転生者が前世の作品の同人を個人的に楽しむようです。 作:スティック/糊
9月の第4週。
修学旅行前最後の土日、彩寿歌と万智、そして紗寿叶は都内のショッピングモールに足を運んでいた。
「相変わらずいちゃついてるわね……」
たしかに私が二人の修学旅行用の荷物揃えに来る買い物に同行させてもらっているから何も言えないんだけど……。
紗寿叶は自身の存在は何処に行ったかと言わんばかりにいちゃついている二人を何とも言えない眼で見ながらその後を追っていた。
事の経緯はこうだ。
彩寿歌と万智の通う高校の修学旅行先での恰好は制服ではなく私服が予定されている。
治安だのなんだのの関係らしい。
なので彩寿歌は学校での擬態のイメージに沿うような私服を探しに行くことにしたのだが、浮かない女子高校生の服装とは何ぞやと悩み始めてしまった。
そんな彩寿歌を見かねて紗寿叶が声をかけて服を選ぶことを提案した。
提案したのだが、もとよりその予定の日は彩寿歌は万智とのデートと言う名の彼を着せ替え人形にする日だと言うのだ。
それでもかまわないから、と言うか彩寿歌が彼氏の服を選んでる間にあなたの服を選んであげるから、とそんな理由で今回の動向が決まった。
紗寿叶の思惑として彩寿歌の彼氏である万智が褒めちぎれば普段着ない系統の服装でも来てくれるのではないか。
そんな思惑があった。
妹を着せ替え人形にする出汁にしようとしてごめんさない、どこかでお茶奢るから……と合流早々に謝ったのだが、万智は「過度に過激なもん着せる以外だったら適当な出汁にしていいですよ。あ、俺が近くにいる時だけですよ」と免罪符まで頂いてしまった。
……随分と理解のある彼氏じゃない。
それはそれとして小さく独占欲を滲みだしているのか、それとも単純に知らないところで出汁にされるのは我慢ならないのかは知らないけれど……そう言うとこ彩寿歌に言ってあげた方がいいんじゃないかしら。
と言うか彼氏を着せ替え人形にする日って何?????
紗寿叶は訝しんだ。
それでも目の前で彼氏の腕に抱き着きながら普段とは違う可愛らしい服装をしている彩寿歌の姿が見れただけで来た価値はあると感じた。
〇 〇
モールに到着して早々に、紗寿叶は彩寿歌の服を探しに。
万智と彩寿歌は月の恒例行事となった、万智コーディネートin9月度開催のため分かれた。
時間にもある程度目途を立て、昼頃にどこか適当な飲食店で待ち合わせることになった。
「ダメだ、これじゃエッチすぎる」
「エッチな要素ねぇだろ」
適当なメンズ向けの店舗に足を運び、万智は彩寿歌セレクトの服に着替えるマシーンと化した。
シンプルなスキニーにオーバーサイズのシャツを試着した時の第一声がこれである。
「は?エッチだろ。190近い身長でもオーバーに見えるサイズのシャツの襟もといくつか空けてて見える鎖骨のラインがくっちりしてて、首筋も諸分り、緩くまくった腕の筋肉がエッチ」
「セックスアピールしてる訳じゃないんだが????」
「万智だって巨乳が胸強調している服着てたらエッッッッッッってなるでしょ?」
それと同じなのだよ。
そうかな……そうなのかも……?
万智は軽く洗脳されかけている気分になった。
「……適当にズボンとシャツで良くない?」
「そのデザイン性とサイズが大切なのだよワトソン君」
「いつから俺は助手に」
「は?ワト×ホは王道だろうが」
「やめないか」
本当に服に頓着しない万智は雑に切り上げようと試みるのだが、残念。彩寿歌に阻まれた!
