燃える男と世界でいちばん熱い夏 作:久戸瀬放映Project
中野綾香からの偵察情報はすぐに部員に共有された。
推薦状を集めるため、全校クラスに声をかけていく。意外と野球部は生徒からは人気があった。
その要因は、入学式の部活動紹介の時に有原翼が舞台に上がって堂々と宣伝し、後で生徒会からこっ酷く怒られたのが印象的だったのだろう。しかし、おそらくそれだけではない。自ら動き、一からひたむきに取り組むその姿勢が周りから評価されていたのだろう。阿佐田あおいや岩城良美もいたので、2年生からのウケもよかった。
しかし、それでも数は物足りない。何せあの教頭である。予想を遥かに超えた量でなければならないとは誰もが感じていた。
推薦状を集め始めてから数日後、そろそろ生徒だけでは数量を稼ぐには限界に近づいていた。
「今日はこれだけですかぁ…」
野崎夕姫が集まった推薦状を束ねながら、落ち込んだ声を出す。皆がグラウンドで野球の練習をしれいる中、創設メンバーの有原翼、河北智恵、野崎夕姫、鈴木和香は推薦状の整理をしていた。
すると、外がなんだか騒がしくなってきた。野崎夕姫はちらっと窓の外を見ると、そこには数え切れないほどのカメラマンがいて、こっちにドンドン近づいていた。
「なんですかね?あれ」
河北智恵が窓を覗く。
「さぁ?他のどこかの部活の取材じゃない?」
「そうですね」
野崎夕姫と河北智恵は再び整理に戻る。すると、部室の扉が開いた。
「やぁ!こんにちは!」
突然、白髪の混じった男性が入ってくる。さっきカメラに囲まれていた人だ。有原翼、河北智恵、野崎夕姫、鈴木和香はびっくりして男性を見たまま固まってしまう。
「君がキャプテンの娘かね?若いねぇ!フレッシュさがブワァーっと私の肌に染み込んでくるよ!」
弾ける笑顔でニコニコ語るが、4人ついていけてない。
「練習はグラウンドか?どこでいつも練習しているんだ?」
「グラウンドで、場所は山の上です」
やっと返せる話題が来たので、鈴木和香が返答する。
「そうか!山の上か!いつもダァーっと行ってるんだな!私も行ってみよう!」
そう言い終えると、男性は部屋を出て行く。カメラマンも後を追ってついていく。
「………案内した方がいいよね?」
「そうですよね」
有原翼たち4人は男性の後を追った。
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その頃のグラウンド、選手たちはいつも通り練習を行なっていた。
全員が東雲龍のノックを受ける中、宇喜多茜はグラウンドの端で投球練習をしていた。
「こう握って、こうなのだ!」
今日の投手コーチはいつもと代わって阿佐田あおいである。
「……えいっ!」
宇喜多茜の投げたボールは、キャッチャーの仙波綾子の構えたところから大きくずれてミットに収まる。
「あ…ご…ごめんなさい…」
「大丈夫大丈夫!」
思うように投げれず小さくなる宇喜多茜を仙波綾子は励ます。
その宇喜多茜の横には阿佐田あおい。後ろには星野監督が立って様子を見ていた。
「お~い!せんちゃ〜ん!またいくのだ〜!」
阿佐田あおいの声に仙波綾子がミットを構える。その時である。
「お~い!せんちゃ〜ん!久しぶり〜!」
グラウンドの後ろから名前を呼ばれて振り返る。すると手を振る見知らぬ男性と無数のカメラ、それから有原翼たちがいた。
仙波綾子が男性は誰だろうと考えていると
「ようこそおいで下さいました!」
星野監督は帽子を取ってその男性の方に駆け出して行く。
どうやら星野監督の知り合いのようだが、誰なんだろうと選手たちは思うのであった。