偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子 作:RichArrow
三人称 ⇒ バース視点 ⇒ シン視点 です。
冬の軍とオークニー兵がぶつかり合う島の上空。
極寒にして、人の踏み込めぬ領域。
そこには、二つの人影があった。
「……悪魔の化身よ。我らは、ただ生きたいだけなのだ」
片方は、美しき婦人の姿をしていた。
冬を司る神霊が、凋落の果てに至った存在――冬の精霊。
ケルト神話のカリアッハベーラ。
スラヴ神話のモレーナ。
ギリシャ神話のペルセポネ。
三柱の女神の残滓が絡み合い、一つの“冬”として在る災厄。
だが彼女は、滅びを望んでいない。
ただ、在り続けることを願っているだけだった。
「囀るな。ゴミ共は人の世界にいらん。終わったんだよ、お前らは」
対するは、獣と鳥の要素を歪に混ぜ込んだ竜人じみた怪物。
最悪の騎士――シン。
彼は冬の精霊を討伐しに来たが、その動機は騎士の使命ではない。
個人的な嫌悪と拒絶、その一点だけだった。
「そもそもだ、自然や星のような、ただの現象や物が意志を持つな。
神霊だの精霊だの、人間の繁栄に不要なんだよ」
悪魔と呪われた英雄の残滓は、己たちを貶めた神と人外を憎む。
星の集められた人間の悪意は、世界を統べるのは人間だと驕る。
肉体の基となった少年は、美しき終わりに不要なモノを嫌う。
シンもまた、三つの存在が混ざり合った者だった。
それでも、『人外は、滅ぼすべきもの』という思考は一貫していた。
「貴方も、似たようなモノでしょう」
「違うな。人は恐怖や信仰の象徴より、石を投げていい罪人を求める」
神を信じていなくても、憂さ晴らしの相手が欲しい。
それが人間だと、シンは嘲笑する。
人としてではなく、人外の視点で。
すべてを見下し、嗤っていた。
「ま、俺は都合のいい“偽りの贖罪者”として終わる予定だ。
お前らとは違う。終わるべき時に、きちんと終わる」
「……狂人には、話が通じないようですね」
精霊は、最後の対話を諦めた。
人と共生できる道があるなら、探したかった。
元となった女神たちは、冬の厳しさだけでなく、慈しみも持っていたからだ。
だが――目の前の怪物には、それは不要だった。
「凍りなさい」 「堕ちろ」
“白き極寒の冬”と“黒き悪意の闇”が、空を二色に裂いた。
<Side:バース>
父さんやウルフェンは、すぐに突っ込んでいった。
……まぁ、戦いならいつものことだ。
だから心配はしていない。
それよりも、今は自分のことを考えなきゃ。
父さんは言った。
「人としての戦いを学べ」って。
でも、本当にそれで強くなれるのかな。
「行きますよ! バース!」
「はいっ!」
僕はナイトメアに跨り、ベディヴィエール卿と並んで駆ける。
この人が僕の手本になるというのは、良く分かった。
『ガァアアア!』
「――はっ!」
振り下ろされる棍棒を避け、膝へ一突き。
体勢の崩れた首へ、迷いのない二突き目。
無駄がない。力任せでもない。
ただ、確実に倒していた。
――強い。
それも、父さんやウルフェンとは違う、騎士としての強さだ。
本人は他の騎士に及ばないと謙遜するらしいけど……
ガウェイン卿やランスロット卿と比べるのは、さすがに酷だと思う。
「僕も……って、ダメだぁ……」
下位の雪精なら何とかなる。
でも巨人相手だと、力も技量も足りない。
崩しきれず、慌てて棍棒を避けた。
その瞬間、ベディヴィエール卿が仕留めてくれた。
「ありがとうございます!」
「焦らなくていいですよ。よく見ていてください」
言葉に従い、僕は――僕たちは、鎧の隙間を意図的に作り、複数の目を開く。
肉体よりも思考へ。
皆――兄弟姉妹たちを多めに割り当てる。
(見よう)
(知ろう)
(学ぼう)
義手ではない左腕が、強く握られる。
(肘と肩の角度は?)
(二の腕の張りは?)
(上半身のひねりは?)
馬の腹を軽く蹴っている。
相手の踏み込みに合わせ、速度を微調整している。
(最高速の瞬間が狙い目?)
(相手の勢いも利用して貫く?)
巨人の一振りを避けながら、左脇腹へ一突き。
あっさりと心臓を貫き、さらに後続の雪精を払う。
……うん。すごい。
何よりすごいのは、僕にも分かる形でやってくれているところだ。
父さんやウルフェンは直感と人外の動きで、正直分かりにくい。
この人、自分を普通の騎士だと思ってるのおかしくない?
ガウェイン卿の力、ランスロット卿の技は人の才能を超えた領域だけど、
ベディヴィエール卿は“騎士が努力で到達できる地点”に、すでに届いている。
――なら。
人が頑張ってできる範囲なら、僕にだってできるはずだ。
この体と魂には、あらゆる可能性が詰まっているんだ!
