燃える男と世界でいちばん熱い夏   作:久戸瀬放映Project

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実戦から学ぶ野球

3番バッターの有原翼がセンターオーバーの先制タイムリーツーベースを打ち、4番の東雲龍もライト前に流してヒット。そして5番の九十九伽奈がセンター前にタイムリーヒットを放ちノーアウト一三塁。

 

「……よしっ!」

 

気合を入れ、6番バッター野崎夕姫が左打席に入る。

サインが決まり、相手ピッチャーが投げる。インコースのストレートに野崎夕姫は若干体を避けながら見逃す。

 

「ボール」

 

しかし、ベンチはその様子を見逃さなかった。

 

「キャッチャー!」

 

向月高校のベンチからサインが出る。キャッチャーとピッチャーがそれを見て頷く。

 

「………おそらく、次もインコースね」

 

鈴木和香がポツッと呟く。

 

「どうして分かるの?」

 

「ピッチャーとキャッチャーしか反応してないって事は、配球に関する指示よ。それに、今のでインコースに恐怖心があるって悟られたのかもしれないわ」

 

「そ……そうなの……?」

 

宇喜多茜に説明した通り、次もインコースのストレートだった。

 

「……っ!」

 

さっきより高めの球に、野崎夕姫は反射的に大きく頭を反らす。その表情からも、内角への恐怖心が見て取れた。相手ピッチャーも弱点が分かり、ニヤッと笑う。

第3球目、今度もインコース。高めのストレートはストライクゾーンにしっかりと入っていた。野崎夕姫はバットを振るどころか、縮こまっていた。

 

「頑張ってー!野崎さーん!」

 

ベンチから有原翼が声援を送る。それに続いてベンチから野崎夕姫を応援する声が出始める。

しかし、星野監督の目には、野崎夕姫は自分の世界に入り込んでおり、周りの声が聞こえていないように見えていた。

第4球目、今度も内角へストレートが来る。

 

「そうだ…!振らなきゃ…!当てなきゃ…!」

 

野崎夕姫はバットを振るもタイミングは大幅に遅れていた。

 

ここで星野監督は一塁ランナーの九十九伽奈にサインを出す。

 

第5球目、ピッチャーが足を上げたと同時に九十九が走り出す。その様子を見て、野崎夕姫はバットを振らなかった。ストレートは内角だが、どちらかといえば真ん中よりだった。

 

「ストライク!」

 

キャッチャーはすかさず二塁に送球する。九十九伽奈は二塁に滑り込みセーフ。見逃し三振をした野崎夕姫は落ち込みながらベンチに帰ってくる。

 

「すみません……」

 

野崎夕姫の小声で謝る。当然。星野監督は穏やかでは無かった。

 

「おい。有原」

 

星野監督が話しかけたのは、野崎夕姫では無かった。

 

「お前あの場面ならどうする?」

 

「う~ん…私だったら、とりあえず振るかな。ヒットになればそれで良いし、空振っても盗塁のサポートになるし…」

 

「和香。メモしとけ」

 

「はい。監督」

 

会話はここで終了した。野崎夕姫に対して星野監督は一切怒らなかった。

 

7番バッターの阿佐田あおいはボールを叩きつけてしまい、三塁ランナーの東雲龍が生還するもファーストゴロに終わる。そしてベンチに戻ってくるが、星野監督は阿佐田あおいを叱らない。むしろ好走塁をした東雲龍に何を判断して走ったのかを聞いた。そして鈴木和香にそれをメモらせる。

 

この回4得点しているが、里ヶ浜高校のベンチは盛り上がる雰囲気は無い。むしろ全員、星野監督の怒りがいつ爆発してもいいように身構えていた。一方、向月高校では、すでに高坂椿のイライラが爆発していた。

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