転生者達の新エリー都、二足のわらじ生活   作:フライパンソルジャー

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日間ランキング6位!?(2025/09/18)
ご愛読いただきありがとうございます。
これは下手なもの書けないですね(震え)


決死の茶番劇

その日の空気は妙に落ち着いていた。

 

上層部からの緊急の任務の要請もなく、ホロウ災害が発生したという情報もない。

 

事務作業も終えており、確認を記入漏れや間違いがないか確認作業に入っているところだ。

 

ピンク髪の眼鏡をかけた女性――月城柳は手元の資料を見ながら同僚たちの姿を確認する。

 

蒼角はお絵描きに精を出し、いつもは仮病を使いサボタージュを謀る悠真も机に突っ伏している。ただ眠いわけではなく暇だと感じているのか時折書類の確認を行うほどだ。

そして、部屋の奥の机に座っている自分の上司に目を向ける。

 

彼女――星見雅は目を瞑り、自身の狐耳をピンと張り、瞑想を行っていた。

 

普段であれば仕事をするよう注意するところであるが、事務処理は既に片付いている。

今日の職場はどこか緩い雰囲気が流れていた。

 

「課長?今は何をされているんですか?」

 

柳の質問に雅は目を閉じたまま答える。

 

「……所在なき時をやり過ごす修行だ」

 

……どうやらやることがなく退屈であるようだ。それは自分を含めこの場にいる皆が感じていることだろう。平和であることはいいことであるが、どこか落ち着かず不安を感じる。日々の慣習とは恐ろしいものである。

 

「では、たまには役職者の報告会に出席されても良いのではないですか?この分だと二時間後に始まる会議を逃れる理由は立てられませんよ」

 

「……それは困る」

 

目を開き、此方を見据える雅。表情こそ変わっていないものの、瞳には微かな焦りが読み取れる。

どうやら、どんなに退屈に感じていても会議は遠慮したいらしい。

どうにか上手い言い訳を考えている雅の様子に呆れながら、手元の資料の確認を続ける。

 

ふとエーテリアスの定期掃討の一文が目に入った。

高まるエーテル活性を下げる目的の、定期的に零号ホロウ内部のエーテリアス掃討。

普段であれば危険度の高い任務に赴く自分たちではなく、調査協会や防衛軍の人員が派遣されるが、現在十分に人員が集まっておらず、開始時期が遅れると聞いている。

 

上は特に問題視していないが……。

 

「……だめだな、思いつかない。柳、なんとか納得のいく理由をでっち上げてくれ」

 

そこで、雅が思考の海から現実に戻ってくる。その耳は折れ、瞳は此方を縋るように見つめていた。

 

やれやれと首を振り、柳は手元の書類を雅に提示した――

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

零号ホロウにて、対ホロウ六課の四人は周囲を警戒しつつ歩いていた。

 

「ねぇ~、課長。わざわざ僕たちが引き受けなくてもいいんじゃないですか?会議を逃れるために零号ホロウに入らなくても。」

 

「事が大事となる前に、災いの萌しを摘み取るが肝要。会議は理由ではない。」

 

「いやいや!?ちゃんと聞いてましたからね。課長が月城さんに泣きついてたの。……はぁ今日はせっかくゆっくりできると思ってたのに。」

 

項垂れる悠真に蒼角は明るく、声をかける。

 

「ハルマサも本当は退屈で仕方がなかったんでしょ。ボスの要請にまんざらでもなかったくせに~!」

 

「……蒼角ちゃんさぁ、そういうのは気づいても黙っとくのが優しさだよ?」

 

「三人ともお静かに。もうすぐ目標地点に着きます」

 

支給されたキャロットを確認していた柳は和やかに談話する三人に声をかけ空気を引き締める。

今回の目標は掃討。比較的開けた地点で大きな音でエーテリアスを誘き出し、迎撃する作戦である。

 

