セミナーのギスギスが見たい先生   作:せご曇(せごどん)

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ユウカとノア① ─ユウカの腐心とノアの疑心─

 

「は…………………………………?」

 

 何で…………

 

 何で………リオ会長が………………

 

『……………私も…………あなたに恋をしていたみたい………なの………』

 

 は…………

 

 リオ会長まで何を言って────

 

『私はリオが好きだ。こんな私だけど…………恋人になってください』

 

『…………はい』

 

 ………………は

 

 は………は…………

 

「なんで………………なんで…………………」

 

 なんで……………先生がリオ会長と………………?

 

 おかしい…………おかしいよ…………

 

 だって………だって先生が好きなのは私…………

 

 私でしょ………………?

 

 間違い………何かの間違いよ……………

 

 こんなの…………こんなのおかしい………

 

 こんなこと……………

 

「そうだ………」

 

 これは間違い…………

 

 なら………先生はもうここに来ているはず…………

 

 そうよ…………ここに来て…………私に告白するの………

 

 そうに決まっているの……………………

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「あら、ユウカちゃん?」

 

 え……………

 

「どうしたんですか?忘れ物でもしましたか………?」

 

 どうして…………

 

 どうして先生がいないの…………?

 

「…………?ユウカちゃん、顔色が悪いですが………」

 

「先生は………」

 

「え?」

 

「先生は…………来てないの……………?」

 

 生徒会執務室には私たちしかいない

 

 私と、ノア

 

 先生の姿はどこにも…………

 

 まさか…………

 

 まさか本当に…………先生は………………

 

「あり得ない…………そんなのあり得ない…………」

 

「……………?ユウカちゃん、本当にどうかしたんですか?」

 

「先生は私が好きなの…………私は確かにそう聞いたの………」

 

 私は先生が好きで………

 

 先生も私が好きで……………!…

 

 何も間違いなんて無い…………私たちは……お互いを求めあって──

 

「ユウカちゃん」

 

「!!?」

 

 あ…………

 

 ノア…………………

 

 ノアの両手が………私の肩に置かれて…………

 

「ユウカちゃん。さっきからブツブツどうしたんですか?様子が変ですよ」

 

「あ………」

 

「何があったんですか、ユウカちゃん」

 

 逃げられない

 

「言ってください」

 

 目を逸らせない

 

「先生………が…………」

 

「はい」

 

「リオ会長………と……………」

 

「…………リオ会長?」

 

「リオ会長と………一緒に………………」

 

「…………そんな話、先生からは聞いていませんが…………」

 

「あ………」

 

「先生とリオ会長が一緒にいたとして…………どうしてユウカちゃんがそんなに取り乱すんですか?」

 

 言えない………

 

「リオ会長といることが何か問題でも?連絡はありませんでしたが、会長もここに用があるのかもしれません」

 

 これ以上は言えない…………

 

「というよりも、どうして先生と会長が一緒にいると知っているんですか?先生を見かけたんですか?けれども、さっきの口ぶりでは見かけた風には見えませんでしたよ」

 

 私が……

 

 私が……………

 

 先生の会話を………盗聴しているなんて…………

 

「ノア……………」

 

「はい」

 

「帰るね…………………………」

 

「……………?」

 

 ダメ…………

 

 ここにいたら…………

 

 頭がおかしくなっちゃいそう………………

 

「ちゃんと歩けますか?体調が優れないのなら、少し休んでからでも」

 

「いい………」

 

 今はここから離れないと

 

 誰の声も聞きたくない

 

 ノアの声も

 

 会長の声も

 

 先生の…………声も…………………

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 帰ってからも結局、私は何も出来なかった。

 

 食欲なんて当然無かった。何かを口に入れたら、そのまま吐き出してしまいそうだったから。

 

 先生が今何をしているのか、気になって気になって仕方がなかった。

 

 リオ会長と一緒なのか。一緒ならリオ会長とどこにいるのか。リオ会長と何をやっているのか。

 

 本当に会長のことが好きなのか。じゃあ私がこれまで聴いていたのは何だったのか。

 

 私の名前を呼びながら、あんなに一生懸命になっていたのは何だったのか。

 

 何もかもが分からない。何もかもがぐちゃぐちゃで、何度もえづきそうになった。

 

 でも…………

 

