偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子   作:RichArrow

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24.幻騎士との決闘

<Side:???>

 

 ワタシは、私は誰だ……何だ……。

 

 色々と混じりすぎて自分が分からない。

 少し前に受けた災厄の血の影響もあるのだろう。

 

 しかし、止まれない。前に仕掛けた罠の仕上げをしなくては。

 

 

 

 ……準備をしながら少しづつ思い出す。ワタシの核となる存在を。

 

 ワタシは、ブリテンそのもの、湖の精霊、ヴィヴィアンと呼ばれる存在だったはず。

 星の最後の神秘そのもの、ブリテンに導きを与える尊き者。

 

 しかし――肉体の共有する魔女の影響を受け、憎悪に呑まれた。

 そのまま報復を仕掛け、忌み子から血の穢れを受けてしまった。

 

 ……思い出すだけでも腹立たしい。

 その上、穢れが精霊であったヴィヴィアンに致命的な欠陥を与えたのだ。

 

 

 ブリテンの神秘そのものであるヴィヴィアンであったが、神秘の終焉によって集った他の神性の影響を受けないようしていたが――それが壊れたのだ。

 受けた穢れを中心にあらゆる神性の残滓、特に負の面が存在を蝕む。

 

 それによって、今のワタシの様に感情的になりやすくなった。

 だが、逆に言えばその程度で済ませれるはずだったのに……。

 

 

 前のワタシは怒りのまま、アーサー王へと怨敵の死を嘆願した。

 そして……ベイリンの逆襲によって首を斬られて死んだ。

 

 その時、同時にワタシも切り離されたのだ。

 

 湖の精霊として再誕する前に、悪しき部分として、不要な部分として捨てられた。

 

 

 ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!!!

 

 ワタシもヴィヴィアンだ!

 

 この怒りは決して不要な物ではない!

 

 

 どれだけ憤ろうが、首だけのワタシにはどうすることもできない。

 それでも、このまま消えることなどできるものか!

 

 ”消えたくない”という願いはワタシを侵す神々の残滓と一致した。

 ワタシたちは混ざり合いヴィヴィアンではなくなった。

 

 

 

 ああ、ようやく思い出した。

 ワタシの名前はリュヴィエル、暗き湖、汚泥の精霊だ。

 

 神々の災いを起こし、人に恐怖と絶望を記憶させて定着するもの。

 このブリテンの大悪霊である。

 

 ワタシを切り捨てた精霊も、今だ力を持つ神秘全てが妬ましい。

 人などワタシへ負の信仰を残すためだけの家畜にすぎない。

 

 

 だが……ワタシの復讐を真っ先に果たさねば気が済まない。

 

 蛮人ベイリンとベイラン、忌み子シンに最悪の死を与えなくては!

 

 

 ようやくだ。ようやくそれは果たされる。

 

 既に一人は孤立したところを絡めとった。

 残る二人は念には念を入れて弱らせた。

 

 前のワタシを殺し、今のワタシを生み出したあの兄弟には決して油断などしない。

 このまま、最後の詰めまで確実に行う。

 

 

 ハ、ハハハ、アハハハハ!

 

 貴様らは最愛の者の手にかかり死ぬのだ!!!

 

 アハハハハハハハハ!!!

 

 


 

 

<嘆きの運命>

 

 

「やはりこうなってしまったか……シンに感謝するといい。

 聖槍の一撃がこの程度で済んだのは、その子のおかげだよ」

 

「悪いけど、シンの状態は治せない。これまでのように段階的に呪いを引き受けたのではなく、聖槍がもたらす呪いを一度に受けたんだ。私にもお手上げさ」

 

 城から投げ出された兄弟を助けに来たマーリンだったが、シンを癒すことはできず、安静にさせるしかないとベイリンに告げた。

 だが、破滅した国々と、それによって負の感情に満ちた大地では、決して戻らない。

 

「……出ていくしかないな。世話になったな、エモ」

 

 そうして、ベイリンは昏睡したままの弟シンを背に、城の跡から去った。

 

 

 

 

 そして――聖杯城での戦いから、十日が経った。

 

 ベイリンは昏睡したままの弟を背負い、荒野を馬で進んでいた。

 

 雑草一本すら枯れ果てた大地。

 死んだ魚が浮かぶ川。

 建物の多くは崩れ、村には人影もない。

 

 己の一撃がもたらした破滅を目の当たりにしながら、

 追い出されるようにベイリンは進み続ける。

 

