偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子 作:RichArrow
Garden of Avalonと大筋は変わらないです。
アーサー王とサクソンとの戦いは、すでに数年に及んでいた。
そして、そのすべてに勝利し続けたことで、王はブリテン中から深い敬意を集めていた。
かつて敗れた諸王たちも、今ではアーサー王を正当な王と認め、軍事・物資の両面で協力を惜しまなかった。
――それにもかかわらず。
サクソンの軍勢は、まるで衰える気配を見せなかった。
敗北を重ねるたびに、より強くなって襲い掛かってくる。
逆に、勝利を積み重ねているはずのアーサー王の側は、少しずつ、しかし確実に削られていった。
この、あり得ざる現象の裏には――
世界の、人理の後押しがあった。
“ブリテンは、世界に残る最後の神秘と共に終わらなければならない”
その意志こそが、サクソン軍を異常なまでに強大にしていた。
さらに、その意志に最も強く抗う存在すらも、サクソンに与していた。
卑王――ヴォーティガーン。
竜の血を飲み、ブリテンの意志と結びついた魔竜王。
人を排し、神秘だけが残る楽園としてブリテンを残そうとする者。
皮肉にも、ブリテンの神秘を終わらせようとするサクソンを招き入れ、
彼らを率いて、人理に抗い、”人のブリテン”を終わらせようとしていた。
――そんな、アーサー王とサクソンの戦いもいよいよ終幕を迎えようとしていた。
宮廷魔術師マーリンが、サクソンの本拠地を突き止めたのだ。
サクソンの戦士王が座す、簒奪された城。
卑王ヴォーティガーンが棲まう、城塞都市。
一つ前の大戦の勝利から間を置かず、二つの拠点を同時に叩く大決戦。
この戦いに勝利すれば、ブリテンは平和を取り戻す――
騎士たちはそう信じ、誰もが、決死の覚悟で戦場へと向かった。
………………………………
しかし、その一方で。
最悪の騎士シンと、彼が率いる者たちは――
「赤に10だ!」
「俺も赤に10!」
「黒に30!」
「結果は――黒だ!!!」
『おっしゃあああああ!!!』
『クソがぁあああああ!!!』
「何やってんだテメェら!?」
二つの戦場の中間地点。
予備戦力として待機していた彼らは――賭博遊びに興じていた。
胴元はシン。参加者は、怪物兵たちである。
「まぁまぁ、モードレッド。
暴れたらウルフェンみたいに埋められるよ?」
「グルルルル……」
少し離れた場所では、不貞腐れた様子の三人が、それを眺めていた。
大柄な鎧を纏うバースの姿は変わらない。
だが、二人の少女は十五歳ほどの外見に成長していた。
数年に及ぶ戦いの中で彼らもまた成長し、騎士として認められる存在となっていた。
……ウルフェンは相変わらず、騎士ではなくシンのペット扱いだが。
「最終決戦で、俺たちみたいなのが活躍するのはマズイんだよ」
これまでの戦いで、シンと怪物兵は活躍しすぎた。
まともな騎士たちが快く思わないのもあるが――
それ以上に、民が彼らの醜い姿に不安を覚えていた。
戦いの終わりを見据えれば、民心を掴むこともまた、重要なことなのだった。
「モードレッドはもう円卓候補だって言われてるから十分でしょ?」
「お前はもっと上を目指せ、バース。王の役に立て」
「アハハ……僕、忠義薄いから円卓には向かないよ」
モードレッドとバースは、すでに騎士として実力を認められていた。
だからこそ、若き騎士が命を散らさぬよう、彼らも今回は待機を命じられていたのだ。
不満はあれど、王の勝利を信じているからこそ、焦りはなかった。
しかし――
「いやぁ、このままだと、マズいねぇ」
唐突に響いたマーリンの声が、その空気を一変させた。
「やっとヴォーティガーンの方で何か見えたのか?
