燃える男と世界でいちばん熱い夏   作:久戸瀬放映Project

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父の背中

翌朝。選手たちは朝早くから練習に取り組んでいた。隅には腕を組んで見守る星野監督の姿が。グラウンドを走りながら、東雲龍はチラッと横目で星野監督をみる。

 

昔の話。東雲龍は父、長男、次男がプロ野球選手で三男が大学野球選手という野球エリート一家に生まれた。本人もプロ野球選手を目指し、日々努力を積み重ねている。

そんな東雲龍が小学校の時、練習をサボったのが父にバレて雪の積もる寒空の夜に外に出されて何百本も素振りをさせられた。泣いても謝っても許してくれず、決められた回数振るまで父は家には入れてくれなかった。今で言えば虐待の類なのだろうが、東雲龍は「あれがなければ、今の自分は無かった」と振り返る。

その時の東雲龍が素振りをしている間、父はずっと外で立って見ていた。もちろん、素振りをする東雲龍だけでなく、父も寒いはず。そして、素振りのノルマが達成して家に入ると、ふたりで冷えた晩ご飯を一緒に食べた。あの頃は意地悪だと思っていたが、今思えば、父の忍耐が少し理解できた気がしている。特にふたりで食べた冷たい晩ご飯。それが昨日の星野監督の姿で連想されたのである。

 

「監督。話があるんだけど…」

 

星野監督に倉敷舞子が近づく。

 

「野球、やっぱり私には合わないわ」

 

倉敷舞子は遠回しに退部を申し出る。

 

「……場所を変えよう」

 

星野監督は倉敷舞子と人気のない場所へ向かう。

 

グラウンドから少し離れた建物の裏、星野監督は倉敷舞子に向き合い、話を聞く。

 

「それで何だ?」

 

「分からない?野球辞めたいの。私にはセンスがないわ」

 

倉敷舞子はムスッとした表情をする。

 

「練習したら絶対上手くなれるぞ。お前の度胸と責任感は高校生にして大したもんだ。それに初めてにしてはストライクをちゃんと投げれてる。俺が必ず、エースピッチャーにしてやる」

 

「……男ってみんなそう…自分勝手よ!」

 

倉敷舞子は声を荒げる。

 

「あんたもあいつも…私の気持ちを知りもしないで…!何よ…!私を娘だと思って父親ぶってるつもりなの…!」

 

噛みつくような勢いで倉敷舞子は星野監督に怒りをぶつける。

倉敷舞子は家庭に問題があった。父親が浮気をしていて、母親はそれを分かっていながら放置している。娘の倉敷舞子からしては大きなショックであり、その結果、反抗的で協調性に欠ける性格に変わってしまったのである。

 

星野監督は辛辣な表情をする。倉敷舞子は昨日の試合のように怒鳴られると思い身構える。しかし、星野監督の口から出てきた言葉は予想外のものだった。

 

「…俺の親父は、俺が腹にいるときに死んだらしい。だから、父親というのがどういうものなのか分からん。すまんな」

 

それを聞いて、倉敷舞子の怒りがスーッとなくなり、罪悪感が湧いてくる。

 

「そ…そうだったんですか……すみません……」

 

気まずい沈黙の時間が流れる。

 

「野崎とは、小学校の時一緒だったんだろ?」

 

「…はい」

 

「アイツは気が弱いというか、お人好しなんだ。だからお前がもう少し面倒を見てやってくれないか?」

 

倉敷舞子は俯き、沈黙する。頭の中であれこれ悩む。

 

「倉敷。お前しかいないんや」

 

「………分かったわ。監督。もう少しやってみるわ」

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