偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子 作:RichArrow
少年期と違って原典要素少な目のオリジナルの話が多くなります。
<Side:シン>
冷たい床の上で胡坐を組んで瞑想する。
いつものように己を見つめなおす。
人の心、悪魔の残滓、悪意の祈り――全てが混ざり合い、思考がブレる。
だが、前の戦いでの行いは、どの視点から見ても後悔はない。
そんなことより――
「ウルフェンは変わらないが……バースは少し人らしくなった。
やはり多くの者と関わるのは良いことだな」
子供の教育方針は、少しズレるな。
人の負の面だけでなく、正の面も知ってもらうべきだ。
産まれることができた生者、死ねた死者にすら嫉妬する怪物のままでいてもらうべきだ。
どんな姿であれ、どんな人生であれ、子には生きて欲しい。
我ながら、考えがグチャグチャしている。
ふむ、どうなるにせよ、まずはバースに人を知ってもらうことからだな。
ウルフェンは……どうしよう?
『戦う理由を探せ』とは言ったが、俺が示すのも違うし。
今は『色んな相手と色んな戦い方をしたい』ってところまでマシになったか?
アイツ、俺よりも色々できるんだよなぁ。
騎乗やルーン魔術は俺より上だし、まだまだ伸びしろもある。
狂ってるせいで人に教えられないのが惜しいが……。
考えごとをしていると、地下牢に足音が響いてきた。
人数は……三人。匂いも同期の騎士の連中だな。
「円卓配属おめでとう、パーシヴァル、ガヘリス。
ベディヴィエールは残念だったな」
「ありがとう、シン!
アグロヴァル卿が負傷され、私を推薦してくれたのだ」
「……ルーカンさんに譲ってもらっただけだ」
明るく元気な大柄の騎士、パーシヴァル。
ガウェイン似だが、静かな騎士、ガヘリス。
両者は先の戦いで活躍した騎士であり、
負傷などで席を空けた既存の騎士と交代する形で円卓に入ったようだ。
「私よりも優れた騎士が王を支えているのです。残念ではありませんよ」
少し年下の俺にすら丁寧な態度を取る従者騎士、ベディヴィエール。
……本心で言ってるのがすげぇな。
この三人が、俺と年も近い円卓や円卓候補の同期だ。
上の世代に比べると普通だよなぁ……。
ガウェインとかランスロットとかラモラックとか、濃すぎるんだよ。
「祝いの品もやれんでスマンな。謹慎が解けたら渡す」
「期待しよう。牢の中では満足に食べられないだろうから、ポテトサラダを持ってきたぞ!」
「……先にもらっちまったな」
いや、パーシヴァルも十分濃いわ。
「それよりも、聞きたいことが……」
「なぜ、あのようなことを?」
三人が険しい顔で牢の先からこちらを覗く。
やっぱり前の戦いでの兵士の怪物化の件か。
「シン、君ならあんなことをしなくても大丈夫だったはずだ」
「俺だけならな。だが、捨て駒にされた兵はどうだ?」
「だが、それで兵を化け物にするなど!」
三人とも、これで怒れるマトモな騎士で良かった。
だが――どこに怒りを向けている?
「俺からも聞きたい。人は生きるためなら、どこまでしていい?」
「己の誇りに恥じない、正しき範囲ならば良い」
パーシヴァルは迷いなく言い切る。
民のためなら命を懸けられる、騎士の鑑だ。
ここまで一切迷わないのは円卓でもパーシヴァルぐらいだろう。
「……人として、正しき行いの範囲ならば」
ガヘリスは少し間を置いて答えた。
外見はガウェイン寄りだが、性格はアグラヴェイン寄りなガヘリスらしい。
迷いながら正しさを強く求める、その姿勢は嫌いじゃない。
「例え生きるためでも、人の道を外れては……」
「迷ったな、ベディヴィエール」
ベディヴィエールが最後に答えたが……三人の中で、一番迷いがあった。
俺としては、人らしくて好みではあるが、次期円卓の騎士としてはどうだ?
コイツの最後が後悔にまみれてそうなのは哀れだ。
「俺は呪いと力を彼らに与えた。
欲望のままに願いを叶え、後悔のない最後を与えるためだ。
生きようと必死に足掻く姿は、人らしくて良いのもある」
俺が出した二つの答えは違うが、やることは変わらない。
たとえ姿が変わっても彼らは人間だ。
その生と死は良きものであってほしい。
この答えは正しさなどではないし、救いでもない。
だが、神や聖者の救いよりも、当人の自己満足の方が価値がある。
俺は正しさを押し付けない。
ウルフェンやバースにしたように、選択肢を増やしているだけだ。
「ま、四人全員が同じ考えなわけがない。
それぞれの想いで、ブリテンの国と民を守ればいいさ」
「国と民を思う気持ちは、私も同じですが……」
「……シンさんのように、割り切れない」
「簡単だベディヴィエール、ガヘリス、誰かが間違えたら他の誰かが止めればいい」
お前たちに止められるかな?