四方を廃ビルのコンクリートの壁に囲まれながらもぽっかりと空いたその空間に辿り着く。ここでなら武器を存分に振える空間を確保でき、敵が向かってくる方角を制限できる。

それぞれが周囲に散開し、迎撃を整える。

 

「……?」

 

「どうかしましたか、課長?」

 

無表情のままだが、雅は小さく首をかしげ、周囲を見渡していた。

何かを問いかけるように、眉がわずかに寄る。

しかし、結局彼女は特に何も言わず首を振る。

 

「……いや、何でもない。始めよう」

 

彼女の様子に少々違和感を感じながらも蒼角に指示を出す。

 

「分かりました。では蒼角、始めて下さい」

 

「分かった!えい!」

 

元気な返事を返し、蒼角は巨大な鋼鉄の刃旗を地面に打ち付ける。轟音が周囲にこだまする。

一秒、二秒……、周囲は未だ沈黙していた。

 

「あれ~、変ですね?何も起こりませんね。」

 

悠真が構えていた弓を軽く下げ、不思議そうに首を傾げていた。

そこには戸惑いと、わずかな興味が混じっていた。

 

「え~?音が小さかったのかな?もう一回やるね!」

 

再度武器を地面に振り下ろす蒼角。音は一回り大きくなったが一体のエーテリアスも現れることは無かった。

 

全員が困惑していると、静かに沈黙していた雅が口を開いた。

 

「……ふむ、やはりだ」

 

「課長、やはり……とは?」

 

柳が不思議そうに尋ねると、雅はそばにある建物の壁に手を置いた。

 

「気を張り巡らせているが、周囲に生き物の気配がまるでない。それに、先ほどは見落としていたがここに付いている建物の傷は最近できたものだ。……新しい。これを付けたものはまだ近くにいるぞ」

 

「!つまりその人物、あるいは存在がこの区域のエーテリアスを掃討したと?」

 

「ええ、すごーい!」

 

蒼角のみがこの状況に素直に驚くが、他の三人は剣呑な雰囲気を纏っていた。

 

「じゃあ仕事はもう片付いたんですか。ラッキー、もう帰れるんだ~!……とはならないですよね」

 

「恐らく我々の与り知らぬ存在であろう。目的を追加する。エーテリアスの掃討に加えこの下手人の正体を掴む」

 

面倒ごとの気配に悠真は頭を抱えた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「課長、この先に協会が設置した機器があります、念のため観測データを調べておきましょう」

 

「ああ……」

 

結局エーテリアスを発見することができずに、新しくできた痕跡を辿りながらホロウ内を探索していた。

柳の進言を受け入れ、機器の場所まで足を運ぶ。痕跡はここで途切れている。

 

大通りの様な開けた道に出た。この先は一本道のはずである。

足を踏み出すと、斥候の悠真は声を上げた。

 

「あれ、前に誰かいません?」

 

それを聞き、全員が前方を注視する。豆粒に見えるくらい、かなり距離があるが確かに人影のように見える。人影は此方に真っ直ぐ歩いてきているがやがて此方に気づいたのか、動きを止める。

 

逃げたり、向かってくることもない様子を一瞥し、柳が指示を仰ぐ。

 

「どうしますか?」

 

「このまま進む、全員警戒を怠らないようにしろ」

 

いきなり駆けだすことなく、刺激を与えないよう同じペースで距離を詰めていく。

やがてその人影の全貌が見えてきた。

 

まず初めに目についたのは、全身は鈍く光る緑がかった黒鉄の装甲で覆われた知能機械人。その背中から伸びたサソリの尾の様な異形の構造物、尾の先端は鋭く尖ったスティンガー状のパーツで構成されているのが見て取れる。

 

その後ろに控えるの深紅の巨大な翼を有する、鋼鉄の光沢のある白銀と深紅のラインが交差する硬質な金属で覆われた装甲の知能機械人。翼は鋼鉄で形成され羽根一枚一枚が精密に組み上げられ、まるで機械と芸術の融合体のよう。

