偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子 作:RichArrow
ほとんどシン視点、最後は三人称です。
<Side:シン>
卑王ヴォーティガーンとの決戦は、俺たちの勝利に終わった。
これでサクソン軍は、戦力と指揮の両方を大きく削がれ、ようやく勢力を弱めたと言っていい。
だが、まだまだサクソン人はブリテンに残っている。
そのうえローマ、ピクト人までもが、この地を狙って蠢いてやがる。
それでも――
一時の平和は、確かにブリテンの民と騎士たちにもたらされた。
「少し平和になったからって、どいつもこいつも旅に出るんじゃねぇ!」
「うるさい。とっとと消費した飼料を算出しろ」
俺はケイと並んで、書類の山に埋もれていた。
内政ってのは、戦時だけじゃなく戦後もクソほど忙しい。
一応、領主代行をやってた経験があるから、俺も一通りはできるが……
今まで『サクソン相手で忙しい』を理由に、ケイとアグラヴェインへ丸投げしていた。
その言い訳がもう通じなくなったがな!
さらに、ガウェインやランスロットをはじめ、
多くの騎士が一斉に旅に出たせいで、人材不足も深刻になった。
だから、バースとモードレッドには、教育ついでに手伝わせている。
教育だ。押し付けじゃない。
……たぶん。
「にしても、円卓にまた空きが出たなぁ」
「ユーウィンの奴、また女房に縁切られたが……
今度はガチでヤバいって、円卓を辞めちまったな」
「平和になって、奥方のほうが限界だったんだろ」
「……その席、狙わせていただきます」
机仕事の最中だというのに兜を外さないモードレッドが、真面目な声で割り込んできた。
いつもと違う丁寧な言葉遣いのギャップに、俺とバースは思わず笑いを堪えた。
――あ、やべ。
めっちゃ睨まれてる。
「モードレッドも円卓候補だが……今のところ最有力はパロミデスだな。
トリスタンとの関係が改善してこっちに付くとは思わなかったが」
「リン兄――ベイリンを思い出させる野蛮さが減点になってるな。
他にも、ディナダン、サグラモール、ボールス……ライバルは多いぞ、モードレッド」
「望むところです」
「じゃあ円卓入りを目指すなら、机仕事も頑張らないとな!
ってことで、俺の分も頼むわ!」
「「死ね、ボケ」」
ケイとモードレッドから、同時にぶん殴られた。
冗談だぞ。本当に。三割くらい。
――そういえば、円卓候補の話で思い出したが。
「ガウェインの妹……いや、弟も来てたんだろ?」
「……どこで知りやがった」
「ランスロットが見つけて一緒に旅してるって、使い魔経由でな」
モードレッドがピクリと反応したが、お前のことじゃない。
そのガレスってのも、お前と同じく女であることを隠しているらしいがな。
「ケイ。そいつを“ボーマン”って名付けて、
騎士じゃなく厨房係に押し込んだんだろ?」
「名前も身分も隠した不審人物を、騎士にするわけがないだろ」
「カカカ、やっぱり子供に甘いな、お前。
サクソンとの戦いにも出さないようにしてただろ」
俺相手に嘘は通じないと分かっていても、
ケイは誤魔化しやがる。
相変わらず、ひねくれた男だ。
……からかいすぎたな。
機嫌が悪くなってきてる。
「モードレッド、知らない騎士に足元を掬われるなよ」
「ハンッ」
まぁ、今のモードレッドなら円卓入りはまず間違いないだろうな。
「シン卿~! いるか~?」
書類仕事が一段落したころ、間の抜けたボールスの声が届いた。
ランスロットじゃなく、俺に用があるとは珍しい。
ケイが軽く頷いたので、部屋へ呼び入れた。
「シン卿! 新しい騎士見習い育ててくだちゃい!
なんでも……は、しませんけど!」
「うっぜぇ……お前は俺を何だと思ってんだ」
「子供三人を育てた託児所っすかね?」
「よし。そこに座れ。好きな呪いを選ばせてやる」
「タンマ! タンマっすよ!
