偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子   作:RichArrow

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ベイリンのやらかし その① 何度やらかすんだコイツ

この話から展開が急になってきます。原典寄りにするとなぁ……
とはいえ、今回は繋ぎ回です。



16.ベイリンの投獄

<模擬戦の後始末>

 

 模擬戦の後の訓練場は喧騒に包まれていた。

 

「早く二人を治療しろ!」

「むぐ、結界を出ると身体が重いな……」

「やりすぎですよ、二人とも!」

 

「おっと、まだ近づかない方がいい」 

 

 

 マーリンが結界を抜けようとする騎士たちを制した。

 騎士たちは文句を言おうとするが口を止める。

 

 普段の飄々とした態度ではない。その視線の先――シンの倒れた場所。

 

 袈裟に斬られて流れ出た血は、大地に広がるにつれ赤ではなく、すべてを呑み込むような黒い泥へと変わっていく。

 

 だが――

 

 

「とっとと起きろシン!」

 

 

 ベイリンの一喝でその泥は逆流し、逆再生のようにシンの体へと戻っていった。

 裂けた肉が泥に覆われ、表皮ごと石化して止血されていく。

 

 やがて、シンはムクリと起き上がった。

 

 

「聖剣で斬られるのって、呪いに比べたらあまり痛くないな。

 ……ああ、ランスロット卿、呪いを移します」

 

 

 シンはふらつきながらもランスロットに歩み寄り、手をかざす。

 それだけでランスロットは瀕死から回復したが……代償としてシンの全身から血が噴き出す。

 

 魔剣が与えた不治の呪い、自身の血による毒と穢れを回収したのだ。

 

 

「シン!?」

 

「大丈夫です。石化で止血すれば済みます。呪いも、他のと混ざりますから」

 

「おうシン、すぐ心臓石を食え。血が足りねぇだろ。安心しろランスロット、こいつは猪の死体に突っ込めば治る」

 

「ちょっ!? 恥ずかしいってリン兄!」

 

「負けた罰だ」

 

 

 苦痛に慣れているシン自身は気付かずに平然としていたが、実際は極度の貧血で限界に近い。

 ベイリンは迷わず弟を抱きかかえ、かかる毒の血をものともせずと運んでいった。

 

 冷静さを装っているが、かなり早足で狩っておいた猪の死体へと向かっていく。

 

 ベイリンなりに弟を心配していたのだ。

 

 

 

「もういいよ。まだ少し残ってる血の霧を吸わないようにね」

 

「動けますかランスロット卿」

「騎士ランスロット、良い戦いであった」

「感想は後! 今はすぐ治療だ!」

 

 

 一方、ランスロットの元にも仲の良い騎士たちが集まり介抱していく。

 瀕死でなくなったとは言え、重症には変わりない。

 

 がやがやと感想を述べる騎士仲間に担がれ、そのまま医務室へ。

 

 

 こうして慌ただしくも模擬戦は終幕した。

 

 

 

 

 しかしその影で――

 

「恐ろしい化け物がッ! 聖剣頼りのフランス騎士風情がッ! 我が軍の品位を下げるな!」

 

「フンッ……どちらも死ねば良かったものを……」

 

 恐怖と嫉妬に駆られた者たちの昏い声が残っていた。

 

 


 

 

<Side:ベイリン>

 

 

 夕飯を食い終わった後、夜番の騎士に交代を申し出て夜の城を歩く。

 シンとベイランがいねぇから静かなモンだ。

 

 今日はベイランが外に出ててよかったぜ。

 傷だらけのシンの姿みたら、飛び出していっちまってろうしな。

 

 ま、俺とマーリンが介入しなくても、どっちも死なずに終わって良かったわ。

 

 

 少しやりすぎだった気がしなくもねぇが……騎士は舐められちゃダメだ。

 後二年で十五になるならガキ扱いしちゃいけねぇ。

 

 アイツをただのガキ扱いするなんざ、目が節穴な連中だけだろうがな。

 

「クク、シンが贔屓されてる従騎士と思ってた連中もひっくり返っただろうよ」

 

 模擬戦の後の様子を思い出し、つい笑いがこぼれちまった。

 

 でも、こんな真っ暗な夜の廊下で俺の独り言聞くヤツなんざいねぇだろよ。

 

 もし、そんなヤツがいるとしたら――

 

 

「ベイリン卿? 何故ここに? 今日の夜番は貴方ではないはず…」

 

 

 クソ怪しいヤツってことさ。

 

 

………………………………

 

 

 昼間の模擬戦で見学許可をもらえなかったザコ連中が集まってらぁ。

 暗いと怖いからって連れションかよ。

 

 

「おう! 今日の当番は調子悪そうだったから変わったんだわ。

 弱ぇ奴は結界ありでもシンの呪いに耐えられねぇからな」

 

 

 お? まだ顔色悪そうなのが反応した。

 弱いって言われて、腹でも立ったかぁ?

