転生者が前世の作品の同人を個人的に楽しむようです。 作:スティック/糊
いやー、乾母のCV.大原氏でしたね。
俺ガイルのガハママとか、BLEACHの真咲さんとかの。
個人的に一番の衝撃はxxxHOLICの壱原侑子やんけぇ!ってところだったんですけど。
コスプレイベントを切り上げた二人は反省会としてカラオケに来ていた。
個室で区切られていて、飲食物を注文出来ると言うニーズを比較的安価で得られるため、この選出だ。
「アコスタは完全に敗北でしたね」
「わかる」
二人は意気揚々とコスプレイベントにカメラマンとして参加したが、撮影した写真は完全に風景画。
レイヤーの写真はゼロ。
ただ、即売会でちょっと買い物をした程度である。
流石コスプレのイベントと言うだけあってかコスプレ道具に関する資料みたいな同人もあってそこはラッキーな収穫と言えると思う。
当初の空気感が知りたい、と言う物はなんとなくわかったのでそれはそれで良しとしよう。
「と言うかぶっちゃけコスレイヤーよりも使用機材のカメラとかに目が行ってしまった」
「オタクのサガだね」
万智は今世のアニメにそこまで明るくない。
自分で前世の作品を思い出してゲームなどで再現するのが楽しかったためだ。
なので、コスを見ても元ネタが分んねぇと言う感想しか浮かんでこなかった。
そのため急ごしらえで自宅に置かれていた母の遺品であるカメラを調べまくった弊害で撮影者が構えるカメラにばかり目が行ってしまっていた。
「私もカメラに関して色々調べたんだけどさ、やっぱ一眼レフのビジュって良いよね。こう、レンズ交換にロマンを感じると言うか」
「わかる。俺も一眼レフとミラーレス一眼の差を最近知ったばかりだけどTHEカメラって感じのビジュアルが本当に良い」
こういったイベントがなければ母の遺品のカメラのことなど完全に記憶から消えていた説すらある。
「万智が今日もってる鞄ってカメラ関係?」
「そうだな。本体とレンズがいくつか入ってる」
万智の母のカメラ趣味は結構本格的なものだったらしく、家の物置に防湿庫にしまわれていたカメラとレンズ類をいくつか持って来てみていた。
結局今日の出番はなかったけど。
「撮影に関する知識もおぼろげだからここまで本格的なものを持ってみてもわからんし、今日撮影できるってなっても戸惑ってたと思う。もう少し母さんに教えて貰えばよかった」
「コレから学んでいけばいいと思う」
「そうだな」
万智は鞄からカメラとレンズを机の上に並べてみる。
「これが本体で、こっちがレンズ。本体の性能はもちろんあるんだけど、レンズによってF値、レンズに入り込む光の量が変わることでボケ感が出せたりするらしい」
「長いのと短いの違いって?」
「焦点距離と画角の問題らしいよ。人差し指と親指で輪っかを作って目の前に構えてみて」
「はい」
「目にくっ付けていれば輪っかの中の視野は広いけど、離していくと輪っかの見える範囲は狭いでしょ?」
「つまり、短いのが広い画角で、長いのが狭い画角ってことね」
「ピントの幅とかもあるのかな。詳しくは知らないからアレだけど、アニメとかでバズーカみたいなレンズ構えているアレは遠くからピンポイントを撮りたいとき向けって感じみたい。遠くから取れるのはもちろんなんだけど、その分対象を追っかけるのは結構大変みたい」
ズームレンズと呼ばれるタイプは長い分焦点距離を調整できる幅があると言うことで広いコートで行うスポーツの撮影なんかに向いているらしい。
撮影場所から動けないけど対象が動き回る時とかそう言うとき向け。
レンズのダイヤルをクルクルって回すアレ。
「レンズのダイヤルをクルクル回すアレにロマンを感じるのは分かるけど、コスプレの撮影なんかはこっちの単焦点レンズって言うタイプが向いてるみたい。F値が小さいから背景をぼかしやすいんだって」
風景画を納める時に比べてポートレート、所謂人物画を取る時は被写体を際立たせたせることが重要なのでボケ感が大事なんだそうな。
桜を撮りたい時に手前の枝を鮮明にして後ろの方をボケさせると際立っててなんかエモい、みたいな感じのアレだ。
「ズームレンズ、単焦点レンズの焦点距離の他に広角レンズ、標準レンズ、望遠レンズ、マクロレンズ……とにかく細かい。端的に沼」
「コンプ欲を刺激して良くないと思う」
