偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子 作:RichArrow
ベイラン視点 ⇒ シン視点 ⇒ 三人称
<Side:ベイラン>
何故こうなったのか……?
決まっている。私が愚かだったのだ。
諸王との決戦の後、私はアーサー王からの命を受けて、ある城と島の調査を始めた。
その城には奇妙な噂があった。
――城から出てくる者はいない。
――付近の村から住民が突如として姿を消す。
――サクソン人ですら近寄らない。
……妖精か、あるいは人外の仕業だと思われた。
だが、もしサクソン人やピクト人の拠点となっているなら、放置はできない。
村民を犠牲にしているなら、なおさらだ。
私はいくつかの村を巡り、助けを求める者たちを手助けしながら、合間にその城を監視した。
最初のうちは無人の城だと思っていた。
だが、夜になると光が灯り、風に乗って呻き声が聞こえてきた。
……その不気味な光景を、何日も何日も見続けていたある日。
村の老婆が口を開いた。あの城と島にまつわる話を――。
曰く、あの城はかつて豊かで、ある神に生贄を捧げることで繁栄していた。
隣の島こそが、その“祭壇”だったという。
だが、いつからか人々は神への捧げものをやめた。
それにも拘わらず、欲望と怨嗟ばかりが集まり、神は歪んでいった。
やがて神は呪いを下し、城も村も無人となる。
それ以来、城には人と神の悪霊が残り、今も生贄を求め彷徨っている――と。
……昔話としては出来すぎている。
その話を聞いた後も、行方不明者は増える一方だった。
悪霊が蘇ったのか? それとも、誰かがこの城を乗っ取ったのか?
どちらにせよ、私一人では手に負えぬ。キャメロットへ戻り、報告せねば。
そして、魔術師を借り、悪霊退治を正式な命として行うべきだ。
――そう思った矢先、近隣の村がまるごと消えていた。
残っていたのは、城へと続く足跡だけ。
「往かねば……!」
私は単身、城へと乗り込んだ。
あらゆる人外が蔓延っており、その全てを切り捨てた。
人狼、魚人、屍鬼、妖精……世界中の怪物が集まっていた。
何故ここまで集まっていたのだ?
そんな疑念を無視して、村人たちを救い、送り返す。
――ここで、引き返すべきだったのだ。
だが、私は願い通りに“民を救うために戦う自分”に酔っていたのだ。
最後の最後に元凶の巣食う島へと渡り――敗北した。
『せっかく集めた駒をここまで潰すとは……どこまでも貴様ら兄弟は予想を覆す』
そこにいたのは、もはや悪霊などという言葉では足りなかった。
島の怨霊を喰らい、堕ちた神々の残滓をも混ざり合った存在――大悪霊リュヴィエル。
私は雷、太陽、星、死、破壊――その全てを斬り伏せれなかった。
満身創痍で多くの人を逃がしたものの、残った者たちは彼女の傀儡と化した。
『ようやく一人を絡めとった。だが、ただでは殺さない』
そして、私は――
狂気と暗示に囚われ、リュヴィエルと島を守る“幻騎士”と化した。
シンに鍛えられた精神のおかげか、理性だけはわずかに残ってしまった。
……頼む、誰か、私を――止めてくれ。
――微睡の奥底から、目を覚ます。
シンによって正気に戻され、全て把握した。
兄上は呆然と立ち尽くし、シンは剣に貫かれ地に伏している。
そして……私の右胸は抉られ、死が迫っていた。
ああ……そうか。彼女は、これを狙っていたのだ。
『アハハ! アハハハハハ!!』
リュヴィエルの笑い声が響く。
このまま私とシンは死に、兄上は彼女に嬲り殺される――。
……このまま三人同じ場所で死ねるのなら、それも――
いいわけがないだろう!!!
私たちが生贄として彼女の糧になるなど、認められない。
兄上とシンが、私の愚かさの果てに死ぬなど認められない。
私の血肉と魂を捧げる相手は大悪霊ではない!
