燃える男と世界でいちばん熱い夏   作:久戸瀬放映Project

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星野が倉敷舞子にかけた想い

5回表。この練習試合の最終回。

ここで何としてでもこれ以上の失点を防ぎたい里ヶ浜高校。星野監督はブルペンに向かっていた。

 

「どうや?アイツの調子は」

 

「初心者にしてはストライクゾーンに投げれてるし、才能があると思うわ」

 

ズバーンという音がブルペンに響く。倉敷舞子である。

その姿を見て、星野監督は決断をする。

 

「倉敷。お前投げてみないか?」

 

「え?私?」

 

「やってみろ」

 

登板に嫌そうな顔をしたが、渋々投げることを決め、グラウンドに向かう。マウンドに上がった倉敷舞子はボールを受け取ると、ボールを少し見つめる。

 

「プレイ!」

 

審判のコールがかかる。

 

倉敷舞子の初球。グラブを大きく振り上げキャッチャーミット目掛けて投げる。球速はそれほど速くないものの、100キロは超えている。ストライクゾーンにズバッと収まる。

 

「ナイスピッチ!」

 

キャッチャーの椎名ゆかりが褒めながら返球する。しかし倉敷舞子は笑わず無表情を貫く。

 

それから淡々と投げ続けツーアウト。しかし、悲劇はここから始まった。倉敷舞子の球速に慣れてきたバッターに次第に連打され始める。外野への大飛球が連続して飛び出し、1点また1点と点差が広がる。

 

そして14-10でランナー一二塁。向月高校も活気づく。倉敷舞子は嫌気がさし、マウンドを降りてベンチへ向かう。

 

「監督」

 

「なんだ?」

 

「私にはピッチャーは合わない。代えてください」

 

突然の交代の要望に監督の眉間にシワが寄る。

 

「勝手なこと言うな。自分の仕事をやり遂げろ」

 

監督の怒りが混ざった低い声がベンチに聞こえる。そのまま星野監督は倉敷舞子をマウンドへ戻してしまう。

 

「お前あとひとつ取れば終わるんだぞ。やって来い」

 

「私には無理よ…」

 

「それはお前が決める事じゃない。ええからやれ」

 

卑屈に弱音を吐く倉敷舞子にイライラしながら星野監督はベンチに戻る。

 

「まったく…さっさと終わって、退部しようよ…」

 

倉敷舞子はボソッと言い投球を続ける。

ボール。向月高校は乗り気になって次々に歓声を送る。

 

(………うるさいわね…!)

 

倉敷舞子は歓声にイラつき始める。

 

「いいよいいよー!ピッチャービビってるー!」

 

小学生が言いそうなヤジが飛んでくる。

 

「………何よ!」

 

とうとう倉敷舞子は我慢できなくなり、向月高校のベンチに向かって言い返す。

 

「ピッチャー怒ってるよー!」

 

向月高校のベンチの数人は懲りずに煽り続ける。

倉敷舞子がベンチに一歩二歩詰め寄ろうとしたその時、後ろから足音が聞こえた。誰が走ってきている。倉敷舞子が振り返ってみると星野監督だった。

 

「なんやお前ら!ケンカ売っとんのか!」

 

鬼の形相で星野監督は問い詰める。

 

「誰が言うたんや!」

 

星野監督が野次った犯人を捜すが、向月高校のベンチは静まりかえり、選手たちの顔は青ざめていた。

 

「必死こいて頑張っとる選手をバカにするな!お前らスポーツマンシップの欠片もないんか!」

 

向月高校のベンチ前、星野監督の怒号が響く。

 

「お前が引率か」

 

星野監督は高坂椿を指さす。

 

「…は……はい……」

 

高坂椿は震えながら小さな声で返事する。

 

「お前らの高校はこんな野球をやらせとるんか!舐めんじゃねぇ!よう教育しとけ!」

 

星野監督にロックオンされた高坂椿はとうとう泣き出してしまう。

審判団はヤバいと思い、ようやく星野監督に割って入って制止する。

 

「監督!これ以上やると退場になりますよ!」

 

「お前らも注意しろよ!」

 

審判と言い争う星野監督。その光景をマウンドから倉敷舞子はじっと目に焼き付ける。

 

「監督!退場です!退場してください!」

 

審判に退場を宣告され、星野監督は球場のドアを思いっきり開けて出ていく。開けた時にドアが壁に激突する金属音が向月高校と里ヶ浜高校のメンバー達をより一層恐怖に陥れた。

 

星野監督の退場後、試合は再開された。

怠慢プレーで正座させられていた中野綾香と竹富亜矢は、足を楽な体勢に変える。先ほどとは裏腹に両ベンチとも静まりかえり、聞こえるのはすすり泣く音だけだった。笑顔は誰一人ともしていない。

 

倉敷舞子はサイン通り淡々と投げ込む。向月高校のバッターも淡々とバットを振る。そんな状態が試合終了まで続くのであった。

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