……おい、何を焦ってやがる」
「アレは竜の血を飲んだだけではなかった。
ウーサーを打ち破った時とは変わっていた」
「竜の力だろうとアーサー王とガウェインなら――」
「違う。卑王はブリテンの意志と力と繋がり、ブリテンそのものとなっていた。
同類のモルガンも上回り、私の目を欺くほどの存在だったんだ」
神妙な顔で告げるマーリン。
その表情を見て、シンは珍しく茶々を入れなかった。
ただ、要求だけを寄越せと、鋭い視線で促す。
「二振りの聖剣だけでは、厳しい。
だが――全解放した聖槍なら、届く。
それを、どうかアルトリアへ届けてほしい」
「分かったが……俺は聖槍に触れない。運ぶ役は無理だ」
そう言いながら、シンは堕剣と堕槍を引き寄せる。
両手を埋めながら待機していた三人と、怪物兵たちに命を飛ばした。
「俺が先に行って、時間を稼ぐ!
ガキ共は聖槍を持って城塞都市へ! アーサー王の元へ急げ!」
返事を待つことなくシンは竜人の姿へと変じ、宙へと躍り出た。
小規模な嵐を引き起こしながら、高速で空を切り裂く。
人らしさを見せ始めたマーリンへの喜びと、憐れみ。
人外が“争い”という人の営みに介入することへの憎しみと、怒り。
それらすべてを胸に宿し、シンは恐るべき魔竜へと挑もうとしていた。
「ブリテンの意志だと? 人同士の戦いじゃない、だと?
――なら、俺も全力で穢し尽くしてやろう」
サクソンの戦士王の元へは、ランスロット、トリスタン、ラモラックら円卓の騎士と戦力の大半が送られ、攻略は順調に進んでいた。
一方、ヴォーティガーンは城塞都市に僅かな供回りと共に留まっているという情報から、
王たるアルトリアとガウェイン、そして少数精鋭の騎士が討伐に向かっていた。
――だが、その攻勢は失敗に終わる。
魔竜へと変貌したヴォーティガーンの一息で、精鋭の騎士たちは、跡形もなく蒸発した。
死肉を、瓦礫を、大地を取り込みながら、再生と巨大化を繰り返す魔竜を前に、アルトリアとガウェインは手をこまねく。
戦闘開始から数時間。
二人の体力は削られ、聖剣の輝きすら、わずかに曇り始めていた。
「アーサー王! もはや相手はブリテンそのもの! 一度撤退を――」
「もう少しだけ手を貸すものだぞ、ガウェイン卿。
島の癇癪など、聖剣の担い手として、王として鎮めなければ立つ瀬がない」
僅かに弱気を見せたガウェインに対し、アルトリアは、なお余裕を保って答えた。
どんな窮地にあろうとも、彼女は決して諦めない。
常に勝機を見出し続ける王。
そして――
彼女の直感は、己の勝利を確信していた。
『ならば、島の意志に呑まれて朽ちよ』
巨大な魔竜王が飛翔し、大きく息を吸い込む。
騎士たちを滅ぼしたものよりも、数段階上の威力を持つブレスが溜められていく。
英雄であろうと、地を這う人である限り回避など不可能な一息が――
「
『ぬおぉぉぉ!?』
放たれる直前、黒い流星が魔竜の背へと突き刺さった。
流星はそのまま、魔竜王の両翼の付け根へと堕剣と堕槍を深く埋め込み、
その巨体ごと、大地へと叩き落とす。
二つの邪悪な武具が悪意で肉体を侵食し、再生を阻害する。
地を這うことになった魔竜王は驚愕に顔を歪めた。
それでもなお、魔竜王はブレスを止めず、下手人へと吐き出す。
膨大な瘴気が地表を侵食し、溶かし、蒸発させる。
あらゆる生命の生存を許さぬ一撃――
「“呪い”や“瘴気”のブレスが、今さら俺に効くわけねぇだろ。
お前がブリテンそのものなら――
俺は、ブリテン……いや、世界の罪を背負う者だ」
最悪の騎士シンは、竜人の原型を残したまま姿を現した。