 

 

「そうですか。お疲れ様です」

 

「で、ソッチは集まって何してんだ? 娼館ならもう閉まってるぞ」

 

「行くわけないでしょう」

 

「模擬戦で興奮した連中はさっさと行っちまったぜ。……誰かが奢ってやったらしいがな」

 

「……失礼します。  ……ッ!!」

 

「オイオイ、俺は何で集まってんだで聞いてんだよ」

 

 

 軽~く殺意を向けてやる。

 

 ……鈍いなコイツら。それに動き止めるくらいなら剣を抜けよ。

 シンならすぐに斬りかかってくれるぞ?

 

 

「もしかして…ランスロット卿の見舞いか? 昼間も多かったんだよな」

 

「そうそう、我々もランスロット卿が心配で!」「おい、止めろ!」

 

「コッチ向きの通りに医務室はねぇよ。あんのは持ってく麦粥を作ってる部屋だぜ

 体力付けるために夜も食ってもらうためのなぁ」

 

「……ランスロット卿が心配ですので、手伝おうかと」

 

「ハハハハ! 普段のアーサー王の従妹とか言ってて、偉そうなアンタが!

 従者の真似事をして麦粥作り!? ハハ! ハ、ゴッホゴホ……」

 

 

 やっべぇ、笑いすぎてむせた。お前ら、俺を笑い殺す気か?

 だとしたら、必死に頭使っていると褒めてやりてぇぜ!

 

 

 

 ……ここまでふざけてきたけど、そろそろ限界だわ。

 

 

「じゃあアンタが持ってる小瓶は何だ? 麦粥に入れる薬か?」

 

「「「……!?」」」

 

「……何のことだ?」

 

 

 三人は顔に出てるが、偉そうなヤツがそのまま続ける。

 まだ、言い訳できると思ってんのか?

 

 

「鼻のいいカヴァスがシンの血の匂いで伏せてる。シンは寝込んでる。

 ランスロット卿は重症。そりゃ見逃せねぇよなぁ」

 

「だから何の事だッ!? 薬だとしたら何か問題でもあるのか!?」

 

「じゃあアンタが先に飲んで効くって証明してみろ。ちょうどシンの血もあるぜ」

 

 

 最後の一人の表情も崩れる。

 言葉遣いも崩れた目の前の連中がようやく剣呑な気配を出してくる。

 

 それでも、危機感がないな。俺に勝てるとでも?

 

 

「私はアーサー王の従妹だ。その意味が分かるか?」

 

 

 ああ! それで押し通せると思ってるのか!

 お前の名前が出ない時点で底が知れてるな。

 

 でもそんなの関係ねぇ。

 苛立ちを抑えずに問いただす。

 

 

 「オイオイ、もしそれでランスロットに何かあったら、誰が疑われると思ってるんだ?」

 

 

 コイツらの魂胆を知った時点で、最初から弁明なんざ聞くつもりもねぇよ。

 

 

 

 俺がここにいる理由。

 そりゃ、初めから知っているからだ。

 

 俺が仇を逃がしたマーリンを許す代わりにした契約――『兄弟に危機があれば助言する』

 

 前々から言われてた、シンに対する“危機”

 

 アイツは元々怖がられやすい。そういう呪いも持っているんだろう。

 悪者に仕立て上げられたら……色んな連中は簡単に箍が外れる。

 

 『シンなら、どれだけ石を投げてもいい』

 『シンなら、嫌な事の原因にしてもいい』

 『シンなら……』

 

 その先を考えるのも嫌になる。

 だからとっとと解決しちまいたかった。

 

 んで、コイツらにコソコソされるのが面倒だったから、引きずり出すためにマーリンと模擬戦の準備をしてきた。

 アイツだってアーサー王の邪魔になる味方は減らしたいらしい。

 

