SAMULION ~まじっくナイトはご機嫌ナナメ☆~   作:Croissant

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始まりの段
巻の壱


 

 「……ヘンな夢見た」

 

 

 目覚めて一番に零してしまった言葉がこれだ。

 独り言というのも物悲しいが、その上 見た夢の事なのだから更に物悲しい。

 一人ぼっちは独り言が増えるというけどホントだなぁ…等と納得してみたり。

 

 

 溜息を吐きつつ布団をたたみ、着替えて顔を洗いにゆく。

 

 ニート一歩手前となってしまいはしたけど、流石にニートもヒッキーも御免だし、働かざる者食うべからずの精神はイヤッ ヤメテッ!! お願い堪忍してっ!! ってほど叩き込まれているので家でじっとしてられない。

 

 ……つっても、バイトはできないし、食べられる物がエラい限られてるから食材買って自分で作るっちゅーだけなんだけどネ。

 

 

 はぁ…と溜息を吐き、特性のトルマリン壷から漬物を出して刻み、魚に塩ふって焼き、大根おろしを副えておひたしも作る。

 卵が目玉焼きなのが献立としては不揃いでナニなんだけど、ちょっと疲れてる事もあって朝っぱらから厚焼き玉子を作る気力が出ないから仕方がない。

 

 手作り豆腐に酒屋さんから回してもらった添加物ゼロの醤油をちょいと垂らし、炊き立てご飯をよそって出来上がり。

 

 おうっ 良い出来だ。何時でもお婿さんに行けるぜ。相手いないけどなっっ!!

 

 

 さびしーなぁ……ドチクショーめ。

 ……兎も角 食おっと。 

 

 板の間に年季の入ったちゃぶ台を置き、適温にした湯を急須に注ぎ、蒸らしている間に料理を並べる。

 並べ終わったらようやく座布団の上にどっかと腰をおろし、ぱんっと手を合わせて、

 

 

 「頂きます……」

 

 

 ようやく朝ごはんにありつくのだった。

 

 ここまで丁寧にしなくともいいのに。長年の習性がもの悲しい。

 

 

 

 コッソリ二階(その実、ほぼ屋根裏部屋)があるのだけど、外観からして日本家屋っっという築うン百年というふざけた古い家。

 

 そこに、オレ 鈴木 太一郎は一人で住んでいる。

 

 オレの他に家族はいない――

 

 

 

 

 

 ……んだけど、別に死んじゃった訳じゃない。つーか、死ぬシーンが想像できない。

 

 とーさんは見た目ごく普通のサラリーマンだけど、空手と柔道と合気道と剣道と手裏剣術と長刀と弓道で段持ってて、冗談ふっ飛ばしてつおい。強いじゃない。つおい(、、、)、ね? ホントシャレになんないんだから。

 

 かーさんも、見た目はそこらにいるパートのオバさんなんだけど、お茶とお花と書道と日舞の師範で、どういう訳か強い。

 かーさん曰く、師範なんだから、猪や虎くらい倒すほどの戦闘力がないと…だそうだ。

 話聞くまで知らなかったヨ。お茶の師範ってそんなに戦闘力高いんだ……

 

 そんな夫婦は何故か今ブラジルに移住してしまっている。

 何でも超うめ―コーヒーの豆作るんだそーで……実際、ある程度以上の成果が挙がってるらしいから怖いんだけど。

 時々、テロリストが来るから暇潰せてよいそーだ。何がなんだか……

 

 で、あと一人っつーか、二人? いるのがおじーちゃん夫婦。

 

 こっちはどこにいるのかサッパリ解らない。

 

 とーさん達が移住した際、ふらりと旅に出たっきり。

 去年、旅先から一枚絵ハガキがきてああ生きてるんだと解ったくらい。

 

 ……ただ、その絵ハガキ。ものごっつ若い外人の女の子と腕組んだ写真だったりする。

 

 

 結婚しました(はぁと)

 

 

 ナニかましやがんですか このジジイは?