 目的地などない。

 キャメロットへ戻るわけにもいかず、ただ弟を休ませる場所を探していた。

 

 しかし、まだ滅びの領域から抜け出せてはいなかった。

 

 

 

「……俺もそろそろ休まねぇと、やべぇな……」

 

 ベイリンと愛馬の両方が、限界に近づいていた。

 無尽蔵の体力を誇るベイリンでさえ避けられないもの――背に負う弟の呪いである。

 

 

 シンは意識を失い、内包する呪いの制御が甘くなっていた。

 瘴気を混ぜた息を吐き、左手が触れた箇所を石や黄金へと変えようとする。

 傍にいる者には恐怖と渇望、そして深い眠気を与え、精神をも蝕む。

 

 シンは呪われた存在。その近くの他者へ嫌悪感を与える。

 呪いの数々はシンを「殺せ」「殺してくれ」と周囲へ囁き続ける。

 

 制御できなかった幼きシンを知るベイリンでさえ、今の呪いにはただでは済まなかった。

 力も、種類も増した呪いが、かつてない凶悪さで彼を蝕む。

 

 

 それでもベイリンは止まらない。

 愛する弟を救うためなら、この程度の疲労など屁でもない。

 

 そして彼は、聖槍の一撃を放ったことを後悔してはいなかった。

 あの場で二人とも死ぬよりは、遥かにマシだったからだ。

 

 もう一つの原因である聖槍に対しても、確執はない。

 ベイリンにとって、どれほど神聖であろうと武器は武器。

 

 むしろ、聖槍の癒しの力を便利に使い回していた。

 もっとも、聖人でない彼には大した癒しはできず、疲労だけが積み重なっていったが。

 

 

 

 やがて、馬すらも脚を引きずりながら進む中、遠くの地平に影が見えた。

 

 霞む地平線の向こう、古びた城と、その傍らに寄り添うように浮かぶ小島。

 陽が差すと、城とそこへ続く橋の輪郭が浮かび上がる。

 

 ふとベイリンが足元を見ると、雑草が生え始めていた。

 

 ようやく辿り着いた破滅の外にある建築物。

 しかし、ベイリンの顔に喜びはなかった。

 

 ぼやけた城の向こうに、不吉な気配を感じ取っていた。

 

 

 立ち止まるベイリンの耳に、城から角笛の音が響く。

 風を裂くような高い音が、丘の向こうまで届いた。

 

「……俺を呼んでやがるのか?」

 

 ベイリンが獰猛に笑う。

 明らかに罠の匂いがしても、歩みを止めない。

 

 理由は単純――誰もが、休息を必要としていたからだ。

 

「いいさ、どんな罠でも構わねぇ。

 せめて、一晩だけでも寝られる場所があれば――」

 

 そう呟き、ベイリンは馬の手綱を引いて橋へと進む。

 

 

「ようこそ、騎士様」

 

「よくいらっしゃいました」

 

 

 城門は開かれ、橋の両脇には従者たちが並び、笑顔で出迎える。

 だがその笑みの奥に、言いようのない違和感が走った。

 

 無視して進むと、城から絢爛なドレスを纏った一人の女が姿を現す。

 

 

「ようこそ、“双剣の騎士”ベイリン卿。あなたをお待ちしておりました」

 

「俺のことを知ってるなら、城で休みたいってのも分かってんだろ?」

 

「もちろん。ですが、この城に入るには条件がございます」

 

 城主の女は穏やかに告げた。

 

 この城の、隣の島を守る騎士になる必要があるのだと。

 そして今いる騎士に決闘で勝利し、その座を奪わなければならない。

 

 だが……仮に勝利しても、その島の騎士として縛られ続ける。

 

 

「だから何だ。シンを休めさせれるなら別にいい。

 どうせやらかしすぎて戻る場所なんざねぇんだ」

 

「でしたら、すぐにご準備を」

 

 ベイリンは一瞬、城を力ずくで制圧することも考えた。

 だが、アーサー王や聖遺物の守護者のような存在が潜む可能性を思い、やめた。

 

 さすがの彼も、今の消耗した状態でその類の強者に挑むほど驕ってはいない。

 

 怪しげな場所にシンを置いていくわけにもいかず、

 弟を背負ったまま、島へと足を進める。

 

 

(石の剣は奪われた。グーラの狂気も俺は制御できねぇ。双剣は無理か)

(聖槍はやりすぎだ。休む城すら壊しかねねぇ)

(なら……無銘の剣とガーロンの魔槍、変則の二刀流でいくか?)