「コスプレとかのポートレートの撮影には一般的に85mmの単焦点レンズが向いてるみたい。色々な範囲をカバーできる望遠レンズも人気があるのも確からしい。使いやすいタイプを探してみようね、って話なんだとか」
「なるほど……と言うか私よりしっかり調べてるじゃん。カメラの外見について位しか私調べてなかったよ」
「カメラの外見も重要な要素らしいよ。同価格帯のカメラに大きな差なんてないんだから気軽に持ち歩きたいって思えて気軽に構えて一杯写真を撮れるのが一番自分に向いているカメラなんだってさ」
「確かに使わなければ意味ないもんね」
カメラは調べれば調べるほど沼である。
万智の前世もロクに弾けもしないギターに関して死ぬほど機材を集めまくって散財していた過去があるのでその正解のない沼には余りにも覚えがありすぎた。
「一番気軽に沼に足を突っ込むにはエントリーモデルのミラーレスのレンズキットタイプを買えばいいらしい。メーカーによって対応しているレンズが違ってもマウントリングと言う物を使えば他社のレンズも使えるらしいから……外見で選ぶのは正解だと思うよ」
「そんなことを言われるとこの後家電量販店に足を運びたくなるじゃん」
「とりあえず家に眠っているカメラいくつか使ってあっているかを確認してからにしようか?」
「それもそうだね」
「カメラ沼は金溶ける沼としても有名なんだよ、各機材が結構高い。ちなみにこの机に置いてある機材定価でXXX万円」
「ヒェッ……」
「ここにストロボ、三脚、遠隔コントローラー、レフ版、と突っ込もうとすればいくらでも突っ込める沼だから本当にボチボチ程度にしておこうな?」
「……うっす」
少なくとも物置にしまわれていたカメラとレンズの価格を知って崩れ落ちそうになった。
万智は遺品を少し整理している時に防湿庫のコンセントを抜かなかったのは本気で英断だったと思っている。
サンキュー防湿庫……。
レンズ一個で3-5万が平然としているカメラ沼本当に怖い。
「でもモチベは大切なので量販店とかカメラショップ眺めていくか」
「行く!」
万智もちょっと今持ってるカメラが高価すぎて持ち歩くのにちょっと怖いし、遺品なので壊したくない。
エントリーモデルくらいの手軽に取りまわせるのが欲しいと思っていたので、二人でゆっくりとカメラを探し回ることにした。
こうはしゃいでいる彼女を見ると、写真として思い出に残したい母の気持ちが少しだけわかったような気がした。
ショップに付くと早々、ネットで目星をつけていたらしく、レトロなデザインのFUJIFILMのXシリーズを即決購入。
あまりにも高速で在庫確認をし、速攻決めていたので店員も少し引きながら値引きしてくれていた。
万智も万智でレトロ系統なNiconのZfcを。
二人とも買ってくれると言うことでこれも割り引いてもらえて、その差額でレンズと変換アダプタ―が買えた。
久しぶりにデカい買い物をした気がした。
〇 〇
その数週間後。
ちょっと締め切りが近いからと自宅で集中して作業をすると彩寿歌としばらく会わない期間が発生したため、造形に関して本格的に学んでみることした。
青王の衣装を作ると言うことで、鎧等のパーツの造形を行うことが必須。
造形に関して万智はそこまで明るくはない。
見た目の好みのよくわからない作品のプラモを買っては組んでスジボリして塗装して楽しむ人間だ。
そうなると脳裏にちらつくのは初めて手に取ったコスプレ入門本の続編。
『オタク君でも作れる初めてのコスプレ衣装。~え、俺があの美少女の衣装を作ることに?!~』の続編である『ブンドド大好きなキミが輝く!コスプレ造形入門』を手に取ってしまった。
しまった、と言うと後悔をしているようにも捉えられかねないがこれもまたニッチであった。
『オタク君でも作れる初めてのコスプレ衣装』の方が自身で女装コスプレをするタイプであるとするならば『ブンドド大好きなキミが輝く!コスプレ造形入門』は“俺が、俺たちが○○だ!”する系。
コミケで一体くらいは見かけるロボットもののガワを被っているタイプのアレ。
変身ヒーローもののアレ。
魔法少女モノの変身アイテムとかのアレだ。
……やっぱりターゲットがニッチ過ぎるだろう。
こちらの本の監修はホビーカラー等で有名な塗料メーカー。
パテに関する詳しい説明から、エアブラシの種類の選定、果ては下地からトップコートまでの細かい話が載っている。
……いや、確かに造形入門だけどどっちかって言えばこれはプラモの話じゃない?
