燃える男と世界でいちばん熱い夏 作:久戸瀬放映Project
「……分かった。俺が言ってくる」
星野監督はグラウンドで有原翼に声をかけた。練習はいつも通りにやっている。しかし、覇気がない。何か悩みを抱えているのかと思ったのである。
有原翼は躊躇ったが、教頭との出来事を包み隠さず伝えた。話を聞いた星野監督はぐっと真剣な顔になる。
グラウンドを去る星野監督を見届けた有原翼に中野綾香がしれっと近寄る。
「翼、そんなに監督が気になるのかにゃ?」
「うん…ちょっと心配…」
教頭の言葉が余程傷ついたのか、しょぼんとした口調で返事する。
「きっと大丈夫にゃ!あの監督なら何とかなるのにゃ!実績がそう語ってるのにゃ!」
「実績…?」
「あ、えっと……こっちの話にゃ…!」
中野綾香の語る実績とは、星野監督がプロ野球にいた頃の話である。その例のひとつとして強烈なエピソードはやはり、ファンタジーズの移籍が囁かれていた三冠王の4番バッターを、すぐさま4人の選手とトレードして獲得したことである。
中野綾香の調べによると星野監督は現役の時からアンチファンタジーズであるらしく、打倒ファンタジーズを掲げていた。そのチームに三冠王の選手が移籍されては勝てるどころか、優勝されてしまう。それを阻止するために、手段を選ばす素早く獲得へ行動したのである。
「そんなに不安なら、私が見てくるのにゃ!むしろいいスクープになりそうにゃ…!」
「え…!ちょっと…中野さん…!」
すでに中野綾香は星野監督の後を追っていて、そのまま行ってしまった。
ーーーーー
星野監督は職員室ではなく応接室にいた。監督をしているが、一応、学校の部外者であるので、学校から見ればお客様という立場になる。
その応接室の外の窓の下、中野綾香はそこに隠れて話を聞いていた。
「部が認められないとはどういうことだ?」
「これは学校側の問題です」
「それでも、説明していただく。俺は野球部の監督だ。関係は大いにある」
すでに教頭と星野監督の話し合いは始まっていた。声を聞いただけでも、ギスギスした雰囲気が伝わってくる。
「まずそもそも、女の子が野球だなんて考えられません。それに、現実はそんなに甘くないんです」
その言葉に、星野監督のまゆ毛がピクッと動く。
「皆、野球を通してのひとつの『目標』であり、『夢』であり、『青春』というもんじゃないのか。それをやすやすと奪っちゃいかん。あいつらは夢を叶えるために努力しているんだ。その成長を見守るのが我々じゃないのか」
星野監督は座っている姿勢を少し変えながら訴える。
「それなら、推薦状を集めてきてください。それなら世間の現実がハッキリするはずですので、それを見て判断しましょう。」
教頭は腕を組み、勝ち誇ったような表情をする。
「分かった。その代わり、待ったはないからな」
「では、以上でよろしいですね」
中野綾香はガチャっというドアの音で話が終了したことを知る。
「(推薦状かぁ……女子野球部を広く知ってもらうなら、新聞が一番効果的にゃ…!)」
部に昇格するためには、多くの推薦状を集めることが必須。これから星野監督と有原翼をはじめとした選手たちはどう動くのかが鍵となる。
「(それにしても、『目標』、『夢』、『青春』かぁ…)」
陰でひっそり聞いていた立場だが、星野監督が発したその言葉は、中野綾香の心に刺さるものがあった。