偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子 作:RichArrow
<Side:ベイリン>
「あ〜、早く帰って母ちゃんの飯くいてぇ〜」
「兄上、また言葉遣いが……」
ベイランの小言を聞き流しながら、藁の上にごろりと寝転がった。
……ったく、寝床もまともじゃねぇな、この村。
俺たちの村から、ここへ来てもう2週間。
賊と獣がうじゃうじゃいて、まだ片付く気配がねぇ。
ま、俺らの村近くからこっちへ逃げてきたのもいるから……ほんの少し、ちょ〜っとだけは責任あるかもしれねぇが?
でもよ、元々ここの騎士がしっかりしてりゃ、こんな面倒はなかったろうがよ。
なのに揃いも揃って、「選定の剣を抜きに行く」とか言って出払いやがって……
俺も行きてぇぇぇぇ!!!
……ま、たまには違う連中に感謝されたり、酒をもらえたりするのも悪くねぇけどな。
シンの修行にもなるし、少しは意味あったか。
でもやっぱ、家の飯と寝床が恋しいぜぇ……
「……そういや、シンはまだか?」
「まだですね。狩った蛇を食べたり、寄り道でもしてるんでしょう」
「アイツ、ホント食いすぎなんだよな〜。猪の肉、少し残してやるか」
猪肉を切り分けながらつぶやく。
蛇狩りくらいなら一人で余裕だろ。毒も効かねぇ体だし。
……ん? それって修行にならねぇんじゃ?
おっし、次はピクト人狩りに同行させるか!
「ベイラン! 次のピクト人狩りにシンも連れてくぞ!」
「私たちがついていても、まだ早い気がしますが……」
「お〜いお前? 弟の才能を信じてやれねぇのか〜?」
「何を言っていますか兄上! シンはいずれ我らを超える最高の弟です!」
「お、おう……わかってんならいいわ……」
ちょろいな。こいつ、シンのことになると俺より甘ぇんだよな。
「まず、私と兄上で相手の腱を斬りましょう。
更に腕を一本潰した状態なら、実戦でも良い訓練になります」
「やっぱ過保護じゃねぇか……」
「ピクト人相手では、それくらいで丁度いいんですよ」
「バカ野郎。ギリギリの攻防を体験させて、斬れねぇ皮膚を斬れるようになるまで繰り返さなきゃ修行にならねぇだろ」
俺たちも子供の頃、そうやって突っ込んで鍛えたじゃねぇか。
見習いの中で生き残ったのは俺とベイランだけだったが、いい経験だったぜ。
若ぇ頃は、すぐに強くなれるから調子に乗る。
だからこそ、「上には上がいる」と自覚しねぇとな。
「……って、俺もまだ若ぇわ!」
「急にうるさいです。もうすぐ30ですよ、兄上。*1」
「母ちゃんもさ、『孫の顔見たい』とか言いやがるしよぉ……」
「兄上もシンも、相応しい女性でなければ私は認められません」
「……俺が行き遅れてんの、お前のせいじゃねぇか?」
バカ話をしながら、のんびりとシンの帰りを待つ。
ふぁ〜あ……ねみぃ……
最近、昼寝してねぇな……少し寝るか。
シンと見知らぬ強者の気配で目を覚ますと、おもしろい事になってた。
「リン兄……じゃなくて、ベイリン兄上。こちら、旅の騎士エカル卿です。
兄上の噂を聞き、手合わせを願っておられます」
「弟君より紹介に預かりました。私はエカル。修行の旅をしております。
ノーサンバランドにて名高きベイリン卿とも学び合えればと思い、参りました」
……こいつ、今まで見てきたどの騎士よりも強ぇかもしれねぇ。
うちの領地の騎士どもは、俺のことを“蛮人”だのなんだの言って、負けるのが嫌だから戦わず逃げやがる。最近じゃ、ベイランやシンとばっか戦ってて、正直飽きてたとこだ。
ちょうどいいじゃねぇか。
「エカル卿ほどの強者に、そう言っていただけるとは光栄だ。
ぜひ、修行のお手伝いをさせていただきたい。
……あまり行儀のいい戦い方はできねぇが、お互いの糧になれば上等だろ?」
<剛の剣と柔の剣>
村の外れ、開けた草地で、二人の騎士が対峙していた。
片や旅の騎士、エカル。
片や“蛮人”と称される騎士、ベイリン。
傍らには、ベイリンの弟・ベイランと見習い騎士のシンが見守っている。
エカルは、まさに「騎士然」とした剣士にして騎士だった。
精霊の祈りのこもった頑強なロングソード。
旅の痕跡が刻まれた、美しくも蒼く鈍い鎧と兜。
そして腰には、異様な気配を放つ“魔剣”。
構えは脱力しており、しかし一切の隙はない。まるで水のような構えだった。
対するベイリンは、荒々しい戦士の闘気を放っていた。
左手に無骨なラウンドシールド、右手に本来は両手用のロングソード。
動きやすさを優先した血と汗が染みた古びた鎧と兜。
腰には二本の投げ
構えは大きく前傾し、今にも飛び出しそうな獣のような気迫が漂っている。
ベイリンから放たれる濃密な殺気に、遠巻きに見ていたシンが思わず身を震わせる。
しかし、正面に立つエカルは微動だにしなかった。
その瞬間、殺気に当てられた遠くの木にいた鳥が飛び立とうとし――地に落ちる。
鳥が大地に叩きつけられた瞬間――
ガンッ! ガッ!
