転生者が前世の作品の同人を個人的に楽しむようです。 作:スティック/糊
池袋の会場から少し歩いた所にあるカラオケボックスに最後に撮影をしていた集団と共に万智はやってきていた。
案内されたのは人数も多いためかパーティールームと呼ばれる類いのデカい部屋。
和花と集団が同じタイミングで更衣室に入ったことで雑談が始まり、そのままアフターに参加することになったらしい。
コミュ力つよつよにも程がある。
彩寿歌には和花からの連絡も合わせ、なんか流れでアフターに出ることは説明している。
『和花いるから大丈夫だと思うけど……二次会とかはやめてほしいな』
との返信が来ていた。
万智も何処かキリの良い所で退散するつもりなのでそれに関しては安心してもらいたい。
……今度うちに来た時に搾り取られそうだな。
万智は可愛らしい嫉妬反応を起こしそうな恋人の姿にちょっぴり苦笑いを浮かべた。
「なんか流れでお邪魔しちゃいました、趣味でコスプレやってるエリオでーす!」
「……付添人のモロです」
和花がシレっと自身のCVに近しい車の人の芸名引用したのにツッコミを入れそうになりワンテンポ遅れながら万智もその場で適当に考えたコスネームを呟く。
「こっちこそ初対面なのに誘ってごめんね」
「いえいえ、アフターって初めてだったんでどんなものなのか気になってて」
「私もアフター初めてでちょっとワクワクしてます」
和花が余所行きの顔で“コスプレアフターって言ったらホテルでエロい事のイメージしかなかった”と言う感想を表には出さないようにしているのが万智にはなんとなく伝わっていた。
大いにわかる。
おとなしくしているが大概オタク文化に汚染されている二人の思考は近しかった。
それに対して純粋な瞳をしている海夢と……純朴そうな背の高い男子の未知への邂逅を目の当たりにして目をキラキラさせているのを見てキタねぇオタクになってしまったものだと自戒もした。
「アフターとってもイベントの感想とか次はなんのコスするとか合わせするとか、そんな会話ばっかだよ。時期が合えばコラボカフェとか……夏場はスパ行ったりもするかな」
「スパいい!」
夏場だとスパも一つの選択肢か。
彩寿歌の思い付きで関東県内の温泉地に日帰りで言ったりしたことはあったが、大衆浴場の様な入浴施設はまだ行ったことがない事に気が付いた。
……彩寿歌が貸切風呂で混浴したがるのが原因なのだが。
それでも今の様な冬場は湯冷めとかを考えるとあまり選択肢に入らないような気もした。
「それで聞いてみたかったんだけど、このサインって……?」
「野生の原作者に遭遇したんですよ~」
「や、野生原作者!?え、あの場所に神降臨してたの!?」
それぞれがカメラ取り出して記録を確認したり、エゴサしている中で司コスの人……ミヤコとカメラマンの涼香が恐る恐ると言った様子で切り出す。
手にもつカメラには例のシーン再現の一幕であり、万智の背からのアングルにはバッチリと白いジャージに書かれたサインががっつり載っていた。
「編集さんと一緒に来ていたみたいでなんか褒められてなんかも貰っちゃいました」
「いや、うん、あのクオリティーはヤバい。ほんと」
「本当に生トバリーが現れたのかってちょっとドキッとしちゃったもんね」
原作者にイメージに一致するとお世辞でも言ってもらえる程度にはいい感じの擬態が出来ていたらしい。
今後する予定は一切ないが。
「そしてオンとオフの差がすごい……!」
「よく言われます」
ちらりと視線が万智の方にやってくるので冷静に対応をした。
会場で原作再現などと言われていた姿とはかけ離れたぬぼっとした最低限の清潔感を持った男フォームである。