 

 知らない内に金髪ハイティーンのお義婆ちゃんが爆誕してたよ。勘弁して……

 

 

 こんなエキセントリックな家族らと別れ、オレは一人さびしく日本で生活し続けているのだ。

 

 

 「ごちそうさま……」

 

 

 我ながら表情のない声でそう言い、食べ終えた食器を片づける。

 

 囲炉裏まである古式ゆかしい日本の台所の横にデデーンと鎮座している最新式のシンク(母の気遣い)で食器を洗い、乾燥機に入れて終了。

 ものぐさっポイけど、色々と助かるので文句なんかないし。

 

 ぐぉ~んとくぐもったヒーター音を後ろに聞きつつ、今日はこれからどうしようかと思い立つ。

 

 

 ぶっちゃけ自分は将来の定まっていない今時の大学生。

 

 今日は講義ないし、時間だけがありやがる。

 

 何せこちとら進路も未来もビジョンが浮かばず、かといって趣味らしい趣味もない為にやりたい事もないという物悲しいオトコ。

 末はニートかヒッキーか…ってか? 勘弁してほしい。

 両親からドシドシ生活費が振り込まれてくるんだけど、流石にそのまま脛齧りを続ける気はないぞ?

 

 とは言うものの、バイトすら見つけられないアホタレなのだよなー……いや、体質が体質だからしょーがないんだけど。

 

 

 オレを困らせている体質の一つが、添加物アレルギー。

 

 何だか知らないけど、化学調味料を全然受け付けられない体なのだ。

 

 よって外食なんか夢また夢。寿司とかなら高い店だったら大丈夫だろうけど、回転寿司はダメ(醤油でひっかかる)。お金はあるのだけど、無理に豪勢な食事がしたい訳じゃないから行きたくない。

 で、結局は自炊。

 

 腕上がったぞ? 何時でも家庭料理店出せるほどになぁ。どーせ客なんて来ないだろーけど。ちくしょーめ……

 

 

 二つ目の困った体質(?)が、オレの顔。つーか表情。

 

 殆ど表情が変わらず、怯えさせるに任せている。

 感情が顔に出せなくなっているんだよなー コレが……

 

 

 おもいっきり怯えられるしー

 

 女の子にも泣かれるのが普通だし―

 

 どっかのおかーさんなんかオレ見た瞬間、怯えた顔で自分の子供庇うんだぜ? 泣けるったって泣けるったって……

 

 幸い、近所の人は慣れてくれてたから良かったけどさー……

 

 

 こんな(ダブル)体質の所為で友達なんて殆どいなかったし、彼女なんて……うう……

 

 級友がカッポーになったのを報告されたのが一番最近の色恋沙汰なのさ。ふふ…鈴木家はオレの代でオシマイかなー あははのはー

 

 

 ドチクショーめ……

 

 

 ついでだから洗濯をする事にして、服やらシーツやらを洗って干す。

 真っ白になったシーツをパンっと広げた時、何か妙な達成感を感じてしまう。

 

 こんな事で充実感を感じちゃう自分が悲し過ぎる。

 

 

 ちくしょーっっ みーんなお前が悪いんだ―っっっ!!

 

 八つ当たり気味にぎろりと母屋の側らにある蔵を睨みつけるオレ。

 いや ある意味、八つ当たりでも何でもない事実だったりするんだけどな。

 

 

 

 その昔……

 

 正確に言うところの十年前。

 

 一人家で留守番をしていたオレは、暇にあかして蔵に忍び込んだのだ。

 

 まー感覚的にいえば宝探しっヤツ。ガキ時分、一度はやってしまう恥ずかしいアレだ。

 

 中の暗さもなんのその。

 

 色々と珍しい置物やら何だかよく解らない掛け軸やらをいじったりして遊んでいた訳だ。

 

 

 ――その時、床に微かな光を見つけてしまった。

 

 

 何だろうと近寄ってみたら、床に取っ手があってその横に小皿くらいの大きさの円と三角が重なったヘンなものが光りながらゆっくりと回っているではないか。

 

 ガキのオレは思ったね。

 

 

 まさか、この下に○の槍が!? ……と。

 

 

 いや だってさ、蔵の床に地下への扉があって、見るからに不思議な力が働いてるんだよ?