火花が弾ける。二度、金属が悲鳴を上げた。
ベイリンが剣を振り下ろす。そして、エカルは剣の腹で受け、流し、切り返す。
(予想以上に速く、重い! これが本当に片手で振るわれた一撃なのか!?)
(コイツッ!? 俺の一撃を流して、勢いを“返し”に使いやがった!?)
「……ラン兄、あれが"技"ってものなのか?」
「なるほど……ああ動くのか。参考になりますね」
初撃として、ベイリンはいつもの一撃を放った。
ただ速く、ただ重い。回避も防御も許さない、圧倒的な剛剣。
だが、エカルはそれを――全身を使って、剣の腹で受け流した。
しかもその勢いを利用した切り返しへと変貌させた。
返しの剣は、ベイリンの勢いをも乗せた致命の一撃である。
だがベイリンは、それを直感で盾で受け流し、すぐに体勢を立て直す。
双方が再び構えの状態に戻しながら、二人の騎士は、互いが只者ではないと悟った。
ベイリンは、普通な騎士の家に生まれた“戦いの天才”だった。
並外れた身体能力。未来を読むかのような直感。死を恐れぬ胆力。
――それら全てを、少年の頃から持ち合わせていた。
彼は父から騎士として一般的な学びを受けたが……
馬に乗れば即座に馴染み、剣や槍を振れば即座に父と並みの騎士を凌駕した。
そして、弟と戦場に出れば、兄弟はいつも勝ち続けた。
彼にとって、共に並び立てる存在は己の兄弟のみ。
それ以外で、力を競える相手は猪かピクト人くらいだった。
エカルの様に技を用いる者も何人かはいた。
だが――いずれも、ベイリンの剣によって地に伏した。
彼に遭遇して、生き残ったサクソン人は”悪魔”と叫ぶ。
彼と試合して、負けた騎士たちは”蛮人”と蔑みつつ嫉妬する。
だからこそ、目の前の強き騎士との戦いに、心が燃える。
「ならよぉ……連撃なら、どうだぁぁッ!」
叫びと共に、ベイリンの剣が唸りを上げた。
一撃一撃が瞬時に最速へと至り、踏み込みごとに大地が爆発する。
それが途切れることなく連続し、まるで嵐のようにエカルへ押し寄せる。
――彼の剣は、“技”がないのでは決してない。
直感が導くまま、常に最高の一撃を行えるように磨き抜いてきたのだ。
一撃を放った後でも、体勢が崩れても、盾で弾いた直後でも。
剣でも、槍でも、斧でも、棍でも、盾でも、拳でも、蹴りでも――
どんな状況、武器であろうと、全力で攻撃できる。
それこそが、ベイリンの“技”。
相手より速くて、重くて、多いならば勝つという単純な戦法。
「ぬおおおぉぉぉぉ!!」
エカルは、迫り来る斬撃の嵐を弾き、流し、逸らし続ける。
まるで水のように、すべてを受け流し、やがて静寂に変える。
時に、流れに乗った激流として押し返す。
ベイリンの剣は嵐だった。激しい連撃は風と雷が一度に襲いかかると錯覚するほどである。
それに対し、エカルは海の様だった。全てを呑み込み、静めては返し、流れを支配していく。
嵐と海がぶつかり、何重にも金属音が悲鳴の様になり続ける。
……だが、海の剣技による流れの支配は完璧ではなかった。
流し損ねた一撃が鎧を削り、蒼き兜の内では汗と涙が瞬きを許さない視界を濡らす。
下へと流して削られた足元は不安定になり、腕と腰はしびれ始める。
時間にしてまだ30分足らず――それでも、体は確実に悲鳴を上げていた。
しかし、状況を見れば……勝利の天秤は、エカルに傾いていた。
「……リン兄の血の匂いが、濃くなってきた」
シンの呟く通り、ベイリンも削られていた。
兜は割れ、籠手は裂け、胴の鎧には亀裂。
盾は原形を留めず、切られ、潰れ、もう円形ではない。
崩れた防具の隙間から入った斬撃で、彼の体は複数の傷から血を流している。
ベイリンも人の子である。
気合で痛みを誤魔化せても、流血による肉体の鈍りは誤魔化せない。
本能的な魔力による一時的な肉体の補助にも、限界が見え始めていた。
エカルは、勝機を見出してもなお、気を緩めることはなかった。
彼の中にあったのは、静かな勝利への確信。だが――
「……動きが、変わってきた? 嵐に雷と風だけじゃなくて雨が混じる感じ?」
「流石は兄上です。外から見るだけではまだ掴みきれていないので羨ましいです」
「後でリン兄に教えてもらえば?」
「もちろんですよ。シンも頑張りましょうね」
――兄が敗れる心配など、二人は微塵もしていなかった。
(なんだ!? 上手く流せなってきた!? 腕に衝撃が溜まる!!)