和花は“この男眼鏡外すと美形オーラが出たりする漫画みたいな面白キャラなんです”と声を大にして言いたかったが、そんなことをすれば彩寿歌にどんな目に合わせられるのか分かったものでは無いので口を横に噤んだ。
それからは和花がカースト上位勢の勢いというかコミュ力で海夢とすごい意気投合していたり、流れるようにマシンガントークでオタクトークしている推定成人組を眺めたりしつつ、北斗コスの人……あまねとコスラバトークでゆるく盛り上がったりもう一人の男子ワカナと共通の話題を見つけるように話をした。
「あー」
「どうしたのみやちゃん」
「アオイちゃん土曜仕事休めないって」
「土日休みの子ばっかじゃないもんね」
ブブ、っと携帯のマナーモードが震えたかと思えば成人組は残念そうに肩を落としていた。
「何かあったんですか?」
その落胆っぷりにあまねが気になったように質問をする。
「来週合わせの予定だったんだけど、他のレイヤーの子がみんな仕事で難しいって連絡が来たの」
「スタジオもう予約してあるからみやちゃんとあきちゃんで撮ろっか。ちょっと寂しいけど」
「そうだね!仕事じゃ仕方ないし」
社会人らしい悩みに“学校卒業した後って予定組みずらいのわかる”と万智と和花は心の中でうんうんと頷いた。
「なんの合わせするんですか?」
「ひつぎ、『棺』合わせだよ」
「アレ面白いですよね!僕好きです!」
「……?」
「私も好き――っ!絶対見た~~い‼」
海夢の質問に涼香が答えると、あまねと海夢が反応し、若菜は疑問符を浮かべていた。
疑問符を浮かべる和楽先ほどと話しをしたことで“特段オタクと言う訳ではないが調べたり知識を得ることに貪欲な職人の卵”と言うのが万智の抱いた印象であった。
そして万智が最初に手にしたコスプレの参考本である『オタク君でも作れる初めてのコスプレ衣装。~え、俺があの美少女の衣装を作ることに?!~』の“俺があの美少女の衣装を作ることに?!”の部分がガチの少年であることにも大変たまげた。
若菜曰く、クラスのギャルの海夢に目を付けられて気が付いたら彼女の衣装を作ることになり、一緒にイベントに足を運んだりする関係になっていたのだとか。
それなんてエロゲの導入?と口が滑りそうになったのは内緒である。
「ごじょー君知らない感じ?」
「ハイ、すみません」
「ざっくりと言うと『皆で暮らしているシスターが順番に殺されちゃうんだけど、誰が殺してんの?みたいなホラゲー』!」
「推理モノなんですね」
既プレイの万智はもっとドロッとしたなにかだと口にしようとしたが、ネタバレはアカンと本日数度目のお口にチャックした。
「ってことは6人必要なんだ………」
ぼそりとあまねがつぶやき、小振りな感じで手を上げる。
「あの、僕も参加していいですか?」
「「え、良いの!?」」
「シスターなら体隠せますし、『棺』好きなんです」
―――あまね、『棺合わせ』に参加のお知らせ。
い、勢いあるなぁ。
自分では絶対に出来そうもない勢いだと気配を隠すように万智は地蔵にシフトチェンジする。
「ありがてぇ~課金させてくれぇ~」
「あまね君、本当にありがとう!」
「こちらこそお願いします」
オタクは軽率に課金したがる生き物なのか?と万智は訝しむ。
それを尻目にミヤコとあまねはがっしりと握手をしながら参加の約束を取り付けていた。
「ミヤコさん、衣装は自作ですか?」
「ううん既製品」
「アコスに売ってるやつだよ」
「それならキャラウィッグも売ってそうですね……あ、安い今日買って帰ろ」
行動力……!
万智はこの流れをする人間の特性に覚えが付き始めていた。
行動力がすごい奴は結構推しが強い事に。
「……コレで3人だから、まりんちゃんもやろうよ!」
あまねが幼い少年の様な笑み、と言うには些か老獪な様子を含ませながら海夢を巻き込んでいた。
……なんか成人組が固まったな……?
