転生者が前世の作品の同人を個人的に楽しむようです。 作:スティック/糊
11月。
修学旅行、文化祭を終え、また普通の日常を送っていた。
修学旅行は自由行動でいくつかのグループに分かれる選択式で、万智は海に入る気にはなれなかったので、三線の体験をしていた。
皆、沖縄と言えば海!と言う印象が強いのかバナナボートに乗って居たり、シュノーケリングの体験の割合が多かったらしい。
運動が嫌いと言う訳ではないが基本インドア派の万智はシーサー作りや三線の体験をしていた。
彩寿歌も海に出る気はないと、沖縄そばの調理体験をしたと言う。
修学旅行中にちょこっと頑張って合流するくらいなら卒業後に旅行に行こうぜ!と言うことで普通におとなしく過ごしていた。
クラスが同じだったら引きずり回されていたことだろう。
文化祭もこれと言って大きな何かをした訳でもない。
部活や委員会に所属している訳でもない万智はクラスの手伝いをしたくらい。
物語の青春って流れならここで文化祭で出し物をしよう、文化祭実行委員のなんか特別なイベントを熟してドキドキ、みたいなものがあるのだろうが淡々と進んだ。
若い頃は文化祭で目立ってみてぇな、なんて考えたことが無い訳ではないが今更頑張って学校と言う小さなコミュニティで目立とうとしてもなぁ、と言う話だ。
と言うか文化祭の前日まで音楽関係の仕事の締め切りで寝不足だったので適当に仮眠をとっていた気がする。
……地味ではあるが学校とは本来学ぶ場なのだからこれで良いのだ。
え、集団生活からコミュニケーション能力を向上させ社会性を学ぶ尤もベーシックな場の間違いだろって?
それはそう。
〇 〇
「はい、着て」
「……これは?」
「コスプレ衣装……と言うには些かアレだけど着てみて?」
そんなある日、いつものように彩寿歌の唐突な何かが始まった。
バイトはないし、音楽関係の仕事もイラストの仕事も10月が忙しかっただけで11月になってからはすっかり落ち着き、久方ぶりに家でゴロゴロしていたらこれである。
そう言って彩寿歌が手渡してきたのは紙袋。
彩寿歌の言う通りなら何らかの服が入っているらしい。
着てほしいと言われれば中身がよほど変なものでなければ万智は普通に着るので、それをおとなしく受け取った。
ささ、と言われ万智はその紙袋を持ったまま一度自分の自室に向かって行く。
紙袋から取り出した服装は真っ白で、肩に飾りのついた軍服の様なもの。
それに合わせたズボンに、帽子まで。
特に変なものと言う訳ではないので普通に着てみた。
………若干キツイ。
それでも着れないことはなかったので襟止めまでしっかりと止めて、自分の姿を見る。
万智はあまり軍服とかそう言ったものに明るい訳ではないのだが、どうにも自身の恰好には覚えがあった。
「確かにコスプレって言ってたな」
前世で度々目にしていたプレイヤーの衣装はこうであると仮定したそれだ。
ストレートに言おう。
艦これ、艦隊これくしょんと呼ばれる一時代を作り上げたソシャゲの“提督”の衣装である。
提督の衣装といっても、公式で明確にその服が出てきていたかどうかの記憶が万智にはない。
アニメとかやってたしその時に映っていたのか……?
一種の集団幻覚の成れの果てみたいなものだと勝手に思っている。
まぁ、キャラクターからの呼ばれ方が提督と呼ばれているのだから歴史上の提督が着用していた服に寄るのはそれはそう、と言う話。
……艦これについて本当にそこまで詳しくないんだよなぁ。
アイマスのプロデューサーのように明確に顔の表現がないキャラクターに関しては呼び方の記号を簡単に表してPヘッドだので簡素に書かれていたこともあったか。
そうなると万智もそれに習って段ボールでTヘッドを作成した方がいいのでは?と頭の悪い方向に思考を傾けてしまう。
流石に冗談ではあるが。
この格好に室内のスリッパはあってないな、なんて思いながら再びリビングに向った。
リビングに向かうと彩寿歌の姿はなく、リビングに無造作に置いておいた自分のスマホに[ちょっと待たれよ]とのメッセージが入っていることに気が付く。
流石にここまでくれば何が起こるのかは凡そ想定は付き始めてきた。
彩寿歌が艦これのキャラクターのコスをしてやってくるな、と。
そうなると彩寿歌はどの衣装でやってくるのだろうか…?
