SAMULION ~まじっくナイトはご機嫌ナナメ☆~   作:Croissant

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巻の壱拾参

 切腹騒動があった――

 

 

 いやイキナリ何言うの? と思われるだろーけど、あったものはしょうがない。

 

 誰が? なんで? どーして? と疑問も尽きないだろう。唐突だし。

 

 ……だけどまぁ、なんだ。

 起こるべくして起こったというか、オレが起しちゃったというか……想像付いちゃうだろうけど、ウン。雷なんだなぁ、コレが。

 

 

 「か、斯くなる上はこの腹かっ捌いて」

 「待て。何故そうなる」

 「止めてくださるな我が殿よっ」

 「餅…いや、落ち着け」

 「このうつけ者に御慈悲をーっっっ!!!」

 

 

 ……ウン。大変だった。

 

 オレの言いつけを守れなかった&心配をかけた&迷惑を掛けたというトリプル役満で心のキャパがハコテンになった彼女は、最終手段HARAKIRIに出たという事なんだネ。HAHAHA……勘弁してくれ……

 

 思い出してみれば、この娘の骨子が生まれた時は武家社会だった筈。

 自分の失態は主の恥となるので死んで詫びるのはそんなに珍しい事じゃなかったとは思う。

 いや、時代劇とかで見てた時はピンと来なかったけど、実際に身近で起こったらシャレにならない風習だった……肝冷えたっつーか、チビリそーだったヨ。

 

 あ、もちろん止めたよ? 当たり前だけど。

 今朝はもー落ち着いてくれてて、オレの横で一緒にご飯作ってるし。鮭焼いてくれてるし。

 片時も目を離さず、睨みつけるよーに切り身を凝視してるけどネ……

 

 そういうトコ見ても、真面目なのはいいけど、度が過ぎてるのが解る。いやいい娘ではあるんだけどね。踏み止まって欲しいのよ。ウン。

 どっちにしてもシャレにならんのだけどネ。

 

 あん時はホント大変だったなぁ……(遠い目)

 

 

 「やめろ。オレはそんな事を望んではいない」

 「な、なれど拙者は」

 「この程度の事で死を選ぶな。馬鹿者が」

 「殿……」

 「大体、お前はオレの式なのだろう? 違うのか?」

 「ち、違わないでござるよ!?

  拙者は殿の(モノ)でござる!!」

 

 「だったらオレが命じる筈もない事を勝手にするな。

  お前はオレの式なんだろう? オレが死を選ばせるような事を言うはずかないだろう。

  オレが主だというなら、オレに全て任せろ」

 「せ、拙者の全てを任せるでござるか……(ゴクリ)」

 「(ホっ 止まってくれた)だから安易に死を選ぶな。

  オレの式ならば……解るな?」

 

 「は…ははーッッ!! 肝に銘じるでござる!!

  拙者、雷は主である鈴木 太一郎様の(モノ)!!

  この身も心も殿のモノ故、その全てを殿にお任せし捧げ尽くすでござる!!」

 

 

 

 

 ……とまぁ、そんな感じに何とか踏み止まってくれた訳さ。

 テンパってたから会話内容はよく覚えてないんだけどネ。

 

 なんか致命的な失敗をかましたよーな気がしないでもないけど……

 

 「殿、鮭の焼き具合はこのくらいで宜しいでござるか?」

 「……うん。皮が丁度良く焦げているな。

  その皮の焦げが美味いんだ」

 「おお、そうでござったか」

 「流石は雷。優秀だ」

 「せ、世辞はよいでござるよ」

 「家事の覚えが早いのがその証拠だ。雷は良い嫁になれるな」

 

 「……っっ!!??」

 

 

 気の所為……だよネ?

 オレ、何も失敗なんかしてないよネ?

 

 

 おや? 雷の顔が赤い。

 風邪でもひいたのかな?