パーシヴァル、お前は確実に邪魔をするだろう。
俺が目指している間違いだらけのハッピーエンドを。
ん~、牢の中で考えるても、どうにも格好がつかないな……。
カッ カッ カッ カッ
暫く同期たちと話していると、別の足音が近づいてきた。
何だ? 今日は随分と人が来るな。
「シン殿~、お早い釈放ですぞ~。
おろ? 期待の新入りたちもココにいたんですかい。ちょうどいい」
軽い調子の声が地下に響く。
ディナダン。
円卓候補の一人で、腕も確かだが、それ以上に騎士同士の仲を取り持つことが多い男だ。
俺だけでなく、パーシヴァルたちにも用があるのか?
「早く俺を出すってことは、何か問題か?」
「マーリン殿から、円卓と円卓候補を集めてくれって言われましてさぁ」
「私たちも参加ですか」
サクソン軍は前の戦いで消耗している。
となると、それ以外の問題か。
……嫌な予感しかしない。
………………………………
円卓の間に入ると、いつもより多くの騎士が集まっていた。
席が足りないため、円卓候補は立つことになるが、
誰も座らない席が一つだけ残っている。
そして――俺を見る視線は、やはり厳しい。
謹慎中の騎士がキャメロット最上位の一員であることを、認めたくないのだろう。
「寒い地下牢はどうだった、シン? 頭も冷やせたか?」
「早く厄災の席に座れ。残念ながら、貴様以外には不可能だった。
ならば、目の届く範囲に居た方がマシだ」
「いつもより休めたぞ。ケイとアグラヴェインも、疲れた時は謹慎を受けるといい。
……いや、本気で休めよ。二人とも顔が老け込んでるぞ」
「「余計な世話だ」」
この二人は、いつも通りだな。
めっちゃ睨んでくるし、とっとと座るか。
相変わらず、ピリピリする椅子だ。
「で、謹慎中の俺まで呼ぶとは何だ、クソ親父」
バタン、と扉が開く。
「急がないでくれ、我が子よ。それは王の口から話すさ」
「皆、急な招集にも関わらず、よく集まってくれた」
扉の向こうに隠れていたマーリンが、アーサー王と共に姿を現す。
二人の顔は平静だが――内心の不安感が、嫌でも伝わってくる。
左目の妖精眼を使うまでもない。
「まず、先の戦ではよくやってくれた。
冬前にサクソン軍へ大打撃を与えることができた」
アーサー王はそう切り出し、円卓を一望した。
誰もが静まり返り、王の言葉を待つ。
「だが……別の問題もある。皆も感じているだろう。
今年の冬は、例年とは明らかに違う」
「確かに、いつもより早く寒くなっています」
「北の農村では、既に家畜が倒れ始めていると……」
「最果てのオークニーは無事だろうか? あの妖婦はともかく」
「もしや、あの魔女めが……」
ガウェイン兄弟は、真っ先にモルガンを疑っている。
自分たちの母親だからこそ、容赦がねぇな。
慌ててマーリンが杖を鳴らし、一歩前に出た。
「いやいや、モルガンじゃないよ。
彼女は“支配”が目的であって、“破滅”は望んじゃいない」
「おいマーリン。このままじゃ、ブリテンは終わるってことか?」
「その可能性は高い。例年以上の極寒が、すぐにやってくる。
そして、それは春になっても終わらないだろうね」
尋ねたケイが言葉を失う。
さすがに、冗談で済む話じゃない。
「原因は、北の土地に新たに産まれた――“冬の精霊”だよ」
「精霊、だと?」
『ッ!?』
――嫌悪感が漏れる。
抑えきれない殺意が、胸の奥から湧き上がる。
人間同士の戦いでブリテンが滅びるのは……美しくはないがまだ良い。
同士討ちこそが人間の愚かさの証明だ。正しく、人らしい終わりだ。
だが、神や精霊といった人外の手で“終わる”など――虫唾が走る。
「シン卿、抑えよ!!!」
アーサー王が、珍しく声を荒げた。
周囲の騎士たちが、剣に手を掛けている。
……貴様ら程度で、俺が止まるとでも?
それでも、誰一人として本気で怯えてはいない。
流石は円卓だ。良い人間を見ると、少し落ち着いてきた。
「俺が潰しに行く。他に来るヤツはいるか?」
「本来は、そのための話し合いでしたが……シン卿の参加は、確定ですね」
それ以降、誰も声を荒げることなく話は進んでいった。
精霊を討てば、冬は例年通りに戻る。
だが、既に流れ込んでいる寒気は、すぐには収まらない。
秋の実りは減り、まず必要になるのは――食料支援だ。
「ランスロット卿。すまないが、あなたの故郷を頼らせてもらいたい」
「構いません、王よ。こちらもブリテンの兵をお借りしている身ですから。
それに……私は精霊と戦うことはできません」
ランスロットは故郷のフランスへ戻り、支援を取り付ける役目を担う。
ガヘリスやディナダンも同行することになった。
ガヘリスは、円卓入りを機に、ガウェイン以外とも行動するよう意識し始めたらしい。
……ガウェインが、捨てられた犬みたいな顔をしていたが。
次に、寒気によって南下してきたピクト人への対応。
これは、ガウェイン、ユーウィン、パーシヴァルが名乗りを上げた。
「学ばせていただきます。ガウェイン卿、ユーウィン卿」
「新たに円卓に迎えられた実力、期待していますよ、パーシヴァル」
「っておい! ガウェイン兄弟の誰一人、俺と来ないのか!?
