『最低だ、俺って……』──碇シンジ
アンケートにお答え下さると幸いです。
やぁ皆。
私はシャーレの先生だよ。
「久しぶり!」という人もいるのかな?もしかしたら「はじめまして!」の人もいるかもね。
うん。じゃあ、改めてしっかりと自己紹介をしないとね。
…………私にはある"趣味"がある。
人間である以上、誰しも何らかの"趣味"を持っているものだ。それはもしかしたら「料理」かもしれないし「サッカー」かもしれないし「読書」かもしれかい。
十把一絡げには出来ない、人間それぞれの個性の結晶が"趣味"だ。
少し前置きが長くなってしまったね。では、私の"趣味"の話に移ろうか。
私はある"趣味"に自らの命を燃やしている。
その"趣味"とは…………"女性同士のギスギスを眺めること"だ。
おや………中々に興味深い反応をするね。気色悪いと思い、引いたかな?だがどうしてだろうね………君の頬が、愉悦に吊り上がっているのは。
私がどうしてこのような"趣味"を持っているのかって?その問いに答えるのは実に難しい。
その問いは、"どうして私が男として生まれたのか"という問いに答えるに等しい。考えても仕方の無い、答えのない問いさ。
あえて言うならば、そういう"
私は物心ついた頃から、この"趣味"に情熱を燃やしていた。
女性と女性が、私のことを巡って言い争い、時に涙を流し時に歯ぎしりをする。そんな様子を眺めるのが、心の底から気持ちが良かったのだ。
幸い………私には誰が見ても美しく見える、中性的な麗しい"顔"と、自らを最大限良く見せるための"自らを偽る"才能に長けていた。だから女性と関係を深めることは容易かったし、女性が私に恋をするのは必定であったのだよ。
そうした刺激を受け続けていたらね………もう"それ"が無くては生きていけない身体になってしまったよ。人間の"性"とは、実に罪深い…………
少し熱くなってしまったな。
私の持論だがね、私はどんな人間にも自分を追求する権利があると考えている。自分を実現する権利があると考えている。
世間では"外道"と蔑まれ、罵られる"趣味"を持っている人間がいたとして、果たしてその者は永遠に自らを封じて生きなければならないのか?
この世には面白いことがそこら中に転がっているというのに、それらを踏み潰して、自らの自我を潰して生きていかねばならないのか?
それは違うだろう。そんなものは"生"ではなくただの"生殺し"だ。私はいち自由人として、あらゆる人間の"可能性の追求"を賛美する。
そう………だから私も、私という人間を表現し、この世界に刻みつけるため、今日も大望を胸に羽ばたいていくのさ。
"悪には悪の救世主が必要だ"と言った者がいる。自らを"悪"とするかは人によるだろうが…………とどのつまり、"快楽"に貴賤は無く、"愉悦"に善悪は無いのだよ。愉しんだ者、即ちこの世界の勝者、だ。
君たちの中に、もし燻っているという自覚がある者がいたなら………是非とも私を見習って励んでくれると有り難い。
そうなってくれれば…………これはもう、"先生"冥利に尽きる………と言った所だね。
では…………これから私は少し忙しくなるよ。
何故かって?
それはね………
「おはようございます、先生」
歩いていると、背後から清涼感のある美しい声で、私は自分が呼ばれるのを耳にする。
振り返るとそこに立っていたのは────
「おはよう、ノア」
ミレニアムサイエンススクールの生徒会、"セミナー"の書記を務める生塩ノア。
白い長髪に、色白の肌。大層麗しい外見をしているが、それだけが彼女の特徴じゃない。彼女は"絶対記憶能力"という優れた特殊能力を持っている。様々な点で優秀な、セミナーの頼れる2年生だ。
私は今、ミレニアムに仕事で来ている。シャーレの規則で、定期的に特定の学校の仕事を手伝ったり、様子を見に行くことになっているんだ。
まだここに来てからあまり時間が経っていないため、色々とバタついてるっていう訳さ。
「先生、お早いご到着ですね」
「ああ。今日は少し仕事の量が多いからね。早めに来てからやろうと思っていたんだ」
私の仕事量はいつものことながら山積みだ。だが、そんな普通の人間ならば卒倒してしまいそうな激務を前にしても、私は少しも動じない。
何故なら私には、私を奮い立たせる"趣味"があるからだ。
そう、どんな時でも私を焦がして止まない、熱く滾った"趣味"がね………
「いつもお疲れ様です。…………………先生、少し申し上げにくいのですが………」
ノアは、少しもじもじとしながら私の顔に目を向ける。何か言いたそうな表情だね……
「どうしたの、ノア?」
「実は………お忙しい先生には本当に、どうお伝えすれば良いのか分からないのですが………」
「何でも言ってよ。忙しいかなんて関係無い、ノアの話なら何でも聞くよ?」
「………!! そ、そうですか…………」
ノアは少し目を見開き、私の瞳を覗き込むように見据える。………実に綺麗な瞳だね。成りたてで一番フレッシュな頃の葡萄のように、澄んだ紫が広がっている。
