偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子 作:RichArrow
<Side:シン>
ウルフェンが来て、城が少し賑やかになった。
城の従者たちも最初は怖がっていたが、俺が「待て」を教えてからは率先して世話を焼くようになった。
俺と大して中身が変わらんが、少女の見た目なのは受けがいいらしい。
とは言え、あのガキは弱いのに興味がないから襲わないだけだ。
戦いの狂気まみれだが、戦いのための補給と休息には従順なので世話にはなっている。
……俺も世話になって悪いな。
「お二人とも、我々が料理しなければその場で獣を食い散らかすので心配です。
人の側面を自称されるなら、もう少し“人らしく”してくれませんか?」
俺相手にも随分慣れたものだ。中々言ってくれる。
そんなある日。
いつも通り、ウルフェンと魔獣を狩り、朝飯を食い、襲ってくるウルフェンを叩きのめす。
そろそろマーリンが来る頃だと従者たちがお湯の準備をし始めていると──
「やあシン、ちょっと困ったことがあって──」
「ウルフェン、GO!」
「ガウ!」
「話を聞いてくれないかな!? 君もそんな所まで飼い主に似なくてもいいだろう!」
嗾けられたウルフェンがグーラを構え突っ込む。
ハハハ、昔も同じことがあった気がするな。
多分、キャメロットにいた頃のシンの記憶だろう。
あれからまだ一年らしいな。思ったより経っていない。
「んで、マーリン、どんな面倒ごとだ? 俺に頼るってことは呪い関連か?」
「その前にこの子を止めてくれないかな!?」
話を聞いたが……やっぱり呪い関連だった。
正確には、呪いになる前の対処についてだ。
今、このブリテンには“不完全な魂”が多く漂っている。
善でも悪でもない。にもかかわらず、嫉妬に焦がれて堕ちかけている。
それは、無垢なる魂──水子の魂。
「『反逆の騎士』と『最優の騎士』が製造されようとしていてね。
ただでさえ集まっているのに、その器を奪おうと魂たちが活性化しているのさ」
「俺やアーサー王を作る準備で犠牲になった赤子も混じってるだろ。お前も原因の一つだろうが。
てか何だよ! また変なの作られてるんのかよ!?」
俺は母胎にいた兄弟姉妹を呪いごと喰っている。
だから、俺の中にも水子たちは混じっている。
だが、外を漂う水子は引き受けられない。
そりゃそうだ。
あいつら、“罪”も“呪い”も持ってない。
生まれてないんだから当然だ。
……存在自体がアウトな俺は例外だがな。
「まぁ案はあるぞ。別の器を用意すればいいだろ。
生まれてねえ魂なら、元の肉体がないし、適当な体でいい」
「水子の集合体を受け入れる器なんて作れないよ。
大体、ホムンクルスに魂を誘導なんてできないって。
私でも第三魔法に近いことは不可能だ」
俺みたいのはもう作れないのか。
あの呪い特化のクソ魔女の胎じゃないと無理か。
なら、モルガンってヤツを捕まえてソイツの胎でも使えば……
いや、ソイツが『反逆の騎士』を作ってるのんかよ!?
「はぁ……どうにかまとめて消せないかな」
「おい、クソ野郎。消すのだけはなしだ。……俺が器を作る」
消させない。絶対に消させない。
水子たちは罪人じゃない。
俺のような悪人でもない。
ウルフェンのような狂人でもない。
なら、祝福を受けるべきじゃないのか?
「手伝えマーリン。”最高の人間”を作るぞ」
まず一つ目、骨格。
昔狩った竜や、マーリンに持ってこさせた竜の死骸から骨を抜き取る。
それを魔獣の死骸を埋めた瘴気まみれの土へ突っ込む。
さらに、俺の肋骨を一本混ぜておく。
土が盛り上がり、人の骨に近い存在が這い出ようともがく。
「ガウガウ」
「余った骨は齧ってていいぞ」
「竜牙兵……どころか竜の骨のスケルトンかな。
ホムンクルスの方が良くないかい?」
「まだ続きがあんだよ」
骨の脆い箇所や魔力の薄い箇所を砕き、また土から生やす。
俺の肋骨を中心に人型の形へ整えていく。
最後に、骨を動かそうとする死者の意志を俺に吸い込んで消して空の器にする。
……よし、次だ。
二つ目、血と肉。
俺が呪いの制御をミスった時に作った悪意の底なし沼。
真っ黒な泥へ、俺の血を流し込む。……貧血になってきた。
「人間製造といえば“泥”だよな。血も足しとかないとな」
「君、色んな神話に喧嘩売りすぎてない?
