偽りの贖罪者、野蛮な騎士に拾われた呪いの子   作:RichArrow

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いきなりの二年後

三人称 から シン視点です。


少年期 ベイリン兄弟編
8.手掛かり


<旅の三兄弟>

 

 

 ブリテンのとある森の中、その湖では「人が攫われる」という噂があった。

 

 ある者は、湖に住み着いた賊の仕業だと言う。

 またある者は、湖に棲む精霊の仕業だと言う。

 

 原因が何であれ、犠牲者が出た付近の村では、その湖に近づく者はいなかった。

 

 いまだ神秘の色が濃く残るブリテンでは、こうした噂は珍しくない。

 だが、ここ二年ほどはそうした噂が広まっても、すぐに収束してしまう。

 

 理由は二組の旅の騎士が、次々と解決しているからだ。

 

 

 

 一組は――選定の剣を抜いた新王とその兄、そして魔術師などの一行。

 彼らは王となる前、ブリテン各地を巡り、民と触れ合う旅をしていた。

 

 新王は少し前に旅を終え、今は本格的にブリテンを統べる大王として職務に励んでいる。

 優れた騎士たちと共に諸王からの反発に勝利し、サクソン人をブリテンから追い出す準備をするなど……多忙な日々を過ごしていた。

 

 

 では、もう一組はどうか。

 

 彼ら――ノーサンバランドの三兄弟は、今も旅を続けている。

 母の仇を討つために――。

 

 

………………………………

 

 

 ヒヒィィーーン!!

 

「チィッ、今回もハズレかよ」

 

「でも、ケルピーは楽だし、美味しいじゃん」

 

「強い個体でもありませんね。いつも通りに狩りましょう」 

 

 

 森の湖に、馬のような嘶きが響き渡る。

 魔力を帯びたその声は、聞いた者を気絶させることもあるが、三兄弟は何ともなさそうだった。

 

 ケルピー、馬に魚の要素が混じったような姿を持つ、水辺に棲む水妖。

 美しい馬体で人を魅了し、乗せた者を水中へと引き込むとされる。

 

 

「俺は魚を食いてぇんだよ。それにいつも言ってるが、馬は食ったらダメだろ*1

 

「ハッハッハ! シンの呪いで魚は捕れませんからなあ!」

 

「馬肉ジャナイヨー ケルピーダヨー」

 

 

 三兄弟は魅了される様子もなく、末弟は食欲に頭を支配されている始末。

 

 ケルピーは動物的直感で悟った。

 ――マズい、あれらは餌ではない。すぐに逃げなければ。

 

 

 慌てて湖へ戻ろうとするケルピー。

 だが、兄弟はすでに武器を抜いていた。

 

 ケルピーに更なる悪寒が走り抜ける。

 

 

 長男は盾を外し、両手で剣を上段に掲げる。

 特別な型ではない。

 どの流派でも共通する、最大威力で一撃を放つための基本の構えだ。

 

 

「ぜぇぇあぁぁ!!!」

 

 

 振り下ろしの一閃――湖面が真っ二つに割れる。

 

 

 ヒヒィ!? 「足を止めましたね?」 ヒッ!

 

 

 剣の衝撃と逃げ道を断たれた恐怖で、ケルピーは思わず足を止めた。

 

 次男がすかさず右前後の脚を関節から斬り飛ばす。

 遅れてきた末弟が、赤黒い剣を心臓に突き立て――

 

 

「啜れ、グーラ」

 

 

 ケルピーは血と魔力を吸われ、体勢を崩す。

 

 最後のあがきに水の魔術を放とうとしたが、それすら叶わなかった。

 長男と次男が同時に首を刎ねたからだ。

 

 こうして、人を襲う妖精の噂はまた一つ消える。

 

 近隣の村を恐れさせた水妖も、三兄弟にとってはただの獲物にすぎなかった。

 

 


 

 

<Side:シン>

 

 

 おっしゃあ! 馬系の血肉は兄ちゃんたち食わねぇから、独り占めできるぞ!

 グーラも今日は腹いっぱい食っていいぞ!

 

 今日ハ 心臓以外ノ肉モ食ベテイイノカ!?

