燃える男と世界でいちばん熱い夏   作:久戸瀬放映Project

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星野監督が告げた試合終了

4回の表、紅チームはクリーンナップから始まる。

その初球。有原翼はレフト方向に強烈なライナーを放つ。レフトの柊琴音はワンバウンドしたボールを捕る。後ろに逸らさなかったので、ツーベースヒットとはならなかった。

 

その時、星野監督はショートの新田美奈子とサードの近藤咲に注目していた。先ほどの当たりでふたりとも一歩も動かなかったのだ。それどころか、「あれは捕れないよね〜」とお互いに励まし合っている。

本人は無意識だが星野監督の右手がプルプルと震えだしていた。傷の舐め合いは星野監督が嫌う行為のひとつである。

 

4番バッターの東雲龍が打席に入る。星野監督は東雲龍の違和感を感じていた。投球の疲れなのか、それとも失点の動揺なのか、最初の打席と比べてオーラが弱々しく見えるのだ。案の定、初球のストライクをあっさりと見逃し。続く第2球を振り抜くも打ち上げてしまう。レフトの柊琴音が守備位置に落下点に着く。東雲龍は顔を伏せて一塁へゆっくり走る。

 

「…翼!」

 

ベンチから河北智恵が叫ぶ。一塁ベースにいた有原翼はベンチを見る。河北智恵が指を指しているその先、柊琴音はボールを落としていた。ようやくエラーに気づいた有原翼は二塁に走る。送球のタイミングはアウトだったものの、直江太結が捕れずセーフになる。

 

星野監督もそのプレーにたまらず立ち上がりマウンドの方に向かい出す。

 

「お前ら、集合せえ」

 

星野監督の呼び出しで全員周りに集まる。雰囲気は紅白チーム共にどこか和やかだった。

 

「なんだこのプレーは。真剣にやっとるのか?」

 

「や…やってます…!」

 

「ミスしてもニヤニヤしやがって、それでも真剣か!」

 

ついに星野監督は檄を飛ばす。突然の怒鳴り声に全員目を見開き、ビクッと肩を動かす。

 

「特に有原と東雲、お前らは許さん。野球経験者のくせしてつまらんミスを連発しやがって……俺が良しと言うまで走っとれ!」

 

「か…監督…!それはさすがに…」

 

「お前らも、打てるよう守れるように練習しとけ!」

 

鈴木和香が説得しても、監督は頑なに「あかん」と、有原翼と東雲龍を走らせた。

 

有原翼と東雲龍はトコトコとグラウンドを走り、鈴木和香も星野監督の説得を諦め、残った選手たちの練習メニューを決め出す。河北智恵と野崎夕姫は心配そうに走るふたりを見つめている。星野監督はベンチに戻ると、イライラしながら足を組んで、グラウンドを見る。

 

試合途中での強制終了と、初めて見せた星野監督の怒り。多くの選手たちの心境は大きく揺れ動いていた。

 

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