 受信機を使う気にはなれなかった。

 

 もし、私が聴いた会話が本当のことだったら。

 

 先生が好きなのは私じゃなくて………リオ会長。

 

 私は先生と会長の甘いひと時を、傍から、遠くから、勝手に垣間見ているだけの気持ち悪くて意味不明な女になる。

 

 何よりも

 

 認めたくない。先生が私じゃなくて、会長のことを愛してるだなんて。

 

 そんなふざけた、冗談にもならない事実を認めたくなんかない。

 

 ……………決めたわ。

 

 私は託す。

 

 先生が私が好きだっていうことに。それが揺るぎない真実だってことに。

 

 私が今日耳にしたのは全て間違いで、先生は私だけを見てくれているってことに。

 

 会長でもノアでもない。私。先生は、早瀬ユウカに夢中なんだってことに…………

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「………………………」

 

 鏡を見た。

 

 そこに反射していたのは、瞳が濁り、クマに目元を荒らされ、髪がボサボサに乱れた近寄りがたい女だった。

 

 結局………私は一睡もすることが出来なかった。

 

 目を瞑ると、先生とリオ会長が瞼の裏側に映り込んできた。先生と会長が手を繋ぎ、顔を向かい合わせて談笑するおぞましい光景が、本来は竪琴の旋律のように柔らかく凪いでいるはずの先生の声を、金属と金属の擦れ合う不快な音に仕立て上げてしまった。

 

 堪らずに目を開くと、そこには先生がいた。先生はただ"ユウカ"と口を動かして、私が起き上がるのを待っていた。私は急いで身を起こして先生に手を伸ばしたけれど、ただ空気が掌の擦れる感触がしただけだった。

 

 そうした虚無と不快を繰り返している内に、夜は明けて日は昇った。

 

「あぁ……………」

 

 こんな顔で………どうやって登校すると言うの。

 

 お化粧をしても、完全には誤魔化しきれない。ノアは間違いなく気付くし……………もし来ていれば先生も…………

 

 先生も……………

 

『私はリオが好きだ。こんな私だけど…………恋人になってください』

 

「あー………あー!!!」

 

 大声をあげて、耳の中の情報を上書きする。

 

 そんな話は無かった。そんなことはあり得ない。単なる私の聞き間違い。

 

 そうに決まっているんだから。

 

 早く支度をして、今日もセミナーの仕事をこなす。そして今日こそ、先生から私に話があるはず。

 

 そうでなきゃいけないの。

 

 そうでなきゃ…………

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「おはようございます、ユウカちゃん……………………」

 

 生徒会室に着いた。既に来ていたノアが顔を上げて、私に挨拶をしてくる。

 

 そして、同時に眉を栗の外皮の曲線のように歪ませる。

 

「ユウカちゃん……?顔色が酷いですよ…………?」

 

「大丈夫…………」

 

「大丈夫って………そうは見えないです。やはり昨日、何かあったんですよね?」

 

「………………」

 

 だから言えないの………

 

 先生とリオ会長のことなんか…………私が盗聴していたことなんか…………

 

「ユウカちゃ─────」

 

 ノアが私の名前を呼びかけた時、背後の扉が開いた。

 

 私は、ノアの直前までの訝しげな顔が、ただの閑話の軽い冗談だったかのように消えて明るい笑みに変わるのを見て、誰がやって来たのかを察した。

 

「やあ、ノア!ユウカ!」

 

 先生だ。

 

「先生!おはようございます!」

 

 ノアは、澄んだ笑顔で私の後ろにいる先生を出迎える。

 

 ノア、ユウカ。

 

 今度は私ではなく、ノアを先に呼んだ。そんなどうでもいいことに、今の私の弱った心は過敏に反応を示した。

 

「ユウカもおはよう!」

 

「…………っ!?」

 

 肩が跳ね上がる。反射的に振り返ったその先には、目の前のノアよりも光を放つ、(あで)やかな笑みの浮かんだ先生の顔があった。

 

「あ…………先………生……………」

 

「おや……………? ユウカ、あんまり顔色が良くないね………」

 

「…………!!?そ、そんなことっ…………」

 

「どれどれ………」

 

 ……………!?

