SAMULION ~まじっくナイトはご機嫌ナナメ☆~   作:Croissant

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巻の壱拾弐

 「で、反省したの?」

 

 

 ドンッという擬音が響き渡りそうな迫力の前に、この二人(?)は無力だった。

 

 

 

 「『申し訳(ござらん)ありません』」

 

 

 

 The.土下座。これ一択しかなかった。

 

 

 「なのはね、一人で一生懸命頑張ってたの。

 

  一 人 で 、

 

  ……ねぇ、なのは の言ってる事解るよね?

 

  わたしが一人にやらせて二人は仲良く喧嘩なの?

 

  ねぇ……なのはが怒ってるのって変なのかな? 変な事言ってるかな?」

 

 

 何時しか、少女の背後から ずごごご…とゴツげなオーラが噴出していた。

 

 彼女の可愛らしさも相俟ってごっつ怖い。何か知らないけど斧持ったハムスターのビジョンが見えてるし。

 

 そんな少女の背後にはあちこちクレーターが出来ており、プスプスと焦げ臭い煙も上がっている。

 

 その中でとりわけ大きい(直径約十メートル)クレーターの中には、バラバラになったブロンズ像の残骸……皆知ってる二宮さんだ。

 そこそこの学校なら置いてあるだろう二宮さんのブロンズ像。

 そのポピュラーな像は今や見る影もなく不可思議な力によって木っ端微塵となっていた。

 

 無論、この少女の仕業である。

 

 

 「あ゛?」

 

 

 ――失敬。この少女の奮闘のお陰(、、、、、)である。

 

 

 事の始まりは、少女らの探索の網にとある公立小学校が引っかかった事だ。

 

 彼女らが探しているJS(ジュエルシード)と称される魔法の宝石。

 周囲の思考等によって勝手に起動し、暴走体と呼ばれる怪奇現象物を発生させる厄介な代物である。

 

 とある事情によってそれらを回収している彼女であったが、この日もまたそれの反応を察知し、学校に駆けつけていた。

 

 で、件の小学校で起こっていた怪奇現象は、既に数個を集めている彼女であったが、流石に夜の校舎等というオカルトの定番である場は無かったし、何よりちょっと怖い。

 

 そんな恐怖を押さえ込みつつ校舎内を調べてゆく一人と一匹の前に現れ出でたのは元気バリバリに駆けて来る人体模型やら骨格標本。目からビームを放つベートーベンの肖像画やら所謂 学校の怪談というか七不思議。

 怖がっている場所で怖いものが出てきたもんだから慌てたの何の。きゃーきゃー泣いて走り回って逃げ回ったものである。

 暴走体は平気だったというのに、こんなちゃっちいものに怯えるとは訳が解らないのだが、『どうしても下り切れない階段』によって追い詰められた彼女はついにキレてしまい、得意の射撃魔法Divine(デヴァイン) Buster(バスター)を乱射。結界内の紛い物の校舎とはいえ半壊させてしまったのである。

 

 しかし何が転ぶか解ったものではなく、そのお陰でJSが取り憑いていた本体…先々代校長の銅像が吹っ飛び、彼女を追いかけていた怪奇現象らも沈黙させられたのだった。

 

 それによってようやく気を抜く事が出来、へたり込んだ二人だったのだが、その隙を狙うかのように七不思議の最後の一つ『夜歩く二宮金次郎像』にJSが再度取り憑き、台座ごと(、、、、)動き出して学校から駆け出してしまったのである。

 

 只でさえ銅像が駆け出すという異様な光景であるのに、バックリと縦に二つに裂けた台座を恰も高下駄のように足にくっ付けたまま凄い速度で駆けて行く光景は出来の悪い冗談か嫌過ぎる悪夢。

 

 本を読みつつ、薪を背負子(しょいこ)って、鉄下駄ならぬ高下駄で走りまくるアクティブ過ぎるにも程がある勤労少年。

 そりゃ呆気に取られもするだろう。

 

 兎も角、何とか再起動を果たした一人と一匹は、押っ取り刀で追跡を始めて……雷と出会ったのだ。

 

 

 『あ、あの、なのは? JSは……』

 「とっくに封印したの。 ユ ー ノ く ん が お 話 し て る 間 に 」

 『あう……』

 

 -HeyHeyHey former.master

  What is considered?

