燃える男と世界でいちばん熱い夏 作:久戸瀬放映Project
後日、ミスター長嶋との交流はテレビで大々的に放送された。その影響もあってか、ファンタジーズの選手やコーチのみならず、一部の熱狂的なファンも推薦状を書いてくれた。
「どうだ。これだけあればいいだろう」
学校の応接室で星野監督がドサッと紙袋の中いっぱいに入った推薦状を置く。紙袋は10以上ある。教頭は何か言いたそうな顔をしていたが、星野監督はその隙を与えない。
「あれだけテレビで大々的に報じてもらったんだ。周囲が期待している中で、まさかの出来ませんってことはないよな?」
星野監督の目的はそこにあった。
プロ野球界を代表するミスターが来れば、当然カメラが必然的にやってくる。そうすれば、光のおこぼれをもらって注目してもらうことが出来る。
また、チームも注目されているという意識を持つことで、より一層やる気になると考えたのである。
それから星野監督は、学校は世間の目を気にするところに着目していた。女子硬式野球は珍しいが、悪さをしているわけではない。なので堂々と自慢できる。
逆にあれだけテレビで期待させたのに女子野球部の設立を阻止すれば、世間から冷たい視線を浴びることは不可避である。ましてやミスターまで登場していることが追い打ちをかけるのである。
教頭は渋々、女子硬式野球部設立の書類にハンコを押した。
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その日の放課後。星野監督は有原翼、河北智恵、野崎夕姫、鈴木和香の4人を部室に呼んだ。
「お前ら、夏に向けて備えとけよ」
星野監督の開口一番はそれであった。
星野監督はひとつの封筒を差し出す。鈴木和香は受け取ると中身を確認した。
「……えっ!?こんなに!?」
封筒の中には一万円札がぎっしり詰まっていた。じっくり数えなくても100万円くらいはありそうだ。
「これが部費だ。全部使っても構わん。1ヶ月もせんうちにすぐ公式試合が始まるから、それまでに練習試合なり合宿なり好きにせえ」
「監督…!こんな大金どうやって…」
「部費に決まっとるやないか。お前らはただ練習と強くなることだけを考えとけばいいんだ」
「でも部費でこんな金額…」
「お前らは一から野球部を作ろうと動き回ったんだ。監督からの頑張ったで賞だと思って受け取ってくれ」
その後星野監督は「財布の管理は鈴木に任せた。俺は用事があるから帰る」と言って部屋を出ていった。
見たこともない金額に頭を悩ます4人だったが、ひとまず、野球部設立のお祝いをすることにした。
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一方その夜のとある居酒屋。そこには星野監督と掛橋先生の姿があった。
「掛橋先生。よう飲むなぁ」
掛橋先生の前の机にはずらりとビールジョッキが立ち並んでいた。
「だってぇ〜…やっとあの子たちの夢を叶えることが出来ましたから〜」
掛橋先生は顔を真っ赤にしながら呂律が回っていない口調で答える。
「掛橋先生には本当に助けてもらった。奢るからどんどん食べて飲んでくれ」
実は星野監督が推薦状を集めていたその裏で、掛橋先生は予算の調整など、皆が知らないところで動いてくれていたのである。それも教頭の小言に耐えながらである
「やった!ごちそうになります!」
掛橋先生は今までの重圧から解放されたのと酔いで、久しぶりにとびっきりの笑顔を見せる。
やっとのことで誕生した里ヶ浜高校の女子硬式野球部。これでやっと、甲子園へのスタートラインに立てたのである。