 

 先生は私の前髪を左手小指の側面でかき上げると、掌を私の額にそっと貼り付けた。

 

「うん………熱っぽくはないね…………」

 

「あ…………あ……………」

 

「取り敢えず良かったけど…………でも具合が良い訳でもなさそうだね。どうしたの?」

 

 先生の私を案じる眼差しが、私の目を貫いて奥のそのまた奥にある脳髄を激しく揺らす。

 

 くらくらと急に目眩がしたような頭痛が私を襲う。

 

「あ………あの………あの!」

 

「ん?」

 

「せ、先生は…………先生は昨日……………どこで何を……………」

 

 口にして、胸が冷えた心地がする。

 

 こんなこと聞いてどうするのか。私は先生に何を言わせようとしているのか。

 

 もしここで、リオ会長と会っていたなんて言われたら………

 

「そうですよ!昨日遅くまで待ちましたが、先生は結局来ませんでした。何をしていたんですか?」

 

 …………!

 

 私が帰った後も先生は来なかった……………

 

 まさか……………

 

 まさか本当に……………………!?

 

「あはは…………ごめん。急用が入っちゃって。連絡するのを忘れていたよ」

 

 急用…………

 

 私は安堵を覚えなかった。

 

 それが何の用だったのか、分からないままだから。

 

「あ、あの………」

 

「ん?何だい?」

 

「何の用事………だったんですか…………?」

 

 息苦しい。

 

 緊張と焦燥が悪い具合に混ざり合って、私のこめかみをジリジリと刺激する。

 

 先生から目を逸らしたいのに、先生からめが逸らせない。

 

「それはね…………」

 

 私を見下ろす先生の笑顔が、とても怖く見える。

 

 あと少しで、私はもういらない存在だと突きつけられるのかもしれないと、手汗が滲んでべたべたする。

 

 やっぱり止めて。

 

 言わないで。

 

 そんな心の内側の声は、掠れた弱々しい呼吸音となって外の世界と接続した。

 

 誰にも、私の気持ちは伝わらなかった。

 

「おーい先生〜」

 

 …、………え?

 

「おや………君は」

 

 この声には聞き覚えがあった。

 

 先生とたまに会っている、先生のお友達で、ミレニアムの用務員。

 

「どうしたんだい、こんな所に来て」

 

 ノアが不思議そうな顔をしている。

 

 知らないんだ、ノアは。あの人と先生の関係を。

 

「昨日のことで話があるって、事務の方で呼んでたぜ」

 

「昨日の………こと…………?」

 

「ああ、そうだったね。今行くよ」

 

 …………?

 

 ??

 

「昨日、ちょっと外で仕事があってね。そのことでミレニアムの事務と話をしていたんだ」

 

「仕事…………………?」

 

 まさか………それが先生の言っていた……………?

 

「ごめん、2人とも。少しだけ席を空けるよ」

 

「構いませんよ。行ってきてください」

 

「うん。ユウカも」

 

「へ………?」

 

「体調良くないなら…………しっかりと休むのも大事だからね」

 

「あ…………」

 

「約束だよ………」

 

 先生は、いつも私たちに見せてくれる柔らかな笑顔を見せて、私たちのもとを去った。

 

 

 結局

 

 結局、先生がリオ会長と会っていたかどうかは分からないままだった。

 

 先生は…………

 

 先生は……………………

 

 …………誰のことが……好きなんですか

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 私はミレニアムサイエンススクール2年、生塩ノア。

 

 私は今、気になっていることがあります。

 

 それは………ユウカちゃんのこと。

 

 昨日からユウカちゃんの様子が変なんです。

 

 いえ………正確に言えば、少し前から変。

 

 やたらと上機嫌で、気分が浮かれていました。それだけなら放って置くことなんですが………今度はそれと打って変わって気分が沈んでいる。

 

 何かがあったとしか思えません。

 

 ですが、ユウカちゃんは何でもないの一点張り。

 

 …………私はここに、妙な居心地の悪さを感じていました。

 

 ユウカちゃんが特に取り乱していたのは、先生が関係した時。

 

 ユウカちゃんと先生が、個人的に何らかの関係を持っていた………という可能性もあります。

 

 もしそうなら……………

 

 ………ともかく、様子を見る必要がありますね。

 

 ………こんなものは、あまり使いたくはなかったのですが。

 

 私は以前、エンジニア部に超小型カメラを作製してもらったことがあります。

 

 キヴォトスは何かと物騒ですから、自分の身を守る一環としての依頼でした。

 

 これを………私はデスクの上に置いてあるペットボトルに取り付けました。

 

 これで、この部屋で私がいない時に起きていることを、後から確認出来ます。

 

 ユウカちゃん…………

 

 ………怒らないでくださいね?

