転生者達の新エリー都、二足のわらじ生活   作:フライパンソルジャー

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コテハン名はサイ男

もはやこの人が今回のメイン


彼は良い男、まさしくナイスガイ!

できる限り、早く駆けつけた。

それでも、間に合わない命がある。

自分が何人救おうとも、その影で誰かが泣いている。

 

 

「大丈夫ですか!?怪我は!?」

 

少年が声をかけて駆け寄るも、目の前の男はまったく反応を示さない。

男は武装をしている。見たところ軍人だろうか。彼が手に持ったライフルは滑り落ち、地面に転がっていた。

彼は瞬きすらしない。ただ、その視線は目の前の瓦礫を見つめていた。

 

その瓦礫の下から、赤い液体が滲み、白い指先が少しだけ覗いていた。

 

「(……遅かった……!)」

 

少年は、拳を強く握った。

彼はきっとこの場で大切な人を失ったのだ。

 

「……ここは危ないですよ。すぐに外へ出ないと……!俺に………自分について来て下さい」

 

もう一度呼びかけるが男は黙ったまま。まるで、生きることをやめてしまったかのようだった。

 

少年の心に、葛藤が走る。先ほど外に繋がる裂け目を見つけたがこの場は不安定だ何時閉じてしまうか分からない。強引に()()()から暫くは大丈夫だとは思うが。時間がないことには変わりはない。

 

「……すみません」

 

男の服を掴んで無理やり移動を開始する。

呆然自失となった男からの抵抗は無かった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

男を裂け目へと放り投げた後、戦闘音を少年の耳が拾った。急いで発生源に駆け付けるとエーテリアスの群れに囲まれていた兵士たちが、武器をそれぞれ発砲し、何とか押し留めていた。何かを守るように周囲に展開している。彼らの中心に目を向けると武装をした少女が目に浸食を受け倒れていた。恐らく彼らはその少女を必死に守ろうとして戦っているのだろう。

 

自身の周囲にある空気を()()、彼らを巻き込まないよう腕を振りぬいた。

 

ーーやがて突風は止み、エーテリアスの群れは消えた。

 

突然の事態に困惑する彼らに近づいていく。

 

「……子供?」

 

自分の姿に気が付いた男性が呟く。どうやら混乱しているようだ。

 

その時、少年の頭の中で()()()()()()()、どうやら目の前の人物たちを知っているようだ。

 

話を聞くに予定されていた援軍を打ち切られてしまった先遣隊のようだ。

一先ず、彼らの信頼を得なければならないと、身分を偽ることを提案される。

 

「……自分は、後続隊から飛び出してきた新人です。装備は……すみません軍に背いたので着るわけにはいかず……、兎に角自分について来て下さい。此方に出口に繋がる裂け目を発見しました」

 

信じたかは分からないが沈黙の中、突如として隊員の一人がいきなり吐血し地面に倒れた。

 

ギョッとしてそちらに目を向けるが非常に危険な状態のようだ。

他の隊員の様子も見る。

 

全員何とか生きているようだが、状況は最悪だった。

足が折れている者、腹部から出血している者、意識が混濁している者、全員満身創痍だ。

 

水色髪の女性が少年の前に出て腕を掴み、懇願する。

目に浸食を受けて倒れた少女を指す。

 

「頼む……この子だけでも……他はもう……助からん……」

 

女性の顔は土と血にまみれていた。体中には既に微細な結晶が出来上がっていた。浸食が始まっている、周りの隊員にもだ。

涙なのか汗なのかわからないが、必死に少年を見つめていた。

 

「この子だけは……生かしてやってくれ……!」

 

その瞬間、

少年の頭の中には先ほど自分が無理やり助けた男の姿が浮かんだ。あの生きることに絶望したくらい瞳。思わず女性の腕を振りほどいた。

 

「ふざけないで下さい……!」

 

女性の目が見開かれる。

 

「“自分だけ助かる”って、どれだけ重いかわかってるんですか!?」

 

少年の声が、震えた。

 

「……残された人間がどんな地獄を生きることになるか、知らないからそんなことが言えるんだ!貴女達はまだ、全員生きてるんだろう!? 諦めるな……! 生きることを、見捨てるな!被災者の救助に派遣された先遣隊なら、まず自分と仲間である彼女を救って見せろ……!」

