SAMULION ~まじっくナイトはご機嫌ナナメ☆~   作:Croissant

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巻の漆

 何ぞこれぇえええ――っっっ??!!

 と、それ(、、)を見てしまった時に心の中で叫んだオレは悪くない。

 

 いやね、足取り軽く元気よく公園まで入ったのは良かったさ。

 まだ明るいってのに、何時もよりなんか人影少ないしさ、空気が何か重いっつーか息苦しいっつーか、みょーになってたしさぁ。

 

 え? だったらとっとと出れば良いのにって?

 ああ、そう思うよね。うんオレだって思うよ。

 わぁい 厄介事? って気付いたんだから出るさ。

 君子危うきに近寄らずっていうしネ。

 

 だけどさぁ……

 

 

 -きゃああああああっっ

 

 

 なんて悲鳴聞いちゃったらフツー行くでしょ?

 女の人が悲鳴上げてんだよ? 事件に巻き込まれてるかもしんないじゃない。

 

 うん。行ったよ。行ったさ。

 

 そしたらね……

 

 

 -GYoOooooooooooooohoooo!!!!

 

 

 なんて叫ぶ怪獣がいやがんのよ。

 

 どう思う? この状況。

 

 

 

 

 

            -巻の漆-

 

 

 

 

 

 

 さて困った。こりゃ困った。そりゃ困った。

 どないもこないも現実かコレ?

 思わず頬を抓ったさ。ちょー痛かっただけぜよ。

 

 ……って、 マ ジ か お ぉ お お お ? ? ! !

 

 思わずやる夫語になったのもしょうがないだろうjk。

 

 逃げようにも、その怪獣の足元には倒れてる女の人が一人。

 何てこったい!! 逃げられねーっっっ

 

 い、いや、ここに留まったって戦える訳ねーけど!! おじーちゃんにも『お前は才能が全くない』って言われてるくらいだし!!

 だけど見捨てる訳にゃいかんでしょーっっ!!!???

 

 どーしよっ どーしよっっ と、木の陰で某スーパースターのゾンビダンスが如くオロオロしてたんだけど、そんなアホタレかましてても情況が好転する訳もない。

 つーか非現実的過ぎるショックで何も思い浮かばない。

 

 ぎ、玉砕覚悟で特攻して掻っ攫って逃げるしかないのか?! と、半泣きでテンパってたその時。

 

 

 ズバァッて電柱みたいに太くて真っ黒い足の一本が横薙ぎに叩っ斬られた。

 

 

 切断された…って程じゃないけど、間違いなく半分まではぶった切られている。

 振り回させた足がそこらの木々をへし折ってるから、とんでもないくらい硬そーで頑丈そーなそれがズバァッて斬られた。

 

 うぉぉおおっ!? なんじゃあっっ!!?? と茂みの隙間から覗いてみると……

 

 「(雷!?)」

 

 (自称)式神である、ウチの雷がいたではありませんか。

 

 その姿は凛々しいの一言。

 初めてあった時に着てた鎧と、何かヘンな反り方してる刀を持って怪獣と相対していた。

 

 何時ものオポンチさはスッカリ身を沈めて、正に女武者、女武芸者。美少女侍といった感じに臆す事無く立っている。

 おお、何か強っぽい気がすると思ってたけど、ホントに強そうじゃありませんか。実際、隙ってもの感じないし。

 

 ウン。改めて見たらホンモノだよ。この娘。

 モノホンの美少女剣士ってヤツだ。すっげー……

 

 となるとこれは……出しゃばるのは愚の骨頂と見た。

 戦いは本職にお任せするのが正しい。どんくさいオレはぜってー邪魔だし。

 プロに任せた方が良いよネ? ウン。

 

 いや、情けないとは思いマスヨ? ええホントに。

 だけどね、戦う能力もってねーヤツがでしゃばったって良い事ないっておもくそ言われ続けてるのよ。ボク。いやホントに。

 オレTUEEEEEEなんてコト出来るのはゲームの中だけなのさ。フフフ……

 

 と、兎も角、餅は餅屋って言うじゃない?

 戦い方を弁えてる彼女の任せるのは至極当然の話でしょー

 

 てな訳で、ヨワヨワのオレは物陰からコッソリと応援するのだった。

 わー ガンバレー

 

 

 -Gyo Gyo Gyooooooooooooッッ!!!!!

