偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子   作:RichArrow

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ランスロット周りは独自設定多めです。
Garden of Avalonだと王になってから10年目でランスロットの浮気発覚なので……
かなりペースを早くしてます。バン王の出番は犠牲になりました。


13.若き騎士たち④ ランスロット

<Side:シン ーランスロットとの約束ー>

 

 

 朝、久しぶりに一人で食堂で飯を食べようとしたところーー

 

 

「アイツが……」

「従騎士が王の目にかかるなど……」

「なぜ俺が呼ばれない……」

 

 

 明らかに好意的でない視線と声が俺に集まってきた。

 

 

 

 最近、城内の騒がしさの質が変わってきた気がする。

 

 髭フェチのリエンス王との小競り合いではなく、諸王連合との大規模な戦いが近付いているのも理由の一つだろう。

 

 だが、それ以上にアーサー王の元へ集まる騎士たちの質が変わったのだ。

 

 大きな戦の気配を嗅ぎつけ、忠義や誇りではなく武功を求めてやって来た遍歴騎士が増えた。

 アーサー王の陣営の数が少ないから数が増えるのは助かるし、強者もいる。

 

 ……だが、強くもなく、中途半端な誇りだけを振りかざす連中も少なくない。

 

 

「どなたか、この従騎士の訓練のお相手をしてくださる方はいませんか?」

 

 

 周囲に向けて声を張ると、悪意を含んだ視線も小声も一気に途切れる。

 従騎士相手に劣ると思われるのを恐れて逃げるだけか。それで騎士と呼べるのか?

 

 陰口を叩くだけで鍛錬すらしない――所詮、誇りのない騎士モドキはこの程度だ。

 

 

「おはようございます、シン殿」

 

「おはようございます、ランスロット卿。俺に畏まる必要はありませんよ」

 

「ハハ、新参者なのでね。ではシンと呼ばせてもらおう。

 もっとも、すぐにシン“卿”と呼ぶことになるかもしれないが?」

 

「残念ながら、まだまだ先ですね」

 

 

 嫌な雰囲気の中、向かいに腰掛けて俺に話掛けてくれる人がいた。

 静かな音に力強さを感じさせる気配を持つ若き遍歴騎士――ランスロット卿だった。

 

 兄ちゃんたちが「強くて礼儀正しい、まさに騎士の理想像」と褒めていた人物だ。

 アーサー王も一目で気に入り迎え入れたと聞く。

 

 そういえば、この人も確か――

 

 

「ランスロット卿はフランスに領地を持つ王子と伺いましたが……なぜブリテンに?」

 

「ああ、よく聞かれるが、武者修行だよ。我が祖国を取り戻す前に、一度大きな戦を経験しておきたくてね」

 

 

 聞けば、彼は幼い頃に父も領地も失い、別の場所で育てられたという。

 

 祖国奪還のため鍛え続けてきたが、実戦経験が乏しく、自分の力を確かめるため旅立ち……

 アーサー王と諸王との戦の噂を聞き、ここへ来たのだ。

 

 

(……精霊ニミュエに育てられたことは、魔術師殿に伏せておけと言われているが)

 

「いや、ランスロット卿は十分強いでしょう?」

 

「そんなことはないさ。アーサー王、ペリノア王、それに君の兄たち……皆強いではないか。

 ガウェイン卿やラモラック卿のように、互いを高め合える年の近い仲間もいる。

 まだ大きな戦はないが、ここに来て良かったと心から思っているよ」

 

 

 確かにその通りだ。ここには若くて強い騎士が多くいる。

 その上、先王ウーサーの代から仕える年配の騎士たちも尋常ではない技量を持っている。

 

 数では諸王連合に大きく劣っていても、質では決して負けていない。

 

 

「それに……あのお方に仕えてみたいとも思った。

 アーサー王なら必ず多くの民を幸福へ導くだろう。

 その助けができれば、私も騎士として誇らしい」

 

 

 まだ数日なのに、この人もアーサー王に随分と心酔しているな。

 ガウェイン卿やグリフレット卿ほどではなさそうだけど。

 

 俺たち兄弟はそこまで忠義はない。

 目的はあくまで復讐であり、その仇の情報のために仕えているだけだ。

 

 ただ、城で受けた恩もあるし、返すために仕えるのも悪くはないと思っている。

 

 何より――リン兄とラン兄を従わせられるのは、アーサー王くらいだろう。

 

 

「フランスの騎士が……」

「お前などが……」

「ふん、烏滸がましい」

 

 

 ランスロット卿が正式な仕官の話を口にした途端、周囲の騎士モドキがざわつき始めた。

 俺の時よりも強い悪意。今にも手を出しそうな気配すらある。

 

 正面から勝てないと分かっているから、武装していない食事の場で取り囲む……。

 

 フランスとかブリテンとか以前に、これで騎士を名乗れるのか?

 お前らなら素手だろうが、俺もランスロット卿も負けないぞ。

 

 

「すまない、ダスーー」

 

ガキンッ!