 

 あんな顔をされたら、気になって仕方がないんですから。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 カメラを取り付けてから数時間が経過しましたね。

 

 私は度々、先生が席を空けるタイミングで同時に席を空けました。

 

 その時、ユウカちゃんはついて来ることがありませんでした。

 

 もし一緒に出たら、カメラを取り付けた意味がありません。なので、私としては都合の良い展開。

 

 映像もそれなりに記録出来たでしょうから、途中までの記録を観ることにしました。

 

 ちょうど先生は、他の部活の生徒に呼ばれてしばらく席を外しているところ。

 

 私もこの機に乗じて、ミレニアムタワーの1階まで下りることにしました。

 

 盗撮など、人に話せたことではありません。なるべく人目につかない木陰で、私はカメラとデータを連携してあるスマホを確認することにしました。

 

 さて……………

 

 映像のうち、私と先生が席を立った後の部分だけに焦点を当てて、目を凝らして確認を行なっていきます。

 

 ……………

 

 ………………………

 

 ユウカちゃん……………これは………イヤホン………ですかね?

 

 耳に丸い何かを嵌めています。音楽鑑賞でもしようと言うのでしょうか…………

 

 ………………

 

 ………………………

 

『先生………リオ会長の話は…………してない……………』

 

 …………………?

 

 リオ会長…………?

 

 どうしてここでリオ会長の名前が………?と言うよりも、ユウカちゃんは昨日もリオ会長の話をしていました。

 

 音楽を聴いているのではない……………

 

 どうしてか先生の話を聞いているような口ぶり…………

 

 となると………………

 

 …………………

 

 …………………………!?

 

 もしかして、盗聴!?

 

「えっ…………!?」

 

 これは………もっと確認する必要がありますね……

 

 次の場面、あれから1時間後を観てみます。

 

『……………やっぱりリオ会長の話はしてない』

 

 ………当然、これも音楽鑑賞ではないでしょう。

 

 ユウカちゃん………

 

 一体いつからこんなことを…………

 

『分からない………先生は本当にリオ会長と付き合っているの……?』

 

 ………………………………は?

 

 今………何て言いましたか……………?

 

『分からない………先生が分からないよ……………』

 

 ……………?

 

 ……………………??

 

 ??????????

 

 先生が………リオ会長と付き合っている………?

 

 は………?

 

 なんですか………何の話ですかそれは

 

 先生とリオ会長が?

 

 どうしてそんなことになるんですか?

 

 言っている意味がよく分かりません………

 

『…………もっと……………もっと情報が必要………………』

 

 …………ユウカちゃん?

 

 ユウカちゃんは鞄の中に手を入れると、ゴソゴソと音を立てて何かを探し始めました。

 

 一体何をするつもりですか…………

 

 ユウカちゃんは鞄から手を出すと、席を立って歩き出しました。

 

 向かう先は………先生のデスク。

 

「…………まさか」

 

『先生……………ごめんなさい………っ!!』

 

 ……………!!

 

 ユウカちゃん………今先生のジャケットに何かを付けました……

 

 そしてこの文脈上………これは間違いなく盗聴器………

 

「ユウカちゃん………」

 

 ……………

 

 まさか………この前の上機嫌は先生がユウカちゃんについて何かを言ったのを盗聴したから?

 

 あんなにご機嫌になるようなことを、先生が?

 

 …………

 

 何でしょうか………この胸の底の部分を刺激する針のような鋭い感情は。

 

 表情筋が強張っている感じもします。

 

 ……………

 

「いえ……………もしかするとこれは………」

 

 好機………かもしれません。

 

 ユウカちゃんが言っていた、先生とリオ会長の関係。

 

 ユウカちゃんの勘違いなのか………それとも真実なのか。

 

 私の口からその問いを先生に向けることは出来ない。勿論、ユウカちゃんにも。

 

 なら……こうして知る以外には無い。

 

「でも………」

 

 もし本当に先生とリオ会長が付き合っていたら………?