 

 

 ……それにつけてもこの怪獣、キモくて怖い。

 鳳仙花(ホウセンカ)みたいにバックリ開いた口ン中は血の色してるし、何と舌の先から槍みたいなもん出てるし。物体Xっぽいのがイヤ過ぎる。トラウマだし。

 

 ――って?!

 

 その槍を振り上げたと思ったら、直後にドドドってスゲェ音立てて怒涛の突きが繰り出された。ナニアレーっ!?

 ラッシュとか、ピストンとか、ンなチャチなもんじゃねー

 そんな遅い速度(、、、、)じゃない。一回が十数回って感じの猛攻。

 実は槍付きの舌の数は数十本でした。と言われても納得しちゃうくらい。残像が残ってて訳解ンなくなるほどの猛烈な突きが雷に襲い掛かっている。

 

 だけど彼女も只者じゃなかった。

 

 そんな猛烈な突きに驚きも見せず、受けたりかわしたりしつつ、少しづつ少しづつ前に進んでゆく。

 

 確かに前に進む速度は遅いかもしれない。

 怪獣の攻撃に押されてるようにも見えるかもしれない。

 

 だけど雷は焦りもせず、恐れもせず、ゆっくりとそして着実に前に前にと進んでゆく。

 

 「(すっげぇ……)」

 

 オレはその凛々しさにただ見惚れるだけ。

 

 ウン。本人美人だし。

 凛々しいし、強いし。普段とのギャップがあるから余計に……ね?

 

 つっても、彼女はオレの娘みたいなもんだから、そういう意味よ?

 ポッとかしないぞ?! ンなの近親相姦みたいなもんじゃねーか。

 ねーぞ? そんな属性。

 

 だけどまぁ、何だ……

 鳶が鷹産むってよく言うけど、オレ達だったらドードー(どんくさくて絶滅した鳥)がドラゴン産んだようなもんでね?

 なんてこったい。立場が全然ねーよ。

 あ、元からか?

 

 

 -GoOoOOOoooooooooッッッ!!!!??

 

 

 オレが落ち込んでる間にも何か状況は進んでる。

 知らない内におもっきし踏み込んでた雷は、更に踏み込んで下腹部から上に向って刀で斬り上げた。

 

 ざじゅっ、と何か粘土でも裂くような重ったるい音が聞こえる。

 キモいという感も無きにしも非ずだけど、それより何より下腹部から斬り上げられたのがウッカリ見えてしまった事がとってもイヤン。

 ぶっちゃけ、自分が股間切られた気分になって内股になった。いや、男ってそんなもんだし。

 

 「木氣 霊動ヲ禁ズ!」

 

 間髪いれずそんな言葉(呪文?)が聞こえたと思った次の瞬間、

 何と怪獣の大きな身体がゴム風船が爆ぜたかのように ぱん…っ という音とともに破裂してしまったじゃありませんか。

 

 

 ……呆気に取られた事は言うまでもない。

 

 

 いやだってさ、あの巨体だよ?

 少なく見積もっても十メートル近くあったのよ?

 それが風船みたく ぱんっなんて爆ぜたら、そりゃ驚きもするでしょー?

 

 ポルポルレベルの怪異だよ? いやマジに。

 それともあの怪獣の正体は風船だったとか……は、ないか。流石に。

 

 

 …………ま、まぁ、世界は広いんだ。

 そういう事もあるかもしれない。

 

 ウン多分。きっと…(←現実逃避)

 

 考えてみたらウチの雷だって魔法だか術だかしんないけど、ナゾの出現したんだ。

 だいたい、人をエスパーにする病気かあるくらいなんだから、あんな紙風船的怪獣がいたって不思議じゃないだろう。多分。

 ボロゾーキンや杯から生まれる妖怪だってあるんだしネ。

 ウン。もーそれでいいじゃないか。オレの心の安定の為にも…さ。

 

 これが夢だったコレで良いんだし、映画だったらエンドロール見えるトコだ。

 

 あー怖かった で終わってくれるんだけど……

 現実って結構KYなのよネ……これが、現実……ヒト倒れてるし。

 

 気が抜けたのかしんないけど、雷もボーっとしてる。

 まぁ、真剣勝負やりゃあそんなもんかも……

 

 念の為に辺りの様子も見ておこう。

 ウン……も、もういないよね?