この黒い泥、ケイオスタイドじゃないんだけど……近いものになってるよ」
混ぜた俺の血を介して、泥を俺の血肉として再生するよう促す。
マーリンの魔術で人型のゴーレムへと整える。
「すっごい魔力持ってかれる! でも何で人型になろうとしてるの!?」
「泥が俺の体になろうとしてるからだ。俺の中の“人間の悪意”を使えば簡単だ」
ぐつぐつと泡立ち、俺を飲みこもうとする泥人形が形を成す。
そろそろ、悪意を回収するか。
ほら〜返ってこ〜い……よし。
三つ目、肉を覆う皮。
「「「ぎゃあああああ!!!」」」
マーリンに妖精の森へ連れていってもらい、妖精を皆殺しにする。
妖精の羽や皮、魔力の濃い樹木を採取し、中身のない人形を作る。
「小型のウィッカーマン、パペット。色々参考になるな」
「君が何したいか分かってきたよ……やっぱりあの魔女の子だね」
俺の右腕や足から皮を剥ぎ、よく生えてくる獣の毛、鳥の羽、竜の鱗も取る。
それらを人形に貼り付けていく。
……うーん。青白い左腕は無理か。
素材を石化させちまう。
「マーリン、皮が足りん。お前とか魔術師の皮とか──」
「無茶言うね。あげないよ。……顔ぐらいは整えてあげたら?」
「水子たちが後で好きな顔にすればいいだろ。気に入った顔を後から剥げばいいし」
四つ目、外骨格の鎧。
ラン兄が着てた認識阻害の鎧の欠片など、魔術の籠ったものを集める。
マーリンにもキャメロットの宝物庫から有用なものを持ってこさせる。
それらを継ぎ接ぎして鎧として組み上げる。
「……俺の鎧にしたくなってきたな。我慢しねぇと」
「そういえば背が伸びて前の鎧、着れなくなったんだね」
「ガウ?」
「ウルフェンみたいに毛皮だけってのはさすがにダメか……」
蛇にしたり石にした俺の髪を糸代わりに継ぎ接ぎを結ぶ。
鎧の裏地には血も染み込ませておく。
「よし、できた。貧血だから魔獣狩って補給してくる。グーラよこせウルフェン」
「ガウ……グルルル」
「いいぞ、一緒に行くか」
ちょうど近くにいたサクソン人をウルフェンと二人で食って休憩して──
ようやく準備が整った。
骨、肉、皮、鎧の四つ。
どれも強力な魔力を帯び、今にも動き出しそうだ。
実際、そこら中のゴーストが憑りつこうとしている。
……死んでろ、雑魚。
「複数のパーツを“ひとつの肉体”にしながら“複数の精神”にも耐えさせる構造か。
これならホムンクルスより頑丈だろうけど……どうやって中身を入れるんだい?」
「そのために各素体に俺の体を埋め込んだ。たとえ一部でも“引き受ける力”はある。
罪のない水子は難しいが……それでもいける」
水子は不完全な存在として、互いに混ざり合おうとする力が強い。
少しでも器に入れば、後は勝手に集まって混ざる。
また、水子は肉体を持たなかった魂。
霊と違い、器との拒絶反応も少ないはずだ。
「肝心の最初の水子はどうやって──まさか」
「製作者のお前なら知ってるだろ。
俺は母胎の中で九十九の兄弟姉妹の肉と呪いを喰って生き残った器。
あの子たちはまだ俺の内にいる。
俺は罪と呪いを引き受ける存在。
本来、罪なき子は俺の中にいるべきじゃない。
解放してやりたい。
そして他の水子たちと産まれなおして欲しい。
無垢なる赤子が堕ちる様も見たい。
捨てられた命が祝福される様も見たい。
我ながら、矛盾している。
だが、それが人だ。そして生きるという事だ。
水子たちにもそれを知って欲しい。
「さぁ、始めるぞ」
骨を肉で包み、肉を皮で覆い、皮に鎧を被せる。
埋め込んだ俺の骨と血と肉がそれらを結びつける。
人型に手を当てる。
分けた俺の体へと、兄弟たちを少しずつ移していく。
罪と呪いが混じらぬよう、細心の注意を払って。
『おぎゃあ』『おぎゃあ』『おぎゃあ』
産まれたいと泣く気配が集まる。
形になれない、歪な小さな顔が浮かんでは溶けて混じる。
──このまま行けば成功する。そう思った、その時。
「ッ! イクリプシオン!!!」
晴れていた空から、聖なる雷が俺たちめがけて落ちてきた。
堕剣で防ぐが、次々と降り注ぐ。
クソッ……このままじゃ吸収しきれねぇ!
