燃える男と世界でいちばん熱い夏 作:久戸瀬放映Project
翌朝、神宮寺小也香は自身のスマホに打ち込まれた電話番号とにらめっこしていた。
牧野花が気絶して倒れた後、やむなく撤収することになったのだが、掛橋先生から共有の電話番号を知ることができた。そして翌朝、星野監督に謝りに行く事をになった。
「………ふぅ…」
神宮寺小也香は一呼吸おいて、通話ボタンを押す。「大丈夫。大丈夫」と自分に言い聞かせる。
「……もしもし?」
電話が繋がるが、掛橋先生の声ではなかった。男の人の声。里ヶ浜高校で男と言えばひとりだけ。神宮寺小也香はハッとする。
「あ、監督…!すみません…!神宮寺です…!」
心の準備が出来ていなかった神宮寺小也香は慌てた様子で話す。
「………どちらの?」
「清城高校の神宮寺小也香です…!」
「おぉ。どした?」
「あの…今からそちらに伺ってよろしいですか?」
「なんで?」
「あの…昨日のことで……」
「昨日何かあったか?」
(えぇ…!?昨日何かあったか…!?)
「………まぁええわ。来い」
そう言って星野監督は電話を切った。
ーーーーー
星野監督が宿泊するホテル。
お茶菓子を手に持ち制服姿で向かうと、星野監督がフロントのロビーで待っていた。
「おう。暑い中よう来たな」
「監督。すみません。昨日は…」
「昨日?何かあったか?」
星野監督のその言葉に神宮寺小也香は混乱した。昨日あれだけ怒って鉄拳を振り下ろしていた監督が、一晩で忘れているはずがない。今見せている笑顔が逆に怖く感じる。
「えっと……一二三さんのスライディングの件で……」
「あぁ………」
星野監督が少し動く。神宮寺小也香は殴られる覚悟を決める。
「そんなのお前、野球やっていれば、ああいうことのひとつやふたつくらいあるわ」
星野監督は怒ることなく、まぁしょうがないという雰囲気で話す。
その時、ホテルのスタッフがコーヒーを運んできて、2人の前のテーブルに置く。
すると、星野監督が去ろうとするスタッフを呼び止める。
「すまん。神宮寺さんはコーヒーじゃなくて紅茶がお好きなんだ。紅茶に代えてくれないか」
(なぜ紅茶好きなのをしのてるのかしら……?)
神宮寺小也香は星野監督が紅茶好きを知っている事に内心驚く。
それからしばらく会話をするが、怒られることはひとつも無かった。むしろ、一二三ゆりの執念と闘志溢れるプレー、牧野花のリードと冷静な分析力、神宮寺小也香の強みや野球に対する姿勢について褒めることばかり。清城高校のチーム相談にも乗ってもらった。
しばらく話をして、星野監督腕時計をちらっと見る。
「そういえば今日も練習だろ?行かなくていいのか?」
「あ…はい…!」
「お前がいなきゃ締まらんだろ。行ってこい」
怒られなくてラッキーなのかどうなのかは分からないが、神宮寺小也香は少し不思議な気持ちで星野監督を後にした。