転生者達の新エリー都、二足のわらじ生活 作:フライパンソルジャー
2025/09/19
思わずスクショ取りました。
「目標は対象の無力化です!各員行動開始!」
柳の凛とした声と同時に戦闘が開始された。
柳、蒼角が武器を取り出し、此方に向かい突っ込んでくる。後ろに控える悠真は既に此方に狙撃を開始していた。
前衛二人、後衛一人の陣形。堅牢な構えに、これを正面から迎え撃つのはまずいと判断する。
スコーピオンがまず初めに行った行動は彼らの視界から逃れることであった。先の衝突では正面切っての戦闘となってしまった。それでは自身のスーツによるゴリ押しにしかならない。
並みの相手であればそれで事足りるだろうが、目の前の三人は全員が精鋭、特に連携による攻撃は目を見張るものがある。戦いの場を固定するのは得策ではない。
――ドンッッ!
コンクリートの地面に向けて自らの尾を突き刺す、たやすく貫かれ先端部分が埋まる。幾重にも重なった鋼鉄の節が連動し、尾が最大まで引かれた弦の様にしなる。そこには強力なエネルギーが込められていた。
次の瞬間、地面が爆発したかのように轟音を立てて抉れる。コンクリート片が飛び散り、砂塵が舞う。
「消えた!?」
突如として姿を掻き消した対象に二人の攻撃と悠真の放った矢は空を切った。
「柳さん、上です!左のビルの壁面に張り付いています!」
だが前衛の二人より後ろに控え、広い視野を確保していた悠真は叫ぶ。その声に上を見上げると廃れた高層ビルの壁面にスコーピオンの姿があった。
「高ーい!?一瞬であそこまで飛んでっちゃったの!?」
蒼角が驚嘆する。
スコーピオンは尻尾の反動を利用して身を空へ撃ち出し、向かった先の廃ビルの壁面を腕力で無理やり掴んで、その場に体を固定していた。
握りしめている壁面部分が圧力で不快な音を立てて、変形していく。
正面からの迎撃が難しいのであれば横からの襲撃をすればいい。
稲妻を纏わせた矢が迫る。
場所の滞在は狙撃手にとって絶好の的、悠真は冷静に攻撃を続けていた。壁を蹴って、斜め上方へ跳躍し、躱す。矢は先程いた場所に炸裂した。
それを一瞥しスコーピオンは全身の身を圧縮するように屈める。両手足の先が抉るように沈み込む、そして下の地面に向かって爆ぜるように駆けた。
ズガァンッ!!と壁面の一部が悲鳴を上げ崩れた。
「っ!?各員回避行動!」
隕石が飛来してきたかのような、空から高速で突撃してきたスコーピオンの奇襲、腹に響く重低音とともに、地面が波打つ。
六課は全員被弾を免れたが、これこそがスコーピオンの狙い。前衛と後衛の両者を分断するように間の地面を陥没させた。
間髪入れず素早い動きで悠真に向かって駆けるスコーピオン。
自分が狙いだと察した悠真は武器を刀へと変形し、迎え撃つ。
空気が歪む。何倍にも大きくなったかのような拳が風を切り裂きながら恐ろしい速度で悠真に迫る。
瞬間ーーー凄まじい衝撃が悠真を襲った。
「グッ!、あ!」
迫りくる拳は刀身でなんとか受け止めた。だが、威力が尋常ではなく、刀を持つ腕が千切れたのではないかと錯覚するほど骨が軋んだ。
しかし、内心を覆い隠し、余裕を見せるため目の前の敵に笑いかける。
「どお、弓の扱いだけで、接近戦なんてできないと思ってたでしょ?」
不敵に笑う悠真。
敵の背後からは柳と蒼角が迫る。
上空には逃がさない。このまま挟み撃ちにする。
全身に力を入れ真っ向から刀を押し返しに行く。だが目の前の存在は対抗もせず、徐々に後ろに下がっていく。
不審に思っていると、まるで笑っているかのように目のライトを細め、呟く。
「……知っていたよ、受け止められることは。……だから奇襲はこれからだ。」
グググっと上体を曲げながら、そう告げたスコーピオン。
「いったい何を……?」
言っているんだと悠真は続けようとして気が付く。
わざわざ奴の持ち前の背中につけた武器では無く、素手で襲い掛かってきた理由に。
足元に注意を向ける。
先程二人の視界から消えた時のように自身の身を撃ち上げた高速移動。既に尻尾は限界まで引き絞られていた。
もしも、人に向けて放たれたのであればーーー!
