燃える男と世界でいちばん熱い夏 作:久戸瀬放映Project
今日は雨。梅雨の時期だから仕方がない。
新田美奈子、近藤咲、永井加奈子の3人は傘をさして喫茶店モモに向かっていた。
「久しぶりに美味しいものを食べに行けるよぉ~」
「加奈ちゃん、いつもうちのご飯食べに来てるでしょ?」
「スイーツは別腹だもん!」
今日の美味しいものクラブの目当ては新作のロールケーキ。部活が雨でお休みになったのと、近藤咲の店の鉄人が定休日だったので、久しぶりに3人そろってのんびりと食べに行ける。
「着いたね!」
「さっそく行こう!」
店内に入ると、落ち着いたクラッシックのBGMとコーヒーの香りが3人を魅了する。さっそく席に着いて新作のロールケーキを注文した。
その時、新田美奈子が何かを見つけた。
「あれ?あれ監督じゃない?」
新田美奈子が指さす方向には、星野監督と近藤咲の父の姿があった。
「ホントだ。何してるんだろう?」
「そういえばお父さん、よく昔は監督に喫茶店に誘われていたんだって」
「マジ?監督と咲のお父さんって知り合い?」
「うん。そうらしいよ」
3名がそんな会話をする中、近藤咲の父から声が聞こえた。
「…………そういえば、咲はどうです?」
どうやら野球のことを話しているようだ。3人は星野監督と近藤咲の父の会話に耳を傾ける。
「ようやっとるぞ。最近は遅くまで練習しとる」
「………レギュラーは?」
「まだ始めたばかりだから分からんけど、長打を打てる捕手として使えそうだよ」
星野監督はコーヒーを啜る。
「それにな、娘さんの友達に新田と永井という友達がおるんだが、このふたりを自然と支えてるんだ。おかげで、友達もサボらずしょげることなく練習してる。あの子たちにも成長してほしいんだ。」
「…………そうですか」
「まぁ、楽しみにしとけよ。練習と家事を両立させて頑張ってるんだから、アイツはえらいぞ」
影から聞いていた近藤咲は、ぱっと星野監督を見る。何ととびっきりの笑顔である。
「あんなに笑顔な監督、見たことが無い」
新田美奈子と永井加奈子も星野監督の顔を見ると、「ホントだ」と同感する。
グラウンドでは、新田美奈子、近藤咲、永井加奈子3人とも星野監督に怒られていた。その中で特に怒られていたのが新田美奈子である。チーム内の花山栄美とサボり同盟を組み、よく練習を抜け出してサボっていた。いつもなら柊琴音か月島結衣に見つかって練習に引き戻されるのだが、1日だけ星野監督に見つかったことがある。
「お前ら周りがやっとるのに、何隠れとるんじゃあー!」
ガシャーン!
という具合に怒られた。一応その時は、騒ぎを聞きつけた柊琴音と月島結衣に「監督!後は私たちが対処するので…!」と何とか場は収まった。
星野監督が帰ったあと、野球のグラウンドの出来事を振り返って話していると、新作のロールケーキとコーヒーが運ばれてくる。しかし、伝票は置かれなかった。
「すみません。伝票は?」
「それでしたら、さっき帰られたお客様からすでにいただいてます」
新田美奈子、近藤咲、永井加奈子は「えっ」という表情をする。どう考えてもさっき帰られたお客様と言えば星野監督。なぜなら、近藤咲の父は財布すら出してなかったからだ。
グラウンドの鬼の星野監督とグラウンドの外での星野監督。普段では見ることのできないもうひとつの顔を見たおいしいものクラブの3人であった。