偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子 作:RichArrow
原典ネタが多いのにまだ名前も出てないのが不思議なキャラなんですが……
<Side:シン ーラモラックの誇りー>
「あ~色んな人が帰ってきてるから汗臭い~」
暗くなり始めた城内を歩く。外から戻ってきた騎士や兵士が集まり、雑多な匂いが混じり始める時間帯だ。
蛇と狼の呪いを意識して鼻を利かせ、目当ての匂いを探す。
「クンクン……うわ、酒くさいなぁ」
リン兄の匂いに、エールの匂いが混じっている。
ケイ卿から「サクソン人討伐の報告が届いていない」と言われて探していたのに……今日は諦めてもらおう。
少し早足で匂いの元へ急ぐ。
酔っても暴れはしないけど、本音が出やすくなるからな。誰かと面倒起こしてないといいけど……いや、リン兄の場合は、酔ってなくてもいつも本音だったか。
「ん? 一緒に飲んでるのは……」
エールの匂いに混じって、馬と牧草の匂い。これは――
「「わーっはっはっは!!」」
グビグビ… グビグビ…
「「マズイ!!!」」
「リン兄、ラモラック卿、何してんの?」
いつもの真面目そうな顔を緩めたラモラック卿が、リン兄と一緒に樽を囲んでいた。
ラモラック卿――アーサー王の協力者ペリノア王の子。
誇り高い…というか、自分なりのルールを絶対に曲げない人で、そこに触れるとすぐ怒る。
でも、一度喧嘩すれば逆に仲良くなれるから、悪い人じゃない。
リン兄やラン兄とも喧嘩になったけど、すぐに笑い合っていた。馬上戦では若いのに城随一の腕前らしく、二人も大変だったらしい。
……強すぎて、喧嘩できる相手が少ないから友達も少ないんじゃ?
今回の討伐はこの二人だったんだろう。ラン兄がいなくても、この人なら戦力的には十分だとよく分かる。
「おうシン! 少し会えなくて俺が恋しくなったのか?」
「クハハ! 従騎士シンも、まだまだ子供であるな!」
「二人とも、ケイ卿への報告は?」
「「あっ……」」
二人が同時に目を逸らす。明日、ケイ卿とラン兄にしっかり怒られてもらおう。
「騎士ベイリン、先達の姿として謝罪を頼みたい」
「いやいや、ここは若いお前さんが積極的に……」
「どっちも怒られるからね。……にしても、この量のエールは?」
「ん? ああ、これはな――」
酔いが回って口が軽くなっているらしい。
二人は俺に自分たちの武勇伝を聞かせたいのだと、すぐに分かった。
討伐対象は騎兵混じりの小隊規模のサクソン人。ブリテンの混乱に乗じた連中らしい。
普通なら二人きりで挑むなんて無謀すぎるが、この酔っ払い騎士たちは違った。
ラモラック卿が正面から名乗りを上げ、堂々と敵騎兵を釣り出す。
その隙に、リン兄が歩兵の隊長格を後ろから速攻で斬首していった。
言葉にすればそれだけだけど……馬上戦なら四騎に囲まれても勝つラモラック卿と、防御も回避も許さず一閃で数人を切り捨てるリン兄だからこそ成り立つ戦法だ。
他に真似できるのは、アーサー王、ガウェイン卿、そしてラン兄くらいかな?
……この城、化け物だらけだな。俺は血を使うと味方を巻き込むから難しい。
「コイツ、馬の上なら俺やベイランよりも強いんだぞ! 腹立つわ~」
「クハハ! 騎士ベイリンの剣技には敵わぬよ! あの父でさえ、戦うのを避けたほどである!」
どうやら二人が上機嫌なのは勝利だけが理由じゃないらしい。
何々? 統率が取れていた相手だったから、不利を悟るとすぐに逃げ出したようだ。
結果、残った物資を拾えたうえ……馬を五頭も無傷で捕まえた!?