そう考え始めてしまう。
たしかに艦これ、艦隊これくしょんは前世で一大ムーブメントを起こした大人気コンテンツであった。
その波に乗って色々なミリタリー系の作品が流行っていたようにも思える。
……正確な作品の放送順序なんてものは覚えていないのだけども。
そんな艦これはコミケに行けばそこそこの人数の人がコスプレをしていたと聞く。
加賀、赤城、金剛、時雨、川内、大井、榛名、大和……。
セーラー服の元になったとされる水兵服モチーフの衣装が多い事もあってかキャッチ―で取っつきやすい印象がある。
その中でもオタク界隈で特に人気があったとされるのが島風と鹿島だ。
実際の人気は違うのかもしれないが、Pi〇ivでよくネタキャラとして圧化られていたので印象に残っているのがその二人と言うだけかもしれない。
何故その2人なのか。
端的にスケベであるからだ。
島風、言うまでもなくドスケベな衣装をしている。
艦これ界隈の中でも特にきわどい服装をしていることが印象に残っており、そのドスケベ衣装を他の艦娘に着せると言うイラストが大変流行していた気がする。
そして鹿島。
言わずと知れた有明の女王だ。コミケでめちゃくちゃエロ同人にされた女でもある。
コミケの僅か一か月前に実装されたと言うのにその年の冬コミはめちゃくちゃ鹿島のドスケベ本になったと聞く。
ビジュが強すぎる。
またそのビジュアルを象徴する話として“平成の淫魔像”と言う単語も存在する程だ。
なんて、あくまで万智のよわよわ艦これ知識に照らし合わせて想定しているだけで実際は違うのかもしれない。
アズレンの方かもしれない。
大前提としてそもそも艦これのコスプレをしてくるのかどうかすらわからない。
万智がゲンドウポーズでそんな思考を巡らせている内に、軽快に階段を下りる音が聞こえた。
「お待たせしました。提督♡」
「いや鹿島風ッ!!!!!」
ある種、予想は当たった。当たってしまった。
彩寿歌は銀色のツインテールにあざとい表情を浮かべ、衣装はショートタイプのセーラーにミニスカ。そしてえぐい角度のハイレグの下着であろうものがうっすらと見える衣装をしていたのだ。
人気キャラに人気キャラの衣装を着せた、ただそれ以上でもそれ以下でもない。
「エッチな同人誌で見たことある構図ッ!!!」
「お嫌いですか?」
「大好きッ!!」
いや、これが嫌いな男とか存在するの?(反語)
「こういうストレートなのもイける、と」
「むしろ色白で形のいいくびれが嫌いな人類いると思ってるのか」
「まぁ、いないでしょ」
彩寿歌はそんな万智の様子に満足したのか一つドヤ顔を決めると万智から上着をはぎ取ってもそもそと着た。
「流石にこの時期になると室内でも肌寒いから、って剥いたんだけど……こっちの方がいかがわしいね」
「……長くてきれいな足が映えてると思う」
どうしてこうもチラリズムとか妄想を掻き立てる類いのものはスケベなのか。
島風のコスプレ衣装に小悪魔めいた鹿島に寄せたメイクが何とも。
本人のこだわりなのか、しっかりと眉も銀色に盛られている。
「髪色と眉毛の色そろえておかないと萎える」とのことでそこは本人のこだわりらしい。
カラコンを入れているのかほんのりと青みがかった目が笑っている。
完成度たっけぇな、なんて言う前に提督の上着の袖に腕を通してボタンを閉めていないからか、少し身じろぎするだけでチラチラと肌色が見えてよろしくない。
万智は寝起きに「彼シャツ~」とか言って体格差からダボダボになることを計算に入れて煽ってくることもあるので耐性は出来ていると思っていたのだが違うらしい。
彼シャツはダボっとした無防備さと生地の透け感から見える体のラインが分かりやすいのが大変スケベ。
特に薄手の白シャツに朝日を浴びて体のシルエットが丸わかりになる構図はとてもスケベだと思う。
それに対して今の状況はどうだ。
そこそこしっかりとした生地であるからか上半身はしっかりと隠れていると言うのに足を組み替えるだけでもシミ一つない肌の決して太くはない太もも、皴を感じさせないつるりとした膝、すらりとしたふくらはぎとその先にラフなスリッパが揺れている。
「あえてニーソじゃないのは狙ってるだろ」
「足には自信があるからね」
「全体的に自身のあるパーツしかねぇだろ」
「それはそう」
大変に満足そうなドヤ顔を彩寿歌は決め込んだ。