 

 

 

 

 

 

        -巻の壱拾参-

 

 

 

 

 

 

 ――あっ という間に時間が過ぎたけど、講義が終わった。

 

 ナニのんきに大学行ってんの!? と思われるかもしれないが、ウッカリ講義とってるんだからしょうがない。我ながら多過ぎかな~と思わなくもないんだけど今更だし

 

 昨日、雷が遅くなったのは実は騒動に巻き込まれていたから、というのは既に聞いてる。

 つーか言い訳混じりの上、矢継ぎ早だったからよく解んなかったんだけど、何とかシードという呪われた石がこの町に二十数個ばら撒かれたとの事。

 

 おいおい…最悪じゃないの。

 一昨日のあの石…猿の手モドキと同じ特性じゃん。

 

 で、異次元から呪いの白イタチがそれを追ってこの地に、女の子の姿をした白い大六天魔王と共にやって来た、と……

 

 もう何が何やら。

 

 奇天烈な話にも程がある。

 良くてホラ話。悪くて正気を失ったナニな人の戯言だ。

 

 アレ? SAN値無くなったの? 熱出た? と思わなくもないけど、泣きながらホントでござるーっと喚いていた雷の目にウソはない。と思う。多分。

 とすると、そのぶっとんだファンタジーストーリーはホントの話という事に……

 

 

 TS織田信長とその使い魔である伝説の白イタチのコンビか……

 現実って怖ぇ~……

 

 

 と、兎も角、そんな物騒過ぎるケダモノと御対面するのはゴメン蒙るし、何より可により自分じゃあ役者不足。

 そんな訳で雷は今日も探索に出てもらってるのさ。

 

 それに実際、ンなモンが後二十個もあるんだったら怖くってしょうがないしネ。

 危ないから止めたいけど、オレに口出す権利ないし。

 

 何せオレは戦う才能なんぞからっきし。

 

 とーさんにも、じーちゃんにも太鼓判押されたほどだし。

 何か嬉しそうに言われたのは傷付いたけどさ……

 

 だから仕方なく雷と…え~と、白イタチ&白魔王達? に任せるっきゃないのよネ。聞いただけでも強そーだし。

 あーヤレヤレ。

 

 え? 何もしないのかって?

 何するも何も……体が無意味に丈夫なだけのドン臭い男がしゃしゃり出てどーしろと?

 餅は餅屋。現場はプロに、だ。トーシロは引っ込んでた方が良いのだよ。

 

 だってオレ、技術も経験もないんだよ?

 例え何かしらの力を貰ったとしても邪魔にしかなんないし。

 ゲームやライトノベルの主人公みたく、イキナリ手に入れた力で無双なんて無理無理。

 力なんかあったって、技術も経験もなし使い切れる訳ないじゃん。

 

 

 そんな訳で、才能無しのオレは今日も大学行ってキッチリ講義受けてたのさ。 

 

 ただ帰り道はちょっと遠回りしてみたりしてるけど。

 べ、別に石が落ちてたら困るから一応探してるなんて事ないんだからね?!

 

 それでも近道はしないぞ? もうフラグは立てなくないしな。

 

 「いらっしゃいま……お、鈴木君か。

  久しぶりだね」

 

 「どうも、お久しぶりです。士郎さん」

 

 ウン。雷に任せっきりだからね。遠回りのついでにご褒美買って帰ろうと思ったのさ。

 

 ここ翠屋は一流ホテル並の本格ケーキデザートが楽しめるこの町のお勧めスポット。

 添加物無しの品も多いから、オレも超お勧め。常連とまでは行かないけど、贔屓にしてたりする。

 

 まぁ、恭也の実家だっつー訳もあるんだけどさ。

 

 

 ……え? フラグ乙?

 ケーキ買いに来ただけで何でそんなコト言われなきゃなんないの?

 

 

 

 

 

 

 

 カラン…とドアベルを鳴らして客が入ってきた。

 

 何時もの営業スマイルで出迎えたのだけど、入ってきたのは見知った顔。まぁ、だからと言って笑顔を消す相手でもない。

 営業ではないスマイルでもって出迎えるだけ。

 

 「どうも、お久しぶりです。士郎さん」

 

 切れ長の三白眼。

 うちの息子同様の、同じ年齢の若者のそれとはかけ離れた眼差しが、やや手入れを怠っている漆黒の髪の隙間から覗いている。

 

 長身であり、無駄肉も無駄な筋肉もない見事過ぎる肉体は、流石はあの鈴木の御大のお孫さんだと納得させられてしまう。

 その身体つきや身に纏っている氣質、そして感情を感じ難い表情が相俟って、初対面の人間なら誰しも圧倒されてしまうだろう。事実、息子の恭也も最初はかなり気圧されていたと聞くし。

 

 確かに気をつけてないと気付けないが、あらゆる所作に隙がみられない……いや、“無い”。

 

 しかしだからといって攻の気を漂わせている訳でもない。

 