 当時のオレの知識からすれば、当然ながら思い浮かぶのはあの槍と とらしかないじゃん?

 

 今だったらンなモン見つけたら、見なかった事にして埋めちまうけど、当時のオレはおもっきしガキ。

 うわっ 何だこれっ!? って不用心に近寄って触りやがったんだ。

 

 

 瞬間、床がぱかーんと開き、オレは地下に落っこちた。

 

 

 いや痛かった。

 どれくらい高かったか知んないけど、あちこち打っ付けて痛くて泣いたよ。マジ泣きだ。

 そこっ 情けない言うな!! マンガだったら兎も角、実際に落っこちたガキなんてそんなもんなの!!

 

 と、兎も角、しばらく しくしく泣いて、いい加減落ち着いてから顔をあげたら――

 

 

 そこに光る鎧があった。

 

 

 そりゃびっくりした。落っこちた事も痛さも吹っ飛ぶってもんだ。

 で、オレは元から考えなしだし、ガキだった事もあって、すっげっ かっけー と近寄っちまった。

 

 

 マンガ的にもホラー映画的にもやっちゃいけない行為であるにも拘らず、だ。

 

 

 瞬間、その鎧はパカーンと縦に割れた。

 それだけだったらまだ良かったのだけど、次の瞬間、ものすごい衝撃がオレの胸を打った。

 

 そりゃ当然だろう。何せオレの胸にはぶっとい釘(杭?)が突き刺さっていたのだから。

 確認できてしまった(、、、、、、、)瞬間、脳に伝わったその感覚。痛み。

 

 今までの人生でこれだけの痛みを感じた事があっただろうか? いや無い!!

 

 そう反語で返してしまうほどの激痛が走り、オレはあまりの痛みに粗相までしちゃって意識を飛ばした。

 

 

 とらかと思ったら まさかの石喰い……

 

 

 等という感想を最後に。

 今思えば余裕あんな。当時のオレ……

 

 で、帰宅した両親とおじーちゃんが見つけたオレは、何故か蔵の前(、、、)に寝っ転がっていたらしい。自力で出たのか、誰かが出してくれたのかサッパリだけど。

 

 まぁ、あの時は『死んDA!!』と思ったし、生きてたんだからそれはそれで良かった(ズボンとパンツ濡れてたけど)と思ったんだけど……

 

 

 何故かその時から感情を顔に出すと胸に激痛が走るようになってしまっていた。

 

 痛いなんてもんじゃない。あまりの痛みで呼吸不全になり、その所為で苦しさまで付加されるのだ。

 

 それだけじゃなく、添加物アレルギーまで発症したもんだからさぁ大変。

 

 ハンバーグだの、カレーだの好物をレストランとかファミレスで食べられなくなったと知った時の絶望ったらもぉ……

 おまけに喜んだり泣いたりもできなくなってるわと、正しく地獄のような日々が始まったのだ。

 

 

 尤も、かーさんがド器用だったおかげで食生活に不便はなかった。

 

 化学調味料が駄目なら、使わなきゃいいんでね? とナチュラリストに転身。カレーもスパイスから自分で混ぜて作り始めたし、ハンバーグも調味料やスパイス、そして肉の素性がはっきりしてりゃ困る事なんてなかった。

 

 ただ、学校は変わらざるをえなかったんだけどネ……

 だって給食が食べられなくなったし、友達が離れちゃったから居心地が悪過ぎてさ……

 

 

 いやだって、感情が顔に出ないオコサマだよ? フツーなら怖くて近寄んないって。

 だからかなり距離を置かれるのも当然さ。先生にも距離置かれたからごっつ辛かったけどネ……

 

 

 で、学校の態度にぶちキレたとーさんとおじーちゃんはイキナリ弁当持参の学校に転校させてくれた。

 ちょっぴり別れるはの嫌だったけど、親しかった人間のああいう態度をこれ以上見てしまうのも嫌だったから、喜んで転校したよ。

 