「月城さん、蒼角!こっちに来るな!」
咄嗟に叫ぶが既に目の前のスコーピオンの姿は消えていた。
目の前で爆発が起こり衝撃波が悠真の全身を襲う。
刀を押し返しに行ったことで、自身もその動きに一助してしまったことを悔やみながら激しい衝撃波に吹き飛ばされた。
「え?」
柳の目の前にスコーピオンが迫っていた、悠真の助太刀に背後からの奇襲を掛けようとしたところ、突如相手が此方に振り向いたかと思えば、もうこの距離にいた。
目の前の景色がゆっくりに感じる。まるでこれはーーー
「ナギねえ!」
蒼角が自身の武器を咄嗟に前に出し庇う。スコーピオンはそこに
音が炸裂し、世界が、砕けた。
ーギャァァァァン!
「きゃっ!?」
巨大な金属音と衝撃が全身に叩きつけられ、脳が揺れた。
意識が黒く染まり、遠のいていく……。
ーーーーーーー
「…………はっ!」
一瞬、時間の流れがわからなくなった。
立っているのか、倒れたのか、それすら曖昧だった。柳は激しい耳鳴りが襲い掛かるが痛む頭を何とか押さえながら現状を把握しようと努める。
周囲には激しい衝撃で砂塵が立ち上っていた。目元に手をやるといつもそこにあるはずの眼鏡が存在しなかった。どうやら吹き飛ばされたようである
「……くっ……!(蒼角、浅羽隊員は?……無事なの?)」
やがて砂塵が晴れ、周囲の景色が露になる。
そこには敵である知能機械人、スコーピオンが佇んでいた。
「……っ!」
思わず息を呑む、この惨状を引き起こしたのであれば当然この場にいるはず。どうやら衝撃で頭が混乱していたみたいだ。
対象の金属装甲は凹み、関節部から火花が散り、漏電している。あの衝突では本人も無事では済まなかった様だ。
「くそ……、痛い……
何やら呻いている。だがまだ、行動不能という訳ではないだろう。
完全に機体性能が一般のものを凌駕している。一体どれ程の高い技術が詰め込まれているのか。
スコーピオンの姿を見て、ふと最後の記憶が思い浮かぶ。あの時蒼角が自分を庇ってくれたことを。
「……!蒼角!」
辺りを見渡すと蒼角が仰向けに倒れていた。思わずぞっとして急いで駆け寄るが、どうやら気絶しているようだ。擦り傷などの外傷はあるがちゃんと息をしている。
「蒼角……!よかった」
安堵の息を零す。しかし手に持っていた蒼角の武器、巨大な鋼鉄の刃旗がないことに気が付き、近くを見渡すと、それを見つけ、ギョッとした。
そこには、見るも無残なスクラップがあった。持ち手部分は完全に捻じ切れ、金属部が紙のようにくしゃりと折れ曲がっていた。
蒼角の怪力に耐え、どんなに振り回しても壊れない頑丈な武器が一撃で鋼鉄製の塊にされた。
もし、武器では無く此方に、蒼角自身に直撃していたら。
そんな恐ろしい光景を幻視し、柳は戦慄と共に徐々に激しい怒りが湧き上がってきた。
「………。」
薙刀を握りしめ、立ち上がり、スコーピオンに向かっていく。
雅に任されたのだ。この危険人物を逃がすわけにはいかない。
「……!、……くそ」
自身に近づく、柳に気が付き、スコーピオンは悪態をつきながら構える。
体を動かすたびに金属が擦れる不快な音が周囲に響く。
明らかに精彩を欠いているようだ。つまり仕留めるのなら、今ーー!
体が熱い、自身の中に流れる鬼の血が全身に巡るのを感じる。
柳に踏みしめられた大地が小さく揺れ、瞬間、足が地を蹴った。
斜め上から袈裟切りに振り下ろされる一撃。
「くっ!」
咄嗟に腕で防御を行うスコーピオン。
想定していたものより遥かに速く、重い一撃。刀身が装甲に食い込んだ。
「ハァッ!」
直ぐに引き抜かれ、流れるように次の一撃が繰り出される。
右、左、上段、横薙ぎ、突きーー刃の軌跡が空に渦を巻いた。
続く、続く。止まらない連撃の嵐。スコーピオンが見つけた反撃の目は全て潰され、躱そうにも動きを読まれ、距離を詰められる。徐々に装甲には無数の斬撃が刻まれる。
「ッ……く、うおおッ!!」
ーーーつ、強い!
