燃える男と世界でいちばん熱い夏 作:久戸瀬放映Project
強化合宿を始めて数日。選手たちは着々と実力を高めていった。
まだ最強なチームには程遠いが、かつて「お遊び野球」と言われた面影は無くなり、グラウンドから声が遠くでも聞こえるほど熱気に溢れ、闘うチームに育っていた。
特に星野監督が力を入れていた投手。新加入の倉敷舞子の成長凄まじかった。球種はストレートとカーブだけではあるが、緩急をつけることができるので良しとする。何より武器はコントロールで、大体狙ったところに投げることが出来ている。それに、彼女の性格上孤軍奮闘の投手に向いていたのである。
倉敷舞子の心境にも変化が見られた。最初はチームを避けていたが、最近は少し心を許したのか、数人と交友が増えている。生徒会出身の九十九伽奈はどうしても敵意が湧いてしまうのだろうが、それはじっくり慣れてくれればいい。
野崎夕姫への指導も行ってくれている。野崎夕姫はどうしても弱気で優柔不断な部分がある。そんな中でスパッと直言してくれる存在が倉敷舞子である。それにかつての同じクラブに所属していたのだから、誰よりも野崎夕姫について知っていると星野監督は考えた。
合宿の日々は1日1日と過ぎていき、終盤に差し掛かる。
その日、グラウンドで事件は起こった。運営の管理ミスでグラウンドがダブルブッキングされていたのである。
相手は清城高校。一時期監督の不祥事で廃部に追いやられていたが、かつては野球の名門高校である。
今は監督や顧問といった存在は無く、主将の神宮寺小也香が全てを取り仕切っている。
困惑する選手たちを見て、星野監督は提案する。
「せっかくこうなったんや。合同練習したらどうや?」
内心、敵チームに情報が漏れる懸念はあった。しかし、相手も部を立て直したばかりで、ほとんどが育成しなければならない選手だということを星野監督は理解していた。それに、廃部寸前だったのだから、おそらく部費にそれほど余裕もないはずである。そういったお家事情を知っているからこその提案であった。
「合同練習ですか…分かりました」
清城高校の神宮寺小也香は少し考えるような素振りを見せながらも承諾した。おまけに試合までやらせてもらえることになった。
星野監督は里ヶ浜高校の選手を集める。
「お前ら、この試合でスタメン決めるからな」
スタメンという言葉に、選手たちの表情が一気に引き締まる。
向月高校は三軍であったが、清城高校はエースピッチャーの神宮寺小也香、女房役の牧野花、4番の番長の一二三ゆりがいる。練習試合という名の実戦訓練に、星野監督は選手の取捨選択手段にしたのである。