  Is the head decoration? Uh-huh?

 

 『う゛う゛……言い返せない』

 

 何だか知らないが、少女の持つ(デバイス)にすらボロクソに言われている白イタチ。

 自業自得とはいえ哀れである。

 

 「(うぅむ 一見ひ若い(、、、)娘子であるというのに何たる覇気。

   まるで戦国の世の第六天魔王を髣髴(ほうふつ)とさせられるでござるな)」

 

 「何 か 失 礼 な 事 考 え て ま せ ん ?」

 

 「いえ! 滅相も無いでござるよ!?」

 

 まぁ、事の始まりは雷の思い込みとウッカリなので、諸悪の根源といえるかもしれない。

 

 何せ彼女とユーノと呼ばれているイタチが言い合いをしている間に遠くまで逃げていたはずの二宮像が『ボクを無視するの?』と言わんばかりに駆け戻り、二人の言い合いに挟まれてわたわたしている なのはを見、まるで八つ当たりの様に襲い掛かってきたのである。

 

 「怖かったんだよ? 怖かったんだよ!?

  手に本を持ったままの像が足技使って来たんだよ?!

  “くらっくしゅーと”とか“すぴにんぐばーどきっく”なんてしてきたんだよ!?

  ビックリして避けられなかったんだからね?!」

 

 「い、いやそんな事を拙者に言われても……」

 

 「おまけに足から“べのむ”飛ばすんだよ!?

  何なの!? 格ゲークロスなの!?

  GGクロスしてなくてありがとうございますなの!!」

 

 『な、なのは、ほら落ち着こうよ。ね?』

 

 兎も角、そんな感じにまたしても七不思議に追われる形となった なのはだったが、ふと相棒(ユーノ)の事が気になってそこに目を向けると……

 やっぱり仲良く言い合いを続けている一人と一匹の姿が――

 

 

 

      ぷ ち っ

 

 

 

 ……とまぁ、こんな風にキれてしまってもしょうがないよね?

 

 その結果、射撃魔法ディバインバスターの雨が降り注ぐ事となり、哀れ二宮金次郎象は木っ端微塵コになってしまったのだった。

 

 

 後に雷はその時の光景を雷はこう称している。

 

 

 「戦場(いくさば)を剣林弾雨の中と申すが……

  死の閃光が正に雨霰と降り注ぐ光景は地獄としか……』

 

 

 くわばらくわばら。

 

 そう呟く事しか出来ない雷であった。

 

 

 「おねーさん、聞いてるの!?」

 「ひゃっ、ひゃいでござる!!」

 

 

 

 

 

 

        -巻の壱拾弐-

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わり、ゆーの とやらが結界を解くと周囲の風景は一瞬で塗り戻された(、、、、、、)

 表現としてはかなり妙な物とになってしまうのだが、実際にそんな感じなのだからどうしようもない。

 

 「ううむ……見事なものでござるな」

 

 だから素直にそう感嘆してしまう。

 

 『い、いえ、それほどのものでは……』

 

 しかし当のノロ…いや、ゆーの はそう謙遜して見せる。

 

 それを見て思ったのだが、我が主と同様に自己評価が低いのではないだろうか?

 

 自分とこの少女の間に割り込みをかけて障壁を張った手並みといい、この超広範囲の結界を瞬時に張った力量といい、この年齢としては……いやそれどころか、そこらの術者なぞ足元にも及ばないのではなかろうか?