「あ、私女体化×♂はいけるけどガチホモはちょっと……」
「知らんがな」
「この場合はワトソンがTSと仮定するよ」
「……何も言うまい」
万智はその後もひたすら彩寿歌の着せ替え人形となるのであった。
〇 〇
「ジュジュサマ~!」
「げ、喜多川海夢……」
一方紗寿叶は彩寿歌の服を吟味していると、この場では聞きたくない陽の化身である少女と遭遇していた。
彼女との出会いは数か月前のコスプレの合わせに起因する。
それ以来一切遭遇していなかったと言うのにこの場で会うなど想定外も良い所である。
めっちゃイヤそうでウケる、なんて言っている当たりがあまりにも陽。
「こんな所でジュジュ様に会えるなんて。すっごいラッキーです!」
「貴方は一切変わらないわね」
今いるのは埼玉新都心のショッピングモール。
彩寿歌と万智が学校の知り合いに遭遇しなさそうなところ、と言うことと、修学旅行に必要そうなものを集めるのにちょうどよさそうな所と言うことでこの地が選出されたのだ
喜多川海夢の生活圏内で考えれば確かに遭遇してはおかしくないけれどここまでピンポイントで遭遇することなのどあるのだろうか。
「それでそれでジュジュサマはどうしてこちらに?」
彼女が視線を遊ばせていると言わんことは分かる。
紗寿叶が好んで着用している服装の系統とは異なるシンプルでカジュアルな雰囲気のお店であったからだ。
「妹の服選びよ」
「え、心寿ちゃんですか!?はぇー心寿ちゃんこういう系統の服好きなんですね」
「心寿じゃなくて私の双子の妹」
「え!?ジュジュ様の双子の妹さん!?え、どこ、どこにいるんですか!」
「ここにはいないわよ。違う店で服を選んでるの」
紗寿叶は素直に自身の目的を告げた。
さっさと去れとでも言えば彼女は素直に去っていくのだろうが、ここまで慕ってくる相手を過度に邪険にするつもりはない。
コスプレに関わった要素がなければ、の前提ではあるが。
そうすれば案の定と言わんばかりに喜多川海夢はその話に食いついてあたりを見渡したが、暗にここには居ないと告げれば露骨にしょんぼりとした雰囲気になった。
「ジュジュサマの双子の妹さん絶対見たいッ」
「うちの妹は見世物じゃないんだけど」
「だってこんなに可愛いジュジュサマの双子ですよ?心寿ちゃんも可愛かったんですけど、それが双子となると気になるんですよ!」
果たしてジュジュサマ見たく小さい感じの美少女なのか、それとも心寿ちゃんみたく大きいのか。
顔の系統はジュジュサマも心寿ちゃんもあどけなさのある幼い感じですっごい可愛いからきっと妹さんも可愛い系……いや、あえてのここは双子と言うことでクール系の可能性もッ……!
紗寿叶が知る限り喜多川海夢と言う少女は好奇心と行動力の塊みたいな少女だ。
ここで否、と言って後で発生するかもしれない何かしらのイベントが発生してしまうとするのならば早々に潰してしまった方がいい。
別に彼女がトラブルを運んでくるような性格をしているとは言えないがエネルギーの塊のような存在なのだ、何が起きても不思議ではない。
……釘を刺したうえでちらりと見せる程度にしておけば安心かしら。
紗寿叶はいくつかの試算を行い、心の奥底にある私の双子の妹可愛いと自慢したい気持ちが知らず知らずのうちにブーストしてしまった。
となると彩寿歌との合流までの間どうしようかしら。
彩寿歌の服選びは妥協したくない。
けれど漠然と待たせるのも気が引ける。
――――そう言えばこの子、服を着こなすのが異様に上手かったわね…?
紗寿叶はあの日コスプレの写真を見返している時に気が付いた彼女の特性を思い出した。
「……はぁ、後一時間ぐらいで合流するからその時に紹介してあげるわよ」
「えっ、本当ですか!」
「その代わりちょっとマネキンになりなさい」
「ジュジュサマの選んだ服を着ていけばいい感じですか?任せてください!」
……紹介すると言えば二言返事で了承した喜多川海夢に紗寿叶は『この子もしかして勢いだけで生きているのかしら』なんて感想を抱いたり抱かなかったり。
背丈がおおよそ同じだからという理由で彼女をマネキン扱いしてしまったが、顔の系統が違うのよね……首から下だけなら……?とそこそこ失礼なことを考える。
「くれぐれも、くれぐれも!妹を見て私の時みたいに距離をつめないこと!」
「り!!」
……本当に大丈夫かしら。
なんだか糠に釘を打っている気分になるが、最低限度……と言うか好かれる後輩の様な距離感の測り方は上手い子なのであまり心配はないと思うのだが、紗寿叶はどことなく選択を間違ったような気もして来た。
今は服選び、服選びが最優先なの。
紗寿叶は今ある問題から小さく目を逸らしながらあくまで自身の目的を熟すことを優先した。
……喜多川海夢、貴方服選びのセンスは良いのね。
え、この前雑誌の撮影で使った……?