 

「おっと、虫の羽音のせいで手が滑った!

 このまま滑り続けると、パンとワインが消えてしまうかもしれないな!」

 

 

 食べかけのパンを石に変え、わざと砕く。

 食堂は一瞬で静まり返った。

 

 騎士モドキの妬みや僻みなど気にしない。人間として当然の感情だからだ。

 だが――誇りを持つ「本物の騎士」が汚されるのは、気に入らない。

 

 予感でしかないが、ランスロット卿は美しい騎士になる。

 ガウェイン卿、ラモラック卿、べディヴィエールもそうだろう。

 

 アーサー王は……最初からそういう存在すぎて、少しつまらないけど。

 

 だからこそ、申し訳なさそうにせず、嫉妬される己を誇って欲しい。

 

 

 ……心臓が熱を帯び、魔力が溢れ出す。

 ダメだ。まだ怒りを抑え切れそうにない。

 

 

「すみませんランスロット卿。パンが無くなったので先に失礼します」

 

 

 早足で食堂を出た。

 

 ルーカン卿にクラッカーを分けてもらおうかな?

 ガウェイン卿とポテトサラダを作るのもいい。

 昼にはラモラック卿を狩りに誘って、間食も悪くないな。

 

 

………………………………

 

 

 庭で風に当たりながらクラッカーを齧っていると――

 

「シン!」

 

 振り返ると、ランスロット卿が駆け寄ってきた。どうやら俺を探していたらしい。

 

 

「さっきは、すまな……いや、ありがとう」

 

「礼なんて要りません。俺が腹立っただけです」

 

「それでも、新参の私が問題を起こすわけにはいかなかった。

 君が嫌われてまで注意を引いてくれた。本当に助かった」

 

 

 気まずくて、顔を背ける。

 本当に怒りを制御できなかっただけだ。

 

 

「……別にいいです。呪いが勝手に暴発しただけですから」

 

「それでも、私は君に借りができた。君は私の恩人だ」

 

「なら礼の代わりに、いつか本気で模擬戦をして下さい。

 俺も兄以外と全力で戦うのは禁止されてて、強くなったのか分からないんです」

 

「模擬戦?」

 

「あ~、やっぱいいです。すみません。俺の呪いの噂も知ってるでしょうし……」

 

 

 斬られれば癒えない傷を残す魔剣。

 触れれば命を削る毒血。

 旅に出てから増えた呪具と呪い。

 

 殺すつもりがなくても、戦えば憤怒と狂気でそれらを使ってしまう。

 だからマーリンとアーサー王から、実戦形式は禁止されたのだ。

 

 半年以上も我慢してきたが……兄ちゃん以外の騎士相手に一度も本気で戦えていない。

 何度イライラして諸王連合の小隊に突撃しようかと思ったか……。

 

 

「構わない。先ほども言ったが、私は経験を積むためにここへ来た。

 君との戦いも、その一つになるだろう」

 

「本当にいいんですか?」

 

「当然! それに、寂しそうな顔をした恩人を放っておくのも心苦しいのでね」

 

 

 穏やかな笑みと同時に、“舐めるな”と言わんばかりの闘気が肌を刺す。

 

 なるほど、兄ちゃんたちが褒め、アーサー王が迎え入れるわけだ。

 本物の騎士たちが彼を認めるのも良く分かる。

 

 ククッ! 斬ッテミタイ! 喰ラッテミタイ!

 ……おっと、イカンイカン。

 

 けれど、胸が高鳴る。

 久々に「戦いたい」と心から思える相手に出会った。

 

 

 その前に……俺も少し手を貸してあげたくなってきたな。

 

 

「ありがとうございます。許可が出たらお願いします。

 それと、さっきみたいなことが減らせるように俺も手を貸します」

 

「いや、それでは私が恩を受けてばかりに――」

 

「そのうち剣術を教えてもらえれば十分です。

 まずはルーカン卿や主要な騎士たちと顔を合わせましょう。

 そうすれば、舐められることも減るでしょう」

 

 

 ランスロット卿ならば大抵の騎士が直接会話すれば、仲良くなれるだろう。

 ラモラック卿は数回ほど決闘しなければ難しそうだけど……。

 

「……シン、本当にありがとう」

 

「従騎士に本気で頭を下げないで欲しいです。

 そういうのは仕える相手にだけするべきです」

 

 まあ、悪い気はしないけど。

 

「今日で良ければだが、早速恩を返そう」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

 

 ……その後、木剣で挑んでボコボコにされた。

 

 兄ちゃん直伝の剣術で速さと重さには自信あったんだけどなぁ。

 悔しい。でも、胸の奥は妙に晴れやかだった。

 

 

………………………………

 

 

 数日後ーー

 

「おはようございます、ランスロット卿!」

「騎士ランスロット、馬の調子はどうだ?」

「おーいランスロット! 町でナンパしに行こうぜ!」

 

 そこには、すっかり騎士たちに溶け込んだランスロット卿の姿があった。

 

 思ったより早く馴染んだなぁ……。

 でも、女遊びは尊敬できない。

 

 え? いつも誠実に対応してる?