万智はこのシリーズの出版社は正気ではないと少し遠い目になった。
ターゲット層はニッチではあるモノの解説本としてはアホほどわかりやすいので制作がめっちゃ捗る。
悔しい。なんかよく分からないが負けた気分になる。
COSボードの切断面処理にR加工、接着剤の選定に関するあれやこれまで網羅している。
そりゃCOSボードでリアルな鎧の胸当てを作りたいと思っていたからスッゴイ有り難い。
COSボードを収納する時の塗料のひび割れなんかにも言及している。
入門の名に恥じないのに、絶妙に人に進めずらいのはどうかと思う。
展開以外は本当に神の様な資料である。
プラモの装甲を人間サイズに落とし込むためのスケール計算から始まって、変身ヒーローのメットや変身ベルトの作成の話になり、ニチアサつながりと言えば魔法少女の変身アイテムとかの小物だよね、に着地する。
エキセントリック過ぎるッ!
万智が一人で声に出さないツッコミを入れながら参考資料を読み終えようとしている頃、彩寿歌から電話がかかって来た。
通話はメッセージアプリの通話機能から。
大人になると仕事の都合とかで普通に電話をかけるようになってそこら辺の料金とか気にしないけど未成年の内だと限られた料金と、Wi-Fi環境でないと長電話が難しいと言うか……。
そう言えば現代っ子は電話をして通話料金がえぐい事になってヤバいとかパケットがえげつない事になってヤバいとかそう言ったことで怒られるイベントはあるのだろうか。
「どうした」
『万智断ち健康に良くない』
「まだ4日では……?」
『こんな長期間合わないとか長期休暇のイベント事くらいだよ!?』
「学校ではすれ違ってるだろ」
『すれ違いはカウントされません。ハグしてオキシトシンを分泌しないと……』
「学校で絡まないでもなってるのは俺の都合だから申し訳ないけどもそこまでか」
なんやかんやで作業は続けていたのでワイヤレスイヤホンを耳に付け、彩寿歌の泣き言聞いた。
どうやらさみしくなったらしい。
年柄年中、と言う訳ではないが高確率で万智の家へ遊びに来ている彩寿歌が間をおいてやってこないのは数える限りかもしれない。
最低でも3日に一回は来ている気がする。
『大学進学したら同棲しよ?万智の家転がり込むね』
「親御さんの許可を取りなさい」
『万智は構わない、と』
「今更だろ」
『好き』
「はいはい」
いつにもましてメンタルが沈んでいるらしい。
交際が1年以上続いているとなんとなく、そう言った女性特有のアレが重なっているのだろうと察する。
「で、しめじ先生進捗は?」
『今日中に終わらせる』
なんでも、自身のオリジナルで描き始めてから筆の進みが少し遅いらしい。
未来図のわかりやすいものとの差、なのだろうか。
万智は物語を作る質ではないのでそこら辺の悩みと言う物が分からない。
「ちょっと力強い回答じゃん」
『終わらせて、データぶん投げて、万智の所で甘やかしてもらう』
「終わったら好きなだけどうぞ。何かお菓子でも作ろうか」
『何かアホほどカロリー高いの』
「チョコケーキ……ザッハトルテとかでいいか」
『ん……そこにアーモンドトッピングで』
「了解。5号くらいのサイズで作っとく」
『ありがとう……』
これは家に来ても流れるように寝る奴だ。
そんなことを少しばかり考える。
ドカ食い気絶、とまではいかないものの血糖値が一時的に上がることは否めないだろう。
『万智は、昔学校で何か憧れってあった?』
「昔は色々考えてたことあったな、現実とのギャップがありすぎてできなかったけど」
『例えば?』
「人気者になりたかった。体育祭で活躍してみたり、文化祭で隠れた才能が?!みたいな。大人になると目立たない奴が急にどうこうしても変人って風にみられるだけでそこまで人生変わらないんだろうな、って気がついちまうんだけどね」
『夢がない』
「でも幸せになろうとするにはそれくらいの大きな一歩を踏み出せるやつが強いとは思うよ。ウダウダ文句言って動かないのは簡単だけど動くのってすっごい難しいし」
『そうだね。動ける人ってすごいと思う』
