燃える男と世界でいちばん熱い夏 作:久戸瀬放映Project
中間テストが終わり、部活が再開。また同時に生徒会の調査が始まった。
グラウンドには生徒たちのみで星野監督の姿はなかった。これは九十九伽奈と話し合いで決めていた。生徒たちの自主性を重んじることのアピールには、監督がいない時の姿を見せるのが一番効果的だと星野監督は考えたのである。
練習前、有原翼はチームのメンバーを集めた。
「今日から仮入部の九十九先輩です!みんなよろしく!」
「九十九伽奈です。よろしくお願いします」
「それでは九十九先輩。まずは軽くランニングから始めましょう!」
有原翼の指示のもと、全員でランニングを始める。
グラウンドから坂のある山道をぐんぐんと進む。途中から体力のない生徒はひとりひとりと引き離されているが、九十九伽奈はペースを乱さず見事についてくることが出来ていた。
その後、キャッチボールやバッティング練習も簡単にこなしていく。ノックも見事にやってみせた。それでも、九十九伽奈は野球初心者。いわゆる天才肌というものである。
「凄い…!九十九先輩…!」
九十九伽奈のプレーは周囲の輝く目線を釘付けにする。
「いえ。別に…普通にしてるだけですから」
九十九伽奈の「普通」という言葉に周りはさらにワイワイ騒ぎ出すが、九十九伽奈の表情はどこか淋しげであった。
「(また淡々とこなしてしまうんだな…やりがいを感じられない…)」
それは天才肌がゆえの弊害。これまで何をしてもすぐにできてしまう彼女にとっては、すべてのことが面白くないと感じるようになってしまっていた。それもまた、周りに理解されず羨ましがられることが彼女をますます追い詰めていた。
「九十九〜!勝負なのだ〜!」
同学年の阿佐田あおいが唐突な事を言い出す。
「あおい…急になにを…」
「九十九がつまらなそうだったから勝負なのだ〜!一打席勝負なのだ〜!」
最初は九十九伽奈も渋っていたが、周囲の期待の眼差しに押され、有原翼にボールを渡されたことで、阿佐田あおいと勝負することになる。
ルールは九十九伽奈がピッチャーで阿佐田あおいがバッター。ヒット性の当たりを打てば阿佐田あおいの勝ちで、逆に打てなければ九十九伽奈の勝ちである。ちなみに、九十九伽奈はさっきちょっと投げただけだが、ストレートは完璧にものにしていた。さらに変化は小さいもののカーブも投げられるようになっている。
「さぁ!どこからでも来るのだ!」
バットをマウンドに向けながらバッターボックスで煽る阿佐田あおい。一方、九十九伽奈は表情ひとつ変えず、キャッチャーの鈴木和香のミットを見つめていた。