 

ーー強い。

 

虚狩り、星見雅は瞬時に目の前の二体の実力を見抜く。

金属で構成された内部に秘める力、何故かどちらも今は無気力に立ち尽くしているように見えるが重心は一切ぶれていない。この二体は油断ならない存在であると評した。

 

そして確信した。ここら一帯のエーテリアスを一掃したのはこの知能機械人たちであると。無意識に刀に手を置く。

 

「初めまして、私達は対ホロウ特別行動部第六課です。その場から動かないで、こちらの質問に速やかに答えてください」

 

柳が口を開く。柔らかく丁寧ないつもの口調であるが、どこか圧を纏った職務を執行している時の彼女の声色である。

 

「ここは立ち入り禁止区域の零号ホロウ内部です。あなた方はここで一体何をされていたんでしょうか?」

 

何をしたのかは推測し、ほぼ間違いないだろうと確信をもっているが目的が不明瞭だ。ついでにその正体も。柳も同じ気持ちなのか、先の質問には先ず会話を行い、どういった存在なのかを引き出す別の意図が隠されていた。

 

「…………」

 

しかし、二体は何も答えない。言葉を発さない。

 

まるで嵐の前の静けさ。二体は一言も発せず、此方を見据え、じっと立っていた。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

421:サソリ薬師 ID:zzztensei03

うおおおおお!?

エマージェンシー!エマージェンシー!応答せよ!

 

422:カラスメイド ID:zzztensei04

マジでこれはやばい、これは完全にオワッタ

なんで6課がここにいるんですか!?会いたいって言ったけど絶対今じゃない!

ここから入れる保険があるんですか!?

 

423:軟体エンジニア ID:zzztensei05

おおお、おちおt、お、落ち着きなよ

ホロウに巻き込まれたって嘘をついて時間稼いで!

 

424:サソリ薬師 ID:zzztensei03

絶対バレるわ!

ああ、もう無理やん!めっちゃ警戒されてる

全員武器に手を掛けてるじゃん

 

425:カラスメイド ID:zzztensei04

あっち四人で、こっちは三人(一人はボンプ)

虚狩り様いるし、勝てるわけねぇだろうが!

 

426:サイ男 ID:zzztensei01

……かなりまずいな

アキラはどうした?さっきまで後ろにいたよな?

 

427:カラスメイド ID:zzztensei04

何とか理性を働かせて、私の後ろに抱えて翼で隠した

騒がないように、手で口(スピーカー部分)塞いでる

悠真「後ろにそれ、何隠してるの?」……あ、バレた、詰んだ

 

428:サソリ薬師 ID:zzztensei03

目良いなマサマサ!?好きだよ!?結婚してください!

 

429:軟体エンジニア ID:zzztensei05

混乱してる……

 

430:デンキウナギ ID:zzztensei02

取り敢えず落ち着け!お前ら、焦っても仕方がねえ!

アキラを見られてないなら、まだ何とかなるかもしんねぇ!

二人とも、何とかして時間を稼げ!

 

431:カラスメイド ID:zzztensei04

何言ってんだもう完全に詰んでんだろうが!

 

432:サソリ薬師 ID:zzztensei03

大体時間稼いでももう遅いだろ

今から三人が助けに向かうとしても間に合うわけがない!

 

433:サイ男 ID:zzztensei01

いや、大丈夫だ

実はもうだいぶ前からそっちに向かってた!

 

434:軟体エンジニア ID:zzztensei05

そうそう、原作崩壊するかもしれないからアキラを6課に見られないよう隠して、ボクらが着くまで何とか耐えて

 

435:サソリ薬師 ID:zzztensei03

……え?何で、ほんとに?