少しずつ高鳴ってくる胸の鼓動に、今は待ったをかけつつ目の前のノアが口を開くのを待つ。
「………実は、現在私が手を付けている仕事で、先生のお力をお借りしたい部分があるんです」
「私の手を?」
「はい」
ノアは頷いた。
「しかし、先生はご多忙ですから………どうお願いしようかと……」
少し言い淀むノアに、私はふっと唇を綻ばせた。
そんなの、簡単な話だ。皆の理想とする"先生"ならば、どんな事よりも生徒を優先する。私はただ、それに則るだけだよ。
「ノア、何も気にすることは無いよ」
「………!」
「私は生徒の力になる。ノアのお願いなら、私は喜んで聞き入れるさ」
私は、ノアの肩に手をポンと置いた。どんどんと頬が赤くなり、瞳が潤みだすノア。年頃の少女の、希望に満ちたこの表情。実に美しく、実に見応えがある。
「ありがとうございます………!」
「早速、生徒会室へ行こうか」
「あ………先生、実は」
「ん?」
ノアはまだ、私に言いたいことがあるようだ。私は前に出しかけた足を止め、ノアの続きの言葉を待った。
「そのお仕事は、少し機密性が高いんです。ですから………ミレニアム側に専用の個室を用意してもらって、そちらで進めることにしたんです」
「ああ、そうだったの?」
「はい。2人までなら入室出来るので………先生、そちらまでついてきてもらえますか?」
その答えは、聞かれるまでもなく決まっているね。
「分かった。2人きりは少し寂しいけど………いや、ノアと一緒なら寂しくないね」
「…………!」
「行こうか、ノア」
「はい………!」
ノアは両目を上向きの弧にして、朗らかなる笑みを浮かべた。
その顔………私には君のような記憶力は無いけれど、きっと忘れないよ。
君のこれから見せてくれる他の表情と合わせて、しっかりと私の頭の中に刻んでおくからね………
◆◆◆◆◆
「…………………はぁ」
私はミレニアムサイエンススクール2年、早瀬ユウカ。
これで今日、何度目の溜め息だろう。
朝、私のモモトークに届いたのは、親友のノアからのメッセージ。
『今日は個室でお仕事をします。先生も一緒になるので、生徒会室には戻りません。1人にさせてしまいごめんなさい、ユウカちゃん』
今、先生がシャーレからミレニアムに来ている。お仕事の都合で、しばらくこの生徒会室でお仕事をすることになった。
なった…………そう、先生と一緒にいられる時間が増えたはずだった。
そうなのに…………
先生は、ノアといる時間が多かった。
朝来たら、ノアとお喋りをしている先生が目に入った。胸がチクチクと痛む気がしたけど、その後私ともお話をしてくれたから痛みはすぐに消えてなくなった。
次の日、ノアと私の知らない本の話で盛り上がる先生の声が聞こえた。お互いが感想を言い合って、ここが良かったここが好きだったって明るい声になっていくのが分かって、また胸がチクチクとした。今度は、痛みが和らぐことは無かった。
その次の日、ノアが先生と一緒にお夕飯を食べていたことが分かった。たまたまお仕事が早く終わった先生を、ノアから誘ったみたいだった。どうしてか、ノアを見る私の目に力が籠もっていくのが分かった。
先生はただ、生徒との時間を楽しんでいる。それは分かっている、分かっているんだけど………私は胸の奥に、黒くて気持ち悪い泥のような感情が湧き起こるのを実感した。
どうして私をご飯に誘ってくれないの。どうして私とは2人だけのお話をしてくれないの。どうして私を仲間外れにするの。
色々な"どうして"が積み重なっていく内に、私はどんどんと頬にかかる重力が強くなっていくように思えた。気付けば、先生が側にいるのに笑えていない自分がいた。
そして今度は、私を残してノアと先生が2人きりになった。きっと、ノアから先生を誘ったんだ。先生に手伝って欲しいことがある、個室じゃないと出来ない仕事がある、そんな風にお願いして。
………………
……………どうして、ノアばっかり。
また"どうして"が1つ積み重なった。
こんなはずじゃなかった。先生がセミナーに来るって分かった時は、気分が晴れやかになった。
だって私は………………………先生のことが好きだから。
好きな人と一緒にいられるのは、幸せなこと。そしてそれはノアも同じ。ノアも先生に………恋をしている。親友の私にはよく分かる。
普段は中々会えない先生だけど、少しの間でも一緒にいられるんだって、日頃の疲れが全て吹き飛ばされる思いがした。
なのに………気付けば幸せになるはずの時間は私には訪れなくて、ノアばっかりが美味しい思いをしていた。
……………
何がいけなかったんだろう…………趣味が合わないのかな………?
先生は本を読む人。私は………文字より数字の方が好き。だから、話が合わないのかな………?
先生に色々とキツく言ったのがいけなかった………?領収書の事とか、出費のこととかで口うるさく先生を叱ったのがいけなかったのかな………?