「彩寿歌も動く側の人間だろうに」
『え?』
「そうでもなければ初手スマホ投擲は無いだろ」
『そ、それは出来れば忘れて欲しいな』
あの時の彩寿歌は間違いなく動く側の人間だったし、万智も少し動こうとしていた人間だった。
それは紛れもない事実だ。
「まぁ、今世では特にそう言った願望はないかな」
『それは、どうして?』
今世の万智のスペックはそこそこの物だ。
運動神経も勉強も。
前世でやってみたかったな、なんて思っていたことはおおむね出来てしまう。
それでも万智は今世大きく目立ちたいと言う願望はない。
いや、無くなった。と言った方が正しいかもしれない。
「可愛い彼女が出来て満たされているから」
『~~~~っ!~~~~!そう言う所やぞ』
「どういうとこやねん。……結局、その学生生活での大きな目標って恋人がほしいって所に収束すると思うんだよ。目立ちたい、すごくなりたい、一目置かれたい。それって概ね意中の相手に振り向いてほしいとかそれにふさわしくなりたい、そんな自分に合う人間が現れて欲しいって願望だと思うんだよね」
もちろん学校なのだから勉学が優先と言われればそれまでだが、青春の一ページは何か物語で見たような何者かになりたい。そう思っていた気がする。
前世、死ぬほどうだうだと挑戦しない理由ばかり探して前に進まない人間だったからこそ、何でもいいから進もうとする人間にちょっぴり憧れて、期待して、その人が失敗すると“お前もこっち側か”と挑戦しなかった自分は賢いのだと必死に正当化しようとしていた。
だからこそ、今世ではそう言った人の足を引っ張ることだけはしないと心に決めている。
応援する訳でもないが貶すつもりもない。
自分が何かに挑みたいと思った時に矛を向けられたくないから。
そう考えると自分の小市民っぷりは前世と変わらない小物なのだと痛感する。
「結局学生の頃に憧れたことと言えば“変わる切っ掛けがどこからともなく現れて欲しかった”かな」
『だいぶわかる』
「現実はそう甘くなかったんだけど」
『だからこそ今世が甘くて時々夢なんじゃないかって不安になる』
「これを夢だと証明する、なんて哲学的なめんどくさいドツボに落ちていくだけだぞ」
『わかってる』
時々彩寿歌はそんなことを言い始める。
今世は都合のいい夢じゃないかって。
万智としてはこんなにも長い年数かかる夢なんてあまりにも夢がない。
そもそも過去を証明するなんてこと言い出したらそれこそパラドクスだ。
「執筆頑張っても頑張らなくても甘やかしてやるから、ちょこっとだけがんばれ」
『矛盾してない?』
「甘やかすことは矛盾してねぇよ」
『ん。じゃ、がんばる』
「おう」
『明日の放課後は真っすぐ万智のとこ行くから』
「買い出ししてから帰るから家入って待ててくれ」
そこまで言うと通話は切れる。
耳にかけていたイヤホンをケースに戻し、一つ伸びを入れる。
「20時……まだスーパー間に合うか」
壁掛け時計を見れば時刻はまだ20時。
学生がホイホイ出歩くような時間ではないことは確かだが、最寄りのスーパーが閉じるまで後1時間以上の時間があった。
万智の前世世話になっていたスーパーは20時頃には閉じているようなところだったのでこんな所に都会を感じている。
半額弁当とか総菜はもうないだろうが、ケーキを作る材料ならあるだろう。
小麦粉とかバターとかそこらへん。
財布とケータイ、それと鍵を持って自宅のガレージに向かう。
バイトの往復と買い出しくらいにしか使わないバイクを引っ張り出す。
もうすぐ梅雨は開けると言うのに蒸し暑さを感じる。
梅雨が明けたらすぐに台風の季節がやってくるだろう。
彼女をデートへ連れ出しやすい様に晴れの日が多いと良い。
昔の自分ならこんなことを考えることはなかっただろうな。
陽は長くなってはいるものの、流石にこの時間はもう真っ暗だ。
エンジンを始動させ、ヘルメットの顎ひもを確認してゆっくりとバイクを走らせ始めた。
ワイはNiconのD5300を持ってるだけのクソ雑魚なのでそこまで詳しい訳ではないのでだいぶフィーリング。