 

 「ユーノくんは なのはの魔法の先生なの!」

 

 「ほほぅ? 成る程、納得の理由でござるな」

 

 『な、なのは……』

 

 一度(ひとたび)落ち着いてみればこの少女も可愛らしく礼儀正しい娘で、他者を褒めるという点も微笑ましい。

 ただ、その身から発せられている駄々漏れの法力はどうにかして欲しいものであるが……

 

 

 何というか……大きいにも程があるだろう?

 

 

 記録に残っている陰陽寮の全員を集めてもこれだけの量には至らぬとおもう。

 

 桁が違うというか、世界が違う。

 それだけの差、他者を圧倒する壁を既に持ってしまっているではないか。

 何ともはや……末の事を考えると心配でならぬ。

 

 『そ、そんな事より貴女はどうしてここに?

  さっき町の守護とか言ってましたけど』

 

 そんな思考をオコジョ…ではなかった、ゆーのが遮った。

 まぁ、先の事を考えても鬼が横腹を痛めるだけなのでそれは置いておくとして、この小動物の下手な話の逸らし方に乗ってやるとしよう。

 確かに説明も必要な事であるし。

 

 「申し遅れた。

 

  (それがし)、日の本が退魔衆の一派 鐘伽(しょうき)流退魔術が家系に受け継がれしモノ。

 

  戦術式神にして前鬼、名を雷と申す」

 

 無論、自己紹介の中に主の名は伏す。

 同じ術師とはいえ、流石に秘匿の心得まで外す訳にはいかないのだ。

 

 まぁ、言うまでも無いが主の式として恥を掻く事は出来ぬので、正装である戦甲冑でもってびしっと極めている。

 

 ふ……完璧でござろう。

 如何かな? 童子(わらし)達よ

 

 

 「あ、あの……」

 

 「む 何でござるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 「『さっぱり解らないんですけど……』」

 

 

 

 ぎゃふんっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『え~と、要は貴女は僕達の世界で言うところの魔導師にみたいなもので、

  式っていうのは使い魔みたいなものだと』

 「ま~ そーゆー事でござるよー」

 「“おんみょうりょう”っていうのは、ユーノくんが言ってた管理局みたいなものなの?」

 「そー言われても せっしゃは“かんりきょく”なるものを知らんでござるよー」

 『う、うーん……

  魔法陣と形式はミッドのそれにちょっと似てる部分も……

  あ、だけど使ってる文字とかが全然違う……』

 「ここの部分は漢字だよ。わたしたちが使ってる文字の。

  後は……ちょっとわかんない」

 『魔道プログラムの形式は似てるのに、繋げ方のパターンが解らない。

  途中で引っかかってくる三角の陣が台無しにしてるとしか……でも完全に構築されて起動してる。

  う~~~ん?』

 

 「もー いいでごさるかー?」

 『あ、ハイ』

 

 

 自己紹介に失敗したからか、雷のやりとりはかなり投げやりだ(平仮名が多めになってるし)。

 反対にユーノの方は、彼女が使っている呪式がかなり琴線に触れたのだろう、ガン見していた。

 なのはと言えば、自分の知るミッド式のそれ以外にもまだまだ呪式があったのかと興味深げに見つめている。

 

 そんな二人のテンションとは反比例し、やたらローテンションな雷は二人に見せる為に展開していた呪式に力を送り、清め術を起動させた。

 

 次の瞬間、結界解除によって燻っていた戦いの場の空気が完全に洗い流され、爽やかな公園のそれへと塗り替えられる。

 

 空気清浄とかいったそれではなく、何というか場の雰囲気が変わったという感のある術で、珍しいのか或いは目にした事がないのか余計にユーノの興味を引いた。

 

 「何だろ? 空気が美味しくなったきがするの」

 「言いえて妙でござるな」

 

 可愛らしい なのはの言を聞いてようやく苦笑する事が出来た雷。気を取り直したというところだろう。

 実際、この少女の年齢は十にも満たないものであるし、歳相応ならこんなものか。

 

 尤も、そんな童女相手に 恰好付けに失敗したからといって何時までも燻っているのは沽券に関わる――という事もあるかもしれないが。

 

