偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子   作:RichArrow

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Fateネタと被ってたので、ベイリンの原典の以下の流れカットです。
「ランサー卿が死んだ!!」
「この人でなし!(自殺)」



18.帰郷

<Side:ベイリン>

 

「やっぱいいな、この剣。俺が振っても壊れそうにねぇ」

 

 

 剣を振り払い、刃に付いた血を飛ばす。錆びねぇ剣だが、一応やっておくのが気分ってもんだ。

 

 振り返ると、盾ごと切り払った騎士が血溜まりに沈んでいた。馬は騎手を失い、慌ただしく駆け回っている。

 

「馬鹿な……馬上戦で槍が剣に負けるとは……」

 

 お前みたいなのが何人も来やがったが、槍が折れたから剣でやってるだけだ。

 どっちにしろ、武器ごと防具ごと斬れば勝てる。それだけの話だ。

 

「蛮人が……王に恥をかかせおって……」

 

「お前らもリエンス王の相手を優先しろよ。忠義より感情優先してる時点で、俺と同類だぞ」

 

 それきり黙った。もう息絶えたか。前の奴の方がまだ粘ってたぞ。

 

 

 

 城を出てから数日、俺を目の敵にしていた連中が追ってきては挑んできた。

 でも、槍でも剣でも一撃で終わる相手ばかりでつまらん。

 

 俺を殺したところでアーサー王に褒められるわけじゃねぇ。ただ単に俺が気に食わなかったんだろうな。血統も礼儀もねぇのに、城じゃ一番強かったからよ。

 

 だが、陰でコソコソする奴より、正面から「殺す」と叫んで突っ込んでくる奴の方がまだ好感は持てる。

 俺自身が感情のままに復讐を果たした騎士だしな。

 騎士だろうが人間だ、そういう生き方だってある。

 

 

「ちょくちょく足止めされたが……まぁ進んだ方か」

 

 死んだ騎士から装備や金、食い物を漁って荷に詰め直す。

 馬の頭を軽く撫でて、腹を蹴って進ませる。

 

 復讐を終えた俺の行き先は決まってる。向かう先は――

 

 

「リン兄~~~!!!」

 

 

 ……その前に、あいつらと合流だな。

 俺一人で仇を討っちまったから、怒られるかもしれねぇが。

 

 

 

 

 

「兄上!」「リン兄!」

 

「おう、ベイラン、シン。早かったな」

 

「兄上の行く場所は見当がつきました。それに……」

 

「騎士の死体を辿れば分かりやすかったよ」

 

 

 二人の馬はかなり疲れている。急いで駆けたんだろう。

 いきなり城を飛び出したんだから心配もするか。

 

 三人で馬を降り、木陰に入る。まずは話さなきゃならねぇことがある。

 

 

「……母ちゃんの仇、討ったのか?」

 

「ああ、ヴィヴィアンの首は俺が斬った。一人でやっちまった」

 

「いいよ。俺だって同じ状況なら我慢できなかったろうし」

 

「私たちは、兄上が精霊相手に無事かどうか不安だったのです」

 

「ハハハッ! 見ての通り怪我ひとつねぇよ」

 

 

 ……仇を取れなかったことよりも、俺の心配か。

 全く、良くできた弟たちだぜ。

 

 もっとも、あの無銘の剣がなきゃ危なかったけどな。

 初めて実戦で使ったが、双剣ってのも悪くない。

 

 そうして、城であったことを話す

 俺が狂心無心(アンビバレンス)を完成させて勝ったことをな

 

 

「そうか……俺たちの旅は、終わったんだ」

 

 

 シンが寂しげに呟く。ベイランも力の抜けた顔をしている。

 三年も追い続けた復讐が終わったんだ。

 俺も始めは清々しかったが、今はこいつらと同じ感じだ。

 

 後悔はない。ただ、急に目的を失っただけだ。

 

 

「じゃあ、帰ろうか」

 

「ノーサンバランドの家はまだ残ってるでしょうか」

 

「どうだろうな……母ちゃんの墓は残ってるはずだ」

 

 

 そうして俺たちは故郷へ向かう。母ちゃんに伝えたいことが山ほどある。

 それで、この復讐の旅に区切りをつけられる。

 

 

 

「リン兄、その剣は持たない方がいい」

 