それとも………私よりも、ノアの方が魅力的なのかな…………?生徒として…………………女性として………………………
「はぁ…………」
また溜め息が口から漏れた。
結局、私は仕事にほとんど手を付けられないで、ただ溜め息をつくだけの無駄な時間を過ごしていた。
◆◆◆◆◆
次の日も、先生はノアと一緒にお仕事をした。まだノアの仕事が終わってないから、そのお手伝いだと言って。
引き止めたかった。ここにいて、ここで私とお話して。先生にそう言いたかった。
でも………そんなことを言って、先生を困らせたくはなかった。
先生は真面目な人。ノアの頼みを、1人の生徒の頼みだと思って真剣に引き受けている。ノアが実際にどんな感情で、どんな意図で先生を誘っていたとしても………先生が引き受けたんだから、私から何か言えるはずがない。
どうして………どうしてこんな気持ちにならなくちゃいけないの………?
私はただ、先生と一緒にいたかっただけなのに………
このお部屋で、ノアと3人で、一緒にお仕事が出来ればそれで良かったのに………
どうして…………
「…………………」
飲み物、切らしてたっけ。
買いに行かなきゃな…………
◆◆◆◆◆
私は、生徒会室近くの自動販売機にまで歩いて行った。コツ、コツ、静かな廊下に私の靴の音だけが木霊する、
その静寂さが、私を思考の海に放り投げた。歩く以外何もすることのない時間、嫌でも人は考え事をしてしまう。
先生は今、何をやっているのかな。先生は今、ノアと何を話しているのかな。先生の優しい声が、先生の優しい笑みが、私の意識を埋め尽くす。
首を振っても、邪念は打ち払えない。私の身体には重りが結びつけられていて、どんどんと海の奥底にまで沈んでいく。やがて息が苦しくなって、助けてって、誰もいない暗闇と水圧の中で声にならない声をあげる。
嫌な想像ばかりが頭に浮かんでいた。
………そろそろ自動販売機だ。この曲がり角を曲がれば、後は真っすぐ進むだけ。
そんな時だった────
「あれ、先生じゃないか」
「…………っ!!?」
私の身体は反射的に壁に隠れるように引っ付いた。
先生
その言葉が私にそうさせた。
「お、君は………」
「久しぶりだなぁ。そういや、こっちに仕事で来てたんだっけか」
私は壁越しに恐る恐る顔を出した。自動販売機の前には、ロボットの姿をした清掃員の人と……………
先生 がいた。
「君は相変わらず元気そうだね」
「まぁな。先生こそ、仕事でヒーヒー言ってないかい?」
「ははっ、大丈夫さ。優秀な生徒たちが手伝ってくれているからね」
優秀な生徒たち。
その中に、私は含まれているのかな。
私は気付けばそんなことを考えていた。
というより………あの清掃員の人……先生と随分と親しそうだけど………お友達………なのかな………?
同じ男性みたいだから………いいけど…………
「まったく、羨ましいぜ。女の子たちにキャーキャー言われてよ、俺なんてガールフレンドも出来やしない」
「君は良い男だ。焦らずとも、幸せは必ず君に訪れる」
……………
女の子……たち………
私は、自分が奥歯を強く噛んでいることに気が付いた。
きっと、私たちだけじゃない。ミレニアムの他の生徒たちにも、ミレニアム以外の学校でも。
先生は色んな生徒たちに好かれている。
あんなに人間がよくできた、素晴らしい男性なんて他にいない。
あんなに私たちのことを考えてくれる人、他にいない。
好きにならないなんて………あり得ないよ………
「………どうした?先生、なんかちょっといつもと違う雰囲気だな?」
「え…………?そ、そうかい………?」
…………?
いつもと違う雰囲気…………?
ここからだと、先生の表情まではよく見えない。あんまり顔も出せないし………あの清掃員の人には、何か見えているの……?
「オイオイ、まさか恋の悩みでもあるんか?なぁなぁ」
「…………」
こ……っ!!?
恋………!!?
せ、先生が、先生が恋の悩み……!!?
い、いや……落ち着いて。落ち着くのよ。
清掃員さんの勝手な冗談でしょう………一々そんなことにあたふたしてちゃ………
「…………………………」
「え……………先生、何その顔………?」
「いや…………その………………」
「……………!!?マ、マジ!!?」
え………
「マジに恋なのっ!!?」
「………………あまり大きな声を出さないでほしいな…………」
………………は
え…………
な、何
なに、それは
「あぁ、悪い………………で………マジなの?」
「…………君にだけ、言うけどね………」
恋
先生が
先生が、恋
え
誰に
誰に恋を
「あ……相手は誰なんだ!!?この学校の生徒か!!?」
「……………」
「そうなんだな!!?」
「………………うん」
は………………?
この学校の生徒…………?