 

「お待ちください、騎士様!」

 

 

 鎧と兜を着込みながら武器を考え込む。

 そんなベイリンへと城の従者の少女が盾を抱えて駆け寄った。

 

 

「こちらの盾をお使いください。お持ちの魔槍のように、認識を阻害する力を持っております」

 

「ああ、助かる。魔槍はシンのもんだから、どうしようかと思ってたんだ」

 

 明らかに怪しい盾だった。

 誘われるようなこの状況に、あまりに都合が良すぎる。

 

 だが、少女の言葉に偽りはなく、よく見なければ盾の力で彼女自身も霞んで見える。

 

 この時すでに、ベイリンの直感と思考は鈍っていた。

 シンによる呪いの負担は、それほどに重かった。

 

 彼はそのまま盾を受け取り、無銘の剣と合わせて一般的な騎士の装いで構える。

 盾の効果もあり、もはや一目ではベイリンと分からないほどに……。

 

 

 ベイリンは進む。

 島の中心には、待ち構える一人の騎士の影。

 

 背後に誰もついてこない。邪魔もない。

 

 シンを島の入り口に下ろし、ベイリンは戦闘の呼吸へと切り替える。

 

 その瞬間――今まで沈黙していた無銘の剣が、僅かに震えた。

 剣に宿る“呪いの運命”が、ついに追いついたのだ。

 

 ベイリンの、最後の死闘が始まる。

 

 

………………………………

 

 

 ベイリンは、戦うべき相手を見据えた。

 

 全身に靄をまとったような鎧兜。輪郭が歪み、動くたびに揺らいで見える。

 その手にある剣も盾も霞み、実体を掴ませない。

 

 まるで幻のような騎士――幻騎士の全てに強力な認識阻害の力が働いていた。

 

 

「……俺がこの盾使っても文句言われねぇな。おい、アンタ――」

 

「■■■■■■!!」

 

「っぶねぇなッ!!」

 

 

 ベイリンが騎士として礼をしようとした、その瞬間。

 幻騎士は咆哮と共に一閃を放った。

 

 速く、鋭く、重い。まともに受ければ骨ごと断ち切られる。

 だがまだ間合いが離れており、ベイリンは地を蹴ってかわす。

 

 ベイリンは非難するよりも先に反撃の一閃を見舞う。

 疲れなど感じさせぬ斬撃。並の騎士なら一呼吸で真っ二つとなる。

 

 しかし幻騎士は、盾をわずかに傾けて受け流し、靄に紛れた動作で切り返す。

 

 ベイリンもまた、霞む盾で打ち返した。

 

 

「なるほどな。……こういう戦いか」

 

 

 数合のうちに、ベイリンは悟る。

 

 この幻騎士は、力も技も自分と拮抗している。

 そして――この戦いは“隠し合い”の戦いなのだと。

 

 互いの直感、予測、俊敏さは極限まで研ぎ澄まされている。

 故に、正面からの打ち合いではそうそう決着しない。

 だからこそ、互いの装備に効果で存在を隠し、わずかな読み違いを突く。

 

(俺と同格……? いや、今は迷うな!)

 

 頭を振り払い、違和感を押し殺す。

 ベイリンは深く息を吸い、風のように踏み込んだ。

 

 

 そこからは、見えぬ戦いだった。

 

 両社の攻撃は起こりが見えず、速く、重く、鋭い。

 

 風が裂け、地が割れ、火花だけが散る結果だけ残る。

 剣閃は見えず、ただ金属音と爆ぜる音が響く。

 

 時折、赤い飛沫が空を舞うたびに、誰の血かさえ判然としない。

 大地は削られ、空気は渦巻き、足跡が幾重にも重なっていく。

 

「……この血の匂いは」

 

 ほんの一瞬、間が生まれた。

 姿を現した両者の姿は酷いものであった。

 

 下腹部の鎧は砕け、裂け目から腸が覗く。

 腕も脚も裂傷だらけで、血が滲み落ちていた。

 それでも致命傷は避けている。兜と胸部の鎧だけがまだ形を保っていた。

 

 

「はぁ……はぁ……。狂ってなきゃ、お前が勝ってただろうな」

 

「………………」

 

 盾だけが認識阻害を持つベイリン。

 全身の装備に効果を持つ幻騎士。

 しかし天秤は、少しずつベイリンの側へ傾き始めていた。

 

 疲労困憊でも、ベイリンの剣は鈍らない。

 対する幻騎士は、狂気に呑まれ、元来の技を発揮できていない。

 