スコーピオンことマオは攻撃を防ぎながら、内心焦りを加速させていた。
実力者であることは知っていたが一対一であれば負けることは無いだろうと考えていた。しかし、その考えは甘すぎた様だ。現に今追い込まれている、防戦一方でこのままではジリ貧だ……!
堪らず距離を取り、この窮地から抜け出そうと地面に尾を突き刺そうとする。
何度も見せていた高速移動の準備である。
ーー距離さえとればまた立て直せる!
しかし、先端が地面を貫く瞬間。どこからともなく飛来した矢が尻尾を弾いた。
「なっ!?」
驚いて顔を向けると眼前には既に電撃を纏った矢が迫っていた。
「危っ……!」
慌てて頭を傾け、回避する。頬の金属肌を削りながら横を通り過ぎた。
「……逃がさないよ……!」
そこには、歯を食いしばり痛む体を何とか持ち上げながら、体を動かしてきた浅羽悠真がいた。
正確無比な狙撃は健在のようで、マオのみを狙った一射を放つ。
普段であれば逃がさないよなんて推しから言われれば、歓喜乱舞するマオであるが、生憎今はそれどころではない。普通に焦る。
矢に気を取られた隙に柳の渾身の一刀が横から迫るーーー!
「しまっー!」
ーーガキィン!
「ぐぅあっ……!?」
腹部に衝撃が走る。
限界まで力を籠め、振るわれた柳の全身全霊の一撃。衝撃が装甲に留まらず、マオ本体にまで届き、思わず意識が遠のくーーー
スコーピオンの体が力を失ったように前へ傾いていく。
決着かと思われた次の瞬間、
いきなり動き始めたスコーピオンが”がしり”と腹部の薙刀を掴んだ。
「ーーなっ!?」
思わず声を上げる柳、薙刀を引き抜こうとするが人間離れしたとんでもない握力で握りしめているためか、少しも動かすことができない。
両者拮抗状態に陥る。が、しかし、この場には一人だけ動ける者がいる。
浅羽悠真だ。
スコーピオンの最後の抵抗に驚いたようであるが、直ぐに自分のやるべきことを理解し、再度弓を構えようとーーー
「っ!?、ごほっ……、ハ、……ぁ、!?」
突如一瞬で体の全ての酸素が奪われたようなような、苦しみが自身を襲った。
乾いた肺が痙攣し、胸の奥から強烈な咳が突き上げる。
思わず胸を抑え蹲った。
「(っ……クソッ!ふざけるな、こんな時にーー)」
最悪なタイミングで現れた発作を心底呪う。
奴を止めないと月城さんが危ない、必死に体を動かそうとするが応えてくれない。
目の前で月城さんが此方を向き、驚いているのが分かる。そして、奴の尾が怪しく揺らめき、その鋭い先端が光り輝いた。
「……ぁ、月城、さ……!」
止める間もなく、その先端は容赦なく月城さんの喉元へと向けて放たれた。
「………っ!」
しかし。
その致命的な一手は、後一寸の所でーー止まった。
突如として電源が抜かれた機械のようにスコーピオンは静止した。
「…………え」
突然の出来事。
そしてスコーピオンは、薙刀から手を離し、崩れ落ちるよう後ろの地面へと倒れた。
自分も、……月城さんも感情が追いつかず、呆然とその光景を見ていた。
「……偶然の勝利なんて得ても嬉しくはない。……潔く、自分の負けを認めるさ。……降参だ。本当に……君たちは素晴らしかった。」
その声は、敗者でありながら、どこか誇らしげだった。
沈黙の中で、風だけが静かに吹き抜けていった。
ーーーーーーー
「一先ず、応援を要請します」
月城さんは倒れた蒼角の頭を抱え、自身の膝の上に乗せるとそう言った。
「それがいいですね~。まったく、今日は珍しく仕事がないと思ったらとんだ厄日になりましたよ……!」
悠真は隣でじっと静止している知能機械人を睨みながら言う。その機体はボロボロで、一応縄などで拘束を行っているが、強力な力を持つ相手だ。
意味があるのかは分からない。妙な動きを少しでも見せればすぐに鎮圧できるよう武器を構えながら監視しておく。