ドヤ顔を決めて満足したのか、一度台所に消えるとマグカップをもって戻って来た。
一つを万智に渡すとぺちぺちと太ももを叩いて足を広げろと要求されたので素直に応じると自然な流れでその間に座り込んできた。
……うさ耳カチューシャが視界に入って大変邪魔。
「んで、急に何故艦これ」
「こないだ和花ちゃんとカフェに遊びに行ったんだけど、電車に乗っている時に広告を見かけた訳。トレコレの」
「トレコレ……トレインコレクションだったか」
「そう、それ。鉄オタがふぎゃって高速で燃えたアレ。細々と生き残ってるみたい」
「そこらへんの界隈の解釈は怖いのでノーコメ」
「私も電車は一切わからん。でね、この世界艦これねぇじゃんってなった訳」
「転生特有のパチデミック」
「ってなると懐かしいものを再現してぇなってなる訳よ」
パチデミックとは転生者が前世と今世で相違のある事象に対してもやもやする精神汚染を食らい変な創作活動に足を踏み入れたり哀愁に襲われることである。
パチモンのパンデミック。
感染はしない、パチモンだから。
鉄道系の作品で言うとRAIL WARS!好きだったなぁ……アニメの改編がカスで見なくなったけど。
「最初はベターにそれっぽい色したセーラー服とウィッグとメイクでキャッキャしてたんだけど、オタクがそんなことで満足できる訳無いじゃん?」
「……まぁ、欠片を見つけたら回収したくなるのがオタクだな」
「そこからちょーっと派生したいなぁって思ってたら和花ちゃん作るオタクだから作ってしまう訳ですよ。那珂ちゃんとか……クレイジーサイコレズとか」
「お、おぅ」
「で、気が付けば『艦これで一番エッチな衣装しているのは誰?』論争が次始まるの」
「気か付けばすぐにスケベになるじゃん」
度々魚塚和花の話が彩寿歌から出てくるがこんな話題ばっかりだな……?
「和花ちゃん的には呂500。私は有明の女王って答えた訳」
「それでこうなった、と?」
有明の女王こと鹿島のメイクをしていることの理由はわかった。
わかったが何故島風に飛び火した。
「ただ普通に合わせをしてもつまらないのでこうなった」
「なっちゃったかぁ……」
「合わせは昨日してきたから汚してもいいよ?」
「すぐスケベに走るのはお止めなさい。と言うか版権コスではそう言うのしない主義じゃなかったのかお前」
「え、島風コスって実質ス〇ベウェアでしょ」
「偏見がひどい」
この彼女さんさぁ……。
万智はすっかりと頭を抱えたい気分だが、ペシペシとうさ耳カチューシャでつつかれ、腰を上げることにした。
この後めちゃくちゃ健全に撮影した。
〇 〇
撮影会が終わり「そう言えばカメラを使うようなことあんまりなかったよねぇ」と言う話になった。
……そうだったか?
万智は日常的に彩寿歌に結構な頻度で写真を撮られていたように思う。
たしかに万智のカメラは少し死蔵気味になりかけていたのは確かだ。
折角かったカメラだし、どこかへ行って撮影しに行くか?となっても絶妙に行楽地へ紅葉狩りをするのは遅い季節になっていた。
成人していれば気軽に車出してちょっと遠くにでも、なんて話ができるんだが未成年だと泊まりも難しい。
「まぁ、そのですね……同人女のマイフレンズ和花ちゃんが今度彼ピ込みで合わせしようぜって話になったんだけどね……来てくれる?」
「よほど尖がった方向性になっていない限りは」
「ほんと!?」
そんなことを考えていると彩寿歌がもじもじとしながらそんなことを上目遣いで伝えてきた。
あざとい。
露骨に尊厳とかそこら辺のものが削られなければまあ、いいんじゃないだろうか。
昨今彩寿歌の要求に応え慣れ過ぎたせいか、万智の判断基準はやや鈍っていた。
あふれんばかりに笑顔で喜ぶので細かい事は気にしないことにした。
「と言ってもまだ何のコスするかとか一切決めてないんだよね!」
「オタクはすぐ踏切発進で進みたがる……」
「ほら、退路を断たないとオタクって前に進もうとしない生き物だから」
「ひどい偏見」
偏見ではあるがコミケとか同人即売会とかイベントの申し込みをして退路を断つ姿はよくSNSで見かけた覚えがある。
そして期限ギリギリまでなんもしない姿も。
「先ずは背格好知ってから決めようって話になると思うから近いうちにそのメンバーで遊びに行こう」
「わかっ―――――メンバー?」
「え、うん。私と万智と和花ちゃんとその彼ピ」
「……」
