セミナーのギスギスが見たい先生   作:せご曇(せごどん)

7 / 11
ユウカとノア③ ─友情の終わり─

 

「あっ………!あぁっ!!先生っ!!!先生ぇぇっ!!!!」

 

「ユ、ユウ──」

 

「幸せっ!!!今私っ!!!凄い幸せですッ!!!!」

 

 身体が熱い

 

 死ぬほど熱い

 

 熱すぎて

 

 蒸発しちゃいそう

 

「むぐっ!!?」

 

「んんっ!!!んんんっ!!!!」

 

 先生の熱さが、私に入り込んでくる

 

 こんなの気持ち良すぎるよ

 

 もう二度と

 

 忘れられないよ!!

 

「先生!!好きですっ!!世界で一番あなたを愛してます!!!」

 

「ユウ……カ……………」

 

「あなたが好きです!!あなたの全てが好きなんです!!!!」

 

 どんどん身体が熱くなる

 

 先生と一緒に熱くなる

 

 人生で一番暗くて湿った夜は

 

 まだまだ続いた

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「…………………………」

 

 さっきまでの熱過ぎる時間は終わって

 

 今はお互いに何の声も出てこない

 

 先生は息も絶え絶えで、ぐったりとしている

 

 そして私は────

 

「先生…………ごめんなさい」

 

 空っぽな声をかけて、先生のもとを去った

 

 

 今は何時かな

 

 多分、日付は変わってしまっている

 

 まだ寒い時期じゃないのに

 

 私は肌寒いと感じていた

 

 物凄い熱さで火照った身体が

 

 今では冷めたピザのように熱を失っている

 

 寒暖差が酷くて笑っちゃう

 

 ………………

 

 いやに冷たく感じられる夜風に、私の頬は吹かれている

 

 どうして冷たく感じたのか

 

 それは濡れているから

 

 汗かなって思ったけど

 

 手を当ててみると、それは違うと分かった

 

 頬の部分だけが、綺麗に濡れていた

 

 濡れてる所を指でなぞると

 

 人差し指がまつ毛に触れた

 

 あ、私

 

 泣いてるんだ

 

 そこで初めて自覚した

 

 それが分かった瞬間

 

 急に悲しさが込み上げてきて

 

 歩くことも出来なくなった

 

「先生………………先生ぇっ………………」

 

 …………………

 

 幸せだった………

 

 あの時間は間違いなく幸せだった

 

 嫌なことが全部頭の中から吹き飛んで

 

 ただ"気持ちいい"ってことだけが私の支えになっていた

 

 でも…………

 

 そんなのこと、本当にただの一瞬の熱だった

 

 終わってみれば、自分がどんな感情だったのか

 

 もう実感が無い

 

 ただ覚えているのは

 

 先生の辛そうな顔

 

 先生の申し訳なさそうな顔

 

 あの時

 

 きっと先生はリオ会長のことを考えてた

 

 リオ会長に申し訳なく思ってた

 

 そして

 

 私の気持ちに応えられなかった自分を悔いていた

 

 私の

 

 私の自分勝手のせいで

 

 先生を傷つけた

 

 先生を悲しませた

 

「先生………ごめんなさい…………っ…………ごめんなさいっ…………」

 

 結局…………

 

 一度でも私は………

 

 先生に見てもらえなかったなぁ…………

 

 先生に一度でも…………

 

 『愛してる』

 

 って………言ってもらえなかったな……………

 

 当たり前だよね………

 

 こんな………

 

 こんな最低の女…………

 

 こんな気持ち悪い女………………

 

 好きになってもらえるはずないよ………

 

 愛せるわけないよ………

 

 先生も………

 

 リオ会長も……………

 

 何も悪くない………………

 

 悪いのは私だけ…………………

 

 せっかく先生の恋が実ったのに…………

 

 私は横からそれを台無しにした………………

 

 最低よ………!

 

 最低よ……こんなの………!!!

 

「どうして………こうなっちゃったのかなぁ……………」

 

 きっとその答えは……

 

 誰も教えてくれない…………

 

 もう…………

 

 私には分からないよ………………

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 やぁ皆!

 

 私はシャーレの先生だよ。

 

 ぐったりしてたんじゃないのかって?いやいや、私を誰だと思っているんだい。

 

 ぐったりしていたら、この余韻を愉しめないじゃないか。せっかくユウカが、感情の頂点と最低を同時に見せてくれたというのに。

 

 こうした事態にも耐えられるよう、私は普段から体力を鍛えているのだよ。

 

 さて………

 

 そろそろ頃合いだろうし、少し聴いてみるか。

 

 何を、だって?

 

 まぁ、聴けば分かるさ…………

 

『先生………………先生ぇっ………………』

 

 おお………

 

 開幕からクライマックスを迎えているようだ。

 

 素晴らしい。

 

 普段快活で、私の浪費癖に口を尖らせるなどの可愛げをみせていたユウカが、今ではその影も形もない程に感情を歪ませている。

 

 これが若さ。これが美しさ。

 

 やはり君たちは私を刺激してくれる………

 

 この部分は音声データと映像データ、双方しっかりと保存しておくことにしよう。

 

 彼ら(・・)にもしっかりと手渡しておかないとね……

 

 そして。

 

 この一件、当然君も聴いていたはずだ。

 

 そうだよね、ノア………………

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 は…………………

 

 なん………

 

 なん………ですか………これ

 

 ユウカちゃん…………?