そんな警戒を滲ませる悠真の顔を見ながらスコーピオンは、訝しげに問いかけてきた。
「君は……、その……体が悪いのか?」
どこか此方を気遣うような口調、その様子に違和感を覚えるが、実際に苦しんでいたところを見られている。今更隠すようなことでもないので気にせず答える。
「そうそう、大事な時とか関係なく発作が起こるからほんと困ってるってわけ」
それを聞くと鋭く光るライン状のライトが此方を見据える。その瞳からは何を考えているのか読み取ることができない。
「……もし良かったら、君の症状を教えてくれないか?私は薬には凡人より精通していると自負がある。できることなら君の助けになりたい……。」
相手の意図が読めずに眉をひそめる。
「……賄賂ってわけ?ごめんけどそういうのは受け取れないんだよね。もし、それで君を見逃すことになっちゃったら月城さんや上の偉い人に怒られちゃう。」
「そうではない。ただこれは、医者が病で苦しむ人をどうしても見過ごせないような……私が君に抱いた本心だ。」
その声は、ノイズ交じりだがあまりにもまっすぐだった。敵の口から発せられたとは思えぬほどに、柔らかく、どこか此方を案じるような響きすらあった。
だが、先の戦闘を思い出す。
圧倒的な力で高速移動を繰り出し、空気を揺るがすほどの強力な攻撃を繰り出していたスコーピオン。……ほんとに肝の冷える場面が何度もあった。
「……これが、ここまで大暴れしない、普通の医者だったら信じていたよ。」
その言葉に心外だ!というように目を細めるスコーピオン。………意外と表情が豊かだな。
「おいおい、初めに言っていただろう。私の担当は薬理開発で、本来は戦いを主にする者ではない。医者ではないが本当に人の身を案じる立場の者だ。そもそも、私たちの陣営に戦闘員は一人しかいないしな。……薬は、今は持っていないがいくつか私が調合したものがある。結構評判なんだぞ。」
悠真は目の前の彼女が大人しく机に座り、丁寧にビーカーの中に入った液体を別の容器に移している様子を想像した。あまりにも似合わなすぎる。
奇声を上げながら尻尾を振り回し、軍の兵士達を蹴散らしている方がよほどしっくりくる。
「ええ……、そのナリで薬を調合しているの想像つかないんだけど……。」
「……”戦闘員”。……それは貴女といた翼を持った知能機械人のことですか?」
月城さんが会話に入ってくる。彼女たちの陣営の情報を引き出せると思ったのだろう。
『ヒール』はインターノットや裏の業界では有名であり、数多くのホロウ関係の未解決事件にも関与しているとされている。伝説のプロキシ『パエトーン』の誕生にも。起こした事件の規模がとんでもなく大きいがその正体は誰も知らなかった。これまでヒールの所属であると詐称する犯罪者は多かったが、恐らく
この会話はとても重要な情報になると直感が告げていた。
そんな此方の狙いを知ってか知らずか、特に隠すことなく答え始める。
「いや、あれは現地偵察担当のファルコン。見ての通り機動力に優れているからな。まあ実力は……あいつが上……かな?試したことがないから分からん」
どうやら、彼女の言葉を信じるなら、まだ警戒すべき対象がいるようだ。
増えてしまった悩みの種に思わず頭が痛くなる。
今単独行動をしている課長のことは心配いらないだろうが。
「え~、嫌な可能性なんだけど、その戦闘員くんは君たちよりも強いの?」
「………………ウン、マァネ」
「何その反応!?ちょっと気になるじゃんか」
より詳しく、問い詰めようとする。
瞬間、けたたましい轟音が遠くの方から聞こえ、その音と共に地面が大きく揺れた。
思わずバランスを少し崩し、ふらつく。
「なになに!?地震?」
「こ、これは!?」
「噂をすれば、……ああ、どうやら着いたらしい」
スコーピオンは呆れたように呟いた。
ーーーーーーー
風がうなる中、一人の知能機械人が空を滑空していた。