「裁きだと? やっと産まれるんだぞ! 祝福すべきだろうが!」
「君じゃなく“水子の誕生”への罰?
……どうやらホムンクルス作成より罪深い行為らしいね」
マーリンとウルフェンの方には雷は落ちていない。
それなら、俺か水子が原因だ。
だが俺は既に救世主を模倣した大罪人だ。
今さらこんな罰がおちるのか?
『おぎゃああああああ!!』
水子たちが怯えて泣く。
こいつらに、何の罪がある?
「ああ、なるほど。神や世界にとって彼らは“死者”扱いなんだ。
『最後の審判』を待たず、信仰者でもない者の復活は認められない。
まぁ、水子の彼らは特別扱いで天で救われる可能性は高いらしいがね」
「死者だと!? まだ産まれてもねぇんだぞ!」
「母胎に一度命として宿った。なら“死者”だよ」
──ふざけるな。
ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!
産まれることすらできなかった子供に信仰を求めるのか?
いつ来るかも分からない審判を無知の子にも待ち続けろと?
仮にそれらを満たしても、蘇る肉体もないのだぞ!?
罪人の俺、狂人のウルフェンが救われないのは分かる。
しかし、無垢なる子が救われないのは間違っている!
「──なら、俺が別の救いを与えてやろう。
神や救世主すら与えられない現世での救いを、俺が実現してやる」
落ちる雷から人型を守りながら耐える。
堕剣の闇を母胎と揺り籠に見立て、水子たちを誘う。
神の元へと至って救われるはずの無垢なるものを呼ぶ。
産まれたいならこっちに来い。
仲間ならたくさんいる。
すぐに死なない頑丈な体もある。
お前らを堕落させるもの――美食、黄金、歌、悦楽。
なんでも与えてやる。
「らあぁぁぁああああ!!!」
剣を握る右腕が焼け、聖なる雷が体内を走り回り内臓を焼く。
それでも絶対に諦めない。
天から憐みのような思いが伝わる。
「父となるならば、試練に耐え、子を愛せ」、そう言われている気がした。
──いつまで耐えただろう。
人型から“命”の気配を感じた。
雷光で潰れた目でも、確かにそこに“生”を感じる。
ガシャン!
鎧の倒れる音。
骨、肉、皮、鎧──それぞれの素体に宿った子が、別々に動こうとして転ぶ音だ。
「……成功だ」
かすむ視界に、這うことすらできずジタバタする鎧が映る。
まさに産まれたばかりの赤子のようで、自然と笑みがこぼれた。
「仕上げだ。お前たちに──名前を付けよう」
たとえ神や世界が生者と認めなくても、俺はその命を祝福する。
お前の名前は――バース。
“生誕”。
それこそがお前に最もふさわしい名だ。
……もっと祝福の言葉を送りたい。
だが、体が限界だ。
少しだけ……眠らせて、くれ……。
<Side:バース>
「バースは今日はどうだった?」
父さん、皆で歩く練習です。
兄ちゃん、星を見たい。
パパ、ご飯もっと欲しい!
「メシか……何が美味かった?」
骨、不足、求、竜骨。
血は足りているよ~。でも昨日の方がおいしかったな~。
マズイ。俺は血より鳥の羽を食べたい。
使い込まれた剣と槍を試したい。いや、鉄がいい。
「う~ん。骨・肉・皮・鎧で好みが違うな。
骨は捨てずに次から出す。あと、武器を勝手に食うな」
骨なら鳥がいい。あの感触は良い。
いや、鳥より鹿、いや角が欲しい。
ゴメンよ父ちゃん。犬がくれた短剣を鎧に混ぜちゃった。
オイ! 鎧以外は金属いらねぇんだから、少なくしろ!
何だと 何よ あぁん?
僕たち“骨”が頑張らないと、人型を保てないでしょ!
俺ら“肉”が一番動くのに必要だ。優先すべきは俺らだ!
私たち“皮”の方が見た目を良くするんだから重要でしょ!
我ら“鎧”が貴様らを守っている。ならばもっと融通を効かせよ。
「ハイハイ、喧嘩しない。
早く誰が脳みそ役――リーダーなのか決めろよ」
は~い。
「自分で歩けるようになれば、狩りとか色々できるようになるぞ」
骨の右足が動くの早いの。
違う、鎧の右膝が遅いのだ。
アンタらが合わせんと、肉の右太腿のウチが疲れるんよ。
今は肉担当の子たちが無理やり動かしてるっす。
皮の皆は頑張らなくていいのズルイ!!