 

全員が驚き、閉口したまま、じっと少年を見ていた。

やがて少年は地面に倒れている少女の手を掴みカロン小隊長と呼ばれた女性の前に運び、しっかりと持たせる。

 

「……この子の手を離すな。最後まで……どうか一緒に生きてください」

 

女性の顔に、苦悶と涙が混じる。

だがその手は、しっかりと少女の手を握り直した。

 

「自分について来て下さい。大丈夫です、全員助かります……!」

 

 

ーーーーーーー

 

 

歩けない者、意識のない者は少年が担いで運んだ。隊員は軽く何人も担ぎ上げる力に驚いていたが無視して脱出を優先した。

足が無事なものは何とか後ろからついて来てくれた、流石軍人、体中に激痛が走ろうとも弱音一つはかない、浸食が進まないよう周囲の空気に息を()()()()エーテル粒子を吹き飛ばすなどしていたが、果たしてーーー

 

裂け目を通り全員無事にホロウから脱出した。

 

避難してきた者を保護している集団に何とか出会い、小隊を全員引き渡した。

後遺症は残るだろうが全員命に別状はないようだ。一先ず安心するがすぐに気持ちを切り替える。

 

まだ終わりじゃない、あの場所ではまだ苦しめられている人がいる。零号ホロウへ引き返そうとしたところ、隊員の一人に声を掛けられた。確か……『レテ』といったか。

彼は頭に包帯を巻き、足を引きずるように歩き、此方へ向かってきた。

 

「……レテさん、無理はしないほうがいい。まだ、安静が必要でーー」

 

少年が言い終わるより先にレテは深々と頭を下げた。その肩は震えていた。

 

「軍に見捨てられた僕たちを……諦めなかったこと、一生忘れない……!キミの所属と、キミの名前を教えてほしい……!」

 

彼の声はかすれていて、言葉を紡ぐのに何度も息を継いだ。

突然のことに少年はたじろぐ。

 

「えぇっと、所属は……すみません軍を抜けたので……でも名前なら…」

 

その問い掛けに少年はかなり苦悩したように唸っていたが、やがて決心したようにレテに向き直り、口を開いた。

 

「……自分の名前はダイナ、ダイナ・アレックスです。どうか生きて、……生きてまた会いましょう」

 

レテはその名を聞き再び深く頭を下げる。

 

「……ダイナ、アレックス……。我々は…君と、この恩を絶対忘れない……!」

 

少年の心にひとつ熱が灯る。

こんな言葉をかけてもらえる日が来るとは、思っていなかった。

その言葉に頭を下げ、少年はホロウへと向かって走り出した。

 

驚くレテが止める間もなくその姿は黒い壁へと吸い込まれていった。

 

 

 

地獄に、悲劇溢れる場所に再び戻ってきた。だが少年に恐怖はない。小隊の人たちに出会い、胸に何か熱いものが燃えているのを感じる。

 

その眼には決意が漲っていた。

 

「……行くか」

 

再び空気を押しのけ、駆けだした。

まだこの地獄で微かに揺らめく命の灯が消えぬうちに。

仲間たちに言われてやるんじゃない。これは、この行動は、自分が自分に課した“使命”とした。

 

少年の姿は衝撃と共に瞬く間に消えた。そしてその後、ホロウ内部の各地で”カゼ”が吹いた。

 

 

 

 

 

”カゼ”は零号ホロウが見せた皮肉な現象であると世間では認識されている。

当然だ、元はといえば零号ホロウによる災害でどれ程の人間が命を散らしたというのか。そもそも零号ホロウが拡大しなければまだ大勢の人間は今も大切な人と幸せに暮らせていたのだ。

 

災害が見せた気まぐれに感謝など考えられない!