貴方読者モデルをしてるの。……道理で。
なんでもないわ。次、コレ。
〇 〇
「カワ~~~~~~!え、ジュジュサマの妹さんスッゴイ美少女!心寿ちゃんと違う系統と言うか、ジュジュサマと心寿ちゃんを足して2で割った…って言うのとはまた違った雰囲気だけど可愛い~~~!THE文系の少女が彼氏とのデートでおしゃれした感がスッゴイわかるゥ!清楚なマーメイドスカートに丈の長めのブラウス良き~!」
「ちょっと喜多川海夢」
「びでぶ」
万智と彩寿歌は集合時間ギリギリに服選びを終え、ショッパー片手に紗寿叶の指定のファミレス系統のリーズナブルめのお店に来ていた。
するとそこには紗寿叶の隣でニコニコとしているギャル。
目を点にしていると、矢鱈と褒めてくるツラのいいギャルがいた。
その様子に彩寿歌は完全に固まり、紗寿叶はそのギャルへ小突きを入れていた。
……どういう状況…?
「万智、万智、私何時ギャルに全肯定してもらえるサービスに課金してた?」
「してはいないと思う」
あまりにも混乱したのか彩寿歌はさりげなくとんでもないことを言っている。
「すみません。あまりの可愛さに我を失ってました……」
「あ、ハイ」
反省、反省とぺこぺこしているギャルに彩寿歌はもはやどんなリアクションをしていいか分からなくなっていた。
「彩寿歌、こちらちょっと前にコスの合わせで一緒に撮影した喜多川海夢。テンション高いだけで基本無害よ」
「ジュジュサマ!?」
そんな状況を見かねてかは分からないが紗寿叶がその間に入り、彼女の紹介を始めた。
極めて雑な紹介ではあるし、それに驚きを挙げたかと思えば喜多川何某は『ジュジュサマってば私のことそんな風に思ってたんですか~』と紗寿叶にからみ、『事実でしょ』と素気無くあしらわれていた。
なんとなく二人のパワーバランスが分かったような気がした。
「喜多川海夢、私の可愛い双子の妹の彩寿歌よ」
「可愛いかどうかは分かりませんが妹です」
「可愛いですよ!」
……自分で言っておいて顔真っ赤になるのはただの自爆では???
その状況を見て喜多川何某は悶絶していた。可愛いのは分かる。
クール面しての自爆芸は最近見ていなかったので新しい供給に助かる、という気持ちで一杯であった。
万智の脳内には\わかるマーン/と\ワイトもそう思います/がディグダの様に高速でぴょこぴょこしながらも紗寿叶の話を聞いた。
「ん゛。で、これはどういう状況」
「これは―――」
彩寿歌は誤魔化すように一つ咳ばらいを入れるとこの状況は何かと問うた。
「つまりテンションの高いギャルに姉妹コンプを目指された、と」
「要約され過ぎてますけどだいたいそうです!」
「そのまんまでしょ」
概ね説明のとおり。
数か月ほど前に彼女と紗寿叶、そして未だ遭遇していない心寿と言う乾家の末っ子とコスプレの合わせをした時に縁が出来てたまたまお店でばったり。
ばったりと言うにはゴールデンレトリバーが駆け寄ってきた時の様だと言うが、それから何やかんやと言うやつらしい。
「概ね理解した」
人懐っこいギャルかぁ……危険性物では?
彩寿歌は自分自身の容姿にはそれなりに自信を持っているが天然物のTHE女‼みたいな人物には負けるだろうと考えている生き物だ。
人懐っこくてギャルで、年上に可愛がられやすそうなフレンドリーな距離感ぶっ壊れ系。
絶対メインヒロインより人気出るか制作サイドに強制ナーフ食らうやつッ!
これが学園ものだったら私は即負けヒロインコースッ!
少なくともギャルから見た万智は特にそう言った対象に入れそうにない雰囲気を感じる。
今日の万智を眼鏡オンモードにしてて助かったァ!
彩寿歌は自分の男が靡くような可能性が一ミリでも見えれば全力で取り繕って距離を置こうとするタイプの女だ。
故に万智の癖に入るのか否かそれが重要である。
敵であればスーパードライモード突入である。
「どうした」
彩寿歌はちらりと万智の方へ視線を向けると極めてフラットな目をしていた。
癖外れてたァ!
フラット!極めてフラット!