「いいじゃねぇか。便利だぞ」

 

「呪いが掛かってるっていうより、この剣自体が呪いそのもの……悪意の塊みたいで、俺に移しにくいんだ」

 

「気にすんな。呪いなんざ気にしねぇ」 

 

 

 

「竜はどうだった?」

 

「弱くはなかったのですが……」

 

「俺とラン兄とランスロット卿だよ?」

 

「聞くまでもなかったな」

 

 

 

「ああ!? マーリンのヤツ殴れてない!」

 

「いいじゃねぇか。もう精霊は斬ったんだぜ」

 

「いや、復讐とか関係なく、何かムカツク」

 

「アハハ……」

 

 

 ――軽口を叩きながらも、三人で馬を並べ進む。

 

 流れる雲を眺め、穏やかな風を感じるのは、いつぶりだろうな。

 この心地よさが今の俺たちにちょうどいいのかもな。

 

 

 

 

 

 数日かけ、ようやく生まれ育った村にたどり着いた。

 

 

「……帰ってきたな」

 

「あまり変わってませんね」

 

「懐かしい匂いだ」

 

 

 三年では大きな変化もねぇか。

 村人たちも俺たちを覚えていて、復讐を果たしたと聞くと安堵の顔を見せた。

 ……別に村人にまで復讐する気はなかったんだがな。

 

 幸い、怖がられていたおかげか実家は誰も手を付けず残っていた。草まみれだが。

 そうして、母ちゃんの墓の前に座る。大きな石の周囲には草が生い茂っていた。

 

 

『…………』

 

 

 俺も、弟たちも何か言おうとして言葉に詰まる。

 復讐の旅に出てたなんて言えば、絶対怒られただろうしなぁ。

 

 

「ただいま」

 

 静寂の中、シンが先に口を開いた。

 

「えぇ、ただいま帰りました母上」

 

 ベイランもそれに続く。俺が最後かよ。

 

「あー……ただいま母ちゃん。まぁ、元気にやってたぞ」

 

 

 風が吹いて頭を撫でた。……思い込みだろうが、「おかえり」と言われた気がした。

 

 

 俺は……ずっとこの言葉が欲しかったんだ。

 

 晴れていたのに、何かが顔を濡らした。

 

 

………………………………

 

 

「俺は、父ちゃんと母ちゃんに誇れる騎士になりたかった」

 

「私もですよ、兄上」

 

「俺は……兄ちゃんたちと母ちゃんを守れる騎士になりたかったな」

 

「ハハハッ! まだ俺らより弱いのにな!」

 

 

 家に残っていた酒をあおり、墓の前で語り合う。

 

 これまでのこと、そしてこれからのことを。

 

 

「じゃあ、次はどんな騎士を目指す?」

 

「私は……王のためでなく、民のための騎士ですね。城の暮らしも悪くはなかったですが、旅の中で民を助けるのが性に合ってました。母上もきっと誇ってくださるでしょう」

 

 

 ベイランが真っ先に答える。

 

 コイツも俺と同じように、強くても血筋のせいで騎士に嫉妬されてたからな。

 教官役やってた時、どの騎士もシンほどの手ごたえもなくて退屈そうだったし。

 

 それなら、王の配下として他の騎士と共にいるより、旅人として、誰かを助けたりする方がいんだろう。

 

 

「俺は……戦う騎士だな。強い奴と戦って、ついでにブリテンを平和にできたらいい」

 

 

 正直、ベイランのように人助けするよりも、強い奴と戦う方が俺は好きだ。

 蛮人と呼ばれようが否定できねぇな。

 

 だが、民を犠牲にする戦いは嫌だ。

 だから王に仕えて、戦う理由をもらう方が俺には合ってるんだろな。

 

 

「「ま、家族優先だけどな!・ですけどね!」」

 

 

 ベイランと声を重ね、笑い合う。

 俺たちゃ、誇りや忠義より、まず家族。ガキの頃から変わらねぇ信念だ。

 

 互いに頼りになりたい。カッコイイと思われたい。助け合いたい。

 ガキの頃から変わらない俺ら双子の信念だ。

 

 そして、俺たちには守るべき末弟がいる。

 

 その弟、シンは悩んでいた。

 

「俺…俺は……」

 

 シンが口ごもる。

 

 