 

436:デンキウナギ ID:zzztensei02

……実はLIVE映像を見てやけにエーテリアスが多いなと、嫌な予感がしたから調べてみればなんと定期掃討を今日6課が引き受けていることが分かった

急いでダイさんとドクに協会から6課に支給されていたのと同じキャロットのデータ、掃討エリアの座標を伝えたからもうすぐそこに来てくれるはずや

 

437:サイ男 ID:zzztensei01

ああ、今ホロウには侵入できた

……もうちょっと待っておけ

 

438:軟体エンジニア ID:zzztensei05

クロエもナイス!アキラの姿は見られてない?原作崩壊はナシ?

 

439:サソリ薬師 ID:zzztensei03

うおおおおお!!流石リーダー!

天才かよぉお!

 

440:カラスメイド ID:zzztensei04

まだだ、まだ!終わらんよ!

大丈夫、見られてはない、奇跡的に私たちで向こうから遮られてたっぽい

ボンプが小さくて助かった

いやリーダーマジでナイスだけど何で黙ってたん!?

 

441:デンキウナギ ID:zzztensei02

すまん、二人に伝えたら嬉々として会いに行きそうだなという懸念が拭えんかった

もうすぐ脱出できてたし、バッティングしないのが最高だったがマジで運悪ぃ

 

442:サソリ薬師 ID:zzztensei03

流石に自制するわ!?流石に、うん……我慢する……多分

 

443:カラスメイド ID:zzztensei04

うん、アキラおるし、遠目から眺めるぐらいで我慢してた!

 

444:デンキウナギ ID:zzztensei02

怪しい感じじゃねえか

 

445:軟体エンジニア ID:zzztensei05

やっぱ伝えなくてよかったね

二人制御が効かないときあるから……

 

446:サソリ薬師 ID:zzztensei03

元凶が何言ってんだ

お前は早く来いよ!すぐ助けに来いや!

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

仲間たちのと会話から僅かに落ち着いたスコーピオンことマオ。

 

――よし、ちょっと余裕ができた。

 

意識を現実へと向け、この場をどう切り抜けるかを思案する。

 

逃げ道は6課がいる正面を抜けられるわけがないから、必然的に後ろ。しかし、背を向けるのは自殺行為だろう。

 

最優先事項はアキラをこの場から逃がすこと。アキラを隠してるクロエに任せればいい。こいつの機動力なら上空という逃げ道も増える。

しかし、何かを隠しているのを気取られてから6課の注意が私よりもクロエに集中してしまっている。私が決死の覚悟で彼らに立ち向かい時間を稼ごうとしても四人全員を抑えることは不可能だ。

 

雅さんが抜け、悠真が弓でクロエを射貫いてくる未来を幻視した。エーテリアスじゃないんだからアキラを庇いながら戦うのは不可能だろう。

 

――クソ、ほんとに人手が足りない。

 

6課の彼女たちのことは知っている、知っているからこそこの状況が絶望的なものであると深く理解している。

 

「答える気がないのであれば仕方ありません。詳しい話は本部で聞きますので、一度貴女方を此方で保護します。大人しくそのまま動かないで下さい」

 

邂逅の後もいくつか質問を行っていた柳さんだが、何も答えず、ずっと黙り込む私たちに遂に痺れを切らしたようだ。

 

四人全員が此方に抵抗は許さないというように武器を構える。

 

もう時間がない。心に焦りが生まれ、思考が上手く回らない。

嘘をでっち上げたとしても、それを直ぐに看破してくるであろうことは知っている。それを行ってしまえば今以上の不信感を与えてしまうだけだ。

 

完全に手詰まりだ。一か八か特攻を仕掛けようかと考えたところ、絶望の淵に、あるひと筋の糸が垂れてきた。

 

――待てよ、知っている?私たちは彼女たちのことを、()()()()()()()……知っている。

 

彼女たちは聡い、だから普通のでまかせは通用しない。だが工夫をすれば、彼女たちの動きを少しだけ此方が誘導できるかもしれない。

 

私はある策を悟られないよう、掲示板に書き込み、後ろにいるクロエに伝える。彼女は驚いたようであるが、その様子を表に出してはいない。

 