 

ーーしかしそれで命をつないだ一部の人間には、それでも確かに”旧都陥落の奇跡”であると語られている。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

ーー時間は進み同じく場所は零号ホロウ内部

 

旧都に栄えていた建物が並ぶ都内で二体が相対していた。

 

狐耳の剣士と金属で覆われた知能機械人。

 

狐耳の剣士、星見雅は肩眉を下げ、少し解せない顔つきで相手を見ていた。

 

 

 

先の『ヒール』陣営の二体に比べ、その姿を視界に納めた時に雅が抱いた思いは困惑であった。

 

ーー強さを察知できない、奴の実力が測れない。

 

目の前のその力強い姿から、明らかに先ほど相手していた者より格上であると察せられる。

しかし、一向に相手の気配をまるで感じることができない。

 

一体何だこれは。

 

此方が持つ尺度に相手は存在していない。

空のようにどこまでも広がり、海のように底が見えない。

 

感じようとすればするほど、逆に“何も感じない”ことの異常さに気づく。

 

理解が及ばないという未知の冷たい感覚が、じわじわと脊髄を這い上がってくる。

雅にとってこの感情は覚えのないものであった。

 

「……俺は『ヒール』所属の戦闘員、コードネーム――――《ライノ》だ」

 

そう名乗った大型の知能機械人はその場でゆっくりと体を前方へ傾け始める。

全身を覆う鋼鉄の鎧が軋み、鋭く鳴る。

 

全身装甲が変形していき、ジェット機の先端を思わせる巨大な角が此方に向けられる。

 

その瞬間、奴は低く身を屈めた。

 

獣が獲物に飛びかかる直前のように。

 

その堂々とした動作に、次の意図がまるで隠されていない構えに、雅は訝しむ。

だが、冷静に刀身を構えて相手を鋭く見据えたところ、

 

目に映る前方の景色が、ーーー変わった。

 

「…………は」

 

ーー突如穏やかだった海が荒れ狂い、黒く濁った水で形成された”壁”が、全てを飲み込まんと音もなく迫ってくる光景、

 

ーー自身の立っていた大地が揺れ動き、大きな渓谷を形成し闇へといざなう光景、

 

ーー青い、希望の様な美しい空が真っ赤に燃え、大気を焼き、世界を砕きにかかる巨大な隕石が落ちてくる光景、

 

そんな理不尽な、人知の及ばない災害を雅は幻視したーー

 

「っ……!」

 

雅は跳んだ……!高く、遠く、この場から離脱するために。

何故こんな行動を取ったのかは雅自身にも分からない、ただ理屈などではなく本能に従った。

 

全力の跳躍、それは瞬く間に先ほどいた地面を遥か下に沈めていた。小さくなったライノの姿をその眼に捉える。

 

彼は依然として突進の姿勢を取り、前方の相手がいなくなったことに気が付いても構わずに一歩を踏み出した。

 

 

一歩。

 

ーービシッ

 

その瞬間周囲に”カゼ”が吹き荒れ、世界が崩壊したーーー

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

耳鳴りのような音が、地の底から響いた。

それが何かを理解する暇などなかった。

 

視界が白く弾け、次の瞬間、世界が裏返った。

 

轟音とともに、全身を何かに殴られたような衝撃が全身を襲う。

 

「!?……っ!、……~!?」

 

雅は空へ撃ち出されていた、飛んでるとも言っていい。

 

空を切り裂くように音が、気圧が、衝撃が、熱が体を押し上げ雅を天高くへと運んでいく。

 

巨大な洗濯機に突っ込まれたかのように目まぐるしく視界が変わる。

 

高度を上げ続ける体、未だ勢いは衰えないまま宙を舞う。

 

いつまで経っても生じない落下、衰えることなく高度はどんどん上昇していく。空に浮いている建造物などは遥か前に過ぎ去った。このままホロウの天井を突き抜け、宇宙まで放り出されてしまうのではないかという考えが頭によぎる。

 

この浮遊感の中一体何秒経過した?十秒?百秒?それともーー、

 

あれは、一体どれ程の力でこの身を空へ投げ飛ばしたというのか。だが、ただ力が強いというには明らかに何かがおかしかった。

 

何か根本的なものが違うという強烈な違和感が雅の思考を支配する。

 

重力は?慣性は?身体を引き戻す力は?ーーどこにもない。

 

しかし、突如として終わりは訪れた。

 

まるで、空間が自身の役目を()()()()()()()()()()、エラーを修正するかのように謎の引力が上昇し続けていた雅の体を、勢いよく()()()()()()()()

 

「……っ!?」

 

砕けた物理法則が元に戻り始める。帳尻を合わすように強引に、その異常な”カゼ”が吹き荒れた空間を修正していく。追い出された世界の法則がその場へと急ぎ、引き返していく。

 

豆粒のように小さくなっていた地面が急激に迫る……!