「シン、この旅で大切なものは見つけられたか?」

 

「シン、この旅で人のことを知れましたか?」

 

 

 さて、俺らの弟は何を得たんだろうな……

 

 


 

 

<Side:シン>

 

 旅で見つけたことか……。

 

 

 村の外でも人間は変わらなかった。

 

 嫌なことは押し付け、悪いことは誰かのせいにする。

 優れた相手には嫉妬し、劣った相手を見下す。

 そして後悔しながら死んでいく。

 

 皆、自分が一番大事。

 

 

 精霊探しの途中で出会った民も、城にいた騎士たちもそうだった。

 

 だから――俺のやりたいことは変わっていなかった。

 

 

 そんな可哀想な人間は誰かが助けてやらなきゃ――

 

 チガウ

 

 俺は人を楽にする力があるから彼らに使わなきゃ――

 

 チガウ

 

 彼らの代わりに嫌なことを引き受けてやれば――

 

 チガウ

 

 

 思考に雑音が混じる。綺麗ごとを並べる自分に違和感を覚える。

 

 

 本当に人間を助けたいと思っていたのか?

 

 違う。精霊以外にも嫌いな人間はいた。

 自分のためにしか生きられない人。他人を受け入れられない人。

 

 彼らは助けたくない。

 

 だから、自分もそうなりたくない。

 

 

 

 本当に人間はみな可哀想だったのか?

 

 違う。美しい在り方をした人間たちが確かにいた。

 愛、誇り、忠義――色んな理由で誰かのために命を懸ける人たち。

 

 彼らは助けたい。

 

 だけど、自分もそうなりたいとは思わない。

 

 

 旅の中で俺は人の醜さと美しさを見た。

 それで、俺の何かが変わったのか?

 

 思考が沈んでいく――

 

 

 

 

 俺の始まりは、父ちゃん、母ちゃん、兄ちゃんたち。家族だ。

 

 単純に皆に褒めてほしかった。スゴイと言われたかった。

 ”認められたい”、人間が持つ強い欲求だ。

 

 だから家族が願う自分になろうとしたけど――矛盾していた。

 

 

 母ちゃんが誇れる騎士は、誰かのために頑張れる人間だった。

 強いかどうかじゃない。弱くても、民を守るために命と誇りを懸けられる存在だ。

 

 でも母ちゃん自身は、俺たちに幸せに生きてほしいとも願った。

 誇りよりも、自分のやりたい事を選んで生きる、普通の人間であってほしいと。

 

 誰かの為に頑張る事が好きな人間じゃないと同時に満たせない。

 だから、俺もそうなるべきだ

 

 

 ……そう思い込む時点で、俺はもう自分のやりたい事を見失っていた。

 

 俺は、何で、そう思い込んだんだ?

 俺の始まりはここじゃない?

 

 

 さらに奥へと思考を沈める――

 

 

 

 

 ずっと、ずっと、心の奥からたくさんの声が叫んでいた。

 そして、人から移したものもどんどん積み重なっている。

 どれもこれも俺の本心じゃない。

 

 その奥底で、呪いを見つけた。

 

 

 「暗示の呪い」――神話や物語でよくある類のもの。

 珍しくもない、俺にかかっている呪いのひとつだろう。

 

 

「ありゃりゃ? ばれちゃった☆」

 

 

 懐かしい響きの女の声。

 

 お前か、俺の願いを勝手に決めていたのは。

 

 

「違うよ~、あくまで軽~い暗示。ゴミがなければ空っぽなシンには必要でしょ!

 『人を好きになるほど、人のためにその身を捧げる』――いいでしょ?

 君が美しいと思う存在、その頂点たる救世主様と同じになれるんだよ!」

 

 

 ……なら、俺が誰かを嫌いになるのはお前の予想外だったわけだ。

 少し嫌いな人間を知っただけで迷う時点で、俺はそうなれない。

 

 

「じゃあ君の願いは何? 思いはどこ?

 悪魔から怒りの感情をもらっただけの空っぽの器でしょ?