彼女を納得させるよう、作戦の詳細を教える。渋々私の提案を受け入れた。

 

相手は私たちが何者か気づいていないが、不審な人物であるということは認識している。しかも質問にも答えないため、詳細は一切不明だから、連行するしかないだろう。

 

まずは状況を複雑にする。

 

「……ア、……」

 

全員の注意が此方に向く、先ほどまで沈黙を保ってた存在に変化が生まれたのだから当然だ。

 

柳さんが投げかける。

 

「どうしましたか?」

 

ここで質問に答える気になったのかという思いを覗かせる6課の面々。だがここで私は彼らが予想だにしない言葉を紡ぐ。

 

少しでも動揺を与えるため。

 

「……ァ、…………助けてくれ」

 

「はい?」

 

「え?」

 

柳さんと悠真が虚を突かれたように声を上げる。

 

――その瞬間、

 

「囮だぁ!死ぬ気で時間を稼いでくれや!」

 

ガラの悪い口調で後ろのクロエが私の背中を蹴飛ばし、翼を広げ、後ろへ飛び出す。

突然の仲間割れに6課に動揺が走る。

 

「こっちに一人でも寄こしやがったらお前の()()()()はただじゃ済まねぇからな!」

 

そう言い残し、器用にアキラの姿を遮りながら抱えなおし、逃走を開始した。

飛び立つクロエにあっけにとられるものの、すぐさま冷静に立て直し6課のメンバーは武器を抜き行動を開始する。

 

何とか茶番により最初の一歩を折られる事態は防ぐことができた。ただの不審な知能機械人達ではなく何か複雑な関係を匂わせる。

 

「……逃走した者を追う」

 

クロエを追う為一番最初に駆けだした雅さんに向かって、蹴飛ばされ転がっていた私はすぐさま立ち上がり進路を塞ぎつつ襲い掛かる。

 

「っ!」

 

鯉口を切り、刀身で私の尾による襲撃を受け止める。激しくぶつかり合い、火花が散った。

 

少なからず、見捨てられた(様に見える)私が異様な気迫をもって向かってくるのに驚いているようだ。一先ず一番の機動力を持つ彼女を絶対に行かせんと、鋼鉄の腕を振りかぶる。

 

空気を切り裂き、正確無比な一撃を脳天に向けて繰り出す。

動きを瞬時に察知した雅さんは異常な反応速度で尾と交差していた刀を滑らせ拳を弾く。

フリーになった尾をしならせ、全力で振るう――よりも早く、神速の一刀が肩の金属装甲を切り裂いていた。

 

速過ぎる!……が損傷に構わずに前へ踏み出し攻撃を続ける。

 

「!」

 

僅かに彼女の目が見開かれ、後ろに跳び、回避する。

距離を取られた。だが、休む暇はない。雅さんの横から抜けてきた柳さんが変形させた薙刀を構え、高速の刺突を繰り出す。

 

「うわ!?」

 

咄嗟に反応し、刀身を両手で掴み、勢いを殺す。足が地面を削り、いくらか後退したが受け止めた。金属スーツを着ているからこそできる荒業であったが、間髪入れずに真横から巨大な質量の塊が迫る。

 

「えい!」

 

鬼の少女、蒼角である。馬鹿げた大きさの鋼鉄の刃旗を豪快にぶん回す。間に尾を入れ防御を行うが、有り余る衝撃に吹き飛ばされる。

 

そのまま宙を舞い近くの建物の壁面に叩きつけられる。

 

「ぐはっ!?」

 

ぶつかった勢いで壁が内側にへこみ、ひび割れが走るがスーツのおかげで何とか無事だ。

驚異的な6課の連携を味わい、戦慄するが、それよりも一人だけフリーにしてしまったのが焦りを加速させる。

 

目を向けると浅羽悠真は既に弓を構えて狙撃態勢に入っていた。標的は私ではなく、上空のクロエだ。

 