 日常行動の全てが自然であり、極一般的なそれであるにも拘らず所作の全てに隙がないのだ。

 おまけにこちらの所作にも刹那の間も置かず対応できるよう適度に脱力しているのだから恐れ入る。

 あの爺さんにしてこの孫ありと思い知らされるではないか。

 

 といっても、家系的にもこの青年の人柄的にも警戒する必要は皆無なのだけど。

 

 「良いタイミングだったね。今日は良い豆はいってるよ」

 「……それは運が良い。

  マスターにお任せしよう」

 「はは 期待しておいてくれよ?」

 

 裏社会で恐れられている武闘流派に、永全不動八門というものがある。

 その一派に御神真刀流という剣術があるのだが、その中に剣速特化の派がある。

 自分はそれを修めており、恥ずかしながらそこそこ名が知られていたりする。

 

 主に何かしらの害悪から他を守る為に生まれた流派で、その性質上 重要人物の警護や犯罪組織の抑制なども任に含まれている。

 

 そしてその仕事の達成率の高さ故、当然のように裏社会でも恐れられたり憎まれたりしていた。

 何せ以前に本家が襲撃を受けるという事件も起こったくらいなのだ。

 まぁ、未遂で済んでい(、、、、、、、)るのだけど(、、、、、)

 

 集会の日を知られその本拠地の情報まで知られ、挙句 隠密に特化した筈の拠点に侵入までされている。

 となると、襲撃側も本気であるしそれなり以上の手勢でカチコミをかけてきたのだから、本当ならこちらもただでは済まないはずだった。

 あってはならない事だけど、自分らの能力に対する自信から生まれた油断もあったし虚を突かれたのだからそうあって然るべき…であったのだけど、相手に不幸だったのは襲撃事件の際に爆薬の除去やら襲撃者の対応やらを一手に引き受け、獅子奮迅の大活躍をした人物がたまたま(、、、、)混ざっていた(、、、、、、)事だろう。

 

 生きる伝説。

 ウチの本家の者の口をもって『剣神』,『大怪銃』等とまで称されている超人。

 

 その人物こそ、鐘伽(しょうき)弐武(にぶ)一刀流 右派の最強の使い手にして鈴木太一郎君の祖父、鈴木 猛。

 齢、七十を超えているというのに、体力持久力腕力集中力全てにおいてオレが勝てないバケモノ爺さんだ。

 

 何しろこの御老人、どんな武器でどんな数でどう戦っても当たらないわ効かないわ止まらないわ、挙句 目で追えないわ見えないわでムチャクチャなのである。

 仮に怪我したりしても寿司でも食ったら治るわっ とか言ってたし。何だかなぁ……

 

 

 ゆっくり挽いた豆を入れ、ポットのを少量注いで蒸らしてからまた湯を注ぎ入れる。 

 豆によっては量も温度も変えたりしているのは拘りだ。

 彼はその動作を興味深げにじっと見つめている。

 

 実のところ太一郎君は意外なほど料理が上手い。

 当然の様にコーヒーの淹れ方もだ。

 長期の休みに入った時なんかに手伝ってもらえてるからよく知っている。

 (きざし)さん…彼のお母さんがみっちり教えたとの事だけど……ホントに多芸な青年である。

 

 猛さんは彼の事を『歴代最低の才能なし』と言ってるけど、恭也と桃子によると怒ると途轍もなく怖いという。

 月村さんのところのゴダゴタに影から介入し、恭也ですら仕留め切れなかった刺客を、無傷で苦もなく一蹴して帰ったというし……

 

 それに――

 

 

 『子供を泣かせて、

  子供の痛みに耳を傾けず自分の事に掛かりきりか?

 

  大人がしなきゃならない痩せ我慢を子供に強いる奴に何が守れる!!!』

 

 

 ――怒り狂った時は相当怖いらしい。

 それを思い知らされたって二人して言ってたしなぁ……何気に嬉しそうだったけど。

 

 そんな彼をボンクラ扱いなんだから、あの一族の底は知れない。

 

 尤も、自分の孫を才能なしと言い、自分の息子を戦いの場で役に立たないと言っていたあの一家だけど……皆して嬉しげに言ってたのはどういう事なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 もしオレに尻尾があったら音速で振られてる事だろう。だって超良い香りなんだもん。

 

 士郎さんの淹れてくれるコーヒーって美味いんだよね。

 生豆からキッチリ選んでローストしてくれてるしさー

 

 え? どれくらい美味いかって?