 

「もう一度聞くぜ、誰になすりつけるつもりだ」

 

「……」

 

 

「俺の弟だろうが」

 

 

「不敬者と化け物の二人消えるだけだ」

 

 

――――ザンッ――――

 

 

「お前も教官役だからって偉そうにしてんじゃねぇ!」

「たいした血統もない田舎騎士が!」

「”蛮人”らしく、ピクト人の股から産まれたんじゃねぇの」

 

「どけ”蛮人”、私は忠義の騎士として城の不穏分子を消すのだ」

 

 

 連中が俺をどかして歩き出そうと足を動かす。

 

 下半身だけが前へと進んで、上半身が崩れる。

 

 

『ぎゃあぁぁぁぁああぁぁぁぁ!?!?』

 

 

 あ~あ、廊下が血まみれだ。明日掃除する従者には申し訳ねぇな。

 斬るなら首にしときゃ良かった。うるさくてかなわん!

 

 

「何だ! 何が起きた!?」

「キャァァァァ!!!」

 

 

 叫び声に呼ばれて他の夜番の騎士や近くの部屋の従者たちが集まってくる。

 恐怖と疑いの視線は集まってくるが、どう見ても加害者は俺だ。

 

 

 でもいいか。

 シンだけじゃなく、ランスロットも守れたんだ。

 

 模擬戦で弟が世話になったんだ。

 コレくらいは恩を返してもいいだろう。

 

 


 

 

<Side:シン>

 

 

 ……むにゃ。背中がグネグネする。

 

 目を開けると、暗くて臭い場所。鼻につく血と泥の匂い。

 

 確か……リン兄に「回復のためだ」って狩りたての猪の死肉に突っ込まれたんだっけ。

 うへぇ、服も体も血と油でベトベトだ……

 

 

 でも体の調子はとてもいい。

 近くに転がってるグーラも血肉を喰らってひび割れが治ったらしく、機嫌よさそうだ。

 

「んん~~」

 

 死肉の中から這い出して、大きく伸びをする。体が鈍ってる。どれだけ寝てたんだ?

 

 

「シンッ! ようやく目を覚ましましたか!」

 

「ラン兄。おはよう。どうしたのそんな慌てて」

 

「三日間も眠っていたのですよ! どれだけ心配をかければ気が済むのですか」

 

「三日……!? ……あー、ごめん。最後の方でやりすぎたかも?」

 

 

 あの時の俺、なんかおかしかった。俺というか……俺たちというか。

 

 考え込んでいると、体からずるりと血肉が落ちて地面を濡らす。

 ……うん、今の俺、とんでもない匂いしてるんだろうなぁ。

 

 

「そういや、リン兄は?」

 

「……兄上は城の地下にいます。投獄されました」

 

「……は?」

 

 寝ぼけは一気に吹き飛んだ。

 

 

………………………………

 

 

「アーサー王たちも事情を察してたから、そんな重い罰じゃないんだ……」

 

「ですが、事実としては武器を抜いていない騎士を突然斬ったのです。当然罰を受けます」

 

「……俺やランスロット卿のために?」

 

「シンは気にする必要ありません! 兄上がもっと賢く立ち回ればよかったのです」

 

 

 珍しくラン兄がリン兄に怒っていた。

 俺だけじゃなく、自分も除け者にされたのが腹立たしいのだろう。

 

 とはいえ、本当に軽い謹慎らしい。俺たちが面会に行くのも許されていた。

 

 

「じゃあ、すぐに行こう!」

 

「その前に体を洗って着替えてきなさい。その状態で城内には入れません」

 

「……うん、はい」

 

「それと、シンが作っているあの剣を持ってきてほしいと兄上が」

 

「あれ、まだ未完成だよ? まぁいいけど」

 

 

 本当に重い謹慎ではない為、俺たちも会いに行っていいらしい。

 なら、すぐに会いにいかないと――

 

 どうせ兄ちゃんたちに渡すつもりで作っている。

 でも完成させたかったんだけどな……最近見つかった竜の心臓あればいいだけなのに

 

 

 

 

「おう、やっと起きたかシン。三日間も腐った猪の中で寝やがって」

 

 

 じめじめした地下牢。鉄格子の奥のリン兄は、いつも通りの顔だった。

 広めの部屋を一人で使い、着替えも食事も揃っている。見張りの騎士も厳しくない。

 

 ……謹慎っていうか、ただの休暇じゃない?