 

何故自身の落下にこれ程までの速度が加わっているのか……!?、そんな疑問を生じさせる暇もなく迫りくる死の気配に雅の体は警鐘を鳴らした。

 

刀を地面に向けて全力で振るった、狩るためではなく激突時の威力を相殺し、生き残るために。

 

 

やがて大きな衝撃と共に地面が爆ぜた。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

「はぁっ……! はぁ……!」

 

何とか、即死は免れた雅。肩で息を切らせながらその場に蹲る。

これは肉体的な疲労ではなく精神的なもの、理解し難い現象に巻き込まれ未だに現実味がない。

 

辺りを見渡せばそこには()()()()()()

 

あたかも巨大な手がここら一帯を掴んで引き剥がし、空へ持ち去ったかのように、ぽっかりと空白だけが残っている。

ただ、「あったはずのものが無い」という異常だけが、そこに立ちのぼっていた。

 

その時疲弊した雅の横に何かが飛来する。

 

ーーヒュドッ!

 

空を裂くような音とともに、固い物体が次々に落ちてきた。自然に舞い降りるのではない。まるで誰かが上空から力任せに投げつけているかのように、一直線にヒュドッ!と音を立てて地面へ突き刺さる。空気を裂くその勢いに、地面は悲鳴のような衝撃音を返す。

 

ー理解し難い異常な現象はまだ終わらないー

 

空に飛ばされたのは雅だけではない、周囲にあった建物もまた”カゼ”により上空へと持ち上げられたのだ。そして元の場所へ戻ろうと雅が実際に体験したように、下へと強力な引力が働くーー!

 

辺り一帯に()()()が降り注いだ。

 

瓦礫は大小様々、その全てが馬鹿げた勢いを伴い、地面へと吸い込まれていく。

 

 

「……、ぁああああ!」

 

雅は刀を振るった。

 

周囲の地面が爆ぜ、爆風で吹き飛んでいく中、自身の周囲が蒼い焔に包まれる。

 

蒼き炎を纏わせた斬撃が一閃

瓦礫を斬り裂き、残光を残して空を裂く。

次々に舞い降りる瓦礫、もはや隕石といっても過言ではないだろう。その一つ一つを、狂ったように刀で斬り捨てていく。

 

そして永遠とも思えた未曽有の大災害は突如として止んだ。

 

その場には刀を握る手はまだ離さず、足は地を踏みしめている星見雅がいた。

 

もはや周りは絨毯爆撃にあったような惨状。

 

数えきれぬほどの直撃を逸らした雅は肩で息をする。

 

「……は、っ……はあっ、……ぐっ……」

 

喉が擦れ、呼吸が乱れたまま整わない。何度も空気を吸い込もうとするが、肺はうまく膨らまない。

汗が目に入り、視界もにじむ。

 

だがそれでも星見雅は無傷で生き残ったのだ。

 

 

ーードォンッ!

 

爆音と共に、何かが近くに墜ちた。

土煙が舞い上がり、衝撃で地面が揺れる。

 

「……!?(まさかまだ……)」

 

 

思わず身をかがめて目を凝らすと、そこには――()()()()()()()()()ライノがいた。

 

「……!」

 

突然の襲来だが、予想外の姿に雅は目を見開く。

 

装甲は所々剥がれ、関節からは火花が散っている。

頭部には大きな亀裂。初めに見た巨大な角は完全にねじ切られていた。

けれど、その瞳――センサーだけは、赤く明滅しながら、じっとこちらを見据えていた。

 

「俺は……人が死ぬのを見たくないから、危なくなったら助けようと思ったが……まさか俺の本気の突進を生き延びるとは。マジでやばいんだな虚狩り、星見雅。……本当に人間なのか?」

 

先程の落ち着いた口調とは明らかに違う。動揺を隠せていない。

 

だが一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

 

次の瞬間、心の奥で、何かがピキリと音を立てた。

 

「(それは此方の台詞だ……!)」

 

歯を食いしばりながら、視線を敵に突き刺した。

湧き上がる激情。

拳が震えるのは、疲労のせいだけではなかった。

 

雅が息を吸い、視界の先の標的に斬り込もうと踏みしめた時であった。

 