 

 どうしてユウカちゃんが、先生と………

 

 先生と……………

 

『幸せっ!!!今私っ!!!凄い幸せですッ!!!!』

 

 は…………

 

 ちょっと………

 

 ちょっと待ってください………………

 

『あなたが好きです!!あなたの全てが好きなんです!!!!』

 

 なんで…………

 

 なんで

 

 なんで

 

 なんで

 

 なんでこんなことに?

 

 なんでユウカちゃんが

 

 ユウカちゃんが

 

 先生と……………

 

「あ…………はっ………はっ………はぁっ………」

 

 息が………

 

 息が出来ない…………!?

 

 苦しい………

 

「ん!!んんっ!!!!」

 

 まずい………このままだと…………

 

「はっ…………はぁぁっ………はぁぁぁっ……………」

 

 息は出来た……

 

 でも苦しい…………

 

 冷や汗が尋常じゃなく流れ出てくる……………

 

 助けて…………

 

 誰か助けて……………………

 

 

 

 

「………………………………」

 

 ユウカちゃん

 

 我慢出来なくなって、それで先生に押しかけたんですか

 

 先生なら受け入れてくれるって

 

 それで自分だけ気持ち良くなろうって思ったんですか

 

 ……………

 

 ………………………

 

 ………このことも

 

 このことも、私は決して忘れられないでしょう

 

 いつまでも覚えているでしょう

 

 ユウカちゃんの叫び声

 

 ユウカちゃんの火照り声

 

 その口から出てきた言葉の一言一句

 

 少しも忘れることはないでしょう

 

 ……………

 

 ……………………

 

 …………ふざけないで

 

 私………私だけ………………

 

 私だけ…………何も無い…………

 

 あんなに先生に自分を見せようとしたのに………

 

 私だけ…………

 

 こんな………

 

 一生消えない傷まで負わされて…………!

 

 許せない…………

 

 許せない………!!

 

 

◆◆◆◆◆

 

「…………………はぁ」

 

 結局、あの時間を経ても私は自分の渇きを潤すことは出来なかった。

 

 当然……当然のことよね。

 

 どんなに忘れようと努めても、私が欲しかったのはたった一つ。

 

 『先生の愛』

 

 それだけしかいらなかった。

 

 でも、それを受けられるのはこの世界でリオ会長だけだった。

 

 その事実が受け入れられなかった。

 

 けれども、どんなに私が切に願っても、先生の気持ちは私には向かない。

 

 今回の件で、私のことをきっと嫌いになった。

 

 全部、自分で自分の首を絞めただけ。

 

 ただ失恋に泣いているだけだったら………先生との時間そのものはこれまで通りだったかもしれないのに。

 

 私はそんな時間さえも壊すことをしてしまった。

 

「……………ははっ」

 

 何が数字に強い、よ。

 

 何も計算出来てない。

 

 一時の感情で、私は私の小さな幸せすら失くした。

 

 本当に………救えない女……………

 

 そして…………

 

 今、ミレニアムタワーの前で私は立ち往生している。

 

 セミナーの仕事を投げ出す訳にはいかない。

 

 でも、先生にどんな顔をして良い分からない。

 

 時間を巻き戻せるなら、すぐにでも巻き戻して何もかも無かったことにしたい。

 

 盗聴器なんて付けずに。

 

 先生とこれまで通りお喋りして。

 

 そして、初めての恋の終わりに、いつかは涙して。

 

 そんな青春だったら、どれだけ良かったことか。

 

「…………………はぁ」

 

 ………本当に、溜め息をついてばかりね。

 

 私って本当に馬鹿……………

 

 

 

「ユウカちゃん」

 

 

 

「え…………?」

 

 

 

 聞き馴染みのある声がした。

 

 間違いなく、ノアの声だった。

 

「ノア──────っ!?」

 

 振り返った私は、その場で尻もちをついた。

 

 そこに立っていたのは、確かにノアだった。

 

 綺麗な白髪は所々乱れていて。

 

 唇は乾いて艶を失って。

 

 頬には無数の涙の痕が連なった。

 

 私の親友、生塩ノアだった。

 

 ノアの瞳は真っ暗だった。

 

 この朝の輝きを少しも映さず、夜の暗闇を全て引き連れてきたように暗かった。

 

 私のことを、微動だにせずに見下ろしていた。

 

「ユウカちゃん。今から少しお話があるんです」

 

「あ……………」

 

「来てください。とても大事なお話です」

 

 ノアはそれだけ言って、背を向けて歩き出した。

 

 "とても大事なお話"

 

 それが何か。

 

 まさか、と思った。

 

 行きたくない、心が立ち上がることを拒絶している。

 

 それなのに、私は立ち上がってノアの後ろを歩いていた。

 

 ノアのあの目に、私の身体は恐怖していた。

 