 このオレが とーさんの口利きでここの店手伝わせてもらっちゃった程。

 

 それにここって添加物ほとんど使わねーの。楽ったって楽たって。

 普通の店なら添加物で死ぬトコだけど、この店なら大丈夫なんだよネ。

 

 最近の人間の舌は添加物慣れし過ぎ出るから逆に使わないと物足りなく感じるらしい。

 だけどこの翠屋、桃子さんの腕がその足りない点をカバーし切ってるから大丈夫なのだ。

 

 実際、御昼時は満員御礼。

 士郎さんがイケメンだから目当てに来る人も多いんだけどネ……オレ? こんな怖がられ男がフロア担当になれる訳ないじゃない。仮に店内に出られたとしても良くて鬼瓦の代わりダヨ。HaHaHaHa………なんか悲しくなってきた。

 

 「どうかしたのかい?」

 

 そんなオレの前にコトリと置かれるソーサーに乗ったコーヒーカップ。

 それと……ガトーショコラか。甘さ抑え目の奴と見た。

 

 ううむ。コーヒーの深い香りとケーキの甘い香りが陰鬱さを吹っ飛ばしてくれたゾ。

 素晴らしい。ハラショーだ。

 我ながら単純な男だと思うけどネ……

 

 当然ながら砂糖とミルクは無し。

 コーヒー自体の香りと味わいをどうぞ、という事だな。流石は士郎さんだ。

 

 だけど……ん~? 何の豆か聞いてないなぁ。

 何だろ?

 

 色は黒のそれじゃなくて、おもいっきりダークなブラウン。

 つっても、淹れる人によっては色合い変わるから当てにならない。

 

 だから香りと味で……

 凄く香り高いけど、酸味はうすいなぁ。どっちかって言ったらマイルドに甘いつーか。

 

 つっても普通のモノだったら、こんなに楽しそうな目で淹れてくれる訳ないし。

 となると珍しい? 或いは手に入り辛いとか……

 んん゛~……?

 

 

 「ひょっとして……神山?」

 

 「おっ 流石だね。当たりだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 流石に鋭い舌をしているなぁ。

 

 神山(しんざん)。インドネシアの豆。

 酸味よりコクの方が深く、ファンもけっこういるけど残念ながらメジャーじゃない。

 芳醇な香りと飲み易さからコーヒー初心者にはお勧めなんだけどね。

 

 尤も、今はモカと同様にちょっとばかり手に入れ辛い。

 輸入面での衛生関係で問題が起きてちょっとややこしくなったからなぁ……不可能って訳じゃないけど。

 

 因みにこの豆のコーヒー、甘い菓子に合うからケーキに良い。

 

 だから太一郎君も舌鼓を打ってくれているのだろう。

 

 うん。何というか……背筋をピンと伸ばし、小さくケーキを分けて一口づつ口に運ぶ様は茶会の席にいる若武者のようだ。

 あのジジ…いや、猛さんの躾のお陰が、はたまた兆さんの教えか、何時もながら彼の食事作法は完璧だなぁ。この辺りだけでも美由希も見習って欲しいと思う。

 まぁ、ここまでできなくともいいんだけど。ホントに茶席みたいだし。

 

 一番良いのは美由希とくっ付いてくれる事なんだけど……そうなったら すずかちゃんとかが確実に怒るだろうなぁ。

 それは面白…いや、困るし。いや確かファリンさんもそんな空気を纏ってた気がする。成る程。そこに一石を投じるのもまた……イヤイヤ。

 

 等と取り止めも無い事を考えながらカップを拭き直してゆく。

 いや何せピークを過ぎた事もあって、洗い物も終えているからカウンターを磨くくらいしかやる事がない。

 

 要は暇だからそんな事ばかり考えてしまうんだろうけど。

 

 「あ……」

 「ん?」

 

 どこか楽しげにカップを傾けていた彼が、珍しく声を出した。

 

 「すみません。ケーキを三つ四つ見繕ってくれませんか?

  今日の目的はそれだったもので……」

 「おやおや」

 

 という事はコーヒーの香りに目的を忘れてくしまったという事かな?

 ふふふ 彼にしては珍しいけど、マスターとしては喜ばしいね。

 

 だけど……

 

 「個人用としてはちょっと多いね。

  誰かお客様かな?」

 

 猛さん達が海外に行ってから一人暮らし。

 人格性格的に全く問題のない人間である彼だけど誤解が多い為に人付き合いはうちの恭也より薄い。

 だから来客があるというだけでけっこう驚きだ。

 

 「いえ……

 

  同居人に食べさせてやりたいと思いまして」

 

 

 ……………え゛?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だか知らないけど、妙に呆けた顔をした士郎さんに見送られつつ翠屋を後にした。

 ホント、なんだったんだろ?

