燃える男と世界でいちばん熱い夏 作:久戸瀬放映Project
不合格。
東雲龍にはそう告げられた。
彼女は悲しいや悔しいといった気持ちを表に出さず、グラウンドを去った。
帰りの電車、東雲龍は夕日に照らされながら座っていた。周りの乗客がうとうと居眠りする中、東雲龍は険しい表情ひとつ変えず停車駅を待っていた。
日もすっかり暮れて、薄く街灯が照らす夜道をトボトボと歩く。すると玄関前に人影が見える。
「………兄さん」
いたのはプロ野球に所属している東雲龍の長男であった。
「どうしたの?まだシーズン途中でしょ?」
「ちょっと呼ばれたんだよ…昔の監督に」
「……だからスーツ着ているのね」
肩に少し力が入っている東雲長男を横目に、東雲龍は悲しみを表情に出さないようにこらえながら、自分の部屋に戻る。
野球道具の入ったスポーツバックを置き、そっと部屋の鍵を閉める。
「……またあの頃と同じなの………」
普段とは打って代わり、弱音が思わず口から漏れる。東雲龍はカーテンのすき間から空を見つめ、立ちつくしていた。
どれほど時間が経過したのだろう。東雲宅の前でタクシーが停まる。
「監督。お久しぶりです」
タクシーから降りてきたのは、星野監督だった。
「シノ。今日はありがとな」
星野監督もワイシャツにネクタイをつけてブレザーを羽織っていた。星野監督は東雲長男に案内されながら家に上がる。
〜〜〜〜〜
時計の針は深夜の12時を回りかけていたころ。東雲龍は自室のベットの中でなかなか眠ることが出来ないでいた。
「……不合格」
どうしても、その現実に納得することができなかった。
その時、誰かが扉をノックする。
「龍。起きてるか?」
声の正体は東雲長男だった。
「ええ…まだ起きてるわ…」
「監督が呼んでるから、ちょっと降りてきてくれないか?」
「……監督が?」
東雲龍は監督が呼んでいることに疑問を持ちながらも、寝間着姿で言われるがままに東雲長男と共に階段を降りる。応接室を開けると、来客用の椅子に座っている星野監督の姿があった。しばらくお互い何も喋らす、静かに見つめ合う時間が続く。
「…トライアウト。どうだったんだ」
星野監督の一言目の言葉に、東雲龍の表情は険しくなる。
「……不合格です。それが何か?」
東雲龍は不満そうに答える。
「そうか。じゃあ、うちのチームに来い。有原とは同じ高校だろ?」
星野監督の提案に目を丸くして驚きながらも、東雲龍はすぐに元の険しい表情に戻る。
「嫌です。あんなお遊び野球の仲良しクラブなんて…」
東雲龍は下に視線を背ける。
「確かに、初心者ばかりだからお遊びに見えるかもしれん。だからこそ、お前のような選手がチームを変えるのに必要なんだ。」
東雲龍は下を向いたままだったが、心の中で何かが動いた気がした。
「俺が必ず甲子園で優勝させてやる。お遊び野球を闘う野球に変えるのを手伝ってくれないか?」
星野監督は真っすぐ東雲龍を見ながら、熱い言葉をかけていく。
「………分かりました。そこまで言うなら、入部するわ」
東雲龍は根負けした表情で言う。
「そうか…!ありがとう…!それじゃあ明日、グラウンドでな」
東雲龍を獲得した星野監督。明日から本格的なチーム改革を行おうと決意するのであった。