「ん、なんでもない」
暴れる内心を必死に抑え込み、ゆっくりと喜多川何某の方へ再度視線を向けた。
「紗寿叶と心寿がお世話に成りました」
「あ、いえいえ、こちらがお世話に成ってました」
万智の癖から外れているのであれば程々の距離をもって接しよう。
そんなことを考えている彩寿歌をみて万智はなんかまためんどくさいこと考えてるなコイツ、と口に出せる空気ではなかったので口には出さないが確かにそう感じていた。
「こっちは私のだからちょっかいかけないでね」
「大丈夫よ彩寿歌。その子相手いるから」
「べ、べべべべべつに私と五条君はまだそう言う関係じゃないっていうか…!」
「まだなのね」
「ジュジュサマ!?」
「何で付き合ってないのよあなたたち」
〇 〇
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!化けの皮はがれそうだったああああああ!」
「やかましい」
「あだ」
スーツケースやら、買った服やらのショッパーがリビングに並ぶ中、彩寿歌は万智の膝に寝転がりながら深い深いため息を吐いていた。
ため息ではなく絶叫だったかもしれない。
当初の予定通り……とは少し違うが突然のギャルとの遭遇後一緒に食事をとることになり、ギャルの裏表のない素直な誉め言葉が彩寿歌に直撃したり、ギャルの皮被ったド級のオタクであったことからちょこちょことツッコミを入れたくなる衝動に駆られたり、彼女には彼女の好きな男が居ると言うことで警戒心が0に近くなったりと彩寿歌は平静を保つのが精いっぱいであった。
その後、彩寿歌の服選びに関しても無限に褒めてくるギャルに全肯定気持ち良……と表情筋と必死に戦い、彼女と別れて電車に乗っている間も表情筋と戦っていたが、帰宅早々万智に膝枕をねだって現在に至る。
「何あの子!後輩だったらめっちゃ可愛がってる!」
「なんか後輩力高かったな」
「アレが黒髪セミロングだったら敗北してたでござる。と言うか雫たそのコス写真えげつない可愛かった……」
「さようで」
「推せる……」
やはりコミュ力。
コミュ力はすべてを解決するのだ。
そんな言葉が似合うほど彩寿歌は完全に絆されていた。
童貞が好きそうな女は普通の男も好き定期、と言わんばかりに一般的にモテる女はやはり強いと彩寿歌は再確認した。
オタクに優しいギャル、と言うかド級のオタクのギャルって実在してたんだ……。
作家であることを忘れかけながら現実は奇なりと言わんばかりだ。
「万智はギャル嫌い?」
「いい思い出がない」
「パーソナルスペースが広いもんねぇ……」
それなりに普通の人当たりを偽装できるくらいには社会人経験を万智は積んでいるが、それでも矢鱈とグイグイ来る相手は苦手だ。
一度懐に入れた人間には駄々甘いのだが、そこに至るまでの警戒心が高い。
彩寿歌もグイグイと行動するタイプではあるが、完全にあの時は人恋しい時のタイミングだっただけであって、それ以外では完全に塩であったと確信している。
言わば彩寿歌は奇跡的なタイミングにより上手い事懐に入り込んだだけである。
「と言うかシンプルに爪が長くてゴテゴテしてて香水くさいのが無理」
「……ジェルネイルくらいにしておいてよかったぁ」
色々と万智の中でギャル苦手エピソードはあるのだが、あまり口に出したいようなことでもないのだ。
総じて馴れ馴れしい距離感のおかしい人種が苦手なだけである。
彩寿歌は自身も最低限女子らしくしようと心がけ、友人の和花のネイルの実験台程度にはネイルをしているが長い爪だとキーボードが打ちずらいので過度に長くならないようにしていた自分グッジョブと心から安堵した。
「別に彩寿歌の交友関係にぶつくさと口出しをしたい訳じゃないからな」
「それはわかっていますとも……むしろ私の方がめっちゃ束縛ってない?????」
「俺は積極的に広い交友関係持ちたい訳でもないしな」
「ヤなことはちゃんと言ってよ?私超能力者でもないし、どっちかと言うと空気読むの下手くそだから」
「わかってる。彩寿歌もそこらへんで要らん気を回すなよ」
「回してたら姉を彼氏の家にいきなり連行しないんですわ」
「それもそうか」
気を使われたくない、と言うのも中々贅沢な望みだとは思う。
それでも精神的疲労を無意識の内に積むよりはずっといい。
「我慢はしないけど最低限の配慮はさせてもらうからね」
「いい女かよ」
「せやろ?」
……まぁ、これからの時間は長いんだ。
ゆっくりと互いのラインを探させてもらおうか。
修学旅行はナレ死かな()