「お、おいおいおい…………マジかよ…………ついに先生も………恋の道に………………」
◆◆◆◆◆
私の足は、勝手に踵を返して歩き出していた
ただ淡々と、前に等速で歩いていた
誰もいない生徒会室
私は椅子に座っていた
目の前には書類が積もっているはず
正直周りの景色がよく見えない
私の瞳には、何故かこの場にいないはずのノアの姿がはっきりと映っていた
ノアが私にゆっくりと近づいてきた
柔らかそうな薄桃色の唇をくにゃっと歪めて白い歯を覗かせる
────ユウカちゃん
何度も、何十回も、何百回も、何千回も、何万回も
聞き慣れたいつもの調子で私の名前を呼んでいる
───私、先生とお付き合いすることにしたんです
「違うッ!!!!!!」
「はぁ………はぁっ……………」
息が荒い
走ってもいないのに
ただ座っているだけなのに
息が苦しくて、苦しくて
目眩までしてきた
「違う…………違う…………………」
先生が誰かのことを好き
それは間違いない
じゃあそれは誰?
私たちセミナー?
C&C?
ゲーム開発部?
エンジニア部?
それとも他の部活?
誰かなんて分からない
先生に直接聞かなきゃ分からない
もしかしたら私
私かも………
───違いますよ、ユウカちゃん
「…………っ!!?」
───先生が好きなのは私です。私なんです。何も動かず、何も先生にアピールしなかったユウカちゃんを、先生が好きになるはずがないんです
「うるさいっ!!!」
私しかいない部屋の中はとても静かだ。
あまりにも静かで、耳鳴りが聞こえてきそうなほど。
なのに、時々聞こえてくるのノアの声が、高熱の時に見る悪夢のようなしつこさで頭の中を搔き回す。
先生は今、誰かへの恋を心の内側に隠しておきながら。
隣にはノアがいて、一緒に仕事をしている。
もし、先生が好きな人がノアだったら………?
ノアが、先生に好きだって告白したら…………?
それは両思いだ。
私の入り込む余地なんて無い程に、2人は温かい気持ちを育むことになる。
じゃあ、私はどうするの?
先生が好きな人がノアだったら………私が何をしても、それは何の意味もない。
後はノアが想いを告げるか、先生が想いを告げるか。
どっちが早いかってだけの話になる。
でも………もしノアじゃなかったら?ノアじゃなかったら………
いえ………ノアじゃなかったとしても………
私は………何も出来ない。
先生が好きな人を変えることは出来ない。
先生が誰を好きになるかなんて、先生の自由なんだから。
だから私は何も出来ない。
ただ黙って、先生がどう動くかに気持ちを掻き乱されるだけになる。毎日、毎日、朝起きてから最初に「先生は誰が好きなのかな?」って考える、物凄く心苦しい日々が始まる。
きっと、その内眠れなくなる。先生の気持ちが気になって、そして先生を意識すればする程、どんどん先生のことが好きになってしまって。
この気持ちが………破裂してしまう。
そんなの………辛くて耐えられないよ………
どうすれば………どうすれば良いの…………………?
………………
……………………………
どれぐらい時間が経ったのか。
私はふと、先生が座っていた席に目を向けた。
誰もいない。当たり前だ。今先生は、ノアと一緒に仕事をしている。
先生がそこにいるわけ…………
………………?
机の上に、何かが置かれているのが目に入る。
それはサングラスのケースだった。
最近は、日差しがちょっと強い。眩しくなりそうだからって、先生はサングラスを携帯していた。
ノアの所に持っていくのを忘れたのかな………まぁ、明日か明後日か………戻ってきたら気が付くでしょ────
その時、私は、私は自分の心臓の奥に眠る黒くて汚い感情が燃え上がったのを理解した。
そしてその感情は、私の思考をイケナイ………本当にイケナイ方向へと導いた。
────ケースに盗聴器を仕掛けたら?
私の声で、耳元で何かが囁いた。
まるで、もう1人の私が側に立っているようだった。当然、そんな存在はあり得ない。あり得ないはずなのに、耳元でまた私の声で誰かが囁く感じがした。
───先生が好きな人、分かるかもよ。
生暖かくて湿った吐息が、私の耳にかかる。幻想とは思えない程に、恐ろしい程に、それは現実の感覚として私の触覚を刺激する。
「何を言ってるの…………!そんなこと、先生に出来るわけ……!」
───じゃあ、このまま辛い気持ちでいる?
「…………!!」
──別に先生に傷を負わせる訳じゃないわ。ただちょっと……ほんの少しだけ、心の声を聞きたいだけ。
「あ………」
──不公平じゃない?ノアはあなたがこんなに思い悩んでいるなんて知りもしないで、先生と幸せそうにしてるのよ。
「それ……は」
───ちょっとぐらい、ラフプレーに走ったって悪くない。全然悪くない。
「………………」
……………でも。
もし、それで先生の気持ちが分かったとして。
先生が私のことを好きじゃなかったら。他の人を好きだったら。
ただ私が、自分から不幸に突っ込んだだけになる。
ただ勝手に、私が自分を不幸に…………
───そんな風に躊躇ってるから、あなたは今不幸なんでしょう?