ラモラック卿が騎手だけを狙い、逃げ出したところをリン兄が力づくで捕らえたらしい。……殺すより難しい芸当だろ、それ。
「あれ? それ、真っ先に報告しなきゃ駄目じゃない?」
「その前に奪ったエール樽の毒見をだな……かぁ~、マズイ!!」
「馬は良い、実に良い。賊にはもったいないほどの馬であった……。すまぬ、嬉しすぎて忘れていた。世話もしてやらねばな」
「ラモラック卿は馬の世話が好きですねぇ。普通は従騎士に任せるのに。
俺なんて怖がられるから、力づくで世話したり、ただ乗ってるだけですよ」」
「クハハ! 従騎士シンが寄り添う気がないことを馬も察しているのである。言葉が通じずとも、伝わるものは多い。特に命を預け合う馬なればこそである。
私は騎士でなくとも、馬の世話役になっていたであろう。……王の子らしくないと、うるさく言う者もいるがな」
確かに、俺は馬を移動手段か非常食くらいにしか思っていない。人間以外に命を預けるって考えは、まだよく分からない。
……ん? グーラには命を預けてるか。震えながら拗ねないでくれ。
にしても、ペリノア王の子だから色々言われるんだな。
ラモラック卿は馬に乗っている時は強くて格好いいし、世話してる時も優しく真面目なのに、それじゃ駄目なのか?
王の子か……酔ってる今なら、ケイ卿の宿題について聞いてみてもいいかな。
「ラモラック卿って、どうしてアーサー王に仕えてるんですか? ペリノア王は味方なのに、王子を他の王の騎士にするなんて変な感じで……」
ラモラック卿は一瞬だけ笑顔を止め、エールを置いた。
リン兄も気になるのか、黙って耳を傾ける。
「ガウェインにも聞いたのであるな。ならば私も答えねばなるまい。
当然、忠義だけではない。父――ペリノア王の考えによるものだ」
ペリノア王は広い領地と高い軍事力を持つ。俺たちの故郷ノーサンバランドの一角もその領地に含まれるほどだ。
また、個人としても強く、アーサー王の剣を折って勝つほどの実力者だ。
そんな王なら、いきなり現れたアーサー王を大王として認めて下に付くなんて、普通はしないと思うけど……。
しかしペリノア王は、先王ウーサーの血統と宮廷魔術師マーリンという二つの後ろ盾を持つアーサー王には勝てぬと判断したらしい。
たとえ力では勝てても、民や騎士の心は得られない、と。
(血統はともかく、マーリンってそんなに重要か?)
(俺たちからすりゃ、母ちゃんの仇を逃がした戦犯野郎なんだが)
「だが、ただで下に付かないのが父の抜け目なさであるな」
ペリノア王はアーサー王のNo.2、つまりブリテンで二番目の立場を狙った。
決闘で勝ちながらすぐに相手を讃えて従ったと噂を流し、
自らの徳の高さとアーサー王の血統の優位性を同時に示した。
さらに、他の王や領主との仲介役を自分が担う流れを作り、
どんなやり取りも「ペリノア王を通さねばならない」状況にした。
そして、息子の一人――ラモラック卿を人質として、
同時に次世代の有力騎士としてアーサー王のもとに送ったのだ。
「……今後、王から父を切り捨てる事はできまいよ。たとえ諸王連合の領地をかすめ取ったり、自身の軍事力を維持していたとしてもな」
「偉い連中はよく自分のガキを人質に送れるな。跡継ぎって大切じゃねぇのか?」
「父は、その、愛多き方でな……。母が違い、名も場所も知らぬ兄弟姉妹が多くいるのだ。
だからこそ、馬上戦が得意な息子一人を送っても、他に予備がいるゆえ問題ない。
……王や騎士としては尊敬できるのだが、男としては尊敬できぬお方だ」
血のつながらない俺たち兄弟の仲が良く、血のつながったラモラック卿の兄弟は互いが誰かもわからない。そんなことがあるのだろうか?
それに、誰が跡継ぎに相応しいかなんて分からないんじゃ……。
王の子として普通なことでもラモラック卿が人質扱いなのは辛くないのか?
