偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子   作:RichArrow

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少年期と青年期の間の話です
ベイリンに代わるシンと行動するキャラの追加になります。
今話で一人目、次話で二人目です。


少年期~青年期
27.狂戦士の少女


<Side:シン>

 

 あれから半年――。

 

 この城の周囲はもう、俺の庭みたいなものになっていた。

 

 呪いの制御は相変わらず難しいが、それでも少しは上達した。

 歩けば土地が枯れ、触れれば水が濁る。それでも、前より漏れは少ない。

 

 何より、城の従者たちと普通に話せるようになったのが大きい。

 

 マーリンに言わせると「よく半年でここまで抑えられたね」らしいが……

 あのクソ野郎に褒められても嬉しくはない。

 

 まだ城から遠出は出来ないし、世話になりっぱなしなんだけどな。

 

 とはいえ、弱い人間に施しを受けるだけなど矜持が許さん。

 だから呪いの調整も兼ねて、日課を作った。

 

 

 ――俺の日課は単純だ。

 

 元々ここは生贄の祭壇だったからか、呪いや悪意が集まりやすい。

 周囲の村々に悪影響を出す前に、俺が全部吸い取り、引き受ける。

 それに合わせて、付近の魔獣や悪霊も城に引き寄せて、まとめて倒す。

 

 ただでさえ神秘の終わりでブリテンに怪物が増えてる。

 毎日やっても、減ってる気はまるでしない。

 

 とはいえ……弱い。苦戦の一つもしない。

 呪いの調整には良いが、大きくなったこの体にも慣らしたいんだがな――。

 

 

 

 

「っと……死体か。誰がやってんだか」

 

 城近くの森を枯らさないよう注意しながら見回っていると、腹を食い散らかされた狼の魔獣の死体が転がっていた。

 

 噛み跡は小さいが、強い力で何度も食い千切られている。

 そして血の跡は森の奥に続いていた。

 

「飢えた自分のガキに食わせたか? ……いや、戦った跡が多いな」

 

 やったヤツが村の方まで行っていたら厄介だ。

 ここまでうまくやってきたんだ、今さら被害は出したくない。

 

 弱ってるなら、とっとと片づけるか。

 

 血の匂いは強烈で、辿るのも楽だった。

 

 

 そして、辿り着いた先にいたのは――

 

 ボロボロで痩せた小さな人狼がいた。

 

 体の半分は魔獣の血で赤黒く染まり、裂けた皮膚、砕けた爪、折れた脚。

 木の洞で休んでいたらしいが、かなり消耗している。

 

 多分、城に集まる魔獣と戦い続けて、負けかけたのだ。

 

 

 

「グルルル……」

 

「人狼? 大悪霊が集めた人外はラン兄が殲滅したはずだから……別口か。

 う~ん? 俺と同じ呪いの匂い、それに別の何かも混ざってるな」

 

 取り合えず……コッチに呪いを移してみる。

 

「ガウ!?」

 

 やっぱり『狼化の呪い』を受けた元人間か。

 かなり人も喰ってるな、こりゃ。……でも呪い以外の気配も濃い。

 

 人狼は、犬のような耳と尾を持つ十歳満たない少女の姿へ戻った。

 だが、呪い以前に元から“ちゃんとした人間”じゃない。

 

 まだ身に纏った狂気が収まらない。理性の欠片もない瞳、剥き出しの犬歯。

 

 

「ガァアアア!!」

 

「おすわり」

 

 飛び掛かってきたところをチョップ一発で黙らせる。

 

 危険だから駆除すべきなんだろうが……どこか親近感を覚える。

 殺す気にはなれないから、とりあえず城へ連れて帰るか。

 

 

 

 

「オイ、ボケ老人。これ本当にお前無関係なんだよな?」

 

「いやいや! 少しは信じてくれないかな!?」

 

「でも、ほぼ俺のパクリじゃねぇか。こんなのが自然にできるのかよ」

 

 城に戻り、ちょうど魔術を教えに来ていたマーリンとともに少女を調べる。

 

 栄養不足とは思えない身体能力。

 呪いと無関係に止まらない狂気。

 そして俺と同じように、色々混じった魂の残滓。

 

「君らが倒した大悪霊も、神々の残滓が自然に混ざって出来ていたしね。人にも起きるよ。

 いや〜人理に追い立てられると、ブリテンには何でも来るね」

 

「“罪”と“呪い”以外にも滅茶苦茶に神秘のゴミまみれじゃねぇかブリテン!