「いきなり全部合わせようとするな。
“合わせる組”を一つずつ増やせ。
まず、骨と肉を同期させてから、次に鎧と皮だ」
鎧は重いよ~。疲れるよ~。
他の人間は鎧も動かせないんでしょ? よく動けるね。
明日、我ら鎧はあまり動かぬようにしよう。
「それと、どんな動きにも背中と腰が重要だぞ。
腹筋も必須だ。早めに慣れとけよ」
がんば~。
お前も頑張るんだよッ!
がんばるぞいっ!
「あと今度、喋れるように妖精の羽で声帯を作るから、その担当も用意しておけ」
父よ、皆で配置換えを検討している。我はどうか?
漸くワイの出番やな。……肩担当が疲れたとかじゃないで。
アタシの歌の出番ね! 教えてもらったの、試したいわ!
父さん、眠る前に聞きたいことがあります。
ん~どうしたの私?
僕ら、もう眠い……。
「いいぞ。本でも欲しいのか? ウルフェンが何かしたか?」
――僕たちが生きる理由、目的を知りたいです。
「それは、バース自身で見つけることだ。
産まれたいと願ったのはお前たちだ。その先を願うのもお前たちだ」
オレは自分で動けるようになって、楽しいことをする。
私、パパの言う“堕落”っての以外もしてみたい!
でも、僕たちは何をすればいいの?
「これはバースでなく、俺の願いだが……
お前たちが”生きている”と世界に認めさせたい」
どういうこと?
「俺はお前らを祝福したが、世界はまだお前を“死者”――水子と見ている。
お前たちは現世で救えないもの、と決めつけていやがる。
……ふざけんな。神にもできないことを、俺が成し遂げてやる。
悪いヤツも、狂ったヤツも、産まれなかったヤツも救われるって示す。
だから、お前たちは生きろ。楽しめ。
そして――バースという名を世界に刻め」
……むずかしくて、よく分かんにゃい!
「まぁ、好きに生きろ。やりたいことはその内見つかるさ」
<原典翻訳風 人形の従者>
ある時、ブリテンの各地に赤子の泣き声が響き渡り、
民らは不吉の前触れと恐れおののいた。
魔術師マーリンは、かつての己が罪を悟った。
“災いの子”モードレッドが産まれた五月一日、
それと生誕日が近い赤子をすべて海へ流せと、
アーサー王に進言したのは他ならぬ彼であった。
海へ消えた赤子たちの嘆きがブリテンに満ち、災いをもたらそうとしていたのである。
マーリンは弟子にして隠し子であるシンに助けを求めた。
シンは小さな人形を作り、その上にまた人形を作り、
幾層にも重ねた器へと赤子の魂を封じ込めた。
哀れと思ったシンは、自らの血、肉、骨を分け与え、
人としての名――バースを授けた。
人形は静かに動きだし、
シンへと臣下の礼をしたのであった。
〇聖書関連での水子の扱い
調べた範囲では、明言されてない。色々扱いが難しいのだろう。
「母胎に宿った時点で一つの命」「罪のない存在だが、洗礼を受けていない」
「神は慈悲深いので救ってくれる」など色々とあるらしい。
本話では「水子に別の器を与えての蘇生」は罪深いとしているが……
作者は聖書詳しくないので、実はOKなのかも?
〇バース
オリキャラ
ブリテン全体と生誕前の蟲毒でシンが喰らった水子たちの集合体。ほぼApoのジャック。
竜の骨のスケルトン(骨格)、聖杯の泥のゴーレム(血肉)、
妖精と魔樹の小型ウィッカーマン(皮膚)、認識阻害持ちの宝具クラスの鎧。
複数の素体を繋ぎ合わせて大量の未熟な魂に耐えれる肉体としている。
外見イメージはソウブレイズをデカくした感じ、人形部分は整形中。
〇シン
十四歳にして父なる。
子供に誰よりも優れた器を与えようとする当たり、人外じみた愛情を持つ。
バースは生者だと世界に認めさせようとする。
〇マーリン
Fate時空よりも原典の方が悪辣なエピソードがある。
その一つが「モードレッドと産まれが近い赤子を海に流させた」
しかも、モードレッド生き残って、拾われてるのが尚ヒドイ。
原典風翻訳では、そのエピソードからバースが作られたことにした。
〇青年期までのアルトリアたち(一部)
・モルガンの罠にかかり捕まるが、モルガンの息子ユーウィンに助けられる。
・ユーウィンとガヴェインが旅に出る。ユーウィンが獅子を助ける。
・ケイが休暇の旅の最中に出会った巨人を騙して殺す。
・ラモラックがまだ反抗的な城主を倒し回り、赤い盾を手に入れる。
短いですが、次話で本章の青年期までが終わりです。