偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子 作:RichArrow
Garden of Avalonだと王になってから10年目でランスロットの浮気発覚なので……
かなりペースを早くしてます。バン王の出番は犠牲になりました。
<Side:シン ーランスロットとの約束ー>
朝、久しぶりに一人で食堂で飯を食べようとしたところーー
「アイツが……」
「従騎士が王の目にかかるなど……」
「なぜ俺が呼ばれない……」
明らかに好意的でない視線と声が俺に集まってきた。
最近、城内の騒がしさの質が変わってきた気がする。
髭フェチのリエンス王との小競り合いではなく、諸王連合との大規模な戦いが近付いているのも理由の一つだろう。
だが、それ以上にアーサー王の元へ集まる騎士たちの質が変わったのだ。
大きな戦の気配を嗅ぎつけ、忠義や誇りではなく武功を求めてやって来た遍歴騎士が増えた。
アーサー王の陣営の数が少ないから数が増えるのは助かるし、強者もいる。
……だが、強くもなく、中途半端な誇りだけを振りかざす連中も少なくない。
「どなたか、この従騎士の訓練のお相手をしてくださる方はいませんか?」
周囲に向けて声を張ると、悪意を含んだ視線も小声も一気に途切れる。
従騎士相手に劣ると思われるのを恐れて逃げるだけか。それで騎士と呼べるのか?
陰口を叩くだけで鍛錬すらしない――所詮、誇りのない騎士モドキはこの程度だ。
「おはようございます、シン殿」
「おはようございます、ランスロット卿。俺に畏まる必要はありませんよ」
「ハハ、新参者なのでね。ではシンと呼ばせてもらおう。
もっとも、すぐにシン“卿”と呼ぶことになるかもしれないが?」
「残念ながら、まだまだ先ですね」
嫌な雰囲気の中、向かいに腰掛けて俺に話掛けてくれる人がいた。
静かな音に力強さを感じさせる気配を持つ若き遍歴騎士――ランスロット卿だった。
兄ちゃんたちが「強くて礼儀正しい、まさに騎士の理想像」と褒めていた人物だ。
アーサー王も一目で気に入り迎え入れたと聞く。
そういえば、この人も確か――
「ランスロット卿はフランスに領地を持つ王子と伺いましたが……なぜブリテンに?」
「ああ、よく聞かれるが、武者修行だよ。我が祖国を取り戻す前に、一度大きな戦を経験しておきたくてね」
聞けば、彼は幼い頃に父も領地も失い、別の場所で育てられたという。
祖国奪還のため鍛え続けてきたが、実戦経験が乏しく、自分の力を確かめるため旅立ち……
アーサー王と諸王との戦の噂を聞き、ここへ来たのだ。
(……精霊ニミュエに育てられたことは、魔術師殿に伏せておけと言われているが)
「いや、ランスロット卿は十分強いでしょう?」
「そんなことはないさ。アーサー王、ペリノア王、それに君の兄たち……皆強いではないか。
ガウェイン卿やラモラック卿のように、互いを高め合える年の近い仲間もいる。
まだ大きな戦はないが、ここに来て良かったと心から思っているよ」
確かにその通りだ。ここには若くて強い騎士が多くいる。
その上、先王ウーサーの代から仕える年配の騎士たちも尋常ではない技量を持っている。
数では諸王連合に大きく劣っていても、質では決して負けていない。
「それに……あのお方に仕えてみたいとも思った。
アーサー王なら必ず多くの民を幸福へ導くだろう。
その助けができれば、私も騎士として誇らしい」
まだ数日なのに、この人もアーサー王に随分と心酔しているな。
ガウェイン卿やグリフレット卿ほどではなさそうだけど。
俺たち兄弟はそこまで忠義はない。
目的はあくまで復讐であり、その仇の情報のために仕えているだけだ。
ただ、城で受けた恩もあるし、返すために仕えるのも悪くはないと思っている。
何より――リン兄とラン兄を従わせられるのは、アーサー王くらいだろう。
「フランスの騎士が……」
「お前などが……」
「ふん、烏滸がましい」
ランスロット卿が正式な仕官の話を口にした途端、周囲の騎士モドキがざわつき始めた。
俺の時よりも強い悪意。今にも手を出しそうな気配すらある。
正面から勝てないと分かっているから、武装していない食事の場で取り囲む……。
フランスとかブリテンとか以前に、これで騎士を名乗れるのか?
お前らなら素手だろうが、俺もランスロット卿も負けないぞ。
「すまない、ダスーー」
ガキンッ!