 

 ああ……しっかり食え。

 

 ウメ ウメ ウメ。

 

 

 ――これより新技開発を行う!!!

 

「うぉぉりゃあ! 飛んでけぇ!!」

 

 グーラに啜らせた血に俺の血を混ぜ、思い切り血と斬撃を吹っ飛ばす!

 

 ……飛んだ血の刃は湖を抜け、木を深く傷つける程度で止まった。

 

 リン兄みたいに湖を割るほどの斬撃は、まだまだ無理らしい。

 怒りがない時は威力がしょぼすぎる。普通に斬った方がいいな、やっぱ。

 

 

「何、一人で遊んでんだよ……剣の吹き替えとかガキか、お前」

 

「こらシン! それはすぐに貧血になるから、しないように言いましたでしょう!」

 

 

 うお!? もう兄ちゃんたちが索敵から戻ってきた!

 見られてたの恥ずかしすぎるんだけど!!

 

 

「ほとんどケルピーの血だから、俺は大丈夫だって」

 

「あ〜、だから失敗してんのか。お前の血なら掠った木が全部枯れるはずだろ?

 今のだと斬れてる所らへんが黒ずんでるだけじゃん」

 

「……魔剣の圧が強くなってません? ご飯を取られて怒ってるんじゃないですか」

 

 

 あ、やべ。マジで怒ってる。残ったケルピーの血をとっとと吸わせるか。

 まあ、俺でも同じことされたら怒るわ。

 

 

 ドォォォォ……

 

 

 グーラを宥めていると、木が倒れる音が響いた。

 見ると、切れ込みの入った木の残った部分が朽ち、上部が倒れていた。やっと倒れたのか……。

 

 血の大半を代用すると、毒の力が弱まるのは仕方ない。

 やっぱり一度、俺の体に取り込む必要があるのだろうか。

 でも、食べたものをすぐ吐き出すみたいで疲れるんだよなぁ。

 

 大きな音を出したが、周囲に気配も生き物の匂いもない。

 

 

「兄ちゃんたちが早く戻ってきたということは、やっぱり他にいなかったんだ」

 

「ああ。ハズレだ。あの女への手掛かりもな〜んもねぇ」

 

「むしろ、私たちへの警戒が強くなっている気がしますね。少し狩りすぎましたかね?」

 

 

 

 旅に出てから二年――俺たちは色んな所を回った。

 

 仇である湖の精霊を探すため、水辺での不穏な噂や妖精の目撃情報を聞き回っては、害のあるやつらを斬り回っていた。

 

 ケルピーを狩るのも今回が初めてじゃない。

 魚人のような連中を殲滅したことだってあった。

 水辺を拠点にしてた賊ならば皆殺しにしてきた。

 

 妖精の領域に入り込めたこともある。

 番犬のクー・シー共に足止めされ、妖精を逃がしてしまったが……

 あの時が一番、精霊の場所に近づけた気がする。

 

 でも、何度斬っても追いかけてくる犬と戦うのは本当に面倒だった。

 リン兄は再生と連携が間に合わないほど細切れにしてた。

 ラン兄は盾と地面ですり潰してひき肉にしていた。

 俺は毒と石化で弱らせてから殺したな……もっと技を磨かないと。

 

 また妖精の領域の入り口を見つけないとな。

 仇でなくても妖精はいくら狩ってもいい。

 

 価値観が合わず、悪戯で人を害する邪魔な存在だし、武器や薬にもなる。

 

 それに上位の妖精は何でか、俺を見ただけで発狂し始めるから狩りやすい。

 「呪いの怪物!」と叫びながら、輪郭が崩れる姿は見てて結構面白い。

 

 

 人間(神の子)以外など救う必要ない、妖精(悪魔)は死ね。

 

 

「……にしても、もう2年かぁ。背が伸びてばかりだから鎧が着れないなぁ」

 

「シンはまだ12歳ですから、もっと伸びますよ」

 

「いつも一緒だから分かりずれぇけど、魔剣も少しデカくなってね?」

 

 

 そうかな? むしろ小さくなった感じがするけど?