やめろ、そう叫ぶよりも早く一斉に飛び出した稲妻を纏わせた無数の矢が空を駆けた。

 

果たして――、

 

「うわ、すみません躱されました。後ろに目でも付いてんの?」

 

対象にタイミングを完全に読まれたことに、不可解そうに、ほんの少し首をかしげ、眉間にしわを寄せている悠真。

 

「……(あぶねぇええええ!?、ギリギリ掲示板で伝えることができたぞ!)」

 

向こうの方も、掠った!今掠った!と騒いでいるが、まだ安心するのは早い。

 

戦闘での時間稼ぎはもはや不可能、だがまだやりようがある。

 

豆粒ほどの距離まで離れたクロエを見つめ、逃がさないと追い始めようとした雅さんに負傷したように蹲りながら私は頭を下げ、必死に懇願する。

 

「待ってくれ、()()()。彼女を追えば私の()()()()が危険に晒されてしまう!だから頼む!行かないでくれ、私を助けてくれ!」

 

「……。」

 

本人は何も答えない。代わりに悠真が此方に疑問を投げかける。

 

「いきなり話し始めたと思ったら、助けてくれって、肝心なところが抜けていてこっちはどうすればいいのか分からないんだよね。そもそも、君を見捨てた知能機械人とどういう関係ってわけ?」

 

状況証拠である程度予想は立てているだろうが、正解の域は出ない、あまりに情報が足りないからだ。どうすればよいのか分からないよう思考する時間を強制する、……()()()()()()

 

彼らの目には私がクロエに大切な人を盾に脅されているように見えるだろう。

初めの不審者二人組の印象から、加害者と被害者の関係性の二人かもしれないと印象を変化させた。だから、彼らは対応を変えなければいけない。信じる『正義』を貫き通すために。

 

嘘をつくときは真実と混ぜる。誰の言った言葉か、100%の嘘は確実にバレる。そのため先ほどの茶番劇や私の懇願はほぼほぼ真実だ。

 

初めの「助けてくれ」も状況があまりにもヤバすぎたから、真意であるし、クロエの方向に6課の誰かを向かわせたら()()()()であるアキラが危険に晒される。

 

結果的に騙すことには成功したようであるが、恐ろしく心が痛い。先の戦闘でのダメージは全てスーツが負っているため私の肉体は無事だが、精神的負荷が半端ない、だって6課好きなんですもの。

 

心の中で騙してすいませんでしたぁ!と全力で謝罪をしつつ、悠真の疑問に俯いて、黙したまま時間を稼ぐ。

 

状況は狙い通り停滞した。蒼角はどうしようかと他三人をキョロキョロ見ているし、柳さんは此方を鋭く見据え、眼鏡に手を掛け何か思案している。悠真は再び黙った私に困ったように眉を下げていた。

 

話せばその分ボロが出る。これで、話せないような複雑な事情なのだと勘違いしてほしい。

 

そして沈黙を続ける雅さん。此方を見ず、クロエが飛び去った方向を見つめているが、一応私の懇願は聞いているはずである。今飛び出されたら止めることができない。どうかそのまま、止まっていて欲しい。

 

一秒が何分にも、何時間にも長く感じた。

 

 

わざわざ虚狩りと呼ぶことで彼女の中の使命と人間的な情が交錯するのを狙った。何が悪かは彼女が定めるという一見独善的に思える彼女の思想、だが彼女の掲げる正義は至極真っ当。

 

状況が複雑になればその分取るべき対応も変化する。それを機械のように一瞬で答えが出せるわけではない。判断に迷いが生じれば、人間と同じように思考に時間を取られる。

クロエを追うために駆けだした足を止め、やや時間をおいてから、此方に告げる。

 

「私は貴様を知らない、どんな状況に陥っているかもな。助けられるのはある程度の事態を把握し動き出せる時だ。助けてほしいのなら私ではなくこの場にいる仲間たちに正直に全てを話せ、そうでなければ救えるものも救えない。」

