燃える男と世界でいちばん熱い夏   作:久戸瀬放映Project

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鈴木和香へ監督からの電話

海と街が一望出来る坂道。里ヶ浜高校の学生が使う通学路でもある。そこにべアマックスのストラップのついたリュックを背負った鈴木和香の姿があった。

 

「個人にあった効率的な練習…それとも基礎練習…う~ん…」

 

鈴木和香は歩きながら今回の紅白戦の結果から、チーム課題と今後の練習方法を考えていた。

それもそのはず。帰る直前に星野監督から「今まで何を教えとったんや。練り直してこい!」と怒られていた。

 

「う~ん…悩ましいわ…」

 

結局、結論の出ないまま家に着いてしまった。

 

「ただいま…」

 

扉を開けて家に入る。すると鈴木和香の目に普段見かけないスニーカーが映る。サイズが大きい。大好きな兄のものだ。

 

「よう。和香。遅かったな」

 

奥のリビングから鈴木和香の兄、鈴木健次郎が顔を出す。

 

「お兄ちゃん。帰ってたのね」

 

いつもなら嬉しくて、尻尾を振りながら飛びついていきたいレベルだが、星野監督のことが頭にちらつきフルでは喜べなかった。鈴木和香は無自覚だが、その気持ちが表情にも出ていた。

 

「今日の練習、そんなに大変だったのか?」

 

その言葉に鈴木和香はハッとし、とっさに作り笑顔をする。

 

「ええ。大丈夫よ。ちょっと疲れただけ。小さい時から運動しなかったから、しょうがないわ」

 

鈴木和香は新しい練習メニューを考えるために、自室の2階に向かおうとする。階段に足をかけたその時、鈴木健次郎が呼び止めた。

 

「そういえば和香。さっき監督から電話が着てたぞ」

 

「監督から…?」

 

鈴木和香の頭の中では嫌な考えがよぎっていた。

紅白戦後のグラウンドで有原翼と東雲龍のランニングについて対立し、その後に練習で怒られている。さらに、紅白戦でも誇れる結果は出せてない。そうもなく、容赦なく怒鳴りつける星野監督である。

 

「(家にまで電話してくるなんて…なんて監督なの…)」

 

それに関連して、大好きな兄の鈴木健次郎が星野監督の電話に出た事を理解する。

 

「(お兄ちゃん……電話に出たってことよね……。お兄ちゃんになんて言ったの……)」

 

鈴木和香は自分の代わりにお兄ちゃんが怒られたと思い、申し訳なさと悲しさで一杯になる。しかし、鈴木健次郎から告げられた言葉は予想外のものだった。

 

「監督が褒めてたぞ。良かったな」

 

鈴木和香はぽかんとする。

 

「え…?ホントに?あの監督が?」

 

「ああ。あの観察眼と洞察力はそう簡単に身につけられるものじゃないから、いい選手にもコーチにもなるぞって」

 

鈴木和香は理解出来なかった。さっきまであれだけ怒っていたのに、それが何事もなかったように今は褒めている。

 

「他には…?他になにか言ってなかった?」

 

「そうだな…もうちょっと上手くなって、ヒット一本でも打てたら、もっと褒めてやるのにって言ってたな」

 

「……怒ってなかった?」

 

「全然。そんな様子はなかったぞ」

 

「……そう…」

 

鈴木和香はそのまま階段を上がり、自分の部屋に入る。

 

「……怒ってなかった………」

 

鈴木和香はそうつぶやくと、リュックから今までの練習メニューが書かれた紙を出す。

 

「あの時は怒っていたけど……監督は私のことをちゃんと見ていたのね……」

 

練習メニューを一通り眺めた鈴木和香はニッと笑う。

 

「それなら……期待に応えるしかないわね……!」

 

さっそく鈴木和香は机に紙を広げ、新しい練習メニューを考え出すのであった。

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