 ……嘘じゃなくて本気で言ってる!?

 

 まあ、取りあえず良かった、良かった。

 

 

 

 だが――

 

 

「なぜだ……? なぜ、ウーサー王の血に連なる俺よりも、フランスの田舎騎士風情が敬われる?

 王や騎士から信を置かれている? なぜだぁ!!!」

 

 

 ……どうしようもない人間は、どこにでもいる。

 この城も例外じゃなかった。

 

 


 

 

<Side:シン ー戦いの前にー>

 

 

 随分と長く日記を読み返してしまった。

 気づけば外は真っ暗。まだ明かりが灯っているのは、ケイ卿の執務室くらいだろう。

 

 そろそろ眠ろう。明後日は模擬戦だ。明日は調整に充てたい。

 

 

「……まさか、ランスロット卿が本気で答えてくれるとはな」

 

 

 模擬戦では全力で戦える。

 

 わざわざアーサー王とケイ卿に許可を取ってきたらしい。

 しかもマーリンが「彼の実力も見ておきたい」なんて援護していたとか。

 

 胸が熱くなる。

 半年以上押し殺してきた欲求が、ようやく解放される。

 

 アイツや王の前で実力を示せれば、俺も騎士として認められやすくなるだろう。

 

 ……正直、兄ちゃんたちと母ちゃんの仇を討てるなら、従騎士のままでも構わない。

 そこまでアーサー王に仕えたいわけじゃないし。

 

 

「そう思わないで欲しいな。君には是非、王に仕えて欲しいんだ」

 

「ッ……夜にいきなり出てくるなよ。アンタ、男でもイケる夢魔なのか?」

 

「はは、まさか。自分と似た顔の相手なら女の子でも無理かな」

 

「冗談に真面目に返すな。舌を引き抜くぞ」

 

 

 目の前に現れたのは、いつもの魔術師だった。

 今は殴りかかる気も起きない。夜に暴れたら他の人に迷惑だからな。

 

 

「ベイリン卿の剣を作るのにも協力しただろう? 簡単な魔術も教えたし、少しは手を貸してくれてもいいんじゃないかい?」

 

「お前、俺たちの仇の精霊を逃がしたこと、忘れたわけじゃないだろ。

 兄ちゃんと何を約束したか知れねぇが、俺はまだ許せてねぇよ」

 

 

 感謝はしている。

 だが、その恩以上に許せないこともある。

 

 

「また邪魔するつもりじゃないだろうな?」

 

「しないさ。それはベイリン卿との契約破りだからね」

 

 

 ならいい。取り合えず今復讐するのは、あの精霊だけだ。

 

 ……そして復讐が終われば――終われば?

 

 胸がざわついた。考えたことのない問いが、頭をかすめる。

 

 

「じゃあ、その時になったら。正式にアーサー王に仕えてみないか?」

 

 意外としつこいマーリンが一拍おいて、静かに続けた。

 

「そうしたら……シン。君の本当の母親と、生まれた意味を教えてあげよう」

 

「ッ……!? やっぱり、俺のことを知ってやがるな!」

 

 

 予感はしていた。マーリンは、俺の出生に関わっている。

 

 呪いまみれで、狂気を抱えて生まれたせいで捨てられた――そう思ってきた。

 俺は望まれて生まれた存在じゃないはずだ。

 

 それでも、知りたい。

 絶対に良い内容じゃないと分かっていても、気になってしまう。

 

 

「……チッ。明日早いんだ、出てけ」

 

 

 コイツに振り回されているのが腹立たしい。だが、出生のことが頭から離れない。

 それでも今は、ランスロット卿との戦いに集中するしかない。

 別の事で迷って本気出せなかったなんて恰好悪すぎる。

 

 布団に横になり、『昏睡の呪い』を強め、『不眠の呪い』を弱める。

 それだけで、眠りは訪れる。

 

 

「一応言っとく。おやすみ、マーリン」

 

 

 

「おやすみ、シン。私は君に期待しているよ」

 

 

 聞こえてきた声は、いつもの軽薄さを欠いていた。

 意識が闇に沈む直前、聞いたことない優しい響きが耳に残った。

 

 


 

 

〇シン

 訓練はしてたが、旅していた時ほど実戦が積めなくなっていた。

 勝っても後遺症が残る相手と模擬戦や決闘する方がおかしいが……

 アルトリア直々に禁止令が出されていた。

 

〇ランスロット

 将来の円卓最強。

 顔、性格、礼儀、腕前全てが揃った騎士。

 現時点では、まだまだ成長中。

 

〇マーリン

 人を知れば知るほど、後々の後悔は大きくなる。

 




少年期の日常回はもうありません。
戦闘とベイリンの話が続きます。
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