「クハハ。我が槍の腕前ならば王も捨て置けぬと父も認めておるのだ。
事実、この城で私はペリノア王の子ではなく、馬上にて無双の騎士ラモラックとして扱われている。……なんと心地よいことか」
「お前にとっちゃ、馬と槍が一番の誇りなんだな」
「然り。騎士ベイリンも勝利こそを誇りとしているのであろう。
貴殿にとっては勝利こそが何より優先すべきことであり、讃えられるべきものだ」
酔いで顔を赤らめながらも、自信に満ちた眼差しを向けてくる。
彼にとっては父の策略などどうでもいい。誇りのために戦い、結果として策略に沿っているだけなのだ。
――ただ、俺や兄ちゃんたちは違う。
誇りよりも優先するものを持っている。
「ちょっと違うぜ、ラモラック」
顔を赤くしたリン兄が、ゆっくりと言葉を継ぐ。
二人共、随分と酔いが回ってきたのだろう。
「俺は、弟のためなら勝利を捨てられる。
だから精霊が相手だろうと復讐に執着してるんだ」
……俺がいる前でそういう事言わないで欲しい!
嬉しいけど、恥ずかしさが勝っちゃうんだけど!?
しかもラモラック卿は、真剣に受け止めちゃってるし。
「愛、愛か……。父の愛多き振る舞いを思うと、どうにも……」
「アッハッハ! いつかお前にも、誇りと並ぶくらいの愛が見つかるだろうさ!
家族で無理なら女だな! だが、悪い女には引っかかるなよ!」
そこから少しずつ、話題が下世話な方へと流れていく。
リン兄の大きな声につられて、年嵩の騎士たちまで集まってきて、女性関係の失敗談を語り出した。賊から奪ったエールを回し飲みしながら、笑い声はどんどん広がっていく。
……俺は明日も朝早いから、もう寝るとしよう。
次の日。徹夜明けのケイ卿が、酔って床で眠りこけた騎士たちを、容赦なく蹴り飛ばしていた。
この日の俺の朝一の仕事は、従者たちに混じって掃除の手伝いから始まった。
<Side:シン ーケイの苦労ー>
「ラン兄はちゃんとケイ卿に報告するんだ」
「兄上のそういう所は見習わない様にしましょうね」
ラン兄と一緒に城内を歩く。
アーサー王やケイ卿の執務室は城の奥の方にあるから、ゆっくり話しながら進むことにした。
俺は古い日記を提出して新しい日記をもらうため。
ラン兄は昨日まで担当していた騎士訓練の教官役としての報告のため。
目的は違うけれど、せっかくだし一緒に行くことになった。
「この城の騎士はよく鍛え上げられてますね。指導のし甲斐がありました」
「……リン兄の次に教官役にしたくないって噂だけど?」
「ふむ? ですが、シンも私と兄上との鍛錬で強くなったのですから、正しい訓練法だと思いますが?」
……この城に来て気付いたけど、俺たち兄弟の認識はちょっとズレてるかも?
俺はそこそこな強さの従騎士だと思ってたけど、どうやら並みの騎士よりは強いらしい。
そして兄ちゃんたちは……無茶苦茶強い。
普通は大型の害獣やピクト人を少人数で相手しない。
普通は妖精に近づくことすらしない。
普通は十五にもならない子供がそんな戦いをしない。
……うん。どれもやっちゃったなぁ。
そうこう話しているうちに、ケイ卿の部屋の前に着いた。
ノックして入ると、珍しい紙の匂いが鼻をつく。
「おう、よく来たな。時間もったいねぇから、ベイラン卿から話してくれ」
ケイ卿は字を書く手を止めて、隈のある目で俺たちを睨むように見つめてきた。
机の上の紙をちらりと見ると、城壁建設の進捗、遠征中の騎士の一覧、近隣の村からの嘆願書……いろんなことが書かれていて、俺にはとても理解できそうにない。
「はい。まず、見込みのある騎士は三名。彼らならば、次の小競り合いに前面に出しても大丈夫でしょう。他は……お飾りですかね? 騎士を名乗るの止めてほしいですね」
「お前ら基準が高すぎんだよ。……だが三人も認めたのか」
「ええ。武器を全て破壊してもなお立ち向かえたのは、彼らだけです。
逃げることすらできない騎士モドキは……轢いておきました。周りの邪魔です」
「待てや!!!」
ああ、猪ごっこをやってたんだった。
ラン兄が鎧を着こんで、両手に大盾を一つずつ構えて突進してくる、あの訓練だ。
俺も昔、よく中途半端に攻撃しては、シールドバッシュで剣を折られたっけ。
今使ってる魔剣グーラは頑丈だから折れないけど、弾き飛ばされないようにいつも気を張るのは結構疲れる。……本物の猪の突進より小回りが利くから難易度上がってない?