「…………!」
───そうやってもじもじしても、周りは待っていてくれない。ノアも待たない。ノアはもう………あなたを見ていない。
「……」
───今、前に踏み出さないと。あなたは何も分からないまま、そのまま終わるわ。それで良いというのなら、どうぞご自由に………
私は無言で立ち上がって、先生の席まで歩いていた。
私の人差し指に乗っているのは、かつてエンジニア部に作ってもらった特製の小型の盗聴器。
色々と学園内のトラブルや事件に出くわしてから、もしもの為にと作ってもらっていた。
これをケースに取り付けても、先生は気が付かない。途中で剥がれる心配も無い。
これで、私は先生の好きな人を……………
ケースに伸びた手が、ピクリと止まった。その瞬間、罪悪感とか、自己嫌悪とか、様々な負の感情が止めどなく押し寄せてきた。
「っ!!」
だから………私は、そんな気持ちを押し潰すために、無理やり手を動かしてケースに盗聴器を取り付けた。
「…………………」
これで…………これで、私は先生のことを………
──よく出来たわ。大事な一歩目を踏めたわね……
「………黙りなさい」
私は自分の席に戻った。
どういう訳か、不思議とさっきまでの思い悩む気持ちが綺麗に消えていた。
ただ1つ、"先生の好きな人が誰か"という疑問への感情を除いては。
◆◆◆◆◆
夜になった。
私は家で、盗聴器の受信機を操作していた。いつでも先生の声が聞こえるよう、私の手の届く所に受信機を置く。
先生があれから、サングラスのケースを取りに行ったかは分からない。今、家に帰っているかも分からない。
もしかしたら、今日はケースを取りに帰らなかったのかも………
「………………!!?」
物音がした。私の部屋の音じゃない。
音がしたのは受信機から。
『ふぅ………今日も疲れたな』
………………!!
先生の声………!!盗聴器が先生の声を拾った………!!
この感じ………先生は今、お家にいる………!!
『よいしょっ………』
先生は………今、着替えている最中………?ガサゴソという音が度々聞こえてくる。
先生がワイシャツを脱いで、素肌を露出させている。そんな想像をすると、顔が熱くなってくる。
「………って、何考えてるの………!変態みたいじゃない………」
……………いえ。盗聴器なんて仕掛けている時点で変態……よね。
『ふーっ…………………………』
先生は、深く溜め息をついた。
やっぱり、お仕事の疲れが溜まっているのね。あれだけの仕事を毎日こなしていたら、疲れるのは当たり前だわ。
『ユウカ…………』
………………!!?
えっ!?
今、私の名前を………
『ユウカ、今頃どうしてるかな…………』
先生、私のことを考えて…………
『2日も1人にして………酷いことをしてしまったかな。明日には顔を見せないと………』
…………………
先生が明日、私に会いに来る………?
トクン、と小さく胸が高鳴った。ちょっと口元がニヤけているのが分かった。
これ、完全に変態よね。今鏡見たら、きっと気持ちの悪い女が映っているわ。間違いない。
『はぁ…………』
そんな浮かれた気持ちになっていると、さっきまでとは違う声色を孕んだ溜め息が聞こえてきた。
私は、その溜め息の音色に聞き覚えがあった。
私が何度も、何度も1人でついた溜め息。あの音色と同じだった。
『ユウカ……………………』
先生は、また私の名前を呼んだ。そして、また私の心臓は小さく鼓動した。
『最近…………ユウカのことが頭から離れない……………』
「………………………え」
『ユウカに…………ユウカに会いたい………………』
先生………?
何か、ちょっと変よ………急に雰囲気が変わって………
『ユウカ………………この気持ちを、私はどうすれば良いんだ……』
この気持ち…………………
この気持ち……………………………?
え………ちょっと待ってよ。先生、さっきから本当にどうしちゃったんですか………?
『ユウカ………ユウカ…………………』
せ、先生…………?
『駄目だ…………もう………抑えられない………………』
え………?
お、抑えられない………って…………?
また、もぞもぞと何かが動く音がした。
そして、その数秒後。先生の声が聞こえてくる。
予想だにしなかった、先生の声が────
『……………っ……………は…………………』
「…………………?」
『……………はっ……………あ………っ……!!』
先生の声は、声と言っていいのか分からない程に途切れ途切れに聞こえた。
どこか苦しそうに、どこか悲しそうに、先生の掠れたような、それでいて時々とても力強い、跳ねるような声が聞こえてきた。
そして………何だか液体が蠢くような、くちゅっという音まで聞こえてきた。
「な、何をして………いるの………?先生…………」
『あっ…………は……あ……ぅ…………ユウカ…………ユウ……カ…………!!』
「あぇ…………?」
『ユウカ…………ユウカ…………!!』
え──────
せ、先生………
先生……………………!!?
ま、まさか………まさか……………!!?
先生が今してるのって………
オ…………オ……………オナっ………!!?
『ユウカっ…………!!!』
『………………………………』
「…………………………………」
先生が、ティッシュを無造作に引っ張り出す音が聞こえてきた。
『……………ははっ。何やってるんだろうな、私は』
先生が、何かを拭き取っている音が聞こえてくる。
『大切な生徒思い浮かべてこんなことして……………本当に………教師の風上にも置けない………』
「…………………」
『最低だ…………私って…………』
……………………どう、どう反応すれば良いのか、分からない。
先生は、その………私………私で………その………えっと………
「〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰っ!!!?」
熱い………
顔が熱い………!!