 な〜にが偽りの贖罪者だよ。お前の計画、穴だらけだろが!」

 

「……グル? ガァアアア!!」

 

「お前は少し静かにしてろ」

 

 起きてすぐ突っ込んできたガキを蹴り飛ばす。

 蹴った先にメシを置いておいたので、それでも食って静かにしてろ。

 

 ……ちゃんと噛めよ。がっつきすぎだぞ。

 

 

 

 ん? メシを作ってくれた従者が部屋に残ってコッチにくる。

 

「シン様、マーリン様。昔からこの地には“獣憑き”が生まれると聞いております。

 恐らくですが、その子も“獣憑き”として捨てられたのかと」

 

「“獣憑き”ねぇ。まあ伝承としては近いかな。

 この子は、狂戦士たちの“狂気”を引き継いでいるんだよ」

 

 俺やグーラと似ているから、調べりゃすぐ分かった。

 コイツも神代の人間の足掻きを背負っちまってるんだ。

 

 グーラの様に戦士たちの意志……というか”狂気”を持っている。

 

 俺の呪いが反応してる感じから……

 熊じゃなく、『狼化の呪い』を持つ北欧の狂戦士――ウールヴヘジンが中心。

 他にもケルト、ギリシャ、遠い大陸の戦士までも混じっている。

 

 んで、そんなのが亡霊にならず、人としてやりたいことってのは――

 

 

「ウゥゥゥ……ワウッ!」

 

 

 メシを食って元気になったガキがせっかく俺に移した『狼化の呪い』を再発させて人狼化して突っ込んでくる。

 

 人狼化を使いこなせてねぇな、オイ。

 

 

「ガァアアア!!!」

 

「……ッ!? キャイン!」

 

「シン、やりすぎじゃない?」

 

「昔俺が暴れた時も、兄ちゃんたちは同じ事してたぞ」

 

 俺も人狼化して叩き伏せ、背中を踏んで動きを止める。

 ジタバタしてるが、まだまだ弱い。

 

 それとマーリン、呆れた顔してるが、お前の教育方法の方がひどいぞ。

 アーサー王の寝る暇を削って、夢で修行させてたんだろ。

 

「その子も結局、“忘れられたくない”という思いに引っ張られて暴れてるんだね」

 

「違ぇよ。コイツの狂気はただ“戦にたい”だ」

 

 グーラや大悪霊は『忘れられたくない』だったがコイツは違う。

 

 神代の戦場で満足に戦えず、死に損ねた戦士たちの残滓。

 だから亡霊じゃなく、人の形をもう一度取った。

 

 

 『死んでもまた戦いたい。満足できる戦いを永遠に続けたい』

 

 

 神々の黄昏(ラグナロク)で満足に戦って死ねなかったヴァルハラの狂戦士。

 トロイア戦争で戦い足りないまま、争いが終わってしまったアマゾネス。

 牛争いで神に『陣中の痛みの呪い』をかけられて戦えなかったアルスターの勇士。

 神への祭りで王に付き従う三百人の一人になれなかったスパルタ兵。

 遠くの大陸にて、戦神の姿を模倣したジャガーの戦士――オセロメー。

 

 どれも名を残す英雄でないが、数が多くて狂気の質が濃すぎる。

 俺の様に色々混じってごちゃごちゃしてるんじゃなく、明確な意志が出てる。

 

 

 

「どのみち厄介じゃないか。処分するかい?」

 

「いや、俺が拾って使う。俺の目的のためにな。

 それと……いや、結局は自己満足だ」

 

 ”最高の最後”の為、俺も自分の手駒を持っておきたい。

 このガキなら強くなってくれるはずだ。

 

 それに――兄ちゃんが俺を育てた時、どんな思いだったのか知りたい。

 コイツにとっても良い最後を与えてあげたい。

 狂気の残滓を、コイツで最後にして終わらせてやりたい。

 

 そうすれば、二度と現世に狂気が溜まってこない。ゴミが世界に残らない。

 

 

 

 

「おいガキ。お前が望む戦いを与えてやる」

 

「ワウ?」

 

「だから暫くは俺に付いて生きてみろ。

 戦い自体を目的にせず、戦う理由を探せ。そこから始めろ」

 

 俺は狂気を否定しない。

 俺はコイツを拒絶しない。

 

 お前も俺と同じ“人間の一面”だからだ。

 だからお前も堂々として生きていいんだ。

 

 それが伝わったのか、瞳に狂気だけでなく、喜びの意志も感じる。

 

「ウォウ!」

 

「よし。じゃあ名付けからだ……呪いになるから慎重にな」

 

 コイツの中心になってるウールヴヘジンからにするか――

 

 

 お前の名前は――ウルフェン

 

 

 女らしい名前じゃねぇが……尻尾振ってるしコレでいいのか。

 

 

「あっさり決めるねぇ。シン、躾はちゃんとするんだよ」

 

「基本的に放置ばかりなお前に言われたくない」

 

「ワウッ!」

 

 

 こうして、城の住人が一人増えた。

 

 ほぼ毎日俺に突撃してくるが、戦いこそがコイツの対話手段だ。

 一緒に魔獣狩りに行くと、心底嬉しそうな顔をする。

 

 次第に言う事も聞くようになり、体力も戻り、どんどん強くなる。

 グーラを貸しても相性がいいらしい。

 

 グーラの方が賢くて剣技を教えてるが、それでいいのかお前?