 俺の背が伸びる方が速かったんだろうな。

 

 でも12歳になったのにまだ髭が生えてこない。

 あまり男っぽくない顔なのを気にしてるのに……

 

 

「でも2年かけても、まだ見つからないなんて……」

 

「また嫌らしい罠でも張ってんだろうよ。シン、お前一人ならまだ勝てないから見つける事よりも強くなることを考えてろ」

 

「シンの血で痛い目見たので、人質とはしないでしょうね。

 ですが……私たち同士で戦わせる様な悪辣な手を打つ可能性があります」

 

「1年前の幻術の罠はひどかったなぁ。兄ちゃんたちが互いに『こんな弱いわけないだろ!』ってお互いの幻を斬ってたけど」

 

「別の罠のスプリガンは楽しかっただろ? でけぇ岩を棍棒で砕きまくれたしな」

 

「ウィスプなどはシンの炎や雷を斬る練習になるので良かったです。

 騎士ならばその程度は斬れるようになりましょね」

 

「まだまだ、騎士への道のりは遠いなぁ……」

 

 

 三人で少し前の出来事を振り返りながら森を出ていく。

 

 ケルピーの尾や骨も持ったし、村への討伐の証拠とすれば何かくれるだろう。

 豊かそうな村だったし、美味しいものが期待できる。

 

 リン兄も言ってたが、魚を久しぶりに食べてみたいなぁ……。

 

 

………………………………

 

 

「これは、これは! 騎士様、ありがとうございました!!」

 

「おう。今回はケルピー以外はいなかったが、いい水場だったから他にも気を付けろよ。獣や賊が住み着きやすそうだったわ」

 

「ホホホ、前にいらした旅の騎士様にも言われましたなぁ。とは言え、儂らのような弱き者にはどうしようもありませんな」

 

 

 村ではケルピーの討伐を歓迎してくれていた。

 

 少し前に若者数名が行方不明になったらしいが……ケルピーの背中に乗ってしまったのだろう。

 湖の近くで服の切れ端と捨てられた臓物が転がっていた。

 

 だが騎士でなくても、ケルピーに近づかず、乗りさえしなければ大丈夫だろ?

 何で被害者を増やしてんだか。

 

 

「弱いの自覚してるなら、危ないのに近寄らなきゃ良かったんじゃ? ここいらを任せられた騎士にでもすぐ頼めばいいだろ」

 

「コラッ! シン、言い方に気を付けなさい!」

 

「いえいえ、そちらの従騎士殿がおっしゃる通りです。若い者たちも欲に目が眩んでしまったのですよ」

 

 

 聞けば、村の若者は馬具でケルピーを捕まえて新しい大王に献上したかったらしい。

 

 確かにケルピーは捕まえることは可能だが……ただの馬具ではなく魔道具としての馬具がいるし、抵抗されても抑えられるだけの力も必要だ。魅了されない精神力だってないと困る。

 

 その上、やっと捕まえても、相手をひたすら呪うらしいし……殺した方が簡単すぎる。

 そんな害獣を献上されても大王も困るだろ。

 

 

「その大王アーサー様は、世話になった旅の騎士様でございましてな。その時の恩を少しばかりでも返せればと思ったのでしょう。

 それが逆に騎士様にお手を煩わせる事となり、本当に申し訳ない」

 

「俺らはアーサー王の騎士じゃねぇから気にすんなよ。ついでとは言え、民を守るのも騎士の役目だってもんだ。それより、人助けの旅してた王様ねぇ……変わり者もいるんだな」

 

「ブリテンを統べる大王としては、まだ認められてないようですね。一度、反対派の諸王に勝利したようですが……また争いが起こるでしょうね」

 

「俺も兄ちゃんも精霊探しをしてるから、どっちにも付かないでしょ」

 

 

 でも個人的には、大王の方に勝ってほしい。

 今いる王や領主は、全員がブリテンの統一を目指さず、自分の領地を守ることを優先していて、南側のサクソン人に対抗できていない。

 

 王として間違ってはいないのだろうが……このままじゃブリテンの南側が完全にサクソン人のものになり、どんどん被害も増えるはずだ。

 

 精霊探しが面倒になるだろうし、母ちゃんの息子として、騎士見習いとして、民を見捨てるのも嫌だ。

 

 アーサー王には諸王にガツンと勝って、ブリテン統一とサクソン対策を頑張ってほしいものだ。

 