 「兎も角、拙者らは基本的に剣を使って退魔を行う者。

  これはそういった事後に場を清める為の術でござる。

 

  何しろ妖怪や魔物は人の心の闇から湧き出すものでござるからな。

  場の空気をきちんと清めておかねばすぐにまた事件が起こるでござる」

 

 「……よ、妖怪」

 『ま、魔物……う~ん……』

 

 しかし、悲しいかなこの二人(?)にとっては荒唐無稽(ふぁんたじー)と言った具合。

 意外というか何というか、魔法使いなるファンタジーそのものを行使するくせに、こういった事に受け入れ難いらしい。

 

 尤も仕方のない事と言えなくもない。

 

 というのも、なのはとユーノが使用していた魔法は言うなれば『発展し過ぎた科学』。

 魔力素を集める器官……リンカーコアというものを持っている者を魔導師と呼び、集めた魔力をデバイスという“機械”を通して魔法という現象を起こす。

 要は人が電源となって装置(魔法)を動かしているようなものなのである。

 

 それでもまぁ、魔力素という世界に満ちているモノを共鳴させている訳であるから、発動させられる力を途轍もなく大きい。

 この十に満たない少女を見ればよく解る。何せ内包できる魔力の途轍もない大きさから戦闘機の機動力と巡洋艦クラスの火力を持ち合わせているのだから。

 

 ユーノが言うには、彼がいた世界でもここまで馬鹿魔力を持った人間は珍しいというのだが…それだけが救いか?

 

 「馬鹿魔力って……そんな言い方は無いと思うの!!」

 『い、いや、Aランク以上の魔力持ちって管理世界でも少ないんだよ?

  特に なのはその歳でA+かAAはあるんだからホントに珍しいんだからね?』

 「う゛~……」

 

 対して雷の方は術という概念から発達したものであるし、無自覚であるが魔力素を介して使用してはいるが本人の霊力が基本なのでどうしても話の共通点が減ってしまうのだ。

 物理から発達したようなものである魔導師と、オカルトから発達した退魔師なのだからしょうがないとも言えるのであるが。

 

 尤も、<鐘伽(しょうき)流>は魔導師のそれに共通する点も多いのであるが……

 

 「そ、それでお姉さんはどうしてここに?」

 「お?」

 

 言葉の意味はサッパリであったのだが、事が異世界技術の話であるので興味津々で聞いていた雷に、唐突になのはが問い掛けた。

 ぶっちゃけ少女が話を逸らしただけだが気にしてはいけない。

 まぁ、それ以前に雷は気にもして無いし。

 

 「いや 先程も申したが、我らはこの町を護るのが任でござる。

  一般衆生、民草に危機が訪れぬよう見回るのは当然でござろう?」

 

 人々の為に動くのは当たり前。

 

 何を言ってるのかという目でそう答える彼女を見、ユーノはようやく完全に警戒を解いた。

 

 何しろこの地にたどり着くまでの経緯(、、)によって彼も多少は警戒心を高めている。

 

 といっても、悲しいかなJSの暴走体は彼が思っていたよりもずっと強い。自分がやらなきゃと決めた途端に戦ったのであるが一体が限度。おまけに行動に支障が出るほどの傷を受けてしまった。

 

 なのはという協力者を得る事ができた今でも、魔法という存在がこの世界に無い以上は自分らだけで…という想いが固まっていたのだ。

 しかし雷が語ったものには、力ある者は力の無い者の為にだけに動くという理念が感じられる。

 ……まぁ、ちょっと変なヒト(?)ではあるけど、それでも人柄的には信用の置ける女性だと感じた。

 

 だからこそ警戒を解いたのである。

 

 「ふむ。しかし ゆーのが申す“じゅえるしーど”?

  そんな恐るべきモノが二十余りもこの世界に……ううむ」

 「見た目は大きなサファイアみたいな宝石で、中に数字が書いてあるの。

  あの、見たことありませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 「数字の書いてある さふぁいあ? でござるか?