 

そう言い残し、恐るべき速度で視界から消え去った。

 

実に冷静な判断だ。私を完全に信じた訳ではなく、ちゃんと警戒を残している。話を聞くという体で、私が暴れても対処できるように仲間を三人残し、一人での追跡。

クロエの逃亡の速度から時間を掛けられないため、戦力をバランスよく分け、自身ではなく仲間たちに私の判断を任せたといったところか。

 

クロエはどちらにせよ彼女の中で悪確定だから逃がす選択肢はないしな。

 

しかし、彼女が行ってしまった。

がっくりと項垂れる私に柳さんが声をかける。疑心半分、憐憫半分といったところか。

 

私の前に屈みこみ、優しく目を合わせた。

 

「大丈夫ですか、何があったかお聞かせ願いませんか。話せる範囲で構いませんので、どんな些細なことでも教えてください、急がなくて構いません。私達は貴女の助けになりたいのです。」

 

――ああ、罪悪感ががが!

 

悪人の追跡を妨害した自分に、優しくされてしまい心が削られていく!

 

「いやいや、副課長。彼女をボコボコにしたのは僕らなんですから、大丈夫ですかは挑発になっちゃいますよ~」

 

「うん。ごめんね!蒼角が強く叩いちゃった」

 

悠真がジョークで場を和ませ、蒼角が謝る。

優しさが私の心を容赦なく貫く。

 

「……。(うわぁぁあ!申し訳なさで私の心が死んでしまう!)」

 

雅さんを行かせてしまったため、もう時間稼ぎに意味はない。

 

クロエもあれから返信はないし無事かどうかももう分からな――

 

その瞬間、掲示板にクロエから連絡が入る。

 

 

ーーーーーー

 

481:カラスメイド ID:zzztensei04

我、ミッション果たせし!アキラは隠したぞ

時間稼ぎ、感謝!

今から虚狩りと一騎打ちじゃあ!

ーーーーーー

 

どうやら企みは成功したようだ。

 

「…………フフ」

 

「どうかしましたか?」

 

いきなり笑い出した私に柳さんが怪訝そうに尋ねる、周囲にいる二人もざわつく感覚を覚えたのか、黙って此方を見ている。

 

もう終わりだ、山場は超えた。哀れな被害者と思わしき人物の役はもう終わりだ。

 

私は顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる。

 

異様な雰囲気に目の前にいた柳さんは無意識にか私から距離を取る。他の二人含め、再び警戒が滲む。その警戒は最初に会った時よりも遥かに強い。

 

土壇場を切り抜けたことで少し気分が高揚しているのかもしれない。私は次の動きを決める。

まだ状況は緊迫しているのも分かっており、時間も仲間たちが来るまで稼がないといけない。今はアキラを隠して二人ともフリーになったに過ぎない。

 

恐らくこのまま、だんまりを決め込むことは不可能だし、戦闘に移行することになるだろう。

 

不意打ちで一人くらいは倒せるかもしれないが、それはあまりにきまりが悪い。ならば正々堂々戦えばいい。別にパエトーンについてバレなければ良いのだし、自分たちの正体は隠していない。

 

いや、名前は知られているが姿はあまり知られて無かったな、……まあいい。

 

次は悪役(heel)を演じる!目の前にいる三人の様な高潔で、正義の味方と戦うにふさわしい悪党を。映画に出てくるようなどこか魅力溢れる、キャラクターを!