これって………そういうこと……よね!!?
先生が……先生が…………私で…………
「何で………何で? 先生……………」
恥ずかし過ぎて死にそうになる。こんなこと、夢にだって見たことは無い。
先生が………私を思い浮かべて………そういうこと、するなんて………
『昼にも言われたけど……………この気持ち、どうしたものかな』
えっ………昼……………?
昼に言われた………言われたって………誰に?
あ………自動販売機……あそこで、清掃員のお友達に………
その気持ちって…………恋………
恋…………
『ね、ユウカ』
「あ」
『って、聞こえてないだろうけどね…………ブツブツと1人で気持ち悪いな、私は』
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
この気持ちって恋………先生が好きな人はミレニアムにいる……
先生は私のことを浮かべながら
その後私に呼びかけた
これってつまり
つまり…………
先生が好きな人は………………
「はぁっ…………はぁっ…………」
落ち着いて………落ち着いて…………
先生が誰かを好きなのは……間違い無いよね………
あそこに私が……生徒がいるなんて思いもしなかっただろうから…………
だから生徒がミレニアムの誰かを好きなのは確定………
その誰かが分からないから私は盗聴器を仕掛けた………
そして先生が家?かどこかで私のことを思い浮かべながら…………
他の誰でもない、私のことを浮かべながら
それだけ先生にとって私は特別
ノアじゃなくて、私を浮かべてやった
私が………
私が………………
先生の…………
す…………好きな……………人………………
……………
……………………
………やった……………
……………やったやったやった………やった…………
「ぃぃぃ………やったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
やった!!!え、ちょっと待って!!
本当に!!?本当に私が好きなの!!?
まさかって思った!!ノアなんじゃないかって思ってた!!
なのに私!!私!!!
先生は私に恋してる!!!!
「やったやった!!!やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
嬉しい………!!
嬉しすぎる…………!!!
私のこと、そこまで好きでいてくれたなんて………!!
今すぐ先生にモモトークを………!!
「…………っ!!って、駄目よ駄目………何考えてるの………!!」
一回落ち着きなさい…………落ち着くのよ早瀬ユウカ…………
私がこのことを知っているのは、あくまで盗聴器を仕掛けたから…………
先生に「盗聴器で盗み聞きしました」なんて言えるはずがない………………
ここは我慢…………我慢よ…………
………………
………………………
今日、眠れるかな…………?
◆◆◆◆◆
あれから一晩経った。
結局一睡も出来なかった。目を閉じたら、瞼の裏に先生が浮かんで、私に「好きだよ」って囁いてくるから。でも、不思議と全然眠くない。クマだって出来てない。幸せなホルモンが、私の健康を保っていた。
あんな興奮した夜、生まれて初めてだった。このしばらくの間、ずっと私の心を上から押さえていた呪いのような何かが、あの瞬間に何重ものレーザー光線で粉々に消し飛んだ気がした。
これから登校。そして、先生に会う。
………もう少し、お化粧して行こうかな。
私が生徒会室に入ると、そこには既にノアがいた。ノアは私の方を見ると、いつも見せるような穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。
「おはようございます、ユウカちゃん」
昨日までなら、耳にしたら胸が痛んだであろう親友の声。けれども今は、私にとってとても心地の良い幸せを運ぶファンファーレにも聞こえた。
「おはよう、ノア」
私は穏やかに笑ってみせた。
「一昨日と昨日は申し訳ありませんでした。ユウカちゃんには、少し寂しい思いをさせてしまいましたよね………」
……………寂しい、ね。
本当に、本当に寂しかったわ。
私はただ、3人で一緒に過ごしたかっただけなのに。そんな幸せな時間が、2日も無くなってしまったんだから。
でも、もう良いの。
だって、そのおかげで今はこれ以上にないぐらい幸せなんだから。
そして、私が席に着くとほどなくして生徒会室の扉が再び開いた。
「お………ユウカ、ノア」
「先生!」
「おはよう」
ノアよりも先に私を呼んでくれたことに、静かに心臓の鼓動が強まる。多分、先生も意識していない何でもないことなんだろうけど、そんな些事でも今の私には嬉しかった。
「おはようございます、先生」
「ユウカ。昨日までごめんね。思ったよりノアの仕事が長引いちゃって………」
先生は両手の掌を合わせて、申し訳無さそうな顔をする。私はそれに笑顔で応対する。
「いえ…………先生がお忙しいのはいつものことですから。私、全然気にしていません」
嘘。
本当は、心の中であれこれいらないことばっかり考えてた癖に。今だから笑い話に出来るだけよ?