「おっと、虫の羽音のせいで手が滑った!
このまま滑り続けると、パンとワインが消えてしまうかもしれないな!」
食べかけのパンを石に変え、わざと砕く。
食堂は一瞬で静まり返った。
騎士モドキの妬みや僻みなど気にしない。人間として当然の感情だからだ。
だが――誇りを持つ「本物の騎士」が汚されるのは、気に入らない。
予感でしかないが、ランスロット卿は美しい騎士になる。
ガウェイン卿、ラモラック卿、べディヴィエールもそうだろう。
アーサー王は……最初からそういう存在すぎて、少しつまらないけど。
だからこそ、申し訳なさそうにせず、嫉妬される己を誇って欲しい。
……心臓が熱を帯び、魔力が溢れ出す。
ダメだ。まだ怒りを抑え切れそうにない。
「すみませんランスロット卿。パンが無くなったので先に失礼します」
早足で食堂を出た。
ルーカン卿にクラッカーを分けてもらおうかな?
ガウェイン卿とポテトサラダを作るのもいい。
昼にはラモラック卿を狩りに誘って、間食も悪くないな。
………………………………
庭で風に当たりながらクラッカーを齧っていると――
「シン!」
振り返ると、ランスロット卿が駆け寄ってきた。どうやら俺を探していたらしい。
「さっきは、すまな……いや、ありがとう」
「礼なんて要りません。俺が腹立っただけです」
「それでも、新参の私が問題を起こすわけにはいかなかった。
君が嫌われてまで注意を引いてくれた。本当に助かった」
気まずくて、顔を背ける。
本当に怒りを制御できなかっただけだ。
「……別にいいです。呪いが勝手に暴発しただけですから」
「それでも、私は君に借りができた。君は私の恩人だ」
「なら礼の代わりに、いつか本気で模擬戦をして下さい。
俺も兄以外と全力で戦うのは禁止されてて、強くなったのか分からないんです」
「模擬戦?」
「あ~、やっぱいいです。すみません。俺の呪いの噂も知ってるでしょうし……」
斬られれば癒えない傷を残す魔剣。
触れれば命を削る毒血。
旅に出てから増えた呪具と呪い。
殺すつもりがなくても、戦えば憤怒と狂気でそれらを使ってしまう。
だからマーリンとアーサー王から、実戦形式は禁止されたのだ。
半年以上も我慢してきたが……兄ちゃん以外の騎士相手に一度も本気で戦えていない。
何度イライラして諸王連合の小隊に突撃しようかと思ったか……。
「構わない。先ほども言ったが、私は経験を積むためにここへ来た。
君との戦いも、その一つになるだろう」
「本当にいいんですか?」
「当然! それに、寂しそうな顔をした恩人を放っておくのも心苦しいのでね」
穏やかな笑みと同時に、“舐めるな”と言わんばかりの闘気が肌を刺す。
なるほど、兄ちゃんたちが褒め、アーサー王が迎え入れるわけだ。
本物の騎士たちが彼を認めるのも良く分かる。
ククッ! 斬ッテミタイ! 喰ラッテミタイ!
……おっと、イカンイカン。
けれど、胸が高鳴る。
久々に「戦いたい」と心から思える相手に出会った。
その前に……俺も少し手を貸してあげたくなってきたな。
「ありがとうございます。許可が出たらお願いします。
それと、さっきみたいなことが減らせるように俺も手を貸します」
「いや、それでは私が恩を受けてばかりに――」
「そのうち剣術を教えてもらえれば十分です。
まずはルーカン卿や主要な騎士たちと顔を合わせましょう。
そうすれば、舐められることも減るでしょう」
ランスロット卿ならば大抵の騎士が直接会話すれば、仲良くなれるだろう。
ラモラック卿は数回ほど決闘しなければ難しそうだけど……。
「……シン、本当にありがとう」
「従騎士に本気で頭を下げないで欲しいです。
そういうのは仕える相手にだけするべきです」
まあ、悪い気はしないけど。
「今日で良ければだが、早速恩を返そう」
「ええ、よろしくお願いします」
……その後、木剣で挑んでボコボコにされた。
兄ちゃん直伝の剣術で速さと重さには自信あったんだけどなぁ。
悔しい。でも、胸の奥は妙に晴れやかだった。
………………………………
数日後ーー
「おはようございます、ランスロット卿!」
「騎士ランスロット、馬の調子はどうだ?」
「おーいランスロット! 町でナンパしに行こうぜ!」
そこには、すっかり騎士たちに溶け込んだランスロット卿の姿があった。
思ったより早く馴染んだなぁ……。
でも、女遊びは尊敬できない。
え? いつも誠実に対応してる?