 

 私はそれをどう捉えれば?

 

 ……………

 

 ……………………

 

 ………今は行動に出るしかありません。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 私は生徒会室に戻ると、何事も無かったことを装い、席に着きました。

 

 本当は先生とリオ会長のことで気が気でないのですが………私まで取り乱したら先生に心配をかけてしまいます。

 

 それだけは絶対に避けないと。

 

 ユウカちゃんも平静を装ってはいますが、元々の不調に加えて新たな盗聴器を仕掛けたことによる動揺が見て取れます。

 

 先生はただの体調不良だと考えてくれているのが唯一の救いでしょうか………

 

「……………ノア、私ちょっと出るね」

 

「はい」

 

 ユウカちゃんは重い足取りで、外へと出ていきました。

 

 今がチャンスです。

 

 ユウカちゃんが耳に嵌めていたもの。あれが盗聴器の受信機でしょう。

 

 ですが、ユウカちゃんは既に先生の私物にいくつもの盗聴器を仕掛けている。ということは、受信機もそれに応じて複数あるはず。

 

 その内の1機だけでもいい。気付かれないように私が拝借します。

 

 ジャケットはまだここにある。ということは、ジャケットに仕掛けた盗聴器の受信機は今は持っていないはずです。

 

 私はユウカちゃんの鞄の位置にまでしゃがみ、中に手を入れました。

 

 ………

 

 ……………

 

 これ……ですかね?

 

 中から黒いケースが見つかりました。開けるとそこには、トランシーバーのような何かが入っています。きっと受信機でしょう。

 

 これがジャケットの盗聴器と対応しているのか………急ぎ確かめる必要があります。

 

 私は記憶にあるこの手の装置の操作方法に従い、試しに側面の黒いボタンを押してみました。すると、それが起動ボタンだったようで、受信機の液晶画面に文字が表示されました。

 

 私は受信機を耳に当て、先生のジャケットを軽く動かしてみます。

 

 すると………

 

「…………!」

 

 衣類特有の摩擦の音が、耳にはっきりと伝わってきました。

 

 これがこの盗聴器の受信機で間違いありません。

 

 胸の高鳴りと共に私は受信機を急ぎケースにしまい、自分の鞄の中に入れました。

 

 ユウカちゃん。

 

 明日、必ず返します。ですから、今日は私に貸してください。

 

 私だって先生のことを想うと………気が気ではないのですから。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 今日一日の仕事を終え、私たちは解散となりました。

 

 先生はユウカちゃんの体調を感じていましたが、ユウカちゃんは見え見えの空元気で先生を不安にさせまいと頑張っていました。

 

 ………………

 

 空元気は私も……でしょうね。

 

 先生のこと、リオ会長のこと。気になって仕方がないのは私も同じ。

 

 自宅に帰った私は、いつ受信機を起動しようかとずっと悩んでいました。

 

 もし起動して、その瞬間にリオ会長の声が聞こえたら?

 

 ユウカちゃんの懸念が、現実のものとなってしまう。

 

 私がこれまで、先生に振り向いてもらおうと努力した全てが………私の先生への気持ちが一瞬で壊れてしまう。

 

 それが怖かった。

 

 怖くて、一歩が踏み出せなかった。

 

 ……………

 

 …………………

 

 いえ…………………

 

 こんなことを考えても何にもなりませんね……

 

 既に私は、ユウカちゃんから受信機をお借りしています。いえ………正確に言うのなら盗んできたのです。

 

 そこまでしておいて、今更聞くのが怖いなんて話は話にもなっていません。

 

 何よりも、聞かなければ眠れない。

 

 私はこのもどかしい感情に決着を着けるために、こうして手元に受信機を持っているのです。

 

 ならば、聞くだけ。

 

 先生のありのままの声を。

 

 先生の包み隠さない、本当の声を。

 

「お願い………ユウカちゃんの勘違いであって…………」

 

 私はこの気持ちを………今更無かったことになんて出来ないから──────

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁっ…………はぁっ…………あっ………ああっ……!!先生……!先生ぇぇっ!!』

 

『先生!!好き!!!好きよ!!!愛してるっ!!!はぁっ………あっ!?……あっ………あぁん…………』

 

『リオ…………リオぉぉぉっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

次はどこのギスギスが見たい?

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