燃える男と世界でいちばん熱い夏 作:久戸瀬放映Project
8番バッターの河北智恵は打ち返すもショートライナー。チェンジとなる。
里ヶ浜高校の選手たちがぞろぞろと自分の守備位置へと駆けていく。
向月高校の4番からの攻撃。東雲龍は自身の能力を最大限に活かし、次々とストライクを取っていく。
淡々と投げ込みツーアウト、6番バッターに東雲龍はスライダーを投じる。打球は一塁側に力なく転がり、東雲龍はダッシュして捕りに行く。一塁の野崎夕姫に送球するが、ランナーのほうが少し速かった。
「………くっ!」
東雲龍は口をキュッと噛みしめる。
主審から新しいボールを受け取り、東雲龍は再びマウンドに立つ。
迎える7番バッター。サインはストレート。東雲龍は全力で投じる。スパーンといい音を立ててミットに収まる。
唖然とするバッターを見て、マウンドで東雲龍は勝ち気な笑みがこぼれる。
続く第2球も全力のストレート。バッターは対応できず、見逃してストライク。
「タイム」
星野監督がタイムをかける。
「ピッチャー宇喜多」
突然の交代に、東雲龍は目を見開く。
「なんでよ!どうして監督!」
東雲龍は星野監督に詰め寄る。鈴木和香も好調の東雲龍の降板に納得できず、星野監督に歩み寄る。
「何が不満なのよ!交代なんておかしいわよ!」
「和香。お前宇喜多の球受けてこい」
星野監督はまず、鈴木和香に指示を出す。
「龍。スパイクを脱げ」
「はぁ!なんでよ!」
「ええから脱げ!お前は交代なんや!」
星野監督の怒鳴り声がグラウンドに響く。さっきまでベンチで毒舌で怒り散らしていた高坂椿でさえ、星野監督の声を聞いてシーンとなる。
「宇喜多。早く行け。待っとるんや」
「は……はいぃ………!」
ベンチの片隅に隠れていた宇喜多茜はグラブをはめると、逃げるようにベンチを飛び出していった。
東雲龍と星野監督はお互いに怒りを露わにしながらベンチに戻る。東雲龍は星野監督から一番離れたところに座り、スパイクを脱いだ。その時、無意識に左足首を擦る。痛いわけではなかった。しかし、先ほどの打球を捕った後、少し負荷がかかったようで、違和感がある。
宇喜多茜がアウトを取り、2回裏の攻撃が始まる。9番の鈴木和香から竹富亜矢、中野綾香と打順が回る。ベンチが歓声を送る中、東雲龍だけ表情が険しかった。
「東雲?大丈夫か?」
近くにいた岩城が心配そうに声をかける。
「ええ。大丈夫です。これくらい」
違和感のある左足を伸ばし、頭から汗を流しながら東雲龍ら強気に答える。その様子を星野監督は見ていた。
「お前、歩けるならベンチ裏に下がっとけ」
星野監督はベンチ裏の通行口を指さして言い放つ。
東雲龍は星野監督の態度に腹を立て、返事もせず立ち上がりベンチ裏に引き上げる。その東雲龍の背中を控え選手たちはずっと見つめていた。しかし、歩き方がおかしいところは星野監督以外気づかなかった。