彼にとって、この程度は致命傷にはなり得なかった。
「シン卿、よく来てくれた」
「俺の剣と槍を埋め込んで、翼の再生は潰した。後は地上戦だ。
魔術系の攻撃は俺が引き受ける。物理は――」
「私が受け持ちます! 王よ、どうか前へ!」
シンが周囲の瘴気と暗雲を背負い込むと、聖剣は再び輝きを取り戻し、雲間から日が差す。
ガウェインは迫る巨大な尾を、全力で弾き飛ばした。
アルトリアが踏み込み、ヴォーティガーンの肉体を深く裂く。
それでも、まだ届かない。
だが、勝機は確かに
騎士たちの側へと瞬き始めていた。
シンの武具のように再生を封じる物を核に打ち込めば、勝利を得られる。
つまり――力を一点に集約した聖剣を、心臓へ埋めること。
だが、それは勝利条件を装ったブラフ。
本命は、聖槍。
それを運ぶ者たちを悟らせぬため、そして敵の意識をシンへと集中させる策だった。
魔竜王も、アルトリアたちもそれを知らぬまま全力で挑む。
特に魔竜王はブリテン全土の力を振り絞り、厄災を引き起こす。
そのすべてをシンが相殺し、背負い、封じていく。
剣と槍を失おうとも、騎士として戦えずとも――
彼はブリテン屈指の魔術師であり、最悪の呪術師だった。
『あらゆる獣よ、騎士を討て』
「雑魚を増やしても意味ねぇぞ。
魔竜王の肉体から、無数の獣が生み出される。
たった三人の騎士を数の暴力で圧殺しようとする。
シンは取り込んだ神の残滓――悪霊を触手の柱として呼び出す。
撒き散らす病魔を以って獣を朽ち果てさせた。
『ブリテンの嵐よ』
「
『ブリテンの炎よ』
「
『ブリテンの夜よ』
「
『悪魔め!神秘の残滓を穢すなど、人理以上に忌々しい!』
「残りカスを有効活用してやってんだよ。お前もそうしてやる」
「シン卿! 後でその柱を片付けておくように!」
複数の醜悪な柱が立ち、呪いと魔術が激突する。
その間にも、星の聖剣と太陽の聖剣が魔竜王の肉を削り飛ばしていく。
すでに彼らは、国五つ分に相当する力を奪っていた。
それでも、まだ足りない。
魔竜王の力は、なお尽きる気配を見せなかった。
――だが、時間は十分に稼がれていた。
「シン、アーサー王! 長期戦になりますが、このままなら勝てます!」
「いんや。時間稼ぎは終わりだ、ガウェイン。
こんな老害、楽にぶち殺してしまおうぜ」
「この感覚は……! 聖槍を、持ってきてくれましたか!」
シン以外は戦いに集中しており、誰も気づかなかった。
戦場へと近づく、新たな気配に。
その中でも、モードレッドが丁寧に抱える聖槍は、ひときわ強い威圧を放っていた。
『チィ……どこまでも足掻くか……』
己の不利を悟った魔竜王は、撤退を視野に入れ始める。
だが、その判断は遅すぎた。
強大な力を得たがゆえの驕りが、逃げ道を失わせていた。
「ウルフェン、グーラ! 全力で止めるぞ!」
「ガウ!」
シンは、背を向けようとした巨大な尾へと躊躇なく飛び込む。
増援の先頭を駆けるウルフェンも、魔剣を咥えたまま主人に追いついた。
二人で魔剣を強く握り――力任せに、巨大な尾へと押し込んだ。
魔剣グーラに課されていた、過剰吸収防止の弁が外れる。
二人の持ち主は、ブリテンそのものの力を喰らい取る。
力の奔流に耐えきれず、魔剣は砕けては修復される。
持ち主の肉体もまた、破裂しては再生を繰り返す。
「「クハハハハハ!!!」」
生き地獄の只中で、怪物と狂人は、ただ笑っていた。
動きを鈍らせた魔竜王へ、騎士たちの追撃が叩き込まれる。
「ランスロット卿。今一度、あなたの技をお借りします」