戦場になるオークニーは、お前らの故郷だろうが!」
「「「いや、モルガンがちょっと……」」」
「だからこそ、中立交渉も必要なんだよ。
戦力にならなくてもいい。アグラヴェイン、来い」
「拒否する。私はキャメロットでの騎士の管理役を任されている」
精霊一体なら、死ぬ気で頑張れば俺一人でも何とかなる。
だが、雪の精、氷の巨人までいるという情報が、マーリンから追加された。
加えて、戦闘中にモルガンが動く可能性。
最悪、背後から刺されることまで考えると……面倒くせぇ。
ウルフェンたち以外の戦力と、冷静な交渉役がいれば――。
「私が行きましょう。巨人の相手なら、経験があります」
ベディヴィエールか。強さ以上に、その気遣いがありがたい。
早く円卓入りしてくれ。一番マトモなんだよ、お前。
「我が息子、ラモラックよ。その武勇を示してこい」
「待て、ペリノア王。アンタ、モルガンとの因縁を分かって言ってるのか?」
お前がモルガンの人の人格――モルゴースの夫、ガウェイン兄弟の父を殺しただろ?
仇の息子を送り込むとか、モルガンとオークニーの民を煽ってるだろコレ。
「構わない。私がオークニーを手助けすることで、少しでも溜飲が下がるならば」
どうやら、ラモラックも行く気らしい。
……ガウェインとの関係を修復したいんだろうな。
騎馬戦最強格が味方にいるのは、正直助かる。
こうして、緊急の会議は終わった。
俺は、ベディヴィエールとラモラックを伴い、冬の精霊へ対峙することになる。
その前に――オークニー城で、モルガンとの交渉だ。
<Side:バース ――オマケ:バースの留守番>
「いいかい、ウルフェン。父さんが休んでいるから、今日は暴れないでね」
「ワウ? ……ッハ!」
「はぁ~……やっぱり父さん以外の言う事、聞かないよ~」
ウルフェンは、強い相手には戦いを挑み、何度か負けてから漸く従うことがある。
僕たちは父さんが作ってくれた“死ににくい体”なだけで、彼女には全く敵わない。
生まれてからずっと一緒だから、仲間だとは思ってくれているみたいだけど……。
「おい、デカ鎧。最悪の騎士様は、まだ戻ってこないのか?」
「いけませんよ。悪魔様は我々を庇い、謹慎を受けておられるのです」
父さんに作り替えられた怪物兵たちが、今日も様子を見に来てくれた。
角や鱗を隠し、人の姿を保てるようになったらしく、外にも出られるようになったみたいだ。
角付き騎士は、力に酔って暴れたがるから影響が大きいなぁ。
山羊の神父は、やけに落ち着いているけど……変な狂気を感じる。
「そうだ! 暇なら、ウルフェンの相手してくれない?」
「あん?もう一人のガキの相手だぁ? 今の俺様に勝てるとでも?」
「……ハンッ」
「てめぇ! ぶっ殺すぞ!」
よし! これで今日一日は――
……あ、ダメだ。
ウルフェン、普通に強すぎる。
「他の人たちも、ウルフェン止めるの手伝って~~」
「仕方ありませんね」
父さんが戻るまで、ウルフェンの暴走は続いた。
後で父さんが言っていたけど、彼女は僕たちや怪物兵が強くなれるよう、手加減して鍛えてくれていたらしい。
……それが本当だとしても、暴れたいのも、本心だよね。
〇シン
基本的に以下の思考方針が混じっている。
悪魔と呪われた英雄の残滓:神と世界が憎い。
聖剣の材料だった人の悪意:人に生きて欲しく、自分のように堕ちて欲しい。
少年期のシン:より良い最後を与えてあげたい。
〇パーシヴァル
まだ聖槍を持ってないが、愚直で迷いがない騎士。
本作では同じ世代か下の世代なら呼び捨て、上の世代は○○卿という呼び方にしてる。
FGOではトリスタン相手には呼び捨てだったが……女関係で厳しいのだろう。
〇ガヘリス
ガウェインとアグラヴェインの弟。
本作では外見が上の兄、中身は下の兄に近い感じにしてる。
本作では相手の呼び方は○○さんとしている。
〇ベディヴィエール
今話ではまだ迷いが多めな忠義の騎士。
最後まで聖剣を湖に返すか迷った彼が一番人間らしい性格。
FGO一部六章で千年以上理性を保てるのは人外じみてるが……。
〇モルガン
サクソン人との戦いの前に、一度アルトリアを嵌めて殺しかけた。
その時はユーウィンによって邪魔されている。
その事情から、既に騎士からはかなり嫌われている。