シンの手から零れ落ちた、折れた魔剣が視界に映る。
短剣のようになったその刃も、まだ足掻こうとしている。
……力を貸してくれ、グーラ。
這うようにして魔剣を拾い、兄上のもとへ近づく。
正気を取り戻した兄上は、憎悪の瞳でリュヴィエルを見据えていた。
「待って、ください。傷だらけの、兄上では、アレには、勝てせん」
「ベイラン! 休んでいろ!」
「いえ、私はもう、手遅れ、です」
血に濡れた喉からは、かすれた声しか出ない。
それでも、伝わるはずだ。
無手となった兄上の手に、折れた魔剣の柄を握らせた。
そして――握らせた手を私の心臓へと突き立てた。
「ッ!? やめろ、ベイラン!」
『アハハハ! いい余興でないか! そのまま弟を殺せ!』
「てめぇええええ!!! ……ベイ、ラン?」
伝わりますか、兄上。
私の最後の生命力を、すべてあなたに渡します。
グーラ、少し血肉を貰っても構いません。
その代わり、血肉だけなく、私の魂を――兄上へ。
「死ぬな、死ぬな、ベイラン」
ただ、死ぬのではありません。
兄上と共に最後の時を生きるのです。
兄上はリュヴィエルへ挑むでしょう。
ですが……おそらく、負けるでしょう。
それでも、一太刀でも多く、あの悪霊を斬れるように。
兄上の無念が、少しでも晴れるように。
どうか、その時まで、一緒に生かせてください。
「……諦めんじゃねぇ。勝つぞ」
フフ、それでこそ兄上ですね。
あなたのそういう所には、私は勝てません。
ああ……心地よい。
一つになるのではなく、欠けていたものが埋まっていくようです。
「俺もだ、不思議だな」
私たちは双子です。お互いに何かが分かたれて生まれたのかもしれませんね。
「だとしたら――俺とお前はようやく完成するんだな」
そうですね。では、次に目を開けた時は……私は兄上になっているのですね。
「そうだ。俺が目を覚ますと、俺はベイランになっている」
「「そして、最強の騎士として再誕する」」
「「覚悟しろ、リュヴィエル。俺たちはお前を倒す者だ」」
<Side:シン>
暗い。昏い。何も見えない。何も聞こえない。
――これが、死か? 思ったよりあっけないな。
いや、胸に違和感がある。刺さったままの剣の感覚がある。
ということは、まだ俺は生きているのか。
何のんきに
聖剣の持ち主に愛された者、妬ましい……。
いつの間にか声がデカイのが増えてる……。
両方とも、俺の心臓があったあたりから聞こえる。
片方は、竜の心臓を中心をした“俺たち”。
もう片方は――刺さってる剣か。リン兄の無銘の剣だよな、これ?
聖剣の材料となった、人の祈りだ。もっとも、歪んだ悪意の祈りだがな。
……綺麗な祈りでない魔剣として、私たちは捨てられた。許せない。
そりゃひでぇな。悪意があるからこそ人間だろうに。
善意しかない人間なんて、気持ち悪い。
聖人は尊敬できるけど、なりたくはない。
まぁ、善意も悪意もひっくるめて、生きるのが人間だ。
ん? ちょっと待て、このままだと死ぬ?
死の間際で周囲の全ての罪を背負う力が全開になっている。
それで、刺さってる出来損ない共も混じってるのだ。
お前に出来損ないって言われたくないな。
罪と呪いにこびりついたゴミ共が。
う~ん、同族嫌悪。
どっちも「人間の負の面」だからっていらない扱いされて、俺の中に溜まってんのか。
……っておい、死にかけてるのにそんなことしてどうする!
前から「肩代わりする力」があるけど、死んだら意味ねぇだろ!
おい、急に揃って黙るな。そんなヤバいのか、俺の体。
二つの声から、自分の生まれの事情を聞いた。
マーリンがアーサー王に味方する報酬として話そうとしていたのは――これか。
ふ~ん。俺に救世主の真似事をさせて、都合の悪いものをまとめて処分する気だったんだな。
だから、あのクソ女は俺を人間に献身させようと暗示してたのか。
そうか。そうか。……ハハ、ハハハハ!