 

 村長と討伐の礼について話していた時、馬の匂いが近づいてきた。

 

 

「兄ちゃん、誰か来た」

 

 

 鉄と血の匂いが薄いので賊ではない。

 複雑な匂いと荷車の音がしないので商人でもない。

 

 一頭と一人だけ……随分急いでいる? 汗の匂いが強い。

 

 

「城の通達の者じゃな」

 

「新王と諸王の件ですかね? まさに噂をすればですね」

 

「本当に戦になるならば、兵や麦の徴収かのぉ。アーサー王の方ならば協力するのじゃが」

 

 

 そうこうしているうちに、馬が村に着く。

 若い男が馬の上から大声で叫ぶ。

 

 

「皆の者! 先王ウーサー様の嫡子、アーサー様こそブリテンを統べる大王であられる!」

 

 

「知っております」

「前もお聞きしました」

 

 

「しかし、不遜にも! それに反対する王が戦の準備をしている!」

 

 

「また戦かよ」

「まだお若いかたでしたしねぇ……反発もあるでしょう」

 

 

「皆にはどうか! アーサー様への協力をしてほしい!」

 

 

「麦もまだ何とかなるが……若い衆が……」

「上手くいけば、あれも献上できたのにな」

 

 

「不安に思う者もいるかもしれない! しかし、アーサー様ほど大王に相応しきお方はいない!!!」

 

「かのお方は、選定の剣のみでなく、()()()()より聖剣を賜れーー」

 

「「「ちょっと、待て」」」

 

 

 コイツ今、何て言った? 湖の精霊だって!?

 

 

「おい、湖の精霊だって?」

 

「何だ、貴方たちは……旅の騎士か。貴方たち是非、アーサー王の元へ――」

 

「聞いてんのはソコじゃねぇ!!!」

 

「ヒィ!? 湖の精霊より聖剣を賜れた事か!? 本当だぞ! 決して嘘ではない!」

 

 

 ……どうやら、仇への手掛かりが転がり込んできたらしい。

 

 今までの噂はどれも精霊が直接姿を現したものはなかった。

 だが、今回のは違う。わざわざ新王に会ったのだ。

 

 だから――新王は湖の精霊について知っているのだろう。

 

 兄ちゃんたちと顔を合わせて頷く。

 村に止めた馬の場所へと全力で走る。

 

 後ろから色んな声が聞こえてきたが、気にせず進む。

 

 ようやくだ。ようやく尻尾がつかめたぞ!

 首を洗って待っていろ、湖の精霊さんよぉ!!!

 

 

………………………………

 

 

 ――と、意気揚々と出発したものの……

 

 

「俺ら、新王へのコネなかったな。いきなり会えないんじゃね?」

 

 

 ふとリン兄が冷静になって指摘する。

 

 それは、確かにそうだわ。

 旅の騎士にいきなり会ってくれる王様とかいるか?*2

 

 

「戦の準備をしているようですし、我らの強さを示せれば良いのでは?」

 

「強さを示すなら、俺にいい考えがある!!!」

 

 

 ……何か嫌な予感がする。

 

 

「他のアーサー王に協力しようとする騎士たち全員に勝てばいい!」

 

 

 大丈夫なのそれ? 下手すりゃ賊扱いされない?

 

 


 

 

〇三兄弟

 旅立ちから二年間、仇の精霊を探して妖精狩りをしてきた。

 本人たちは「精霊や妖精なんていくら消してもいいだろ」と思っている。

 まだアルトリアの所にブリトマート(初代)がいたら危なかった。

 

〇対妖精眼特攻 シン

 シンの魂に巣食う呪いを通して、世界中の神々や人間の悪意の残滓を見てしまう。

 妖精的には、突然グロ画像を見てしまってSAN値チェックが入る感じ。

 

〇その頃のアルトリア

 まだエクスカリバーを手に入れたばかりで、中身はリリィに近い。

「ブリテン王に私はなるっ!」

「折れたああぁぁぁぁぁあぁ!」

「エクスカリバー を 手に入れた」

*1
イギリスで馬肉はNG

*2
原典だと割といる




毎週の水曜か土曜には更新したいです。
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