「『棺』好きなんでしょ?」
「そ、そうなんですけどぉ……」
「ま、まりんちゃんがよかったら……!」
「うん、予定が空いてたら!」
成人組が慌てたように、何かを誤魔化すように海夢を囲み始めた。
……ヤバい事、と言うよりはなんとなく慌てている?みたいな感じだろうか。
準備していない鍋に突然鴨がネギ背負ってやってきた、みたいな。
だが海夢は自身の指同士を合わせながらバツが悪そうに眼を逸らした。
「……実は今ダイエット中で新しいコスできなくって…」
「だから黒ウーロンだったんだ」
「全然今のままでスタイルパナイのに!?」
各々が自身の前に置いたワンドリンクオーダーの飲み物を注文した際に随分渋いものを選んでいるとは思ったが、それでか、と謎の納得を覚えた。
和花は和花でモデル体型の海夢の姿を見てこれで太ってるとか多方面に喧嘩売ってる説ないか、何て訝しむ。
「それに来週までだと衣装も間に合わないですしぃ」
海夢は一瞬若菜の方を見る。
たしか今まで海夢がコスした衣装は若菜が作っていたと先ほど聞いたのでそれもそうかと言う納得もある。
「なら、まりんちゃんも一緒に既製品でコスしようよ」
「!」
「合わせなんだから統一感も出ていいんじゃない?」
「……既製品」
再び海夢は若菜の方をちらりとみた。
「いいと思いますよ」
ニッコリと若菜が行ったことでどんよりとしていた海夢の目に輝きが取り戻してきた。
「やります!!私も合わせ参加したいです!」
「ありがとうまりんちゃん!」
「よろしくお願いします!」
「嬉し~これで4人になったね~」
合わせ久々……なんて海夢がつぶやくので相当コスプレが好きな人種なんだな、と万智の中で彼女の認識が少し変わった。
直で関わることなどないので若菜と並べ“かわいい後輩”くらいの認識だが。
「エリオちゃんもどう?」
「私来週は予定があるですよ~」
「残念ッ」
その勢いのまま和花もミヤコに誘われるが、来週は4人で合わせなのでスッと辞退した。
現時点で来週に向けて和花の頭の中はショタの彼ピに女装させることが大半を占めていた。
「あ、それなら私もレイヤーさん誘っても良いですか!」
「いいの?助かる~」
「電話して聞いてみます!」
「席外さなくてもここで電話しちゃって大丈夫だよ」
合わせが4人になったからには棺の登場人物である6人をそろえてしまいたい欲が出たのか海夢が電話をかけ始めた。
「―――っ、もしかして!」
「え、なに怖い人?」
「い、いえそうではないんですが……ものすごくこだわりが強い方なので了承を得るのは難しいかと」
若菜は海夢の電話先の人物に覚えがあるのか少しアワアワとし始める。
「もしもし!ジュジュサマ♡」
だが海夢はお構いなしと言わんばかりにウキウキと電話をかけ始め、その人物の名前を堂々と上げた。
まさかのがっつり知り合いだった件。
和花も一瞬ガタっと立ち上がりかけてるし。
〇 ▼ 〇
都内世田谷の商業施設にて。
「紗寿叶、目的には池袋?」
喜多川海夢から電話がかかってきて、一度は即答で拒否したものの心寿の“お願い”に敗北した紗寿叶は自身の“自分の為だけにコスプレする”と言う信念を“姉”という信念で曲げた。
そのため合わせの前段階の打ち合わせと言うか顔合わせをするために家族で来ていた買い物を抜け出すために母と彩寿歌の元に向かった時、彩寿歌にそう言われた。
「そうだけど」
「私もそっちに用あるから、タクシーで行くなら一緒に送ってく」
「あ、ありがと」
彩寿歌はシレっと手荷物の類いを母に預けており、母も母で楽しそうで何よりとほわほわしていた。
おそらく父は……帰ってから甘えればどうにかなるだろうから気にはしないことにしておいた。
「彩寿歌ちゃん、タクシー代くらいならお母さんだすわよ?」
「いいよ、それくらい」
スッと家族カードを取り出す母を彩寿歌は手で制し、手早くスマホを操作しタクシーの配車まで手配を始めていた。
ここまで機敏な行動をとる彩寿歌の様子を見て心寿は戸惑っているようだったが、紗寿叶には察しがついた。
「……彩寿歌、まさかとは思うけど」
「紗寿叶たちが行く集まり和花達がいるみたいなの」
“達”ってことは……うん、紗寿叶の想像は概ね当たっているらしい。
心寿は『え、和花さんもいるの!?』とキャッキャしていたが、紗寿叶は“絶対彩寿歌の彼氏いるじゃない”とジト目を向けてしまう。
……え、アレこれってもしかしなくても心寿と彩寿歌の彼氏初邂逅になるんじゃ…?
珍しく家族の買い物でもスカートを彩寿歌が履いていたあたりで察するべきだったかもしれない、何てこのあとの心寿のリアクションがどうなるのか紗寿叶は気が気ではなくなった。