俺が生まれた――いや、作られた意味はそれか。
俺は最初から、苦しんで死ぬことを望まれて生まれたのか。
哀れな。器として優秀だが、お前のようにはなりたくない。
刺しといて何だが、聖剣の材料である私たちの方が、まだマシだ。
……まぁ、分かったよ。言いたいことは山ほどあるが、それは後だ。
でも、おかげで生き残る方法が分かった。
“俺たち”、お前らを封じてる呪いを弱めて、全部を開放する。
聖剣モドキ、刺さってるお前らから辿って、その祈りと俺の全てを共有する。
そして、俺・“俺たち”・聖剣モドキ――三つの意志を拮抗させる。
は? え?
そのまま全部共有して同化する。つまり――「俺の体と剣は同じもの」ってことにする。
そうやって、俺の心臓に剣を混ぜ合わせて、互いを修復してから引き抜く!
我は悪魔と英雄たちの残滓だぞ! 凡夫共のゴミを混ぜるな!
そのまま死ね! この呪いの結末は私たちの意志でもある!
でも、このままじゃ全員共倒れだろ。
“俺たち”は俺と一緒に地獄行き。
聖剣モドキも悪意が罪の判定で、死の瞬間に全部俺に移されて消える。
残るのは塵になった死体と抜け殻の剣だけだ。
――あの精霊と神の残りカスに負けるなんて、それこそ死んでも嫌だろ?
正直、俺もお前らみたいな醜い存在は好きじゃねぇ。
けど、その醜さこそ人間だし、それが俺だ。
だから分かる。”俺たち”の願いが。
「神に勝ちたい」という悪魔の願いも、「呪いの悲劇に打ち勝ちたい」という英雄の願いも。
だから伝わる。聖剣の材料である人の祈りが。
人という弱者たちの「踏みつぶされる運命を変えたい」という祈りが。
そして、知っている。両方が持つ悪意と歪んだ祈りを。
喰らいたい。奪いたい。犯したい。
妬ましい。憎い。怠けたい。支配したい。
その果てに……殺したい。貶めたい。滅ぼしたい。破壊したい。
……まだまだあるな。俺は、それらを否定しない。
その上で、俺の願いの「最高の最後」を目指す。
――皆で、神と運命に勝って、最高の終わりを迎えようぜ。
そうすりゃ、俺たちはやっと満足して終われるだろ?
今俺と死んで、また醜く出てきちまうなんて嫌なんだろ?
我を開放して混じれば、お前はそのままではいられないぞ。
私たちと一緒になれば、お前も堕ちるところまで堕ちるぞ。
いいぜ――こいよ。
それでも、俺が俺である場所は、絶対に残る。
俺はもっと多くの罪、世界中の悪意を背負うために作られたのなら――
この程度、飲み干せないはずがない!!
愚かな。我が支配し、神を貶め、堕落の限りを尽くそう。
哀れな。私たちが人となり、この祈りで世界を崩そう。
舐めんな。俺が残って、お前らを終わりへと導いてやる。
全てが混ざる。
俺の中で剣が再び鍛え直されていく。
俺の体も同時に作り替えられていく。
意識が薄れていく。それでも――俺の願いと、家族との記憶は残す。
これだけは、絶対に消させない。
あ あ あ あ あ あ あ あ あ
同化が瞬く間に終わりだす。
最初に感じたのは――とてつもない殺意だ。
堕ちた神々がそこにいる。
城主に化け、兄を騙し、俺たちを殺そうとした。
……無残に殺す理由には十分だ。
「人外どもが、人間を舐めるなよ」
「再誕祝いだ。貴様の血を祝杯にしてやる」
<聖槍と堕剣>
『アハハハ! 最愛の弟二人を自らの手で殺す――最高の結末だ!』
『最後にベイリンも殺し、この祭壇の生贄として魂までも奪い取ってやろう』
『……いや、その忌み子はいらないな。穢れでしかない』
大悪霊は高らかに笑いながら、次の算段を組み立てていた。
多少の誤りはあったものの、望む結末に辿り着けたと確信していたのだ。
彼女の視界には、無残な光景が広がっている。
従騎士の少年は剣に貫かれたまま地に伏し、