「お前ら、剣や槍もタダじゃねぇんだぞ! 兄と一緒に毎回ポキポキ折ってんじゃねぇ!
それと重傷者を出すな。弱いなら農兵の指揮や文官の手伝いをさせればいいんだ!」
「アハハ……申し訳ない……」
……強さに関係なく、俺たち兄弟はケイ卿には頭が上がらない。
戦うよりもずっと大変なことを、毎日平然とこなしてるのを見れば当然だ。
それに……ぶっきらぼうな言い方の中に、ちょっとだけ優しさが見える。
そういうとこ、少し母ちゃんを思い出す。
あ、そういえば――
「リン兄の為に壊れにくい剣を作ろうとしてるんだけど、その次にラン兄のも作るよ」
「おお……ありがとう、シン」
「おい、勝手に鉄を買ったり奪ったりしてねぇだろうな?」
「してませんって。石に変えた妖精や魔獣から作るから、タダですよ」
強い生き物の肉を混ぜて、俺の左手の呪いでじっくり石に変え、剣の形にしていく。
まだ試作品をひとつ作っただけだけど、上手くいきそうな気がする。
どうせなら、猪やピクト人、竜の心臓なんかから作れば、すごい剣になるんじゃないか。
「……ベイラン卿、騎士以前に、人としての常識をコイツに叩き込んどけ。
それと日記をよこせ。アホなこと書いてないか確認してやる」
顔を顰めたケイ卿が手を伸ばす。
これ以上は喋るなという空気を感じる。
……もしかして、変なこと言ったのか?
それとも、ケイ卿はピクト人を人間扱いしてるってこと……?
まぁ、とりあえず日記を渡そうか――
「きったねぇ字だな……」
「この日、メシのことばっかじゃねぇか」
「ガウェインに直接聞くなよ」
「ラモラックが馬を手に入れ……」
「早く報告しろよ!!」
「ケイ卿、馬数頭が手に入ったのは良いことですし、そこまで怒らなくても……」
「シン、お前は馬が一日にどれだけ草を食うか知ってんのか? 宿舎の空きは? どれくらい移動が短縮できるかは? 馬ひとつで飯も場所も計画も変わるんだよ!」
「「スイマセンでした!!!」」
「ベイラン卿もかよ……。ちょうどいい、教えてやるから今日は手伝え。
簡単な計算ができて文字が書けりゃ、最低限は使える」
……こうして今日は一日、ケイ卿の手伝いとなった。
これも騎士になるために必要なことだ。頑張ろう……。
〇ラモラック
投稿時はまだ未実装な円卓騎士。原典ではランスロット、トリスタンの次に強いらしい。
誇りを汚すとガチ切れするけど、喧嘩後にすぐ仲良くなる。不良漫画かな?
外見イメージは黒髪で目付きが鋭めなパーシヴァル。
いつか、悪い女に引っかかる。
〇ペリノア王
カリバーンを折った王。
素で筋力Aあるのか……?
〇ケイ
口の悪い人。作者が見たどの日本語訳でも思ったより口が悪かった。
本作では徹夜できる能力を活かした文官社畜に……。
未登場のアグラウェイン以外に文官できそうな騎士が少なすぎる。
〇シン
肉を石にする呪いでベイリン用の剣を作成中。
〇ベイラン
両手盾で突進するだけで雑に強い。