  何でござるかそれは」

 

 一瞬、あの石の事かと思ったが少女と“ゆーの”が言うには全ての宝石には数字が書いてあるとの事。

 となるとあれ(、、)ではないだろう。

 あれには釘のような模様(、、、、、、、)はあったが、数字は書いてなかった。直にこの手で封印した時に目を皿にして見ていたのだから間違いない。

 

 となると別件であったか……?

 

 「……お姉さん?」

 

 ――と、いかんいかん。

 

 「ああ、申し訳ない。

  その力の厄介さに頭を痛めていただけでござるよ」

 

 只でさえ“じゅえるしーど”なる代物で難儀している二人に、同じような特性を持つあの殺生石モドキの話なんぞすれば更なる不安に駆られてしまう事だろう。

 よってこちらの事はこちらで始末をつけるとしよう。

 

 気遣い…というにはおこがましいが、主も自分も大人の部類。

 この身は設定された年恰好ではあっても、大人である事に違いはない。

 大人は子供の害となってはいけないのだ。

 

 「そう…ですか」 

 『……』

 

 取りあえずそう誤魔化したのであるが、その言葉を聞いて なのはは元より ゆーのが目に解るほどの落ち込みを見せた。何かしらの情報が掴めなかった為の落胆といったところか。

 

 それにしても、傍目からも解るほどその落ち込みの度合いは大きい。

 

 聞けば彼は部族で発掘を生業といていたそうで、件の宝石を発見したのも彼本人だそうだ。

 そしてそれを輸送中に何者かに襲われ、この地にばらまかれてしまった――と。

 その事に責任を感じているのだそうだ。

 あんなものを見つけさえしていなければと。

 

 ふむふむ成る程。

 それはまた難儀な話で……………………

 

 

 

 って、何故にそれで彼が悪い事になるのだ?

 

 

 

 「いや、いやいやいや、

  そなたが申すに襲撃されたのであろう? それでどうしてそなたが悪い事になるでござる?」

 『で、でも、

  僕があんなものを見つけなければ……』

 「でももラッキョもないでござる。

  そんな遺跡が無ければ良かった、そこにそんな宝石が無ければ良かったとか、

  突き詰めればそんな事をしている自分の部族が悪い、とかになるでござるよ?」

 「そうだよ。なのはもずっと言ってるでしょ?

  ユーノくんの言うとおりだったら、泥棒より盗られる家がある方が悪い事になるよって」

 

 おお、言いえて妙だ。

 歳若いが中々目の付け所が違う。

 

 それに こやつが一々こんな事で落ち込んだりすれば一生懸命に手伝っているこの少女(なのは)が馬鹿みたいではないか。

 自分ならば殴っているところだ。ぷんすか怒っている少女の気持ちも良く解る。

 

 『うん…ごめんね』

 

 そう言って頭を上げる小動物。

 何やら後ろ向きの思考を持っているようだが、こう身近で接してみればそれは責任感の強さなのだろうと感じられる。

 

 この獣がどのような動物世界の生き物であるか知る由も無いので当然ながらその年齢も不明であるが、聞こえてくる声音からすると男女の区別が付け辛い子供のそれ。

 恐らくこの少女と同年代くらいなのだろう。

 その歳でこれだけの責任感を持つとは中々感心できる話ではないか。

 

 ……まぁ、飽く迄も人間の歳に換算すれば、の話であるが。

 

 「ま、後悔なんぞする暇があるのなら、集める努力をした方がマシという事でござるよ。

  先程申した通り、拙者はこの町を守護する者。よって手を貸すのもまた至極当然の事。

  そなたらの捜査の網の目を縫う事もできるでござるよ」

 「そーだよ。なのはももっとがんばるから」

 『うん…うんっ

  ありがとう』

 

 二人がかりで励ますと、また顔を伏せてしまう ゆーの。

 何やら目が潤んでいる気がしないでもないが……まぁ、これは武士の情けというヤツで何も言うまい。

 相棒である少女が頭を撫でているし、自分は割り込む必要も無いだろう。

 

