スケルトン!!」

 

 一歩一歩アインズに近づいていく『グ』。

 

「?」

 

 だが、なぜだか次の一歩が出ない。

 

 不思議に思い、俯いているアインズをよく見てみると小刻み震えている。

 恐怖しているのかと笑おうとして、それは甘い勘違いだと気づいた。

 

 

 ──カタカタカタカタカタ

 

 

 それは骨同士がぶつかり、擦れ、振動する音。

 指はそれぞれが別の生き物のように暴れている。

 

 

 さすがの『グ』でもそれが異様ということに気づく。

 

 

 しかし、何もかも手遅れ。

 

 

 

 

「────ガァアあああアアアアアア!!!!」

 

 

 

 爆発するオーラ。

 

 抑制すら間に合わない憤怒が次々と溢れ出す。

 

 抑えていた負の波動が広がり洞窟を飲み尽くす。

 

 アウラですらその波動に恐怖し冷や汗をダラダラと垂れ流す。

 アウラ以外の者が耐えれるはずがなく、腰を抜かしてその場に無様に転がることしか出来ない。

 

 

「ガァア、ア、アアアアアアア!!」

 

 

 それは魔法詠唱でもなんでもなく、ただの感情の咆哮。

 

 

 そして放たれるは、アインズが持つ中で最強の物理魔法[現断(リアリティ・スラッシュ)

 

 

 透明な斬撃は『グ』とその他のモンスターをいともたやすく切断し殺し尽くした。

 

 

 

「────はぁ、────はぁ、────くっ!」

 

 

 

 うまく頭が回らないアインズは反射的に『グ』の死体へと駆け寄る。正しくはそいつが持っていた盾へと。

 

 そこに先ほどまでの怒りはなく、ただ焦りと不安が脳みそを支配していた。

 

 少女を縛り付けるツタを無理矢理引きちぎる。

 そして未だにぐったりとする少女を抱き抱えて、その状態を確認する。

 

 呼吸。

 微かな胸の上下。

 体温。

 

「──────よかった」

 

 アインズの自然とこぼれ落ちた言葉にアウラは崩れるように膝をついた。

 その頬にはいつのまにか涙が垂れており止まることはない。

 

 少女(トンヌラ)が生きてることへの安堵、トロールに対する怒り、何故ここにいるのか、様々な思いが脳裏をめぐるがすぐに感情抑制によって冷静になる。

 

 指を耳元に当てて魔法を発動する。

 

「アルベド、緊急事態だ、理由は聞くな。謹慎中のペストーニャを今すぐ第九階層の私の部屋まで連れてこい」

 

『はっ』

 

「急げ、遅れることは許さん」

 

『畏まりました』

 

 魔法は終了する。そしてアインズはそばのアウラへと声を掛ける。

 

「先程のナーガはどこへ行った」

 

「え、あっ、も、申し訳ございません!逃がしてしまいましたっ!」

 

 いつのまにかナーガは消えており逃げ出したことは一目瞭然だった。アウラは顔を青くして頭を下げる。

 

「いや、いい。私も取り乱してしまったしな」

 

 アインズの目が光る。

 

 

「だが、ヤツは絶対に逃すな」

 

 

 空気が凍ったような低い声。

 

「生かしてここまで連行しろ、それをもって罰とする」

 

「はっ!」

 

 アインズは暗い空間からアイテムを取り出す。

 それは誰でも蘇生魔法を数回使える課金アイテムだった。それをアウラに渡すと。

 

「これで『グ』を蘇生しろ、奴とナーガには色々と聞かないといけないことがあるからな。シャルティアを後で呼ぶ、二人で協力し、二体を氷結牢獄へと連れていけ」

 

「了解です」

 

 アインズは少女を優しく抱え直して片手を前に突き出す。

 

 

 [転移門(ゲート)

 

 

 真っ暗な空間が開き、その先へとアインズは消えていく。

 

 

 

 

 

 

 まるでその姿は姫を連れ去る魔王が如く。

 

 

 しかし、あながち間違いではなく。

 

 

 姫はその後、囚われの身となるような。

 

 

 






ようやく会えた主人公達。

やっと喋れるねトンヌラ君、よかったね。
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