 弱々なオレはそうビクビクと周囲を再度見渡すけど、他には何もいない。

 

 木とかがベキベニ折れてて、地面もボコボコ。

 あ゛あ゛……魚屋のおばーちゃんたちがゲートボールとか、マレットゴルフとかやってる芝生もズタボロに……なんてこったい。

 

 後は――

 雷が移動させた女の人が木の根方で気を失ったままで、あの人の持ち物? ウエストポーチと何か知んないけど青い石が二つ(、、)転がってて、

 ペットなのか? 豆柴が一匹寝っ転がってて……

 

 

 っ て ! ? ワ ン ワ ン ! ? (←注:犬好き)

 

 

 考えるより先に駆けつけ、抱き上げて調べるオレ。

 大丈夫? どっか痛くない!? 気分どう!? と調べるけど起きてくんない。

 

 兎も角モチツケ ひっひっふー

 おーいっ 飼い主さんっっ あなたの可愛い家族が気絶してますよーっっ!!

 

 ゆっさゆっさ

 

 思わず揺すっちゃったけど、頭打ってたら不味い事に気付いたから中止。

 声を掛けて起こす事に。

 

 いやだって、ここの公園ってさ、食べ物に困らないトコだからヘンな野生動物とかいるんだよ。ンなトコにキャワイイ豆柴ほったらかしにしたら物理的に食べられちゃうかもしんないじゃない。マジおっきいネズミとかいるし。

 え? あ、うん。もちろん このお姉さんも心配ですよ? 変質者だっているかもしんないし。

 前に出たコトあるし。小学生の女の子が誘拐されてうっひっひっなコトされかかってるし(、、、、、、、、)

 おじーちゃんと かーさんにゴミクズにされたらしいけど。『うん。二度とくだらない事考えられないようにしてきたよ』って、とーさんまでドスゲェ笑顔で言ってたし……

 

 閑話休題(それはいいとして)

 

 ……うん。一応、このお姉さんも無事っぽい。

 幸い雨とか降ってないから泥とかも着いてないし、衣服とかも破れてない。ヨカッタヨカッタ。

 

 この服からしてウォーキングのついでにこの子の散歩に出て巻き込まれたってトコかな?

 うむ。我ながら見事な推理だ。

 後は救急車や警察なりに連絡入れて、念の為に救急隊員とかに彼女の説明を…せつめ……

 

 う、う~む………

 

 

 『怪獣が出ました。

 

  だけどウチの式神が倒してくれたから安心です。

 

  え? その怪獣ですか? やっつけたら消えましたが何か?』

 

 

 こ、これは流石に信じてくれる気がしない……

 非現実的過ぎて信じてくれる訳ねーよママン!!

 

 何時ものパターンなら、『情欲に駆られて襲い掛かったけど抵抗されたからカッときて殴って気絶させてしまい、怖くなって警察に連絡入れた』とか思われるに違いない。

 仮に上手くいったとしてもオレが救急車に乗せられかねん。

 

 ドちくしょーっっ 目つき悪いのと無表情なのはしょーがねーんだよっっ!!

 胸の痛みに耐えてたらこーなっちゃったんだから!!!

 

 だ、だけど、うーん…疑われるのが常だしなぁ~……

 もちろん放ってもおけないし。

 

 ムムムムムムムムムム……あ(ぽんっ)

 

 ―― そーか。だったら雷に連絡入れさせればいいじゃん。

 

 美少女だし、話し方に難があるけど、人当たり良いからヘンな先入観持たれないだろうし。

 少なくともオレと違って被疑者って疑われるよーなコトないだろーしネ。はっはっはっ ちくしょー 羨ましくなんかないぞ。

 

 ともあれ、そんなナイスアイデアが浮かんだので彼女に声掛けようと振り返ってみると……

 

 

 -G y u G h o o o o o o o o o o ! ! ! !

 

 

 おや? 何でか目の前に“土転び”が……

 

 

 ……って、オ ィ イ イ イ イ イ ―――― ッッ ! ! ? ?

 

 

 「ええい…次から次へと」

 

 そう舌を打ってまた剣を構えなおす我が式神様。

 だけど雷サーン その気持ちには超☆同意するけど、こっちは切羽詰まってますよーっっ!?

 アナタと違って無手ですよーっ! 更にオレは戦力ゼロですよーっ!?

 

 ええいっ 怪獣だか妖怪だか知んないけど、もっとこっちの都合に合わせてくれてもいいのにーっっ!!!