「そう言ってくれると助かるよ………私は本当に、良い生徒を持ったなぁ」
………まずい。口元がニヤけそう。
流石にここでそんな顔をしたら不自然。今は押さえて、堪えて………
私は何とか気を鎮めて、次の話題に移った。
「それよりも先生、最近この近くで新しいレストランがオープンしたんです。知ってました?」
「え?そうなの?」
「はい。折角ですし、お昼に一緒に行きませんか?ノアも一緒に、3人で」
私はノアの方を見る。ノアもまた、穏やかな笑みを浮かべていた。
きっと、昨日と一昨日は、ノアと先生は2人でご飯を食べた。だから、私が今更加わった所で何も問題無いって感じかしら。
………それは私の台詞よ。
私は今、先生の気持ちを知っている。本当は誰のことが好きなのか、私だけが知っている。
だから、ノアも一緒にランチしたところで、何の問題も無い。既に私の幸せまでの道のりは決まっているのだから………
「先生、美味しい料理………沢山食べましょうね?」
◆◆◆◆◆
それから、私の日々は充実した。
朝起きたら、まず先生のことが頭に浮かんだ。少し前までなら、幸せは一瞬で、その後色々といらないことで悩んだりしたけど、今は単に幸福だけが私の朝を祝福する。
登校してからもそれは変わらない。3人だけの生徒会室。私と先生だけの瞬間は殆ど無いけど、私だけが知る先生の秘密が私と先生だけの間に人には見えない特別な空間を作り出していた。
そして………隙を見て、私は先生の腕時計にも盗聴器を取り付けた。
先生は時間に追われている人。だから、腕時計は滅多なことでは外さない。たまたま外した時に2個目の盗聴器を取り付けた。
これで、先生の声を聞けるチャンスが一層増した。家に居る時だけじゃなく、外で独り言を言う先生の声も、私の居ない所で誰かと話す先生の声も、しっかりと私に届くようになった。
ノアには決して知り得ない、私だけの先生の素顔。
そう、ノアだけじゃない。
このキヴォトスの誰も知らない、私だけが知る先生の本当の顔。
それは清廉で、潔白な先生のイメージとは少し違っていたけれど………1人の人間としての先生そのものだった。
ああ………
先生………………
いつこの気持ちを伝えれば良いでしょうか………?
本当は今すぐにでも伝えたい。先生と正式にお付き合いしたい。
でも…………今はまだ、お仕事の途中。
先生にもしなければならないことが、沢山ある。お互い、お仕事への集中力を切らすのは宜しくない。そう、宜しくない…………
だから………だから、お仕事に一段落がついたら…………その時には、もう我慢しなくて良いですよね?
先生にこの気持ちを伝えて………先生の側に、いても良いですよね?
先生………
ああ……先生……………
私も、あなたのことを愛しています。
きっと………この世界の誰よりも。
◆◆◆◆◆
先生の気持ちを知ってから、1週間が経った。
間違い無く、人生で最高の1週間だった。
私は今、学校帰りの道を歩いている。イヤホン型の受信機を耳にはめて、先生の声がしないか確かめながら。
すると………先生が誰かと話す声が聞こえてくる。相手の人は………この前の先生のお友達の清掃員さん。
お仕事終わりのカフェ……かな?
一体何を話しているんだろう………………
『それでさ、先生。あれからどうなったんだよ、その好きな生徒ってやつ』
『あんまりその話はしてほしくないんだけどな………』
『なにいっちょ前に赤くなってんだよ。俺しか聞いてないんだ、別に良いだろ?』
…………私も聞いていますよ、なんてことは流石に言えないわね。
『まぁ…………その………実は、ね』
『おう』
『明日…………告白しようと思うんだ』
「えっ!!!!?」
自分で思っている以上のとんでもない大きな声が出た。周りの人の視線が私に突き刺さる。
まずいと思い、私は慌てて人気の無い所に場所を変える。
『告白っ!!?いきなりかい!?』
『いきなりって………素直に伝えるしかないだろう?』
『まぁ……そうだよな』
「フーーッ………フーーッ…………」
顔が熱い。息が荒い。こんな姿、人には見せられない。
『明日の夕方………その人を呼んでみる。それで………その場で告白するつもりだ』
「はぁっ………はぁっ…………」
『おぉ………そいつは何とも急展開。けど、俺は応援するぜ。先生の恋、実るといいな』
『…………ははっ。ありがとう。フられたら笑ってくれよ』
あっ…………ああっ………………
先生が………先生が………明日………私に……………!!
やった…………
やった…………………!!!
やっっっっっっっっっっっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!
「やったやった!!やったぁぁぁぁぁ!!!!!」
嬉しい……!!嬉しいよ!!凄く嬉しい!!
明日、私と先生は遂に……!!
フる?フるわけないでしょ!!そんなことは絶っっ対にあり得ないわっ!!!
先生はこれで私のもの!!私の恋人が、先生!!!
