燃える男と世界でいちばん熱い夏 作:久戸瀬放映Project
「えー!?申請を断られた!?」
教室中に有原翼の声が響き渡る。
「掛橋先生!どうしてですか!」
一緒にいた河北智恵も顧問の掛橋先生に詰め寄る。
「教頭先生がなかなか首を縦に振らないのよ…頑張って交渉はしてるのだけど…」
困った顔で弱気の返答をする掛橋先生だが、野球部を立ち上げた有原翼、河北智恵、野崎夕姫、鈴木和香からすれば、これほどの屈辱なことはないだろう。大人の権力で道が閉ざされる現実には、何としてでも抗いたいはずである。
「私たちも抗議します!今から行きましょう!」
有原翼のその一言で、一同は職員室に流れ込む。
「教頭先生!野球部のことでお話があります!」
「なんですか。いきなり。まずは相手の都合を確かめるところからじゃないですか?」
野球という言葉を聞くやいなや、冷たい言葉でバッサリと切り捨てる。
「どうして野球部の申請を拒否するんですか!」
「ダメなものはダメです」
「なんでですか!納得いきません!」
教頭の態度に、有原翼も喧嘩腰で突っかかる。その後ろにいる河北智恵、野崎夕姫、鈴木和香も目線と態度で圧をかける。
「まだ分かりませんか?野球部を作るのには何かと問題があるんです」
教頭はため息を付くと読んでいた日報をパタッと閉じる。
「まず、野球をするのには何かとお金がかかるんです。多くの道具に設備の維持管理費。この先活躍するのか分からない事に投資をするのは合理的とは思えません」
「そ、それなら私たちもバイトとかで…!」
「それだけじゃありません。ボールは硬いですし、野球部以外の生徒がケガしたらどう責任を取るおつもりですか?」
「それは……」
教頭の理詰めに有原翼は困惑する。
「それでも、生徒会からの許可は通ってるじゃないですか!」
「その通りですよ!部員もかなり増えたんです!お願いします!」
野崎夕姫と鈴木和香が話に割り込んで、有原翼を援護する。
「熱意だけは伝わります。ですが、やる気でどうこうなる話ではありません。これは大人の事情です。あなた達は学業に専念していればいいのです」
「そ、そんなのあんまりです…!」
「もう話すことはありません。これ以上は時間の無駄です」
教頭が有利なまま都合よく話を終らせられた。有原翼たちは渋々職員室を出る。皆悔しい表現をするが、誰も何も発さない。しばらくの沈黙が続く
「………監督になんて説明しよう」
力のない声で有原翼はポツッと言った。
「皆、ごめんね。これからも交渉を続けるから……」
掛橋先生に慰められ、有原翼たちは練習のためにグラウンドに向かう。その後ろ姿はいつもと打って変わり、弱々しく見えた。