 一応は持ち主に狂気を与える魔剣だろ。

 

 それよりも、乱暴に地面に叩きつけられた?

 ……今度ウルフェンを叱っとくからな。

 

 


 

<Side:グーラ>

 

 我は暴食の魔剣、グーラ。

 

 血を啜るまで鞘に収まらぬ狂気の魔剣である。

 

 我が刃で斬り付けた傷は癒えずに広がり、その血を我と担い手に捧げる。

 並みの剣などでは太刀打ちできぬ、血を持つ者に特攻する性質を持っている。

 

 何? 聖剣? ……それらと比べられると見劣りするな。

 

 

 魔剣と言えど、我は武器でしかない。魂は持たぬ。

 それでもこうして思考できるのは、斬り啜った戦士たちの意志が澱のように積もっているからであろう。

 我は随分と長く戦い、多くの血を啜ってきたのだ。

 

 もっとも、こうして明確な思考を得たのは現担い手――シンに“在り方”を定義されてからだ。

 生まれ変わっても性質も狂気もそのままであるがな。

 

 シンには感謝している。担い手としても認めている。

 我より優れた堕剣と半身となっても、血と戦いを絶やさず与えてくれる。

 

 記憶はないが、これまでの中でも最高の担い手であることは間違いない。

 ……血がとてつもなくマズイのが難点だが。

 

 

 

 長く半生を振り返ってしまった。

 走馬灯というのだったか、こういうのは。

 

 さて、狂気の魔剣たる我がなぜこんなことを考えているかというと――

 

「ウォォォ! ワウ!!」

 

 我以上の狂気を持つ少女に、棍棒のように振り回されているからだ。 

 

 

 

 ここはシンの拠点の城の近くの森。

 大型の人型昆虫を相手に狩りをしている最中なのだが……。

 

 馬鹿モン! 昆虫相手とはいえ、我を打撃武器として使うな!!

 関節の隙間を狙え! 羽を先に削れ!

 地面に何度も叩きつけるなと何度言えば――!

 

「ワウ? グラァ」

 

 少女は昆虫の噛みつきを紙一重で避け、脇の隙間へと我を差し込む。

 虫系はしぶといので、素早く心臓の血を吸う。

 

 ……やはりこの少女、狂ってはいるが戦いだけは驚くほど呑み込みが早い。

 一度教えればすぐに身に付け、その上で発展までさせる。

 

 我への乱暴な扱いさえなければ完璧なのだがな……。

 

 

 

「デカいノロマを追加だ。楽しめよ」

 

 シンの声が森に響き、その後ろから大きな足音が続く。

 我と少女の前に、周囲の木よりも少し大きい巨人が姿を現す。

 

「オオオオオ……」

 

「グルルルル」

 

 顔が恐怖に染まった巨人の顔がこちらをした瞬間、少女へと巨腕を振り下ろす。

 

 少女は獣のように姿勢を低くし、急加速して回避。

 そのまま足元へ飛び込み、岩のような足の腱を裂き体勢を崩す。

 

 続いて背を駆け上がり、首筋を切り裂く。

 最後に倒れ込む巨体を利用しながら、我を心臓へ突き込んだ。

 

 うむ。良い血だ。良き神秘だ。

 それに、我を上手く使ったな。いつもこうだと嬉しいのだがな。

 

 しかし、シンや我が一度教えただけで巨人相手にも的確に対処できるものか?

 

 

 

「ウルフェンは覚えてるんじゃない。思い出してるんだよ」

 

「ワウ?」

 

 シン? 思い出すとはどういうことだ。

 

「戦いが魂に染み付いてるんだよ。今回は巨人殺しの戦士の戦い方を引き出したんだろうよ」

 

 言われてみれば、確かに。

 この少女は、我を貸される前から魔獣を狩り続けて生き延びていた。

 狂ってはいても、シンの剣術は理解し、即座に再現しようとする。

 

 なるほど……力の強いだけの少女ではないらしい。

 

「ごちゃ混ぜのお前と違って、ウルフェンは“戦士”と“狂気”に特化してる。

 だから戦いの才能は俺より上だぞ」

 

「ワフン!」

 

 褒められたと理解したらしく、少女が嬉しげに吠える。

 

 ならば、より上手く我を扱えるよう期待しておこう。

 次の担い手として認めるにはまだまだだがな。

 

 

 

「……グラァ!」

 

「甘い」

 

 馬鹿モン! すぐ調子にのってシンに挑むな!