それは突然現れた。

 

ーーピシリ

 

 

黒よりも深い闇の裂け目が、空中に走った。まるで誰かが現実を手で引き裂いたように、軋むような音と共にぽっかりと穴が開く。そこから”ナニカ”が、ずるりと這い出してきた。

 

最初に見えたのは巨大な鋭い爪を備えた腕、見るだけで理性を侵すような光をたたえていた。その腕を軸にして、全貌が静かに露わになっていく。空に咲いた巨大な花のような存在だった。背からは幾重にも重なる羽が広がり、それはまるで花弁のように繊細で、同時に圧倒的な威圧感を放っていた。その下半身には、咲き誇る花を模したかのようなスカート状の構造が揺らめき、風もないのに、どこか不可視の意志に従って舞っていた。

 

そして、何よりも恐ろしかったのはその巨大な頭部だ。あまりにも巨大なその「顔」には、目も口も鼻もなかった。ただひとつ、中心に穿たれた黒き球体が、すべての光を吸い込み、見る者の魂ごと呑み込むように、静かにそこに存在していた。

 

ーー相利共生型エーテリアス群・コード:ニネヴェ

 

下半身から放たれるエーテルの大奔流、ホロウ内部の異常を感知した彼女は脅威を排除せんと花弁の様な羽を広げ、掌をライノへと向ける。

 

巨腕が振り上げられた。

黒い影が地を裂き、空を覆う。

 

装甲が大きく損傷しているライノの姿はあまりにも小さく、今にも風に吹かれて消えそうに()()()()()()()()

 

ライノが巨大な質量に圧し潰されそうになる瞬間、

 

ーードゴォッ!

 

空気が爆ぜた。耳をつんざく破裂音。

雅の視界の中で、あの巨大なニネヴェ頭部があり得ない角度に曲がった。

 

ライノが行ったことは言ってしまえば単純だ。

いきなり現れた敵の攻撃を避けるために、空へ跳び、ニネヴェの頭部を殴ったのだ。

 

ただそれが、()()()()()()()()()()()()()一撃であった。

 

首にあたる部分は限界まで引き延ばされ、千切れかける寸前ーー()()()()()()

あと一歩、法則の修正が遅れていたら頭部はそのまま千切れ、吹き飛んでいたことだろう。

 

まるで時間が戻ったかのような光景であったがダメージは尋常ではない。ニネヴェの表面上は無事に見えても内部はズタズタにされていた。

 

しかし同時にライノの装甲が更に破壊されたのを認識した雅は気が付く。

彼が攻撃を繰り出すたびに、その衝撃で()()()()()()()()()()()()ことにーー

 

損傷は広がり、既に赤いセンサーを宿した彼の瞳は消失している。

 

彼の現状の理由に気が付いた雅だがそこで、ダメージによりニネヴェの体は傾いていき雅の方向へと吸い込まれるように倒れてきた。

 

「……!」

 

雅はすぐさま渾身の一刀をもって彼女の巨体を弾いた。斬撃の衝撃により、落下していた彼女の巨体は横へ逸らされ、爆風と土煙を巻き上げながら地面に沈んだ。

 

だがそれだけでは終わらない。

彼女に付き従っていたホーネットの大群だ。空から襲来し周囲に散開する。

更には地面から触手がコンクリート片を飛ばしながら現れた。

 

今まで前例のないほどのニネヴェの危機を察知した彼らは彼女を守るため、周りにいる者たちに攻撃を開始する。

 

「邪魔をするな……!」

 

雅の周囲に群がる大群を瞬く間に斬り伏せ、あっという間に周囲に動く者はなくなった。

 

急いでライノのいた場所に目を向ける雅だが、そこにはもう誰もいなかった。

荒れた地面に足跡だけが、かろうじて彼の存在を物語っている。

 

「逃げたか……」

 

悔しさが胸を締めつける。

 

しかし、目を離したのは自分の油断だ。

次は絶対に逃がさないと、強く心に誓った。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

ニネヴェの危機を察知したホーネットの暴走、そしてそれは零号ホロウにいる者に例外なく猛威を振るっていた。

 

「クソ……!なんだ急に」

 