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
◆◆◆◆◆
私は家に帰ってから、色々とインターネットで検索した。
"告白 返事の仕方"
"告白 OK なんて言う ロマンチック"
"告白の日 化粧 どらくらい"
"お付き合いから結婚 どれくらい"
"結婚 子供 どれくらい"
信じられないぐらい、インターネットの世界にのめり込んだ。
検索をかけてトップにきたWebページの隅々にまで目を通した。
ドラマも観た。告白を受ける時、どうするのが正しいのかを学ぶために。
漫画も読んだ。理想の告白ってどんなものかを知るために。
小説も読んだ。一番ロマンチックな告白の受け方を模索するために。
ありとあらゆる媒体に目を通して、私は明日という日に備えようとした。
でも、もしそれで明日まで眠れなくなってクマなんか出来たら嫌だから、限界まで色々考えてから、仕方なく眠ることにした。
…………結局、シミュレーションのし過ぎで眠れなかったけど。
そして翌日。
朝、モモトークにメッセージが届いた。
先生は今日は、シャーレに行く必要が出てきたらしくて、こっちに来るのは夕方になるという連絡だった。
……………
………むしろ、好都合ね。
今日、きっと私は冷静じゃない。先生の前でそんな態度だったら、不思議に思われてしまう。
ノアの前では………まぁ、仕方ないわ。
私はシャワーを浴びてから制服に着替えて、これまでで一番気合を入れてお化粧をして、髪の毛を整えて、鏡の前で何度も告白を受ける練習をしてから、家を出て行った。
夜、帰って来る時は………もしかしたら、先生と一緒かもしれないわね。
◆◆◆◆◆
「〜♪」
生徒会室。朝から鼻歌が止まらない。
「………ユウカちゃん」
「な〜に?ノア♪」
「…………今日はやけに機嫌が良いですね」
「ん〜?いつもと同じよ♪」
ノアが不審がって私に尋ねてきた。でも、私はこの鼻歌を止める方法を知らない。
「………そうですか」
そうして、お互い書類と再度にらめっこ。いつもなら面倒な書類仕事も、今日はとてつもなくスムーズに進んでいく。
「ねぇ、ユウカちゃん」
「ん〜?」
「私、週末に先生とお出かけすることになったんです」
「お出かけ〜?」
いつ約束をしたんだろう。もしかして、あの2人きりの時かな?
別にどうでもいいけどね〜
「良いんじゃない〜?楽しんできてね♪」
「…………………………」
やっぱり変に思われてるわね。
でも、本当にどうでもいいこと。
誰に何と思われようと、私は今日、そんな世の中の様々なしがらみとか束縛とかを超越して、幸せの絶頂に立つんだから。
ああっ、待ち遠しい………
先生からお呼びがかかる、夕方が来るのが待ち遠しい………
早く、早く時間が過ぎてほしい…………
……………
…………………………
◆◆◆◆◆
時計を見た。
時刻は17時42分。窓から差す西日は、私たちの横顔を赤く照らしている。
「…………………?」
おかしい。
もう夕方なのに、先生からメッセージが来ない。
確かに昨日、先生は今日告白するって言っていたわ。
もしかして、体調でも悪いのかしら………?シャーレでのお仕事が、予想以上に長引いたとか………?
「先生、遅いですね…………」
「………………」
「……………ユウカちゃん?」
「えっ?」
「先生、まだ来ませんね……」
「…………………そうね」
先生………
………もしかして、先生の身に何かあったんじゃ………!!?
「……!!ユウカちゃん………?」
「ごめんノア。私、ちょっと用事思い出したから先に帰るね」
「え?あ………はい…………」
私は急いで、生徒会室を後にした。
◆◆◆◆◆
「先生…………っ!!」
私は廊下を歩きながら、先生の腕時計に取り付けた盗聴器の音を拾っていた。
「先生………どうか無事でいて…………!!」
ガサ、ガサ。
盗聴器から聞こえてくる音は、何の音か分からない。
それが私の不安を一層掻き立てる。
「先生…………っ………!!」
『ごめん、急にこんな所に呼び出して』
「…………………えっ」
先生の……………声………………?
『その………………ははっ。ちょっと待っててほしい、一回深呼吸をするから』
先生…………?
誰と話しているの……………?
『スーッ、ハーーッ…………………うん、もう大丈夫。気持ちは整ったよ』
気持ち…………?
え、ちょっと待って?
無事だったのは本当に良かったんだけど…………じゃあ先生はこっちに来ないで、一体誰と何をしているの………?
私にも呼び出しのメッセージを送らないで…………
『………うん。あんまり長々と話すことでもないから、恥ずかしいけれどはっきりと言います』
……………?
だから………さっきから誰と………
『ずっと、ずっと君のことが好きでした』
………………!!!!?
好き…………………?
好きって………?
先生が好きな私は、まだミレニアムに………
『私は君が好きだ。この気持ちに嘘はつけない………!』
だから………!私はまだここに………!!
『これが私の正直な…………正直な君に対する気持ちだ…………どうか受け取って欲しい─────────
─────────リオ』
……………………………………………………は?
次はどこのギスギスが見たい?
-
風紀委員会
-
RABBIT小隊
-
アリウススクワッド
-
ティーパーティー
-
百花繚乱紛争調停委員会
-
正義実現委員会
-
便利屋68
-
その他