その羽ばたきは無音で、滑空するたびに風圧が鋭く周囲を切り裂く。
ーー『ヒール』の現地偵察担当のファルコン。
対するは、地上。
廃ビルの縁に立つ一人の狐のシリオン。
手には星見家が代々受け継ぐ、妖刀『骸討ち・無尾』が納められており、鋭い視線でじっと、天を見上げている。
ーー『虚狩り』星見雅。
互いに名乗りを上げた後、両者は視線を交わし、静かに相対していた。
突如沈黙を破り先に動いたのは空を飛ぶ者、ファルコンであった。
音を置き去りにした急降下、両手に持った刃を振り落ろし、雅の頭目掛け斬りかかる。
雅はそれを半身で受け流し、ひとつ深く間合いを詰める。
音が、空気が、鋭く裂ける。
ーー両者の刃が交わる。
周囲に金属を打つ音を響かせ、火花が咲いた。
刃と刃がきしみ合う中、ファルコンはその場で高速で回転し、回し蹴りを繰り出す。
衝撃と共に雅の体はビルの外へと放り出された。
「………?」
しかし、まるで布に触れたような、妙な蹴りの感触にファルコンは首を傾げる。
横からの強襲に、雅は自らが飛ばされる方向へ跳び、腕で防御を行い、蹴りの衝撃を最小限に抑えていた。
投げ出された空中で身を捻り、体勢を整え地面に着地する。
普通に一般人であれば大怪我では済まない程の高さからの落下であるが、なんてことないようにその場に立ち尽くしている。
すぐさまファルコンは旋回しながら、ビルの外壁を蹴って滑空。
高さ数十メートルの空中から、両手のブレイドと自身の翼を使い、雅に向かって高速の四連撃を繰り出す。
鋭く、速く、死角から死角へ。
だが、雅は地上からそれを見上げーー
「……遅い。」
地を蹴った。
ビルの壁面を駆け上がり、一瞬で距離を詰める。
まるで重力を無視するかのような脚力。
アスファルトが砕け、壁が削れ、彼女の残像だけがビルの外壁を這う。
空中で対峙した瞬間、ファルコンことクロエの目が驚愕に見開かれる。
「(――太腿にブースターでも内蔵してるんか、雅さん!?)」
次の瞬間、雅の一太刀が空を割った。
それはただ速いだけではない。
軌道、重み、殺気。全てが“斬るために完成されている”。
クロエは辛うじて空中回転でそれを受け流すが、
右の翼がかすかに削られてしまった。
「(距離を取らないと……!)」
建物の壁面を全力で蹴り、空中で加速、高速飛行を行う。
二人の戦いは、ビルからビルへ、空中と地上を交差しながら進んでいく。
空と地。
翼と脚。
飛ぶ者と、走る者。
距離を取りつつ、身を翻し刃を振るうクロエ。
対して雅はクロエに追いすがり、追い詰めるように刀を振るう。
高速の両者譲らない刃の応酬、常人が見れば姿を捉えることも叶わず、撒き散らされる火花と金属の衝突する音に震えるしかないだろう。
クロエは更に高度を
建物が密集したエリアでの高速飛行、その自殺行為じみた行為に雅の目が僅かに開かれる。
だがクロエからすれば雅の視界の中に入っている方がよっぽど脅威である。
建物の隙間を、ほんの指幅の余裕で抜けた。窓ガラスが衝撃波で震え、サイレンのような風切り音が鳴る。
ひとつ間違えば即、ビルの壁面へ激突ーーだが恐れはない。
旋回して。
回転して。
反転する。
三次元を自在に操る動きによる超高速の“立体飛行”。
景色は目まぐるしく変化し、後ろへ流れていく。
果たしてーーー虚狩りは刀身を光らせ後ろから迫っていた。
「噓でしょ!?」
背後からの一刀。
クロエは思わず叫び、速度を落とさずに翼をたたんで横に回避する。
クロエは廃ビルの看板を踏み、壁を蹴り、電源の切れた電光掲示板の上を跳び越えながら空中戦を展開。
雅は階段すら踏まずに飛び移り、配管を蹴り、ガラス壁を蹴破りながらも的確に追いすがる。
その脚力と剣筋の精度は、常識を逸脱していた。
ただの人間が、空を飛ぶ機械人を追い詰めているーーそれが現実だった。
ーーズバァンッ!