いや、マジですげぇ子だから、一目だけでも見てくだせぇよ!」
本気で殴るぞ、このお調子者。
……だが、ランスロット狂いのバカがわざわざ気にかける見習い。
それはそれで、少しだけ興味が湧いてきた。
まぁ、見てみるか。
「……ギャラハッドです」
「おいボールス、どこから攫ってきた」
「シン卿! 俺っちは案内しただけっすよ~!」
こいつ、ヤバイ。
見た目は成人したばかりの年頃だろうが、とんでもない才気を感じる。
そして――俺の半身、堕剣が強く反応していた。
この少年こそが、本来の持ち主。
“最も優れた騎士”。
……そうか。
俺の円卓としての役目も、終わる時が来たってわけだ。
「こいつの相手はランスロットが向いている。
ガレスの試練が終わったら戻るだろ。
その時に押しかけて、騎士と認めてもらえ」
「ちょっ!? シン卿、丸投げっすか~!」
「(無視)あとは王から適当に課題をもらえ。
そして、円卓候補になれたなら――俺の剣と席を試せ」
「「「!?」」」
ギャラハッド以外の全員が、目を見開いた。
……まぁ、挑んだ騎士が全員死んでる以上、
死刑宣告に聞こえたかもしれん。
いや、違う。
俺から言い出したからこそ、“可能性がある”と分かったんだろう。
そのことに驚いているのか。
「俺の代わりに――バース。
しばらくギャラハッドに付いていろ」
ついでに、こいつらを組ませてみるのも悪くない。
俺が円卓を去った後も、やることがあった方がいいだろう。
この二人は、“無垢”という点では似ているが、本質は違う。
少しずつ殻を破ろうとするバース。
完璧な人形であろうとするギャラハッド。
どう反応するか、興味が湧いた。
……それに父親として、年の近い友を増やしてやりたい気持ちもあった。
モードレッド。
ガレス。
ギャラハッド。
立て続けに、次の世代を担う騎士たちが現れた。
普通なら、この事実に期待を抱いただろう。
だが――“終わり”は、確実に近づいている。
そもそも、ホムンクルスの二人は長く生きられない。
ウルフェン、バース。
お前たちは、自分の願いを見つけたか?
“終わり”を迎える前に、それを見つけて、叶えてくれ。
……まぁ、叶わなくても
すべての罪も後悔も俺が背負ってハッピーエンドだがな。
ガレスとギャラハッドが来て、数か月が経った。
モードレッドは円卓入りを果たしてから関わりが減った――
……なんてことはなく。
俺の引き継ぎとして、相変わらず色々叩き込んでいる。
魔術・呪い対策。間諜狩り。怪物兵の指揮権移譲。
あと、ウルフェンの世話――
「それだけはやらねぇ!!!」
「ワウ?」
一時の平和なうちに、やることは山ほどある。
だが、平和になったからこそ生じる問題も出てきた。
――ペリノア王による半独立の動きだ。
これまで、サクソンに対抗するため、アーサー王を団結の象徴として戴いてきた。
しかし落ち着きだすと、再び意見が割れ始める。
そのまま王権統一を維持するべきだという動きと、
諸侯が再び独立国として在るべきだという動きが、同時に噴き出した。
そして――
広い領地。各方面へのコネ。事実上のブリテンNo.2。
ペリノア王が独立の姿勢を見せれば、その流れは一気に広がると予想できた。
その事態を最も嫌った騎士がいる。
王権統一を推し進めるアグラヴェインだ。
あの潔癖症の王信者は、兄弟にペリノア王暗殺を依頼しやがった。
「で、迷ってる二人は、
俺に応援してほしい? それとも止めてほしい?」
「いきなり心を読んで、核心に入らないでくれますか……」
ガウェインとガヘリスを見据える。
妖精の眼など使わずとも、人の迷いなどいくらでも読める。
「王のためならば、為さねば――」
「俺はお前たちがどうしたいかを聞いている。
お前らの忠義は本物だろうよ。
騎士として正しく、美しい在り方だ。
だが、俺はそんな綺麗ごとは好かない。
人として醜い本音こそを、聞き出し、それを自覚させたい。
己の悪意から目を逸らすな。
「それを認めれば、ペリノア王が抱える呪い――
『死に瀕しても、誰も助けに来ない』、あの呪いは放置する」
あの好色爺、子を作りまくった挙句、実の娘と気づかず助けなかった。
その結果、娘に呪われた。
“実の子すら救わぬ者は、誰からも救われない”
理不尽ではない。
因果応報だ。
んで、俺は解呪を求められたが――条件を示して保留にしている。
あの爺さんが“己の欲を認められれば”というな。
「……認めましょう」
ガウェインは、歯を食いしばる。
「私は……父の仇であるペリノア王を憎んでいました。
……今も、憎いです」
「兄上……私もです……」
ああ、知っている。
今も憎いこともな。
でも、ラモラックと仲を戻そうとしているから苦しい。
親友であった仇の息子と仲を戻したい。