……嘘じゃなくて本気で言ってる!?
まあ、取りあえず良かった、良かった。
だが――
「なぜだ……? なぜ、ウーサー王の血に連なる俺よりも、フランスの田舎騎士風情が敬われる?
王や騎士から信を置かれている? なぜだぁ!!!」
……どうしようもない人間は、どこにでもいる。
この城も例外じゃなかった。
<Side:シン ー戦いの前にー>
随分と長く日記を読み返してしまった。
気づけば外は真っ暗。まだ明かりが灯っているのは、ケイ卿の執務室くらいだろう。
そろそろ眠ろう。明後日は模擬戦だ。明日は調整に充てたい。
「……まさか、ランスロット卿が本気で答えてくれるとはな」
模擬戦では全力で戦える。
わざわざアーサー王とケイ卿に許可を取ってきたらしい。
しかもマーリンが「彼の実力も見ておきたい」なんて援護していたとか。
胸が熱くなる。
半年以上押し殺してきた欲求が、ようやく解放される。
アイツや王の前で実力を示せれば、俺も騎士として認められやすくなるだろう。
……正直、兄ちゃんたちと母ちゃんの仇を討てるなら、従騎士のままでも構わない。
そこまでアーサー王に仕えたいわけじゃないし。
「そう思わないで欲しいな。君には是非、王に仕えて欲しいんだ」
「ッ……夜にいきなり出てくるなよ。アンタ、男でもイケる夢魔なのか?」
「はは、まさか。自分と似た顔の相手なら女の子でも無理かな」
「冗談に真面目に返すな。舌を引き抜くぞ」
目の前に現れたのは、いつもの魔術師だった。
今は殴りかかる気も起きない。夜に暴れたら他の人に迷惑だからな。
「ベイリン卿の剣を作るのにも協力しただろう? 簡単な魔術も教えたし、少しは手を貸してくれてもいいんじゃないかい?」
「お前、俺たちの仇の精霊を逃がしたこと、忘れたわけじゃないだろ。
兄ちゃんと何を約束したか知れねぇが、俺はまだ許せてねぇよ」
感謝はしている。
だが、その恩以上に許せないこともある。
「また邪魔するつもりじゃないだろうな?」
「しないさ。それはベイリン卿との契約破りだからね」
ならいい。取り合えず今復讐するのは、あの精霊だけだ。
……そして復讐が終われば――終われば?
胸がざわついた。考えたことのない問いが、頭をかすめる。
「じゃあ、その時になったら。正式にアーサー王に仕えてみないか?」
意外としつこいマーリンが一拍おいて、静かに続けた。
「そうしたら……シン。君の本当の母親と、生まれた意味を教えてあげよう」
「ッ……!? やっぱり、俺のことを知ってやがるな!」
予感はしていた。マーリンは、俺の出生に関わっている。
呪いまみれで、狂気を抱えて生まれたせいで捨てられた――そう思ってきた。
俺は望まれて生まれた存在じゃないはずだ。
それでも、知りたい。
絶対に良い内容じゃないと分かっていても、気になってしまう。
「……チッ。明日早いんだ、出てけ」
コイツに振り回されているのが腹立たしい。だが、出生のことが頭から離れない。
それでも今は、ランスロット卿との戦いに集中するしかない。
別の事で迷って本気出せなかったなんて恰好悪すぎる。
布団に横になり、『昏睡の呪い』を強め、『不眠の呪い』を弱める。
それだけで、眠りは訪れる。
「一応言っとく。おやすみ、マーリン」
「おやすみ、シン。私は君に期待しているよ」
聞こえてきた声は、いつもの軽薄さを欠いていた。
意識が闇に沈む直前、聞いたことない優しい響きが耳に残った。
〇シン
訓練はしてたが、旅していた時ほど実戦が積めなくなっていた。
勝っても後遺症が残る相手と模擬戦や決闘する方がおかしいが……
アルトリア直々に禁止令が出されていた。
〇ランスロット
将来の円卓最強。
顔、性格、礼儀、腕前全てが揃った騎士。
現時点では、まだまだ成長中。
〇マーリン
人を知れば知るほど、後々の後悔は大きくなる。
少年期の日常回はもうありません。
戦闘とベイリンの話が続きます。