燃える男と世界でいちばん熱い夏 作:久戸瀬放映Project
強化合宿初日。宿泊施設に到着した選手たちは、さっそく新しく出来たユニフォームに着替えていた。
「わぁ〜!かわいい〜!」
ピンクの縦縞で胸にセーラー服のようなリボン。太もも丈のスカート。その姿をお互いにきゃっきゃしながら見せ合っていた。
「ほら。着替えたらグラウンドに向かうわよ」
東雲龍は戦闘モードに入っていた。
相手の日程の都合により、初日しか練習試合をする時間が無かった。
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◯グラウンド
相手チームの向月高校は遅れてやって来た。
「向月高校の高坂椿よ」
「里ヶ浜高校の有原翼です」
「今回は練習試合どうも。あなたたちのお粗末なレベルなら、三軍の相手にちょうどいいわ」
キャプテンの高坂椿は飴を舐めながら、挑発するするように笑みを浮かべる。
「さ…三軍…」
「お粗末って…」
向月高校の舐めた態度に里ヶ浜の選手はざわつく。
「関係ないわ。勝てばいいだけの話よ」
東雲龍は高坂椿の発言にキッパリと言い返す。
「そう。勝てれば…ね」
お互いにギスギスしながら、試合が始まった。今回は練習試合ということで、ベンチの上限は設けないことにした。
里ヶ浜スタメンのオーダーは以下の通りである。
左 竹富亜矢
中 中野綾香
遊 有原翼
投 東雲龍
右 九十九伽奈
一 野崎夕姫
三 阿佐田あおい
二 河北智恵
捕 鈴木和香
「プレイ!」
審判の声が高々と響く。
1回表 向月高校の攻撃
向月高校の1番バッターが打席に入る。無名の選手だが、中野綾香はすでにサーチ済み。
(この選手は…ここね)
鈴木和香はバッターをちらりと見るとサインを出し、外角高めに構える。東雲龍から投じられたボールはストライクゾーンからボールへ曲がる。それをバッターは当てにいき、打球はピッチャー前に力なく転がる。東雲龍がファーストの野崎夕姫に送球してワンアウト。中野ノートに基づいたバッターの選球眼の無さと積極的にバットを振る癖をうまく利用した戦術は成功した。
「ワンアウト!その調子よ!」
鈴木和香が声を出してチームを盛り上げる。
続く2番バッターは速球に弱く3球連続ストレートで見逃し三振。その次の3番バッターは内角を突く変化球でファーストフライに終わった。
「ナイスピッチ!」
有原翼がベンチで東雲龍に声をかける。
一方で向月高校の方は、味気ない攻撃で高坂椿に罵倒されムードは険悪になっていた。
1回裏 里ヶ浜高校の攻撃
1番は俊足の竹富亜矢。その初球、ピッチャーから投じられたストレートをサード方向にバントする。いきなりの奇策に動揺し、守備がもたつき竹富亜矢は余裕で一塁に到達する。
続いて2番も俊足の中野綾香。中野綾香も続けてサード方向バントする。少しボールに勢いがあったが、ギリギリセーフになった。
3番バッターの有原翼が打席に立った頃、星野監督がやっとベンチに現れる。
「何よ。あのおっさん。ひとりだけ違うじゃない」
高坂椿は自軍のベンチから星野監督をみて悪態をつく。星野監督だけユニフォームが違った。一応星野監督にも新しいユニフォームはあるのだが、「俺がセーラー服なんか着れるか!」と言って受け取らなかった。星野監督は白のユニフォームに青い文字と青の帽子。そして背番号77番。かつて着ていたユニフォームをわざわざ探してきたのである。
「あれが監督?ふ~ん」
他の選手に教えられても高坂椿は相変わらず舐めた態度をとる。しかし、この時の高坂椿は、まだ星野監督だと気づいていないのであった。