幻騎士とされた者は実の兄に魔剣で貫かれ、血肉を失ってミイラのように干からびている。
そして野蛮な騎士は、全てを受け入れられぬまま俯いて動かない。
最後にはそのすべてが――この島、すなわち祭壇そのものの生贄として、大悪霊リュヴィエルへと捧げられる。
リュヴィエルは満足げに微笑みながら、仕上げの一歩を踏み出す。
化けていた城主の女の姿が歪み、かつての貴婦人の姿へと変貌する。
誰が見てもベイリンは茫然自失、疲労困憊。
いかに最強の騎士といえど、リュヴィエルは確実に殺せる――そう思っていた。
――そのはずだった。
『ッ!? な、なんだと……!』
ベイリンが立ち上がった。
その姿には、先ほどの決闘で負った傷がまるでなかった。
身にまとう気配も一変し、まるで存在そのものが二重に重なっているかのように揺らいでいる。
放たれる圧力は二倍――いや、それ以上だった。
少し遅れて、少年のいた場所から謎の青年が立ち上がる。
その容姿はアーサー王の宮廷魔術師にも似ていたが、明確に違う。
左腕は肩口まで青白く、不可思議な文様が這うように蠢いている。
右腕には鱗や毛、羽根など、人外の要素が混ざり合っていた。
右目は蛇や竜のように爛々と光り、左目はガラスのように透き通る妖精の瞳。
その存在自体が呪いに満ち、見る者すべてに恐怖と嫌悪を植えつける。
「お前は誰だ? リン兄じゃねぇな。殺すぞ」
「その呼び方はシンか。……いつの間に口も体も生意気に育っちまったんだ?」
「……なんだこりゃ、匂いが混じってやがる」
「お前もだいぶ混ざってるじゃねぇか。よくシンが残ってたもんだ。……ああ、俺のことはベインとでも呼べ」
二人は互いに殺意をぶつけ合いながらも、同時にその正体を悟る。
そして、視線をゆっくりと大悪霊へと向け――戦いの構えを取った。
最強の騎士は、島の端に転がる聖槍の名を呼び、手元へと引き寄せる。
悪意の体現者は、胸に刺さったままの剣を静かに引き抜いた。
「リン兄だろうがラン兄だろうが、疲れてんだろ? そのまま寝てろ」
「阿呆。まだチビの弟に任せられるか。……てか剣、返せ」
「これはもう俺の一部だ。聖槍があんだからいいだろ」
「……その剣、そんな真っ黒だったか?」
『消えろ、蛮人ども』
「ロンギヌス」 「エクリプシオン」
黒い衝撃波が起き抜けに悪態が付き合う兄弟を呑み込まんと迫る。
二人は武器の真名を解放し、片手間にそれを弾き返した。
聖槍は眩い輝きで応える。
欠けた部分を埋めた完全な騎士を担い手として認め、大悪霊を神敵として滅ぼさんと輝く。
無銘の剣だった堕剣は、周囲の光を呑み込みながら叫びを上げる。
最優の騎士でなくとも、半身の意志に応え、堕ちた神と世界に報復せんとする。
――
――
二つの正反対の宝具が、ついに目を覚ました。
「なら、全員で斬るか。あのバケモン。ついてこれるかシン?」
「この俺をガキ扱いするだと? 今の俺は悪意の体現者だぞ」
「ククク……今度はそういう年頃か」
『不愉快だ。その軽口、二度と叩けぬよう潰してやろう』
――兄弟たちの、最後の戦いが始まる。
〇ベイラン
悪魔城RTAしてたらラスボスに負けた。
それでも他のボスを全て倒してきた。
〇ベイン(ベイリン&ベイラン)
生まれた時に分かれた双子の魂が完全な状態となり、覚醒した姿。
聖人とは別方向で聖槍に認められた完全な存在。
DBでいうと、フュージョン。
〇シン
悪魔と英霊の残滓と無銘の剣に込められた人の歪んだ祈りと同化した。
元の人格がベースにはなっているが、かなり悪よりになった。
DBでいうと、ピッコロの同化。ただし、どんどん悪くなる。
〇約束された終焉の剣(エクリプシオン)
オリ宝具。
無銘の剣とシンが半身同士になって、製錬し直された。
効果は次話で