ガウェインは、太陽の聖剣の熱を放出せず、極限まで集約していく。
かつて友が見せた絶技を模倣し、巨大な手へと駆け上がった。
太陽の柱が、魔竜王の手を縫い留める。
ガウェイン自身の全身も焼かれるが、決してその柱を手放さなかった。
「王! 魔竜の手を封じました!」
彼は信じていた。
託すべき王は、必ず勝利すると。
「ここで仕留める! 決して逃しはしない!」
「お手伝いします、アーサー王!」
アルトリアは聖剣をもう一方の手へと突き刺し、さらに動きを封じる。
バースは、王が手放した聖剣を代わりに抑え続けた。
「王、どうぞこちらを」
「うむ。ありがとう、モードレッド卿」
――そして、ついに聖槍が王の手に渡る。
「最果てより光を放て……」
『させぬ! させぬぞ!』
ヴォーティガーンはなお動く首を無理やり向け、聖槍を解放しようとする者を睨みつける。
その視線だけで瓦礫、魔術、呪いがアルトリアへと殺到した。
「王の邪魔は――このオレがさせねぇよ」
だが、それらは届かない。
モードレッドが前へ出て、王を庇いながら切り捨て、時にはその身で受け止める。
彼女はこの時ばかりは、無茶な訓練を課してきたシンへと感謝していた。
瓦礫も、魔術も、呪いも――すでに何度も叩き込まれてきたものだ。
「其は空を割き、地を繋ぐ、嵐の怒り」
聖槍解放の詠唱は、すでに終わっていた。
膨大な光の渦が、魔竜王へと向けられる
鱗も、肉も、存在そのものを打ち砕き、聖槍は心臓を貫いた。
雲が晴れ、空気が澄みわたる。
その下で、一人の老人が胸に槍を受けたまま倒れていた。
「……お前たちでは、ブリテンは救えない。
神秘の時代は、すでに終わったのだ」
ヴォーティガーンは、最後の言葉を紡ぐ。
それは、決して負け惜しみではなかった。
「これより先は、文明の時代――人の時代だ。
神秘の力を持つお前たちがいる限り、ブリテンに未来はない。
古きブリテンは、とうの昔に滅んでいたのだ」
アルトリアは、驚愕の表情のまま聖槍を引き抜く。
巨大な魔竜王であったヴォーティガーンは、静かに塵へと還っていった。
「それでも――
私は、ブリテンの民が笑って暮らせる世を決して諦めなどしません」
「だから――
俺が美しく、甘い“終わり”を用意してやるんだよ」
アルトリアとシンはほぼ同時に答えていた。
だが、その言葉が指し示す未来は正反対だった。
『ハハハハハハハ!
ならば、どちらの意志が勝利するか、世界の果てで見届けてやろう!』
塵となったヴォーティガーンの声が空気を震わせて、笑いとなって残る。
“理想の王”と“偽りの贖罪者”。
どちらも、人が生み出した人外。
”ブリテンの未来が人外の手に委ねられている”
その皮肉を、彼は最後に嗤ったのだった。
こうして、卑王ヴォーティガーンとの決戦は終わった。
だが、王の胸には小さな苦悩の種が芽生え始めていた。
〇シン
少年期時点で耐久Aはあったが、青年期ではそれ以上。
呪い・毒・瘴気などの負の力がほぼ効かないとかチート野郎。
とはいえ、聖槍やエア、神造兵装は普通にダメージを喰らう。
そして、神代の英雄よりもナイチンゲールが特に苦手。
〇アルトリア
シンの手助けで時間と体力に余裕ができていたが……
Garden of Avalonだとガウェインと二人で卑王を討伐していた。
〇ガウェイン
ガラティーンなら、ソーラーブレイドできると思い、オリジナルの技を追加した。
〇暴食魔剣(グーラ)
幼少期よりシンに使われ続け、竜とブリテンを喰らったことで変質した。
より凶悪な宝具となったが、シンは使わずにウルフェンに渡された。