燃える男と世界でいちばん熱い夏   作:久戸瀬放映Project

30 / 40
止まらない失点

「野崎。投げろ」

 

ファーストを守っていた野崎夕姫に星野監督はボールを差し出す。

 

「え…?」

 

野崎夕姫は困惑する表情を見せる。

 

「この回、お前が抑えろ。いいな」

 

星野監督は野崎夕姫のファーストミットにボールを入れると審判に交代を告げた。野崎夕姫がピッチャー。ファーストには天草琴音が入る。

 

強引にピッチャーに代えられた野崎夕姫は不安を抱えながらマウンドに上がる。

 

ベンチに戻った星野監督は、各選手の特長が詳細に書かれたノートを広げる。野崎夕姫はコントロールに難があるが、球威と球速は優れている。相手チームが阿佐田あおいに対応でき始めた今なら、その速球で打ち取れると考えたである。

 

(抑えないと…)

 

ランナーが三塁にいる状況。犠牲フライさえ許されない。野崎夕姫にプレッシャーが伸し掛かる。

椎名ゆかりからのサインはストレート。野崎夕姫は不安そうに頷き、第一球を投げた。コースはど真ん中だったが、バッターは手も足も出なかった。向月高校のベンチも野崎夕姫の速球にざわめく。

 

「ふぅ~ん…あんな球投げるやつがいたんだ」

 

高坂椿もいつも通りに振る舞っているが、心の中では驚いていた。

 

次のサインはジャイロボール。さらに速い球を投げて相手の気力を減らそうと考えたのである。

しかし、野崎夕姫のコントロールの悪さがここで出た。抜けた球がバッタースレスレを通過する。幸い、バッターは避けることが出来た。

 

「す…すみません…!」

 

野崎夕姫は帽子を取ってバッターに謝る。

椎名ゆかりからの返球を捕り、サインを見る。

 

(ストレート……)

 

野崎夕姫はストレートのサインを見てネガティブな感情に襲われる。またさっきみたいに抜けないか、今度こそぶつけてしまうかもしれない、そういった考えのループに入ってしまった。

 

そして投じられたストレートは、キャッチャーに届く前にワンバウンドする。それからも、コントロールを意識して投げてしまい、フォアボールでランナー一三塁。次のバッターには球威がなくなったストレートを打たれてしまい、2失点。ランナーは二塁。

 

そこからは何とかスリーアウトは取ったものの、フォアボールが多かった。押し出しも含めて、点差は12-5と広がってしまった。

 

「野崎さん!よく抑えたね!ナイスピッチ!」

 

「有原さん…すみません…」

 

ベンチに戻る際に有原翼に励ましの声をかけられたが、野崎夕姫からは笑顔が消えていた。

 

 

4回裏、椎名ゆかりからの打順。圧倒的なミート力と水準以上の走力であっさりと二塁打を放つ。1番に戻り岩城良美はパワーが持ち味だが、呆気なく三球三振。2番の秋乃小麦は内野ゴロを打つが持ち前の走力で内野安打にする。3番有原翼は三遊間を抜けるヒットを放つ。4番は初瀬麻里安であったが、代打で塚原雫が入る。満塁の場面で見事ヒットを放ち12-6。5番の九十九伽奈から代打の本庄千景に代わるが、結果は空振り三振。6番野崎夕姫に代わり朝比奈いろはが2打点をあげ12-8。7番の天草琴音に代わった永井加奈子も長打を放ち2打点で12-10。8番の河北智恵に代わり、坂上芽衣。痛烈な当たりを打ち返すも、ランナーの永井加奈子の走塁が間に合わず、アウト。

星野監督の攻撃的なの采配により得点は得るが、同点までとは届かなかった。

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