皮担当は強化魔術に集中。
骨と肉は上半身の再現率を上げる。いきなり全部は真似しない。
代わりに、鎧側で馬への固定を意識する。
僕たちは、一つの体を百以上の意識で動かす。
だから、人の何倍も効率よく学べる……はず。
ズルだけど……使えるものは使えって、父さんは言ってくれた。
「……はぁ! おおっ!?」
「やりましたね!」
やった! 太腿を貫けた!
崩れた巨人を無視して駆け抜ける。
殺す必要はない。動けなくするだけで十分だ。
――今なら、もっといける。
その感覚が、確かに胸の奥で膨らんでいた。
「ベディヴィエール卿! あちらが押されています、手助けに行きましょう!」
「それはいいですが……少し冷静になるよう、意識してください」
オークニー兵が戦っている場所へと馬を走らせる。
肉と皮で構成した声帯で魔術を展開し、火球を放って牽制。
敵の注意が逸れ、兵たちが立て直す。
ベディヴィエール卿は――右腕の義手から、炎の矢が出た!?
「何です、それ!?」
「マーリン殿と、あなたの父の仕業ですよ……」
「アハハ……! さぁ、蹴散らしましょう!」
僕たちは戦場を駆け回った。
オークニーの人たちが危なそうな所へ飛び込み、また次へ。
少しずつ、少しずつ、動きが洗練されていくのが分かる。
楽しい。
空が割れていることさえ、気にならないくらいだ。
……でも、調子に乗ったのが、悪かったんだと思う。
前の戦いから無茶な使い方をしていた槍。
不治の力を宿した――ガーロンが持ってたらしい魔槍。
巨人の硬い外皮を貫こうと、力を込めすぎた瞬間。
――嫌な感触が、手に伝わった。
「……あ」
手応えが消え、穂先の重みが失われる。
視界の端で、鋭い欠片が雪に弾けて散った。
……折れた。
頭が、一瞬だけ真っ白になる。
まぁ、前にカラドボルグごっこをしたのは悪かったけど。
うん、分かってる。無茶だった。
ベディヴィエール卿がすぐに剣を貸してくれ、
動きの見本まで見せてくれて、本当に助かった。
……あ~ 父さんに、絶対怒られるなぁ。
「にしても、流石ですねベディヴィエール卿。
グリフレット卿が、自信さえ持てばすぐ席を代わると仰るほどです!」
「え!? 聞いてませんよ!!」
「……ごめんなさい。言っちゃダメなことでした」
<Side:シン>
精霊と聞いて多少は警戒したが、大悪霊に比べりゃ弱いな。
アレと違って、構成要素が冬の女神だけだからか?
そんでも――
「相性があんま良くねぇなぁ! カスが生意気だぞ!」
俺の半身である堕剣は、命・熱・光みたいなエネルギーなら吸収して循環できる。
だが、コイツは冬。冷気・停滞・死が性質。
削れはするが、吸収効率が悪くて腹が立つ。
ただでさえ、全身を燃やすのと、再生で体力削ってるのによ。
「ほい、右脚を四回目っと」
凍結と再生を繰り返す脚を、堕剣で浸食してから削り切る。
「凍らないために自分を燃やすなんて、おかしいでしょう!?」
体を再構築させながら、精霊が喚きやがる。
あらゆる生命は自分の前に立てない――
そんな驕りが滲んだ顔が歪むのは、かなり愉快だ。
まぁ、この寒さで平気なのはアーサー王と、ガラティーンを持ったガウェインくらいか。
呪いで色々慣れた俺でも、正直クソ寒い。
他の騎士なら、今頃きれいな氷像だろうな。
それよりも、冬の間は絶対に消えない、ってのは無茶苦茶すぎないか?