 「ま、詳しい話はまた後日行なうとしよう。

  何せもうこんな時間でござるよ」

 

 無粋とは思うが、何時までもこんな時間こんな場所にいるのもなんだ。

 主から頂いた便利な道具、腕時計を見せて現実に戻してやった。

 

 「ふぇ……?」

 

 と、いきなり突きつけられたモノを見てキョトンとする少女。

 この辺は歳相応の少女だなぁ と苦笑が湧いたのであるが……

 

 「あ、ああっっ!!??

  すっかり忘れてたの!!!!」

 

 どうやらこの時間はちょっと不味かったようだ。

 

 「ご、ごめんなさいお姉さん!!

  詳しい話はまた今度に……ほら、急ごうユーノくん!!!」

 『え?

  あ、でも、この次ってどぉおおおおおおおおおおおっっっ!!!???』

 

 びゅおおっっと風を巻くようにすっ飛んでゆく少女。

 尻尾をむんずと掴まれ、そのまま引っ張って行かれる ゆーの。いと哀れ也。

 

 考えてみれば子供は寝ていなければならぬ時間。

 今の世の常識は知らぬが、それでもこんなところはそんなに変わっていないだろうし。

 

 

 ――それにしても……思わぬ事態となったものだ。

 

 

 異世界から来訪した獣の術使い。

 そんな彼から奪われたという、例の魔石と似た特性を持つ魔法の宝石。

 そしてその獣によって見出された術師……いや、魔導師だったか。

 

 ふむ……

 何やらきな臭いものを感じなくもないが……状況は進みだしているようだ。

 

 無論、自分らがするべき事は変わらぬのであるが。

 

 

 「人の世を護るは我らが任。

 

  粉骨砕身の覚悟は不変也」

 

 

 なのだから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……は、良いのだが……

  彼女らはどうやって拙者に連絡をするつもりだったのでござろう?」

 

 というか、二人の名前しか聞いておらぬではないか。

 

 いや、聞かなかったこちらにも非が無い訳ではないが、時間すら忘れて話を続け、あまつさえ符丁すら決めず立ち去るとはまだまだ修業が足りぬな。

 同じようなものを探しているのだから、縁があればまた会えるだろうがそれでも落ち着きの足りなさは如何ともし難い。

 

 まぁ、確かに時間も遅いし、両親にも要らぬ心配を掛けてしまうだろう。

 急ぎ帰る気持ちも解らんでもないのであるが……

 

 「そこらの補助は拙者らの責務でござろうなぁ」

 

 子供を守る事、そして導き支えるのは大人の使命なのだから。

 

 

 思わぬ事で情報を得た事により新展開を見せた此度(こたび)の怪異。

 最悪、我が主がお出ましになっていただかねばならぬやもしれぬ。

 

 その特異性と不可思議さ、そしてその重さに不甲斐無くも軽く身震いをしてしまう私であった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――って!! こんな時間!!??」

 

 

 少女らを諭したというのに、自分もスッカリ時間を忘れていた事に今更ながら気付き、すわ一大事と泡食って飛んで帰ったのであるが……

 

 

 「……遅かったな」

 

 「も、申し訳ござらん!!!」

 

 「心配したぞ」

 

 「はぅ…っ!?」

 

 「夕飯も冷めてしまった……」

 

 「平に、

  平に御容赦をーっっっ!!!!!」

 

 

 案の定、心配を掛け捲っていた。

 

 お陰で頭の中は真っ白け。

 何かしら伝えねばならぬ事柄があったやも知れぬが、詫び方を考えるのに必死で すこーんと頭から吹っ飛んでしまっていた。

 

 ま、まぁ、事情が事情なので仕方のない話であろう。ウン。多分きっと……

 

 

 

 

 く ぅ う う ~~~ っっっ

 

 こ、この雷、一生の不覚ぅうーっっっ!!!!!

 

 

 

 


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