だが、その親友の父へ復讐したい。
それは今度は、自分が仇となる行いだ。
それでも憎悪は消えない。
「それは、お前たちが父を愛していた証だ。
憎悪を否定することは、
その前提にある愛すら否定することになる」
二人して、間の抜けた顔をしやがる。
俺が騎士らしくないと怒るとでも思ったのか。
逆だ。
俺は騎士の美徳などを知りたいのではない。
己の悪と罪を認められぬ者こそが、本当に醜い。
「よく言えた。ならばペリノア王の呪いは残しておく。
その後はお前たち次第だ」
それに――
己で罪を自覚してもらえれば、俺が背負いやすくなる。
お前たちは安心して罪を犯せばいい。
――後日。
ペリノア王の訃報が円卓に届いた。
そして……ラモラックは円卓の席を辞し、混乱する領地を鎮めるため帰国した。
「ラモラック卿は……私を憎くはないのでしょうか」
ないな。
むしろあいつは、お前たちに申し訳なく思っている。
円卓を抜け、キャメロットを離れれば、動きやすくもなるだろう。
……モルゴースとの関係も含めてな。
ククク、モルゴースとの情事か。
ガウェイン兄弟への不義理どころの話ではないな。
主君の妻に惚れたトリスタンとランスロット。
さて、どっちがより業が深いかね。
「あ、代わりの門外顧問はシンがやってね」
「
「君も円卓を抜けて目の届かない場所に行かれるの、ちょっと怖いんだよね。
あと、ウルフェンの面倒はモードレッドだけじゃ無理」
いい加減、俺の自由時間を増やしてもいいだろうが。
さて――準備は整った。
俺の力と、堕槍の力を解放する。
ガウェイン卿は、父ロット王を討たれた憎悪に駆られ、
弟ガヘリスと共にペリノア王へ復讐を果たした。
――物語の大筋は変わらない。
だが、役割は変わる。
騎士たちの罪は、悪魔が原因となる。
悪魔の化身が、ペリノア王の野心を煽り、ガウェインの復讐心を刺激した。
その結果、ペリノア王は討たれ、ブリテンに混乱をもたらされた。
神秘の時代の罪も、悪も、後悔のすべてが俺と共に消える。
人理の時代には、理想と夢と憧れだけを残せばいい。
――『アーサー王伝説』は美しき物語となる。
<原典まとめ風 ギャラハッドの参上>
キャメロットに到着したギャラハッドは、シンの紹介によりバースと親交を結ぶ。
その後、ランスロットに騎士として認められ、
アーサー王から与えられた試練を次々と突破した。
最後の試練は、シンが持つ堕剣と“厄災の席”への挑戦であった。
ギャラハッドはこれに勝利し、円卓最強と称されたシンの座を正式に継承する。
シンは彼を称賛し、堕剣を託した。
「その剣は我が半身。汝をあらゆる悪へと誘うであろう」
後にギャラハッドは、バースと共に聖杯探索の旅に出る。
旅の途上、数々の誘惑と試練が彼を襲ったが……
彼が堕ちることは決してなかった。
<原典まとめ風 アーサー王伝説前半での最悪の騎士>
最悪の騎士――シン。
彼は華々しい決闘譚こそ少ないものの、
数多の妖精・悪霊・精霊を討伐し、支配した逸話が多い。
また、モードレッド、バース、ウルフェンらを育成し、
怪物軍勢を率いてサクソン軍を撃退した功績も持つ。
ギャラハッドに“厄災の席”を譲った後、
彼は悪魔のように、騎士たちの願い聞き、試練を与えた。
ランスロットは「ギネヴィアの涙を晴らしたい」と願った。
シンは横恋慕する騎士を唆し王妃を攫わせ、ランスロットの覚悟を試す。
それに対し、ランスロットは騎士として矜持を捨てた覚悟を示した。
シンは『王妃の部屋を開けれる魔法の鍵』を渡し、
「その願いは自分で叶えよ」と焚きつけた。
その他にも――
ガウェインには『血族の危機を知れる指輪』
ラモラックには『モルゴースへ手紙を届ける怪鳥』
トリスタンには『イゾルデへ届ける旋律を封じた壺』
アグラヴェインには『罪人を縛り上げる呪いの鎖』
甘く優しい悪魔の化身は、騎士たちの願いを叶えるための“道具”を与えた。
しかし、その多くは後の悲劇の引き金となった。
〇ボールス
原典から赤ん坊のギャラハッド見た瞬間に、
「ランスロット兄貴の子供だ!」って確信するほどランスロット好き。
〇ギャラハッド&バース
本作世界での『アーサー王伝説』では
バースがギャラハッドの逸話によく出てくる。
〇モードレッド&ウルフェン
本作世界での『アーサー王伝説』では
ウルフェンがモードレッドの逸話に良く出てくる。
〇ペリノア王
本作でも原典でもあっさりと死亡する。
ガウェインとガヘリスの二人に勝てるわけないだろ!
でもラモラックの最後の方がもっとヤバイ。
〇ラモラック
空いた円卓の席にはガレスが付く。(本作オリジナル)
モルゴースとは深い関係となっていく。
これでもランスロットとギネヴィアよりマシ。
円卓編は次のオマケで終わりです。
漸く崩壊編に入れます。