「え、何その無言のアイアンクロォ!?」
……こいつはさぁ。
万智は無言で少しの間アイアンクローを決め込んだ。
「転生者!メンバー全員転生者だから!」
「……」
「美少女二人とショタとニキ!完璧なバランス!」
……少し醜い嫉妬がこぼれた、と口には出さないものの万智はスッと手を離した。
その状況に彩寿歌は何が起きたのかときょとんとしたまま少し固まった。
「え、今度は撫で?ショタか!ショタが気に入ったんか!」
「ちげぇよ」
「美少女二人を独り占めできなかったことに対する嫉妬?」
「ちげぇ」
なんか的外れなことを言い始めた。
万智が小さく八つ当たりしているようなものなのだから、彩寿歌は完全にとばっちりである。
「じゃぁ何さ」
「彼女が知らんところで男含めて撮影としていたことへの嫉妬」
「――ぴゃ」
「別に彩寿歌を束縛する気はねぇけど、知らん男相手にコs――」
少し、膨れたように告げる彩寿歌に万智は一切濁さない言葉を告げた。
何を言っているんだと言う話ではあるが、オタクはわずかながらにもNTRの気配を感じると勝手にダメージを食らう生き物なのだ。
八つ当たりして悪かった。
そんな言葉がこぼれる前に万智の頭部に両手が伸ばされた。
一瞬、間を抜かれた様なストレートな言葉に彩寿歌は奇声を上げかけたが、直ぐに猛禽類の様な笑みを浮かべて万智の頭部を自身の方に引っ張り込んだのだ。
「ムグッ!?」
その後はどうしたか?
可愛い事を言っている万智の口を強引に奪った。
勢いのまま唇を奪ったせいか少し呼吸が足りていなかった。
息を吸い込みなおすために一瞬離れるが、強引に口を抉じ開けたせいか唾液が少し糸を引いて、彩寿歌の付けていた口紅の色がほんの少し万智にもくっ付いているのが見に見えた。
……こんなの追撃するしかないよね?
彩寿歌は息を吸い込むことを忘れ、再度唇をうば――――――。
「オイこら、強引すぎてチャラい属性の人間に誤魔化される人の気分になったわ」
「ムームゴンゴ!」
再度唇を奪う前に万智の手でそれは阻止されてしまった。
たしかにこれは誤魔化すムーブになってしまったのではないか。
彩寿歌は目をパッと開きながら違うと抗議の声を上げるが大きな手でふさがれてしまっているせいか曇って意味をなさない。
……手でっか過ぎない?
とっさの動作だが呼吸が苦しくないように抑えられ、顎先から鼻まで片手で覆い隠されてしまっている事実に彩寿歌の被虐めいた精神に火がつきかけるが、今はその時ではない。
煩悩を払うように左右に首を振って話してもらう。
「あ、悪い」
「万智のは正当防衛」
口を押さえたからか、それとも左右に首を振ったからかだいぶ口元のメイクは残念なことになりかけてしまったようであることが万智の目線で分った。
別にそんなことは良いのだ。この後風呂場に引きずり込むのだし。
「万智、私はNTRとふたなりだけは地雷だって言ってるよね」
「八つ当たりして悪かった」
「八つ当たり、と言うには私に非。万智的には止めるのもどうかと言うラインかも知れないけど、私が逆の立場だったら面白くない。しっかり言ってくれてありがとう」
「器の小さい男ですまん」
「私はそれよりもっと小振りだからね。はい、この件で謝るの禁止!仲直りのチュー!」
「……それはお前がしたいだけじゃ、と言うかさっきのキスは――」
「うるせぇので3分間は離しません」
器が広いんだか小さいんだか。
少なくとも背丈以上に彼女の器は大きいのだと、万智はそれを受け入れておくことにした。
〇 〇
「うん、拙者身体能力つよつよとは言えちょっと無防備だったかも」
「……俺が過保護すぎるだけだと思うぞ」
「もっと束縛していいのに」
「だいぶ束縛気味だと思うんだけど」
「これくらいは全然?私は束縛される側も好きだけど、GO出してくれたら万智をギッチギチに束縛してめんどくさいメンヘラに変身する段階を2段階残してるからね。自分と比較したら可愛いもんだから可愛いね♡としかならんのよ」
「メンヘラフリーザ様はやめてくれ」
「私のメンヘラ力は53万……社会人経験が無ければ即死でした」
「サンキュー理性」
「それはそれとして欲は漏れてしまうんですけどね!」
「……俺の首元大丈夫かこれ」
「私も結構すごい事に」
「ほぼお前の要求だろうが」
「でも嫌いじゃないでしょ?」
「せやな」
次回は転生者が何かを目論む予定。