 魔術封印のない牢なんて、リン兄なら素手で壊せそうだし。

 

 

「もっとマシな回復方法ないの? まだ臭い取れてないんだけど」

 

「お前、マトモな治療術が効かねぇだろ。呪いのせいで治せねぇのに、別の呪いのおかげで再生すんだからよ」

 

 

 俺が文句を言っても、普段通りの答えが返ってくる。

 気にしてないどころか、筋トレまでして充実してそうだ。

 

 

「最近は跳ね返りの強い騎士ばっか鍛えてたからな。久々に自分の技を磨く時間ができたぜ」

 

「兄上、もう少し反省の態度を……もっと上手くできたでしょうに」

 

「ハッ。アイツらが言っちゃいけねぇことを言ったんでな」

 

「どういうことです?」

 

「お前もキレるから言わねぇよ」

 

 

 リン兄とラン兄の会話を横目に、俺は背負ってきた布をほどく。

 剣を取り出すと、見張りの騎士が思いっきり嫌な顔をした。

 

 ……まぁ、自分でも気持ち悪い見た目だと思うし。

 

 ちゃんと牢の中にいるならば、素振りぐらいは許しているからOKらしい。

 謹慎とは? 

 

 

「リン兄、まだ未完成だけどいいの?」

 

「おう! もう一本あればもっといいが……おい、やっぱキモイなこの剣!」

 

 

 鉄格子越しにロングソードを渡す。

 

 正確には、魔獣や妖精、ピクト人の肉を俺の呪いで石化させ、剣の形にしたもの。

 頑丈だし壊れても勝手に修復する。よく剣を折るリン兄のために作った石の剣だ。

 

 

「これが未完成? ……刀身に浮いてる血管みたいなのが蠢いてますけど」

 

「妖精っぽい目玉と目が合った気が……」

 

「まだ竜の心臓を埋め込んでないからね。修復速度も魔力伝達も不十分なんだ」

 

 

 アイツの受け売りだ。手伝ってくれたけど、結局グーラより下の性能しか出せなかった。

 ……腰のあたりでグーラが自慢気にカタカタ揺れてるのが、腹立つ。

 

 

「本当は模擬戦のあと三人で竜狩り行きたかったんだけど」

 

「兄上ぇ……」

 

「悪かったって。弱い竜ならお前ら二人でも……あ、そうだ!」

 

 リン兄が急に声を上げる。まさか、脱走とか言い出す気か?

 

「ランスロットを連れてけ! リハビリになるし、シンと仲がいいって示しときゃいいだろ!」

 

「……兄上、その機転をどうして活かさなかったのですか」

 

 

 確かにランスロット卿との模擬戦はやりすぎだったかもしれない。

 最後の方は本当に殺す気でやってたから、誰かに文句言われても否定できない……。

 

 ランスロット卿に謝罪と感謝をしたかったし、誘ってみよう。

 

 俺とラン兄とランスロット卿、弱い竜相手なら過剰戦力では?

 

 

「じゃあリン兄、行ってくるよ」

 

「兄上、私たちがいない間、くれぐれも大人しくしてくださいよ!」

 

「わぁーった、わぁーった」

 

 

 こうして俺とラン兄は、城の外に出ることになった。

 模擬戦のあとだからか、俺が討伐に出ても周囲が認めてくれるようになって楽になった。

 

 帰ったら剣を完成させないとな!

 

 

 

 ……でも。

 この時、外に出たことを俺たちは深く後悔することになる。

 

 リン兄が大人しくしているわけがなかった。

 

 ましてや――“アイツ”が現れたのだから。

 

 


 

 

〇シン

 冤罪を受けやすい体質。そのための生贄として作成されたから当然。

 一度受けると、他の罪や悪意も集まりだすので、まだ早いとマーリンも協力した。

 

〇ベイリン

 原典より投獄理由がかなりマシになった。

 どのみち、アーサー王の従妹を殺したけど。

 本作では半年も牢にはいない。

 

〇石の剣

 ヘラクレスが持ってるのを長剣サイズにして、アチコチに血管と目玉が浮き出た剣。

 作り方からしてマトモな剣にならないけど、有名な魔剣ほどでもない。

 

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