悠真は刀で襲い掛かるホーネットの大群を切り伏せながら毒づく。

突如発生した地震が収まったかと思えば、所持していた計器が鳴り響き、故障した。

そして大きな音が遠くから轟くと、気が付いた時には大群に囲まれたのだ。

 

気が立っているのか非常に攻撃的で、この数はどう考えても尋常ではない。

 

「蒼角!」

 

柳は気絶している蒼角を守るため、周りに群がるホーネットを薙刀で斬り払っていた。

 

しかし突如地中から現れた触手が蒼角を捕らえた。振り回され、締め上げられる彼女を見て柳が悲鳴を上げる。

 

「くそ、次から次にっ……」

 

悪態をつきながら周りの敵を押しのけて、急ぎ援護に向かおうとする悠真よりも速く、隣にいた拘束したはずの危険人物が隣を駆けていった……!

 

「うぉおお!」

 

軋む体を何とか動かしつつ、上半身を縛られ腕を使えないスコーピオンは蒼角を掴んだ触手に頭から突進した。

 

衝撃に呻いたのか、触手は蒼角を手放し彼女の体は宙を舞う。何とか縛られた縄から尻尾を動かし、蒼角を掴み地面に着地する。

 

「……なんで……」

 

スコーピオンの不可解な行動に思わず呟く悠真。柳も驚いているようだ。

視線の先では尻尾を無理に動かして縄が余計に絡まったのか、体勢を崩し地面を転がるスコーピオンと蒼角。

そこに殺到するホーネット群。

 

必死で地面を這い、隣にいる蒼角に覆い被さることで庇う。その体は徐々に削られていく。

 

「ぐぅっ!……あぁ!」

 

苦悶の声を上げているのが聞こえる。

なぜそこまでして敵である此方を助けるのかと疑問と戸惑いが二人の胸を締めつける。

 

しかし、助太刀に行きたいが全員自分のことで手いっぱいであった。あまりにもエーテリアスの数が多すぎる。

 

やがてスコーピオンと蒼角に巨大な触手がにじり寄り、二人を叩き潰そうと迫る。

 

「……危ない!」

 

柳が叫ぶがとても間に合いそうにない。

 

触手が体を勢いよく振り落した

だがその刹那、空を裂くような風切り音が響いた。

 

「蒼角ちゃんに何するんじゃあ!ボケが!」

 

救いの手は空から現れた、ファルコンことクロエである。

圧倒的な速さで蹴りを繰り出し、触手を貫いた。

 

「っ!?」

 

「あいつは!?」

 

雅が追っていた相手が現れ、二人に動揺が走る。だが当の本人は気にせずスコーピオンの拘束を翼で断ち切ると、そのまま「よし、やってしまえ!」と命令する。

 

自由となったスコーピオン。悠真と柳にとって本来なら極めて危険な状況のはずだが、先ほどから相手の動きが読めない。

一体何をするつもりだと注目していると突如尻尾の先端が変形し始めた。だが損傷のためかその動作は鈍い、最終的に苛立ったように素手で無理やり捻って変形させた。

 

「全員、目を閉じていろ!」

 

スコーピオンがそう言うと尾から金属の装置が軋む音を立て、そこから濃い白煙が噴き出す。

煙は渦巻きながら一瞬で周囲を覆った。

 

思わず目を閉じる悠真と柳。その煙は病院を訪れる時に嗅ぐ消毒液の様な匂いであった。

 

周囲にいた敵が次々と地に崩れ落ちる音が、空気の中に重く響く。

 

辺りが晴れるとそこには痙攣を引き起こし、体が崩壊し始めているエーテリアス達が目に入った。

そのエーテリアスの状態には悠真と柳は覚えがあり、まるでホロウ外に出たかのようなーー

 

そこでふと気が付く、あの知能機械人たちの姿がないと。先ほど彼女たちがいた場所には蒼角が倒れている。

 

慌てて、周囲に視線を巡らせると遠くに逃亡者たちの姿を捉えた。

 

ファルコンがスコーピオンの尻尾を掴んで、後ろも見ずに全力で飛行していた。

 

「それでは皆さん、お邪魔しましたぁあ!」

 

そのまま彼女を地面に引きずり、やがて高度を上げ一筋の疾風のようにその場を去った。

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

702:サソリ薬師 ID:zzztensei03

いや~何とか無事に逃げおおせたねぇ

クロエお前……引きずりやがって……!