雅の斬撃が、隣のビルの壁を大きく裂き、火花を散らす。
何とか旋回することで斬撃を躱し、翼による斬撃で宙に浮かぶ雅に襲い掛かる。
雅は冷静に崩れ落ちる破片を踏み台にして跳躍。
空中で斬り結び、双方ともにビルの屋上へと着地する。
金属と靴底がアスファルトを擦る音だけが響いた。
二人は、再び距離を取った。
翼を広げ、息を整えるファルコン
刀を下段に構え、無言で佇む雅。
ーーどちらも、まだ本気ではない。
けれど、確かに互いの“芯”を感じ取っていた。
クロエはスーツの中で笑みを浮かべる。
「流石、雅さん。想像以上だ。」
雅は答えない。ただ、わずかに目を細めていた。
「………ここからは本気で行かせてもらう。そもそも、私はスコーピオンみたく近接重視じゃない、本来得意なのは……これ。」
ファルコンが両手に持ったブレイドを重ね合わせる。二本のブレイドが手の中で鋭く震え、刃の根元が脈動し、微細なパーツがカチリと音を立てて解放される。
左右のブレイドが、それぞれの柄から関節のように折れ曲がる。刃が反転し、内部の機構が剥き出しになり、精密なロック機構が音もなくピタリと接続された。
形状は一変。
剣の面影は消え、そこに現れたのは、スリムで直線的な
確かな質量を感じさせる無骨なボディ。
銃口の先にあるのは、青白く発光する砲口コイル。
ホロウ内のエーテル粒子を取り込み、エネルギーに変換。そうすることで得られたエネルギーを放つため弾切れの心配はない。ドクの傑作、変形武器であった。
「展開完了。……あいつ、ほんとロマン武器が好きすぎるだろ。」
虚狩りに近接戦闘は分が悪いどころの話ではない。クロエは本来の戦闘スタイルに切り替えた。
そう……ファルコンの戦闘は機動力を生かした、攻撃が届かない遥か上空からの一方的な攻撃展開であった。
戦いは、ここからが本番だった。
次の瞬間、光が雅に迫る。
「っ!」
放たれた閃光は咄嗟に回避した雅の肩を掠めた。
「これなら、態々近づくリスクは取らなくていいだろ?」
雅が上を見上げると、ファルコンは空へ舞っていた。刀身が届かない遥か上空。
続く第二射、真上からの光が飛来する。
自分の攻撃は届かないが相手の攻撃は届く、よりにもよってその攻撃はレーザー。並みの相手であれば防ぐ手立てはないだろう。
ーーしかし、彼女は虚狩りであった。
雅は冷静に
炸裂する轟音と火花。
雅は閃光を刀で弾き、上空で唖然とする者を見据えて呟いた。
「ここからが本番、という訳だな。ならば……いざ、我が全霊を以て相まみえん。
刀身の蒼き大炎が揺らめいた。
ーーーーーーー
「(ちょっと雅さん!?貴女人間やめすぎてますよ!?)」
此方が放つレーザーをまるで映画の登場キャラクターのように刀で弾き、此方に恐るべき速度で接近する雅にクロエは戦慄していた。
先程のレーザーを弾いた芸当は、恐らく此方の銃口と発射のタイミングを読み切ったからだと結論付ける。
そう考えなければやってられない。
ファルコンは左右に翻りながら、回転しつつレーザーを撒き散らす。
まさに空から降る雷のごとく。瞬く間にビルをハチの巣にする。
だがーー雅は動いた。
ビルの上を走り、地を蹴り、空中の死角を突くように跳躍。
その動きは、まるで斬り込む刃そのもの。踏み出すたびに床が爆ぜ、残像が風を裂く。
「は……」
一瞬で視界から外れた雅に驚きつつ、必死に目を凝らし彼女を影を追う。
クロエが気づいたときには、真下から雅が跳び上がっていた。
銃口を下げて撃つ、ーーその一瞬前に、刃が軌道を逸らす。
自身の喉元に燃え上がる刀身が迫る。
「くっ!?」
クロエは即座に翼をひねり、反転。
空中を滑りながら、残った翼で反撃に出る。
しかしその刃は上体を反らすことで、紙一重で躱される。
重力に従って落ちていく雅の体、狙うのであればここしかない。
ライフルを連発するが、放たれた光は全て蒼い炎の渦へと飲まれた。
「っ!」
彼女がレーザーをすべて弾いたその刹那、空中で彼女と目が合った。
ーー冷たい、刀のように鋭利な視線だ。
空にいるというのに、まるで自分を巨大な手が掴み地上に引きずり落とすかのような圧。
いや、雅さん強すぎ……
これ、仲間たちが間に合っても何とかなるんか?(訝し気)