 だったら偽物でも救世主様らしくなっちゃえばいいじゃ~ん」

 

 

 俺自身の強い思い――それは母ちゃんが死んだ時にあった。

 あの時、怒り以上に感じた感情がある。

 

 

 美しい。

 

 

 生命としての死への恐怖、人として死後の罰への恐怖。

 その二つを乗り越えて、愛と誇りを抱いたまま死んだ。

 

 あれを超える感動は今までになかった。

 

 だから、もう一度見たい。

 

 

「父親似だね☆」

 

 

 そのために何をすべきかは分からない。

 それでも、俺の望みはようやく分かった。

 今度はそれを見つけるように生きていこう。

 

 

 あばよ、クソ女。

 

 暗示なんかなくても、人助けしてやるよ。

 母ちゃんに誇れる息子にもなりたいからな。

 

 

「アハッ! アハハ! ()()思いのいい子だねぇ!!!」

 

 

………………………………

 

 

「お~いシン、そんな考え込むほどか?」

 

「楽しかったことや、好きなことを言えばいいだけですよ?」

 

「兄ちゃん、俺は旅でいい奴と嫌な奴を知った」

 

「「お、おう」」

 

 

 

「兄ちゃんたちの次くらいに助けてやってもいい人がいた。

 逆に、母ちゃんに怒られても斬りたい奴もいた」

 

「俺はそう思うとすぐに斬っちまったな!」

 

「兄上、それで投獄されるのはどうかと……」

 

 

 

「ラン兄みたいに民を助けるんじゃなく、気に入った人を助けたい。

 嫌いな相手ならリン兄みたいに戦いたい」

 

「「すっごいワガママ!」」

 

 

 

「そして……人の、国の、世界の、最高の最後を見てみたい!!!」

 

「……?」

 

「とりあえず、ブリテンがサクソン人とかピクト人に負ける最後は嫌かな」

 

「いきなりデカイこと言うなぁ」

 

 

 上手くまとまらなかったけど、やりたい事は言えた。

 

 俗っぽいけど、それが俺だ。

 俺だって人間なんだから、これくらい欲張りでいい。

 

 

 

 

 

「”民のため”、”強いヤツとの戦い”、”異民族に勝つ”、じゃあ俺らがやることは……」

 

「サクソン人狩りじゃあぁぁ!!」

 

「異論はありません。まずは南へ行き、目につく敵を殲滅しましょう」

 

「いやいや君たち、もっといい方法があるよ」

 

『ッ!!!』

 

 

 死ねぇ! クソ野郎! どっから現れやがった!

 チッ、ラン兄に止められた。

 

 

「君、容赦なくなってない? 吹っ切れすぎでしょ」

 

「シン、話くらい聞きましょうよ」

 

 

 ……そうだな。復讐は終わった。マーリンを斬る理由はない。

 でも、誰かを嫌う気持ちを自覚したせいで、つい動いた。

 

 ん? 何で俺、コイツのこと嫌いなんだ?

 

 

「ブリテンをサクソン人から救う最短の方法があるんだ」

 

「あ~まさか……」

 

「君ら三人だけじゃなく、国で団結して戦うこと。それは分かるね?」

 

「いやいや、兄上は追放されましたし……」

 

「そう! アーサー王のブリテン統一を手伝ってほしいのさ」

 

「「「今更、できるか!」」」

 

 

 バカなのかコイツ!?

 リン兄がやらかしたし、俺もラン兄も勝手に出ていったんだぞ?

 

 どの面下げて戻れってんだ。

 

 

「追放され、リエンス王の目から離れた君たちだからこそできる事があるんだ」

 

 

 そう言って、マーリンは俺たちを戦場へと誘った。

 

 アーサー王は嫌いじゃない。

 皆のやりたい事とも一致する。

 マーリンの口車に乗るのは癪だが、それ以外は悪くない。

 

 

「分かった。ベイラン、シン、やろうぜ――リエンス王への襲撃」

 

 


 

 

〇ベイリン

 省略したが、色んな騎士に追いかけられてた。

 でも原典通りに一撃で勝ち続けた。

 

〇シン

 最愛の養母の死で価値観が歪んでいたクソガキ。

 マーリンの血筋と思えば、元々こういう性格だとも言える。

 彼のとっての美しい最後は本当のハッピーエンドというわけではない。

 

〇暗示の呪い

 どの神話でもある呪い。大抵のロクなことにならない。

 魔女の仕込みでシンの思考の方向性がいじられてた。

 魔女の暗示も、繋がった悪魔の暗示も残っている。

 

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