燃える男と世界でいちばん熱い夏 作:久戸瀬放映Project
レフトに岩城良美、センターに秋乃小麦、サードの阿佐田あおいがピッチャー、サードに初瀬麻里安が守備につく。
ベンチに宇喜多茜が泣きながら帰ってくる。
「監督………ごめんなさい………」
その小さな声に星野監督は顔を向けたが、すぐに視線をグラウンドに向けた。その横を宇喜多茜はトボトボと通り抜けた。先輩の本庄千景と塚原雫がすぐに駆け寄り慰める。
程なくして、外野から竹富亜矢と中野綾香が帰ってくる。ベンチに入ろうとした途端、星野監督は立ち上がる。
「お前ら、なぜ捕らんかったんや!」
星野監督のカミナリに竹富亜矢と中野綾香は目を見開き肩をビクッとさせる。
「お前らの足なら、飛び込めば捕れる球だろ!宇喜多を救えたはずだろ!」
先ほどの走者一掃となる左中間の当たりは、どちらかが全力疾走すれば捕れたと星野監督は思ったのである。それこそ、足に自信のある両選手。星野監督からすれば怠慢プレーに見えたのだった。
「試合が終わるまで、そこで正座しとけ!」
星野監督は竹富亜矢と中野綾香に正座を命じる。その声は反対側の向月高校のベンチまで届いていた。
「うわぁ……」
向月高校の三軍選手たちは星野監督の行いに呆然とする。そうもなく向月高校は選手の数が多くて実力主義。力の無い者はボロクソに言われるがままな環境である。その普段されていることを超えたことが相手ベンチで現在進行系で行われているのである。
「……さすがにうちでも、あそこまでやらないわ………」
普段ボロクソに言っている高坂椿も、星野監督の懲罰にドン引きしていた。
その頃の試合というと、阿佐田あおいが次々とバッターをアウトにしていた。にゃんこボールと命名されたナックルに、向月高校の選手はバットに当てられないのである。それともうひとつ、星野監督の怒鳴り声で集中力が完全に乱されていた。気づけばあっという間に三振を奪われ、スリーアウトとなっていた。
向月高校のバッターは恐る恐るベンチに戻る。普段なら高坂椿からの毒舌と懲罰交代が科される。しかし、今日は何ともなかった。ただ、相手ベンチの光景を眺めるだけである。
3回裏、7-5と逆転を許した里ヶ浜高校。何としてでも追加点を得たい状態。バッターは5番の九十九伽奈からである。
「九十九!塁に出ろ!塁に!」
バッターボックスに向かう九十九伽奈に向けて、星野監督は叫んだ。
ピッチャーのサインが決まり、第一球が投じられる。その初球を九十九伽奈は天才ミートで打ち返した。打球は内野の頭上を越えて飛んでいった。