 私に逆らうなんて選択肢は無かった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 ユウカちゃんは私の後についてきました

 

 拒むという選択肢は取らなかった

 

 心に思う所があるのでしょう

 

 自分の心の中に、私の言葉を拒めない理由があるのでしょう

 

「ここなら人目につきません」

 

「その………………ノア」

 

「ユウカちゃん。昨日、先生と何をしていたんですか?」

 

「…………………!!」

 

 ユウカちゃんの紫の目がこれでもかと開かれて、瞳が震え出しました

 

「昨日の夜、先生と何をしていたんですか」

 

「あ……………………」

 

「ねぇ、ユウカちゃん」

 

「それ………………は…………………」

 

 俯いて、そのまま固まるユウカちゃん

 

 そのまま黙る気ですか

 

 そんなこと、許しませんよ

 

「私、聴いていたんです」

 

「ぁ…………」

 

「ユウカちゃん、受信機が無くなったって気づきましたよね。私がユウカちゃんの鞄から持ち去ったんです」

 

「っ……」

 

「それで、聴いてしまいました。先生とリオ会長が、激しく交わる所を」

 

 ユウカちゃんも聴いていたんですよね?

 

 私と同じ時間、同じ地獄を味わったんですよね?

 

「私はとても悲しかったんです。先生が私ではなく、リオ会長を選んだことが。一晩ずっと、忘れられない先生とリオ会長の愛に喘ぐ声が耳元で騒がれるように聞こえてきました。ユウカちゃんもそうだったんじゃないですか?」

 

 私のように絶対記憶能力を持っていなくとも

 

 あんなに生々しく

 

 あんなに激しい交わりは

 

 私とユウカちゃんにとっては一生ものの傷

 

 ユウカちゃんも忘れられるはずがありません

 

「ユウカちゃん。どうして黙っているんですか」

 

「ぁ……」

 

「黙っていては分からないですよ。私、聞いてるんです。昨日の夜に先生と何をしていたか。先生に何をしていたか」

 

「そ………その……………」

 

 ……………

 

 ……………いつまで

 

「いつまで黙っているつもりですか………」

 

「ひ………」

 

「聞いているでしょっ!!!先生に何をしたのッ!!!!」

 

 自分の声じゃないみたいに荒々しい

 

 気が付けばユウカちゃんの胸ぐらを掴んでいた

 

「私聴いてましたっ!!!ユウカちゃんが先生の所に押しかけて!!!先生を無理矢理犯す所を!!!!」

 

「あぁっ…………………」

 

「ねぇユウカちゃん!!!なんで!!!?なんでそんなことしたのっ!!!?」

 

「それ………は……………」

 

「私は受け入れようと思ったんですよ!!?先生がリオ会長を選んだこと!!!悲しくて!!悲しくて!!でも!!先生が決めたことなんです!!!私たちにはどうにも出来ないじゃないですか!!!だから受け入れようとしたッ!!!」

 

「っ………」

 

「なのにユウカちゃんは…………………ユウカちゃんは!!!!どうして先生に!!!先生にあんなことをっ!!!!!」

 

 憎い

 

 憎い

 

 せっかくこの気持ちを終わらせられそうだったのに

 

 受け入れて次に進めそうだったのに

 

 それを全部

 

 全部ユウカちゃんが壊した

 

 私と同じ苦しみを抱えて

 

 私は耐えたのに

 

 辛くても耐えたのに

 

 ユウカちゃんは耐えなかった

 

 自分を抑えられなかった

 

「…………ごめんなさい…………………」

 

「………………………は?」

 

「ごめんなさい…………………………」

 

 ………………なに

 

 なに、それは

 

「何ですか…………それ……………」

 

「…………………」

 

「何の謝罪ですか……………」

 

「………」

 

「誰に対する謝罪ですか………………………」

 

「それ………は………………」

 

「っ!!!誰に謝っているんですか!!?先生ですか!!?リオ会長ですか!!!?それとも私に謝っているんですか!!!?」

 

「ぅ……………」

 

「謝ってどうなるのっ!!!?あなたがしたことは無くならないんですよ!!!?あなたが先生にしたこともっ!!!あなたが先生と過ごした時間も!!!全部無かったことになんてならない!!!!」

 

「っ…………」

 

「私だけ!!!私だけずっと忘れられない!!!この感情も!!!死ぬまで忘れられない!!!!!ふざけないで!!!ふざけないでッ!!!!!」

 

 

 

「はぁ……はぁ………………」

 

「ノ…………ノア………………」

 

 私にユウカちゃんの手が伸びてくる

 

 それを見ると、途轍もない怒りが込み上げてきた

 

「触らないで」

 

「あっ…………………」

 

「穢らわしい……………先生を貪った手で私に触れないで。先生を貪ったその口で、私の名前を呼ばないで」

 

「ぁ……………」

 

「さようなら、ユウカちゃん。あなたの顔は、もう見たくありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次はどこのギスギスが見たい?

  • 風紀委員会
  • RABBIT小隊
  • アリウススクワッド
  • ティーパーティー
  • 百花繚乱紛争調停委員会
  • 正義実現委員会
  • 便利屋68
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。