 

 と、ともかく逃げるのが吉。つかそれしかない。

 戦いは任せて、この女の人と豆柴を抱き上げ――

 

 ず り っ

 

 ……て逃げようとして、足を滑らせてしまった。

 

 ア゛――ッッとなったけど、取りあえずはお姉さんと豆柴ちゃんは無事。

 やや押し倒しかかりかけたけど、のし掛かったりはしなかったった。セ~フ……ミスってのし掛かってたらぜってーに言い逃れできなかっただヨ。

 

 ふぅ~……ヤレヤレと身を起こして様子を見ようと振り返れば、

 

 

 

 「と、殿!?」

 

 

 

 雷が目を見張ってこちらを見、

 

 その視線に気付いてこっちに振り返った土転びが………

 

 

 

 

 

 た、太一郎ちゃん 大ぴーんちっっっっ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石にこのタイミングで主が登場するとは思っていなかった。

 

 しかしよく考えてみれば我が主の事。そのような礼儀に欠ける愚行を犯す訳がない。

 先程の化生にしても雑兵という程度のモノ。梃子摺るほどのモノではない。そんな相手に割り込みをかけるような無粋さなどあるはずもないのだ。

 

 だが、流石に民草が巻き込まれるとなると話は別。

 止むを得ず割り込んでしまったのであろう。

 嗚呼、何という様を主に曝してしまったのだろうか。折角の気遣いをふいにさせてしまった。この雷、一生の不覚。

 

 -J h u u u u u u u u uッッ!!!

 

 そんな主にやっと気付いたか、第二の化生は奇妙な叫び声を上げた。

 

 ……成る程。このようなモノでも主の底知れなさを感じるのだろう、振り返って注意を払っている。

 得物を持つ自分に背を向けて……だ。

 

 件の主は引く事も無くじっと化生を見つめたまま。

 ウム。如何なる雑魚であろうと油断はせぬという事か。流石は主。

 まるで彫像の様に動かないのは出方をまっているのだろうか。

 バケモノも蛇に睨まれた(かわず)が如く動けない。まぁ、当然であろう。

 

 ……だが、こうなると自分が割り込んで良いものかどうか。

 

 いや、化生を退治するのは当然として、主が割り込みを許してくれるかが不明なのだ。

 

 自分が負ける相手ではないので、当然ながら主も負けるはずが無かろう。

 何せそういったものを主から欠片も感じられないからだ。

 

 

 しかし……何という無色さであろうか。

 

 

 主の氣には“攻”の物も“護”の物もない。

 よって対峙したものは次の手が打てないのだ。

 

 剣の道の突端に行き着いたものだけが持つ無色さがあれなのだろう。

 未だ未熟な自分は、ただただ感嘆するのみである。

 

 

 -G y u J h u u u u u u u u u u u ッッ ! !

 

 

 だが、流石は下等なる化生。主の氣の異質さに負けて(いなな)きを上げた。

 同時に勘が避けろと囁いたので、それに逆らわず自分は後に飛ぶ。

 

 ――次の瞬間、足元を何かが薙いだ。

 

 それはどうやら彼奴めの尾のようだった。

 あの巨体の下に巻き込んで(、、、、、)隠していたのだろう。

 しかし尾とはいえその太さは人の腿ほどもある為、当たればただでは済むまい。

 無論、当たれば(、、、、)、の話だ。自分が避けられたのだから主が当たろう筈もないだろう。

 そう確信していたのであるが……

 

 ドガッという重い音がし、主の身体が宙を飛ぶ。

 

 「殿!?」

 

 何故にそのような…と絶句してしまう。

 

 ありえない筈の光景で、現実とは思えない衝撃。

 何故あの程度の薙ぎに……と驚愕してしまったのだが、考えてみれば当然の事だ。

 

 何しろ主の背後には護るべき民がいる。

 迂闊な回避はそんな民草の危機を意味する。そんな道を選ぶ筈がないではないか。

 何という迂闊な事か!!

 

 慌てて体勢を整えて駆け出す。あれだけ御身体に力を入れていないのだから“浮身”は完璧に出来ているであろうが、幹に叩き付けられたらただでは済まない。

 そう思っての行動だったのだが……

 

 

 やはり自分はまだまだ未熟だったようだ。

 

 

 流石は当代の主――

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 かなり残念な認識反射を持つ太一郎は、それが迫っている事に全く気付けていなかった。

 つか、元より視認できない速度で迫ってくるのだからどうしようもないのだ。

 

 普通そんな速度でそんな太いものを叩きつけられればただでは済まない。

 

 その迫ってくる化生の尾はゴムの様な弾力を持っていた。

 直径30cm近くあるそんな丸太でぶん殴られる事を想像して欲しい。おまけにそれは相当な速度と遠心力を持っている。

 