 

703:カラスメイド ID:zzztensei04

ほんとすまんちょっと距離取るのに集中してて高度が……ネ

まあ今日はマジでやばかった……!

今回ほんと何度走馬灯が見えたことか……

でも一番怖かったのはダイさんがタックルの姿勢に入った時

 

704:サイ男 ID:zzztensei01

ちゃんと分かり易くしてただろ?

普段だったら不意打ち気味に放ってるんだから……

 

705:デンキウナギ ID:zzztensei02

ニネヴェがダイさんの前に出てきてマジで焦った。

ダイさん、それ殺っちゃだめぇ!?って全力で叫んでしまった

まじで大惨事になるとこだった。

 

706:カラスメイド ID:zzztensei04

一瞬で新エリー都の基幹を揺るがさないで下さいよ……

 

707:サイ男 ID:zzztensei01

……すみません

 

708:サソリ薬師 ID:zzztensei03

まあまあ、今はホロウ脱出を目指しましょう……!

帰るまでが遠足といいますし

 

709:カラスメイド ID:zzztensei04

遠足じゃねぇよ!?

まあでも大変だったけど、今思えば生6課に会えて嬉しかったけど……

でもなぁ……!死にかけたし……、いやよく考えたら嬉しさの圧勝だわ、むしろ役得といっていいのでは!?

 

710:デンキウナギ ID:zzztensei02

相変わらずスゲーなこいつ

ここまでくると感心するわ

 

711:サソリ薬師 ID:zzztensei03

それで?こっからどうすんべ

取り敢えずホロウを出て私達所有のセーフハウスに行った方が良い?

 

712:軟体エンジニア ID:zzztensei05

うん、そうだね今さっき送った座標のセーフハウスでアキラと一緒に待ってるよ!

いや~終わり良ければ全て良しってね!

 

713:サソリ薬師 ID:zzztensei03

お前は首を洗って待っておけ……!

 

714:カラスメイド ID:zzztensei04

リアルアイアンクロー喰らわせてやるからな……

勿論お前だけ生身な、頭蓋破壊してやる

 

715:軟体エンジニア ID:zzztensei05

あれぇ!?もしかしてまだ怒ってる!?全員無事でハッピーエンドじゃないの!?

いやほんとごめんって、マジで!勿論壊れた武器もスーツもちゃんと修理するから変な機能とかも付けないから!

 

716:カラスメイド ID:zzztensei04

そんなん、当たり前だろうが……!

 

717:サソリ薬師 ID:zzztensei03

私達はお前を除く全員無事が幸せな結末なんだよ

元凶は消える運命なのだ……

 

718:デンキウナギ ID:zzztensei02

俺もちょっといいか?……今回の件はマジで心臓に悪かった

よって元凶には俺たち全員の制裁を一発ずつ受けてもらおう

 

719:軟体エンジニア ID:zzztensei05

!??!?

 

720:サソリ薬師 ID:zzztensei03

おーいいね

 

721:カラスメイド ID:zzztensei04

賛成!

 

722:サイ男 ID:zzztensei01

あー俺はいいや……、ドクの作ってくれたスーツ壊しちゃったし、俺のだけ多重構造の耐久特化で材料費も高いのに申し訳ねえ

 

723:軟体エンジニア ID:zzztensei05

……ほっ

 

724:サソリ薬師 ID:zzztensei03

チッ、命拾いしやがったなこの野郎

 

725:カラスメイド ID:zzztensei04

末っ子だけ優遇するの反対!そもそも元を辿ればドクが全部悪いだろ!零号ホロウに入らなかったら全て避けられてたことだろ!

 

726:デンキウナギ ID:zzztensei02

ダイさんもドクを甘やかさないで下さいよ、今回のはほんとに危なかったんですから、怒るのも優しさですよ!

 

727:サイ男 ID:zzztensei01

……確かにそうだな、じゃあ分かったドク

後で歯を食いしばれ

 

728:軟体エンジニア ID:zzztensei05

ちょ!?ほんとスイマセンっした!

マジで勘弁してください!靴でもなんでも舐めるんで!!

 




ダイさん活躍は今後少なくなるな……

被害がえぐ過ぎるんじゃ!
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