力そのものでは押し勝てているが環境補正が強すぎる。
実質、不死身じゃねぇか。
「なぜ……火が消えない! なぜ、平然としていられる!」
「消えるわけねぇだろ。これ、地獄の池の火が引火してんだぞ」
あと訂正するなら――平然ではない。
普通にクソ熱い。寒さと混じって感覚がぶっ壊れてる。
罪人を永遠に焼き続ける、ゲヘナの火と酸の池。
悪魔の残滓が混じった俺は、その中に片脚突っ込んだ状態だ。
呪いの制御を少し弄るだけで、そこの火が移ってくる。
それに、俺自身が――“他人の罪を肩代わりする”存在だからな。
火の勢いも、洒落にならない。
「……化け物め」
「神代のゴミに言われたくねぇな。
……っと、そろそろ、か?」
精霊の輪郭が歪んだ。
婦人の姿が、幼女へ。次の瞬間には老婆へ。
存在の像が定まらない。
堕剣と一緒に持ってきた
いやぁ、苦労して作った甲斐があった。
まだ未完成だが、これから育て甲斐がある。
「な……んで……私、が……変わ……」
「お前という神霊も精霊も、もう世界に“認められない”んだとよ」
背負っていた堕槍を、布から外す。
血文字が刻まれた皮を、何重にも巻き付けた異形。
槍というより、呪詛の塊の棒だ。
闇に紛れて、布越しに何度か掠めておくだけで十分だったらしい。
「面白いよな。火を付けられなかっただけで、神は“悪魔”にされたんだぜ?」
この堕槍は、正確には槍じゃない。
槍の形に縫い留められた、血と皮で記された“聖書の断片”だ。
人を救う言葉でもない。
神の尊さを説くものでもない。
他の信仰を拒み、弾圧と排除を正当化する記載だけを集めて刻み込んでいる。
『
――負の信仰を以て、他者を冒涜する槍。
もう一つの聖槍の贋作、
俺が目指す“終わり”に必要な、重要なピースの一つだ。
半身たる堕剣を飛ばし、精霊の周囲を闇で覆って逃げ道を塞ぐ。
空いた手で、堕槍を構え、解放する。
「雑魚妖精共は存在ごと忘却された」
穂先を向ける。
「お前みたいな神霊や精霊なら……
この先がどうなるか、分かるよな?」
「やめ――」
ブスリ、と。
精霊の胸に、堕槍が突き立つ。
メキメキと、音を立てて四肢が目玉の付いた触手へ変わる。
ブチブチと、胴体の内側から触手が食い破るように飛び出す。
魔力の質が変わり、量が膨れ上がる。
女の頭だけを残し、一本の“柱”へと成り果てていく。
「悪魔モドキに凋落して、少しは強くなったな。
だが……“冬の不死性”は消えた。
今のお前は、人の負の信仰――“呪い”そのものだ」
「何で……何で……何で……」
「生き残りたい、って言ってたな?
――なら、俺の一部として使ってやる」
「止めて 止めて 止めて 止めて 止めて」
堕剣を柱の中心へ突き込み、女の顔を呪いの左手で掴む。
“罪と呪いの身代わりとなって背負う”機能を全開に。
剣と腕を通して、冬の悪魔の存在ごと、吸い上げていく。
ラモラックの渡した破滅の魔槍で完全消滅するのと
俺に呑まれ、溶かされ、力だけ利用され続けるの。
どっちがマシだろうな!
「ハハハ! ゴミを有効活用してやるんだ! 感謝しろよ!」
……つまらん。もう女は声も出ないらしい。
老婆どころか、乾いたミイラだ。
柱も枯れ、無数の目玉も萎んでいく。
冬の力を失った抜け殻は、雪みたいに溶けて消えた。
「削るのに時間をかけ過ぎたな。他のヤツらは……
ハハハ、ラモラックがガキ二人に世話されてやがる。
ベディヴィエールは普通すぎて面白味がないな。
バースは――オイッ! ガーロンの槍壊したな!?」
消えない炎で体を燃やしながら戦場を俯瞰する。
ヨトゥン相手できる騎士連れてきて正解だった。
流石に北欧の巨人と精霊を同時に相手するのは厳しかったろうしな。
今回活躍した堕槍に目を向けると、無事成長したようだ。
このまま、単体でなく、世界を塗り替えれるまでしないとな。
「いたっ! オイオイ、今更天罰か?」
冬の空に居ながら、突然に雷に撃たれた。
天使というか断罪システムみたいのは感情ないと思ってたが、俺は嫌われるな。
「随分と弱い雷だな。ま、仕方ないよな!
人間によって信仰による他者の支配と弾圧は正しき行いとされたもんな!」
天に向けて、皮肉を込めて笑う。
未来なんざ見えなくても、分かる。
これまでも、これからも、人は教えを都合よく利用するだろうな!
「それよか、この地獄の炎なんとかしないと……まじで消えない。
……ん? さっきの天罰でいいこと思いついた! ありがとな!」
ああ、今日はいい一日だったな!
〇ベディヴィエール
原典だと結構強い逸話持ち。隻腕のハンデ考えるとヤベーやつ。
・騎士九人分の一突きを放つ。
・巨人の投げ槍を掴んで防ぎ、逆に投げ返す。
聖剣の銀腕なくてもランサーもいけるのでは?
〇バース
水子や赤子の魂の集合体なので、人としてのたくさんの可能性を持つ。
だから、人外の技は可能ではあるが、合っていなかった。
……シンとウルフェンに育てられたのが悪かった。
成長できたが、使い慣れた魔槍が折れて凹んだ。
〇最果てへと堕ちる槍(フォール・ロンゴミニアド)
ランク:?(未完成) 種別:対神宝具
シンがロンゴミニアドを再現しようとして、作った堕槍。
回収した大悪霊の残滓、呪いと悪意を蓄積させた肋骨を芯に加工した。
自身・妖精・魔術師の皮を“紙”、血を“インク”とし、
膨大な悪意を込めた聖書の断片を無理矢理、槍の形に巻き付けている。
本物の聖槍の別の敷物(テクスチャ)を縫い留める機能を無理矢理に再現してる。
人理・聖書のテクスチャを強引に埋め込み、人々の信仰心を媒介に影響を拡大する。
それにより、神性を剥奪、存在を忘却、強力な相手は悪魔へ貶めている。
使い手は神性の怨念を受けるので発狂する。