 

 まぁ、いいや。

 想定していたよか時間掛かっちゃったけど、昨日よかマシだ。

 とっとと帰って冷蔵庫に入れとこう。

 

 因みに見繕ってもらったのはガトーショコラとフルーツタルト、モンブランにイチゴショート。

 色とりどりで見てるだけでも楽しくなってくる。

 オレも甘いもの嫌いじゃないしネ。

 単に食べられないものが多いだけなのよ。添加物的に……

 

 さてさて。

 昨日あれだけ説教した訳だからオレが遅くなる訳にはいかない。

 とっとと帰らなきゃ。ウン。

 

 もちろん、近道なんかやんないよ?

 『急いで帰ろうか。よし近道しよう』なんてフラグは踏まないゾ。

 

 それで昨日は遅くなったんだし。

 ……実は結果的に遠回りになっちゃって雷よりに三十分くらい早いだけだったのはナイショである。

 昨日の晩ご飯の下ごしらえ、朝の内に仕込みしておいてホントに良かった……

 

 

 兎も角、

 思わぬ時間をとってしまったのだから急いで帰らねばならない。

 

 そしでもって近道をするようなポカをしてはいけない。ぜってー遅くなるだろうし。近道をした方が遅くなるとはこれ如何に。

 となると、表通りを真っ直ぐ進み、家の近所まで小道に入らず歩いてゆくのが吉っっ

 

 だけど歩きまくりだヨ。行程考えただけで疲れるわ~

 自転車にでも乗ってくれば良かったか……あ、乗り潰してから買ってないんだっけ。

 それにどーせケーキひっくり返すオチがつくだろーしネ。ヤレヤレ。

 

 だが、伊達に負けフラグと失敗フラグを乱立させてはいない。

 無難無事に家にたどり着くルートと方法を見つけ出す事などお茶の子さいさいなのだよ。

 

 はっはっはっはっ……

 

 

 

 

 

 

 負けフラグだったよ おじーちゃん……

 

 

 

 「よろしいのですか?」

 「いいって。係わり合いになったら後が面倒くさい」

 「ですが……」

 「ですがもクソもねーよ。

  お前まで課長の胃に風穴開ける気か?

  あいつだよ、風芽丘の凶眼ってのは」

 「な……っっ!? あ、あいつがあの人喰い……」

 

 

 エラいこと言われてる気がするけどキニシナイっっ

 まさか職質受けるとは思わなかったアルよ。しくしくしく……

 

 結局遅くなっちゃったじゃないかーっっ なんぞこれーっ!!??

 

 不幸中の幸いっつーか、泣きっ面に蜂って気がしないでもないけど、警察のおにーさん達の中に知ってる刑事さん(主に職質…)がいたので早めに終わってくれはしたんだけど、それでもオレのハートは傷だらけ。

 背中に突き刺さる視線もイタイイタイ。

 

 泣いてはいないけど泣きの涙でその場を後にするオレだけど、ぜってー遠巻きに見てた人の中には勘違いかましてくださってる方もいらっしゃる筈。

 嗚呼、またしても七十五日我慢しなきゃいけないのか……慣れたけどネ。ふふふ……(涙)

 

 くすん…

 この大通りを真っ直ぐ進めばすぐ帰られる筈だったのに……

 

 大体、何で道路があんなになってんのーっ!!??

 

 

 

 どっかんと抉られた道路に、でっけードリルか何かにガリガリ削られたよーになってるビル。

 でっけーモグラかトレ○ーズが大暴れしたらこんな感じ? 勘弁してくれいっ

 

 いや、まぁ、心当たりが全くない訳じゃないけどさ。

 一昨日のアレとか、イロイロとね。

 知ってて嬉しい訳ないし、イヤ過ぎるけど。

 

 そー言えばテレビでなんかそーゆーコト言ってた気がしないでもないけどさぁ……

 

 食事中はテレビに集中しないよーに かーさんにキツク躾けられてるから話半分未満しか覚えてないんだよぉ。

 

 まー あーだこーだ言っても言い訳に過ぎないんだけどサ。

 ヤレヤレ……

 

 だけどこのままじゃあ間違いなく遅くなるから恰好つかない。

 昨日の今日でこれじゃあなぁ……

 

 兎も角、家に連絡入れとくかな。

 先に言っとけば心配なんか(あんまり)しなだろーしネ。

 

 え~と…………

 

 

 

 

 ……おや? 携帯が無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん。馬鹿だった。

 

 つーか馬鹿だ。

 

 百歩譲って、普段使ってない不携帯電話状態だから持って行くのを忘れたのは由としよう。

 

 だから公衆電話を探し始めたのは仕方ないとしよう。

 

 だけど……

 あそこら辺にあったはずだと確信して裏通りに潜り込み、ウッカリ道に迷うってどーよ!!??