「……まさか、どうして!? 止めろ二人とも!」

 

 遠くで誰かの声が響く。

 だが二人の騎士の耳に届くのは金属音と荒い呼吸だけだった。

 

 

 再び戦いが始まる。

 次に止まるとき、それはどちらかの命が果てた時。

 

 優勢に見えたベイリンは、盾の限界を悟り、賭けに出る。

 幻騎士の不可視の速攻が突き刺さるようベイリンへ迫る。

 弾くか、避けねば死――だが、彼は敢えて正面から受けた。

 

 パキンッ

 

 盾が砕け散る。破片が飛び、認識阻害が切れてベイリンの姿が露わになる。

 盾を持っていた左腕はもう使えない。血が滴り、握力も消えた。

 

 だが次の瞬間――幻騎士の動きが止まった。

 割れた盾の破片が、兜の隙間を抜け、片目を刻んでいたのだ。

 

 それこそが、ベイリンの狙い。

 極限まで高められた技量による予測不能な一手。

 

 

「終わりだ」

「間に合えぇぇぇ!!!」

 

 

 盾が砕けるより前から、ベイリンは右手に力を込めていた。

 全てを断ち切る突き――防御も回避も許さぬ一撃を放つ為に。

 

 幻騎士も反応しようとするが……

 認識阻害が消えたベイリンの姿を見て、何故か止まった。

 

 そして、勝敗を決める刹那の一撃が――

 

 

「らぁぁぁああああ!!!」

 

 

 だが、二人の間に小さな影が割り込んだ。

 

 互いの実力的にあり得ないことだったが、戦いに集中していた二人の視界には、それまで何も映っていなかった。

 

 まるで――何者かに殺し合いにのみ熱中するように後押しされた様に……

 

 

(シンッ!? 止めッ!!)

 

 

 ベイリンの瞳に映ったのは、最愛の弟の姿。

 兄の血の匂いで目を覚ましたシンが、魔剣グーラを盾のように掲げていた。

 

 

 放とうとする突きを手首を逸らそうとしたが――できなかった。

 

 忘れていた最悪の呪いがついに牙をむく。

 それは聖剣の出来損ないが持つ呪い、シンですら移せなかった呪い。

 

 

『その手で愛する者を斬る』

 

 

 ベイリンの意志と裏腹に最高の突きは止まらない。

 それどころか肉体は全力以上の勢いが出す。

 

 

 無銘の剣がこれまでになく黒く輝き、魔力を放出する。

 聖剣の光が反転したが如き暗黒が刀身へ収束する。

 

 

 聖槍に匹敵する突きが放たれ――グーラを折り、シンの胸を貫いた。

 

 

「間に合った、リン兄、()()()……」

 

「は?」

 

 

 呆然とするベイリンの耳に、あり得ない名が届く。

 ラン兄――ベイラン。

 

 シンは体を剣に貫かれながらも、二人の兄にかけられた狂化の呪いを引き受け、力尽きた。

 地面に倒れ伏すその後ろ――幻騎士の姿が現れる。

 

 

「あ、に、うえ……シ、ン……すみま……」

 

 

 シンを貫いた刺突は、背後の幻騎士の右胸も抉っていた。

 弟の献身により心臓こそ避けたが……明らかな致命傷となっていた。

 

 

 そして、幻騎士が震える手で兜を外した顔は――ベイランだった。

 

 

「あ あ あああ……」

 

 

「あああああああああああ!!!」

 

 


 

 

〇リュヴィエル

 DBでいうと神様から切り離されたピッコロ大魔王。

 ベイリンが斬ったヴィヴィアンの首が堕ちた神霊たちと混じってしまった。平将門かな?

 シンが人の罪と呪いを押し付けられるのにに対して、神霊の負の面を押し付けられた。

 もはや湖の精霊でなく、泥の精霊、闇の精霊、ブリテンの大悪霊と呼べる存在。

 

〇ベイリン

 呪いを甘く見ていた。

 最高の肉体と技量を持つ騎士同士で正面から暗殺し合うみたな決闘をした。

 盾を砕いて飛ばす技は、宝具をあまり使わないベイリンだからこそ。

 本来の彼の物語はここでベイランと相打ちなる。しかし、既に運命は変わった。

 

〇ベイラン

 ここにいた経緯は次話で

 

〇シン

 実は血を与えれば回復が早まっていた。

 目が覚めたら、二人の兄が呪われて殺し合いしてたのにビックリ。

 このまま死なない。死ねない

 

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