 運が悪ければ衝撃によって死亡。

 骨折で済めば御の字。それでも複雑骨折で入院コースは間違いないのであるが。

 それほどのものだった。

 

 彼に運があったのは、バケモノに吠え掛かられて頭が真っ白になり、身体の力が抜けきっていた事。

 無意識に腕で頭部を庇った事。

 

 

 そして――

 

 

       -緊急・始動-

 

 

 

   -障壁・展開-

 

 

 

 太一郎に衝撃が届く前に、胸の奥から力が湧き、不可視の壁が出現。

 

 

           -精神・弛緩-

 

 

 と同時に、意識に麻酔がかかり瞳孔が開く。

 

 

      -自動活動呪式・起動-

 

 

 意識を失った太一郎だが、達人のような体捌きで空中で身を翻し、ふわりと大地に降り立った。

 

 

    -非常用法力・開放-

 

 

  -戦甲冑――展開!!-

 

 

 目を見開く雷の目の前で、太一郎の胸に光が溢れる。

 

 怯んでいたバケモノであったが、その変化に更に恐れをなして毛針を前方に集中して乱射。

 その得体の知れないモノを打ち払おうと必死になっていた。

 

 だが、一足遅い。

 

 それらが到達するより早く、彼の足元に輝く魔法陣が出現してそれらを全て弾き落とした。

 

 「おぉ!?」

 

 当然、雷はそれを見知っている。

 三角を基準にした丸い方円。見様によっては二つの別の魔法陣(、、、、、、、、)を重ねただけにも(、、、、、、、、)思えるそれ(、、、、、)は、彼女ら鐘伽流が使っているそれなのだから。

 

 

 その輝く陣の中、

 

 

 雷の主 太一郎は――

 

 

 全く別のモノ(、、、、、、)へと転身していた(、、、、、、、、)

 

 

 

 

 直間近でキン…ッと甲高い金属音。

 

 雷の眼を持ってしても何が起こったのか認識できなかった。

 

 だが、今の今までその存在を訴えていた土転び(バケモノ)の姿が掻き消されてゆく事から大体の想像がつく。

 

 

 「な、何と……」

 

 

 絶句するのはしょうがない。

 息を呑むのも当然だ。

 

 踏み込む“入り”も、

 

 駆け抜けた“抜き”も全く知覚できず、

 

 出現したそのままに彼女のすぐ側にたどり着いていたのだから。

 

 

 ブシュゥウウ……ッッ!!

 

 

 その身体のあちこちから蒸気が噴出す。

 

 見様によっては禍々しく感じられるやも知れぬ外見のスマートな鎧甲冑。

 

 されど放たれている氣は清水が如く。

 

 そしてその覇気は獅子をも超える。

 

 その迫力故か時間感覚が狂っていたのだろう、今頃になって“抜き”によって生じた旋風を雷は感じていた。

 

 

 彼女は見た。

 

 肌で感じていた。

 

 何者をも圧倒する主のその気配が、辺りの瘴気を洗い流すのを――

 

 

 オ ヲ ヲ ヲ……!!

 

 

 雷が知る由もないが、唸り声の正体は完全内包型の戦甲冑(バリアジャケット)の内部で魔力(、、)のシリンダーが高速回転している音。

 

 周囲から無理矢理掻き集められた魔素が収束装填されているそれが、力の無い者の上限を無理矢理引き上げている音。

 

 無論、外からは見えまいが、鎧の中ではそれが高速回転されて唸りを上げ続けている。

 

 しかしそれは傍目には太一郎の雄叫びのよう。

 

 

 

 そんな舞台裏は兎も角、傍から見えるそれは余人のそれではない。

 

 一瞬の間に転身し、雑魚とはいえバケモノを瞬殺。

 

 

 「こ、これが……」

 

 

 その力の源であろう件の青い石を手に握り締め、雄々しく立つその姿。

 

 

 「これが殿の…」

 

 

 正に黒い戦甲冑に身を包んだ歴戦の戦丈夫。

 

 

 現代に蘇りし退魔の超剣士。

 

 百鬼を斬り、千鬼を屠り、万鬼を退ける雷光のサムライ――

 

 

 

 「これが、殿の本気――」 

 

 

 

 

 

 

   ヲ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ オッッ! ! !

 

 

 

 

 

 

 

 

      鈴木 太一郎の戦いは 

 

 

 

 

                今ここに……始まる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「(……あ、あれ? 一体何が?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             ―― 当の本人がじぇんじぇん知らない内に。

 

 

 

 

 

 

 

 


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