 

「……いや、謝る必要はない。その武器は正しい者へと向けられた、ただそれだけのことだ。……茶番は終わりだ、上手く六課の誘導が成功し、今この場にいるのは君らを欺いた一人の悪党だけだ。」

 

変わらない機械音声、しかしまるで闇の中から響くような声だった。低く、重く、聞くだけで三人は背筋がこわばる感覚に陥った。

 

「ええっと、つまり騙されたってこと?課長と僕たちの分断が狙いで、それが上手くいって気分が今上がってる感じ?凄いね~完全に騙されたよ、女優目指せるんじゃない?」

 

悠真が軽口を叩くが、その眼は一切笑っていない。弓を構える掌にじわりと汗が滲む。

あまりの変わりように目の前の相手が不気味に思えた。

 

「ああ、誤解しないでくれ、私は君たちを嫌ってなどいない。むしろ大好きだ、ファンといってもいい。君たちと出会ったのは偶然で個人的には嬉しくもあったんだが、私の仲間が背に隠していたものは私たちにとって大変大事な存在だったのだ。それを君たちに知られたくなかった。今回君たちを騙していたことは本意ではなく私の良心が酷く傷んだものだよ。」

 

「貴女達は何者なんですか?何が目的でこの場所に!」

 

邂逅時の質問を再び行い、此方を問い詰める柳。

しかし、問い詰められている方は対照的に目を細め冷静に言葉を返す。

 

「この場所にいた理由は言えないな、馬鹿げてると笑われるのは趣味じゃない。だが私たちが何者かは教えてあげよう。偶然とはいえ、これも何かの縁だ。」

 

前に踏み出す、それは足音一つで空間を支配するかの如く。六課の目の前にいる存在は高らかに宣言する。

 

「私は『ヒール』所属。薬理開発担当、コードネーム――――《スコーピオン》だ」

 

世間を騒がす大物の名前に六課の三人に動揺が走る。

それを見据え、スコーピオンは重厚に構えをとる。

 

「向かってくるのなら相手になろう。対ホロウ特別行動部、第六課」

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

一方、逃げた者を追い、建物から建物へと飛び乗り、一人で先行していた雅は足を止める。何故なら目の前にはその追うべき対象がいたから。

此方に気が付いても逃げる素振りすら見せず、ゆっくりと此方を観察している。

背中に隠していた()()も無い、逃げている最中に何処かに隠したのか。

 

「……遅かったな、雅さん。仲間の名演技に足を取られたか?」

 

その一言で全てを、察した雅であったが。表情には出さず冷静な様子で刀を抜く。

 

「成程、謀られたか。」

 

「すまないね、雅さん。仕方のないことだったんだ。でも私達には争う理由なんてない、勝手にエーテリアス掃討をしたことなら謝るから、このまま見逃してくれても……」

 

瞬間、威圧感が具現化したかのような鋭い刃がクロエの目の前に飛んでくる。

即座に口を閉じ、後方へ全力で飛翔し回避する。

 

「……っ!」

 

刀身を払い相手が黙ったのを冷たい眼差しで確認した雅は静かに口を開く。

 

「貴様らが正体、目的、秘密を、隠そうとすればするほど、私が貴様らに対する疑念は深まる。もはやこの疑念は貴様の言葉の一つや二つ程度では消えることはない。」

 

「当然……だな(やべえ、ぶち切れじゃん。)、……では争いは避けられない訳だな。私の正体が気になるなら、せっかくなのでここで名乗らせていただこう!」

 

そう言う雅の目の前の相手は、深紅の巨大な鋼鉄の翼を広げた。

翼を広げるたび、空気が圧縮され、周囲に“圧”が放たれる。

 

「『ヒール』所属。現地偵察担当、コードネーム――――《ファルコン》、歴代最年少の虚狩りよ、お手合わせ頂く……!」

 

翼の装甲の一部分が外れ、手中に落ちる。

外れた装甲内部から、うねるような駆動音が響いた。金属パーツが折り畳まれ、回転し、再配置されていき、ファルコンの手には二刀の刃が握られていた。

 

虚狩りに素手で戦うなど自殺行為、初めから全力で行く、―――!

 

その様子を見て、雅は応える様に自身の刀、『骸討ち・無尾』を光らせ構える。

 

「対ホロウ六課、虚狩り―――星見雅、いざ参る」

 

戦いが幕を上げた。




悪党の名乗り口上はいつも心が擽られる。
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