 

 堕剣に弾かれ、少女ごと我は宙に舞う。

 着地してすぐ斬りかかろうとしたが――刃が逸れた。

 

 シンが右腕と背中から生やした羽が撒かれている。

 一枚一枚が呪いを帯び、我を強制的にそちらへ吸い寄せてくるのだ。

 

「戦いの才能はお前が上でも、呪いや魔術は俺が上だ。

 それに……どんな戦士の記憶にも、俺みたいなのと戦った経験はないだろ」

 

「ガッ!」

 

「常に全身に力を入れるな。脱力も含めて、その時の体勢での最高の一撃を出せ」

 

 シンは少女をいなしながら剣技を教える。

 ベイリンから継いだ技と獣の動きを混ぜた独自の剣技――

 教えられるのはシンだけで、受け継げるのは人狼と化す少女だけだ。

 

 狩りの後に行われる日課の稽古。

 我が担い手たちが今日も楽しげなら、それでよい。

 

 

 

 

「Zzz……Zzz……」

 

「眠ったか。……昔の俺そっくりだな」

 

 少女は力尽きて眠り、我は巨人の死骸へ突き立てられ血を啜る。

 

 そんな時、シンの呟きを聞いた。

 

 

「ウルフェン、グーラ……お前らの狂気は多くの人に拒絶されるだろう。

 神も悪魔も、理性を持たず戦いに酔う獣を救わないだろう。

 

 なら――俺ぐらいは拾ってやる。

 

 お前らが満足して終われる強さと戦いを与えてやる。

 人がいらないと捨てたものにも価値があると、示してやれ。

 

 俺が(祝福)を与えた者に、幸福な最後あれ」

 

 


 

<原典翻訳風 狂犬の戦士>

 

 兄と記憶を失い、城にて療養するシンのもと、従者たちが嘆願した。

 

「付近の森にて、恐ろしき狼が暴れております。どうか鎮めてくださいませ」

 

 シンは承諾し、森へ向かった。

 その奥、赤き毛並みの小さき人狼が唸っていた。

 

 人狼は跳躍し襲いかかるも、ただの一撃で気絶した。

 その珍しき毛皮を剥ごうとした瞬間、人狼は人の子へと姿を変えた。

 

「クハハ、俺と似た存在か。……面白ぇな」

 

 シンは子を城へ連れ帰り、従者たちに世話を命じた。

 

 子は人語を解さず、獣のように吠えた。

 しかし、並み騎士を超える腕力を持ち、武器の扱いにも長けていた。

 

 その力を以てシンへ幾度も挑み、

 数十、数百と敗北してもなお戦いを求めた。

 

「良いなお前。戦いが欲しいなら幾らでもくれてやる。――この俺に従え」

 

 シンは狂戦士にウルフェンの名を授け、自らの魔剣を貸し与えたという。

 

 


 

〇ウルフェン

 オリキャラ

 シンは神秘の最後に集った”人の罪と呪い”を背負うよう意図的に作られたのに対して、

 ウルフェンは自然産の”戦士の狂気”の残滓を背負わされた存在。生まれつきの狂戦士。

 北欧のウールヴヘジンを中心に、ケルトの戦士、ギリシャのアマゾネスなども。

 外見イメージはブレイド&バスタードのガーベイジに犬耳を付けた感じ。

 

〇グーラ

 戦士としての意識と記憶が張り付いている。

 まともそうだが、担い手に血と戦いを求めて狂気を与える。

 ……はずだが、それ以上の狂気を持つウルフェンに振り回される。

 

〇シン

 既にグーラなしでドレイン系の攻撃ができる。

 上位互換の堕剣を持ったので、グーラを貸す。

 神が救えぬ者を拾うことで、神を貶めようとする悪魔らしい一面を持つ。

 ……本人は決して優しさとは認めない。

 

〇その頃のアルトリア

・諸王撃破! ブリテンの統一!

・勝利に油断して、モルガンに聖剣の鞘を奪われる。

・ギネヴィアとの結婚式を行うが、精霊に滅茶苦茶にされる。

・結婚祝いにもらった円卓に優れた騎士を集め出す。

 

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