ベイリンは“戦いの天才”である。
現在の戦い方は直感によって導き出された単純な剣術だった。
その戦い方が強く、それで十分であった。
己の攻撃を凌げる技術など、どこにも存在しなかった。
技術を学ぶ必要もなく、全てを直感で超えてきたのだ。
だからこそ、技術で上回るエカルとの戦いは、初めての“学び”だった。
ベイリンには、自分を高めてくれる最高の兄弟がいる。
ベイラン――共に同じ"技"、互いの最高地点を極め合う弟。
シン――奇妙な呪いを交えた戦いで、直感の限界と己の慢心を付いてくる弟。
しかし今、目の前には――
力も速さも自分より劣り、魔術も呪いもないのに、なお“強い”と感じる騎士がいる。
戦いの前に言った様に学びとして相手の全てを取り込み続ける。
(足で大地へと重さを流しながら、その反発を踏み込みとして利用する。衝撃は全てを殺さずに次の動きへ組み込む。切り返し後の動きも一繋ぎのように合わせる。ただひたすらに流れを止めず、相手を自分の渦へと引き込む……無茶苦茶だなオイ!)
ベイリンは最初の攻防から勝機を探り続けていた。
エカルの技をも貫く一撃を行う? このままだと今以上の一撃なぞ出せない。
エカルの技を上回る技を行う? 今すぐ模倣しても決して勝てない。
(なら……まだ半端だろうがどっちも俺に混ぜてしまえ!!)
ベイリンの連撃はさらに勢いを増す。
反撃すらも糧とし、反動すらも利用して――さらに速く、さらに重く。
彼は、どこまでも天才だった。
(ならば……私も、その頂きに届かせる!)
嵐に押されようと、エカルもまた負けるつもりなどなかった。
エカルも同じようにベイリンから”学び”を得ていた。
剣速を最速へ到達させる技、剣圧を最大とする技。
それらを己の剣流にのせ、渾身の一撃を放つ――
彼の人生において最高の一撃だった。
「「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」
放たれた斬撃に、ベイリンは潰れた盾でなく、剣で応じる。
一瞬、剣同士が止まった様に見えたが――
ギンッ!!
重き一撃によってベイリンの剣が弾かれ、宙を舞う。
その影から――ベイリンの盾が、下から跳ね上がった。
「ごふっ……!?」
その瞬間、エカルの体が浮いた。
ベイリンは――剣を囮にし、盾でエカルの胴へとアッパーを叩き込んでいたのだ。
慣れない一撃の直後、エカルは読みきれていなかった。防ぎきれなかった。
浮いた体に、ベイリンは拳を叩き込む。
ドガッ!!
エカルの体が地面を跳ね、数度バウンドしたあとに崩れ落ちる。
彼の意識は、すでに途切れていた。
「……リン兄の、勝ちだ」
こうして、騎士たちの決闘は――
“野蛮なベイリン”の勝利で幕を閉じた。
〇武器手放した時点でベイリンの判定負けでは?
ちゃんとした試合としてならばエカルの勝ち、戦いとしてはベイリンの勝ちです。
今回は立会人もいない決闘なので戦い寄りという事で……
〇ベイリン
劣化版の
シンプルに速くて重いやつが技量まで付け始めた。
既に円卓並みだが、まだまだ全盛期でない。双剣も残ってる。
〇エカル
聖剣なしランスロットくらいのつもり。
〇剣術
無〇転生の剣神流と水神流をモチーフにしてました。