 

 あんぎゃあーっっ!! 結局 遅くなった上、更に迷子やないかい!!!

 昨晩怒った手前立場無いやないかーっっ!!!

 ここどこやねーん!!?? つか、なんで関西弁になっとんじゃーっっ!!??

 

 ぜぇぜぇ……

 

 見渡すも周囲にあるのは薄暗い道路と茂みくらい。

 既に知ってる角なんかありゃしない。

 

 つーか、ここに住んで十年以上になるのに知らない通りがあるってどーよ!?

 

 こんなにチョー簡単に道に迷っちゃうだなんて……

 うう… 一般社会人になれる日は遠いのぉ……

 

 と、兎も角、お家に帰るor電話連絡をいれるかしなければ。

 ムズいけどネ。

 

 何せオレは方向音痴。ナメてはいけない。

 

 方向音痴の最大の難点は、頭の中で鳥瞰図が描き辛い事が挙げられる。

 要は、道と道の繋がりを想像し難いのだよ。方向音痴じゃない人には理解し辛いかもしんないけどネ。

 だから道を覚えるのは風景のみ。知ってる看板やら光景やらを点として覚えて、それを繋げて移動するのだよ。

 

 つまりネ、知らない風景の中に来たらどーしよーもないの。

 

 せ、せめて誰かが通りかかったら道聞くのにぃーっっっ

 

 え? いや、いくらオレだって道くらい聞けるぞ?

 モシモシ、誰カイマセンカ…? じゃなかった、大通りに出るにはどう進めばよいですか? って。

 

 幾ら目つき悪かろーと、声が低かろーと、夜道ならよく見えないから難とでも誤魔化せる。はず!! 多分。きっと。

 

 ……デイバックを背負い、片手にケーキの箱をもった目つき悪ぃ男に夜道で道聞かれる……

 う゛、う゛~む……

 

 い、いやいや、やる前から恐れてどうする!!

 後悔先に立たずジャマイカ!!

 

 男は度胸だ!!

 現に士郎さんもそうだし、ゼミの連中も解ってくれてるじゃないか。

 だから多分きっと、イキナリ怯えられたりしないでいてくれる人だっていてくれるに違いない。

 

 第一印象は知んないけどさ……

 

 え、ええいっっ ポジティブだ!! 前向きに考えるんだ!!

 例え怯えられても聞かぬは一生の恥じゃないか。聞いて一時の恥は掻き捨てれば……

 

 

 『……?』

 

 

 と、自分で自分を鼓舞してるのやら落ち込ませているのやら判断が難しい事をしつつトボトボと歩いていたオレの背に誰かが声を飛ばしてきた。

 

 何と先手を打たれた?! これは負けか!?

 じゃない、声を掛けてくれたって事じゃないか! お人好しキタ! これで勝つるっ

 

 正直な話、何だかんだで諦め入りかかってたしから喜びも一入っ

 何とも嬉しい話じゃないの。話しかけられるのはかなり珍しい(涙)からネ。

 職質は多いけどな!!

 

 『……モ…モシ』

 

 あーハイハイ。

 ありがとう、優しい人。

 

 実はですねぇ……

 

 

 

 

 

 

 そう振り返ったオレの前に――

 

 

 

 『モシモシ 誰カイマセンカ?』

 

 

 

 体長二メートルはあるだろう、緑の体の憎いアンチクショウがいやがった。

 

 

 

 

 『バラバラ ニシテ喰ッテヤル!!』

 

 

 

 

 あんぎゃあーっっっ!!??

 

 

 なじぇにSuper Mutantぉーっっ!!??

 

 

 

 

 

 




 てな訳で、“向こう”での掲載分を全て移動させました。
 お付き合い、ありがとうございます。

 次からは新規ですw いやぁ、長いブランクでした。

 兎も角、他のも移動させようと思いますのでもうちょっとお待ちください。
 今日はもう寝ます(リアル時間、PM 21:11)。
 ではまた……

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