 まぁ、行ったトコでもやっぱりあんまり友達できなかったけどネ。しょーがないちゃあ、しょーがないと腹くくってたからダメージはあんま無かったし。

 それでも付き合いの良いのが何人か出来てくれたしね。

 

 友達も中学、高校に上がるにつれて一人二人と増えたし、もー感謝の気持ち以外持てないアルよ。いや、ホントに。

 

 

 で、オレが手がかからなくなったって事で両親とも海外に夢を追って飛び、それに合わせておじいちゃんも旅立った。

 

 散々世話になったし(現在進行形でまだ世話になってるけど)、やりたい事やってほしかったから当然元気に見送ったよ。

 当然、最初は誘われてるけど、コミュニケーションの再構築ができない(めんどーだ)し、仕事上でトラブル生みかねないから残ったけどね。

 

 そんなこんなで悠々自適な一人暮らしってわけさ!!

 

 

 あはははは……実際は さびしーけどネー……

 

 

 どちくしょーめっ

 

 再度ジロリと蔵を睨む。

 街中じゃできないけど無機物ならできる。

 前に街中でウッカリ思い出し怒り(、、、、、、)かましてしまい、居合わせたヤクザ屋さんの若い男の人が失禁しつつ泣いて謝ったのは黒歴史。

 

 そんな凶眼を向けた蔵は平然と佇んでやがる。

 

 あの後、おじいちゃんに床の事言ったんだけど、そんなドアなんか知らないというし、実際に行ってみたら影も形もなかった。

 全て悪夢だっと言わんばかりに……

 

 だからどこにどう怒りを向ければよいのかサッパリ解らない。蔵そのものに罪はないだろうし。

 

 

 せめてあの石喰い(仮称)の鎧があれば八つ当たりが出来たのにっっ

 

 どちくしょーっっ!!! オレに普通をよこしやがれ―っっっっっっっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             あの鎧があれば――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、

 

 キンッと澄んだ音が耳を打った。

 

 

 「……ム?」

 

 

 オレを中心にして音が消えてゆく。

 

 何故か知らないがそれが解る。

 

 

 ――いや? オレを中心にして……じゃない?!

 

 オレの、オレの胸の奥から――?

 

 

 

         ― 呪力集束終了 ―

 

         ― 呪力充填……終了 呪式構築開始 ―

 

 

 

 何だ!?

 

 何が起こった?!

 

 

 

         ― 第壱式構築終了 確立展開 ―

 

         ― “前鬼” 鬼動 ―

 

 

 

 唐突に頭の中に響く声。

 

 その声に合わせて、胸の奥で渦を巻いていた何かが……

 

 

 オレの胸から光を伴って、目の前に――!!!???

 

 

 

 

 

 

 

 現れたのは人の姿をとった何か。

 

 完全な人でありながら、全く別のモノ。

 

 

 「――拙者 主殿の御身を守護するモノ也。

  数多(あまた)の害悪を討ち、矛となり盾となりて共に進まん」

 

 

 ポーテイルにまとめられた長く見事な赤い髪。

 

 涼しげで切れ長の目には青い…いや蒼い瞳が輝いている。

 

 戦国時代の甲冑と西洋鎧を足して割ったような鎧に身を包み、刃幅が通常の倍はあるだろう野太刀と思わしき刀を手にしている。

 

 

 その女性……いや、少女と言ってもよいかもしれない若い女は、太一郎の前で恭しく頭を垂れた。

 

 

 「我は呪装武士(もののふ)

  我が主よ我が殿よ。願わくばこの身に名を与え、共に()くる事を――」

  

 

 

 

 

 

 

 その日、奇運の青年は生涯の相棒と出会い、力を手にする。

 

 

 求めたモノのベクトルは大きく違えど、得た力は計り知れず。

 

 歪み切った世に出でて、その刃光にて道を斬り拓く事となるのであるが……

 

 

 

 

 

 ――な、なんぞコレ~~~~???!!!!

 

 

 

 

 

 今はまだ、遠く理解の彼方であった。

 

 

 

 

 


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