転生者達の新エリー都、二足のわらじ生活   作:フライパンソルジャー

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感想ありがとうございます!

ストックが切れてしまったので遅れてしまいました……!申し訳ない!


原作開始
原作開始、メディア露出


窓から差し込む柔らかな光が、机に置かれたコーヒーカップを照らしている。アキラはそのカップを片手に、ぼんやりとテレビの画面を眺めていた。

 

昨日の『ヒール』の仲間たちの活躍というより惨事に巻き込まれ、零号ホロウを彷徨ったのだ。その後謝罪を受け、夜分遅くに彼らのセーフハウスから戻ったのだ。

 

そのせいで意識はまだ完全に覚醒しきっていない。

寝ぼけ眼のまま、香りだけが頼りのコーヒーをすすりながら流れる朝のニュースに耳を傾ける。

内容は特に代わり映えのないものだった。いつもの、何でもない平和な朝ーー

 

だと思ったそのときだった。

 

画面が一瞬、ぶつりと切り替わる

 

「——失礼します、速報が入りました。繰り返します、緊急速報です!」

 

リポーターの声が一瞬うわずっている。スタジオの空気が一変したのが、画面越しにもわかった。

 

急になんだとアキラは気だるげに目を向ける。

 

「今朝、調査協会は、世間を騒がす正体不明のホロウレイダー集団『ヒール』に関する新たな情報を公開しました。

なんと、構成員とみられる四人の姿に関する情報が得られ、うち二人は零号ホロウ周辺に設置された監視カメラにその姿が記録されていたとのことです!」

 

コーヒーを噴出した。

気管に液体が入り、何度も咳き込む、もはや眠気は一瞬で吹き飛び、目線は画面に固定された。

 

「映像がこちらです! ご覧ください……!

大柄な知能機械人と、小柄な知能機械人の二体が、現場に急行する様子が記録されています。

大きい方はサイを思わせる外見で、対ホロウ行動部第六課の証言によると『ライノ』と名乗っていた模様です。小柄な方は現在も身元不明ですが、背中から四本のアームを備えており、特徴的な姿をしていますね……!」

 

やられた、とアキラは呻く。

 

二人とも、現場へ急行するあまり監視カメラの存在には気づかなかったのだろう。

これまで情報が伏せられていた『ヒール』の構成員の一部が、ついに世間の知るところとなってしまった。

 

謎に包まれていた組織の情報にリポーターの興奮は隠しきれなかった。

 

「また、映像はありませんが、六課隊員の証言を元に作成された“似顔絵”がこちらです。……あっ、これは失礼。どうやらこちらは第六課の蒼角隊員による落書きのようなもので……改めて正式な似顔絵がこちらです!右の知能機械人は『スコーピオン』、左は『ファルコン』と名乗っていたようです。」

 

一瞬映った子供の落書きのような絵に困惑したのも束の間、本物の似顔絵に切り替わった瞬間アキラの表情はさらに強張った。

 

——これは、もう似顔絵の域を超えている。

見た者なら誰でもわかる。まさに“本人そのもの”と言ってもいい完成度だった。

 

仲間である陣営のリーダーを除き、メンバーの姿が世間に晒されてしまった。当然ながらアキラの心中は荒れ狂っていた。

 

彼をおいてニュースは無情にも流れ、対峙した六課の面々が取材を受け、怪しい専門家やらなんやらがしたり顔で自信満々に勝手に考察を紡ぐ。

 

……六課の面々と専門家の表情がとても対照的だったが、もはや彼には何も聞こえていなかった。

 

唖然としているとドタドタと駆け寄る足音が聞こえた。

顔を向けると同じくニュースを見たのか妹のリンが慌てた様子で扉を開けて入ってきたのが見えた。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

91:デンキウナギ ID:zzztensei02

情報によれば邪兎屋が昼頃に赤牙組の縄張りに侵入し金庫を盗みだす

いよいよ原作開始だ

お前ら、準備はいいか?

 

92:サソリ薬師 ID:zzztensei03

イエー!最高、エビバディセイ!

 

93:軟体エンジニア ID:zzztensei05

キマシタワー!

 

94:カラスメイド ID:zzztensei04

邪兎屋しか勝たん!

 

95:サイ男 ID:zzztensei01

初回から飛ばし過ぎだろ、完全にニュース報道を待ってる雰囲気じゃねえな

とにかく、今日、”金庫”がホロウに落ちるんだな?

 

96:デンキウナギ ID:zzztensei02

そそ、偶然な、偶然

運悪く"中"に落ちてしまう……!

いや~困ったな、物権が消滅してしまうな

これを偶然拾ってしまっても窃盗にならないんだよな~

 

97:カラスメイド ID:zzztensei04

確信犯で草

 

98:サソリ薬師 ID:zzztensei03

ま、私たちは知ってるだけでこの一連には一切関与してない……

変化があれば介入する予定だったけど、問題なく始まりそうだな

 

99:軟体エンジニア ID:zzztensei05

なんかフラグ立てといたほうがいい?

まあ大丈夫、このままうまく行くはず……!

 

100:デンキウナギ ID:zzztensei02

やめろ

 

101:軟体エンジニア ID:zzztensei05

今全員ニュース見てる感じ?

ちなみに自分、過労で病院です

前回壊れたスーツ全員分直しながらカスタムショップの仕事こなしてたら、そりゃ倒れますわ

ダイさんのは……まだ出来てないです

 

102:カラスメイド ID:zzztensei04

うわ、可哀想……エンゾウおじさんが……

 

103:サイ男 ID:zzztensei01

無理すんな、ゆっくりでいいぞ

 

104:サソリ薬師 ID:zzztensei03

雇われが急に倒れるとか心配かけさせるなよ

 

105:デンキウナギ ID:zzztensei02

全てお前の自業自得な、はよ全部直せ

 

106:軟体エンジニア ID:zzztensei05

酷い!?何でそういうこと言うんですか!

こっちだって怒りますよ!

ン゛ヌ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ウ゛(憤怒)

 

107:カラスメイド ID:zzztensei04

うるせぇ!

 

108:デンキウナギ ID:zzztensei02

逆切れすんな……!

 

109:サソリ薬師 ID:zzztensei03

はぁ……まあ、私のやつ直してくれてありがとうだけどさ

なんか機能増えてないかこれ?

性能も上がってるし……

 

110:軟体エンジニア ID:zzztensei05

凝り性なんで!

せっかく作るなら楽しまないと……ロマンですよ、ロマン!

ダイさんのは自動修復機能付きでいこうかなと

 

111:デンキウナギ ID:zzztensei02

おおん……そうか

焦らなくていいからな、全然ゆっくりでいいぞ!まじで!

 

112:カラスメイド ID:zzztensei04

あ、さっきの「ニュース見てる?」って話……

私は見てるよ

てか隣のベットにいるのが私だ、カーテン開けてみ

 

113:サイ男 ID:zzztensei01

は?

 

114:軟体エンジニア ID:zzztensei05

え、マジで?

……ほんとじゃん、何してんのこんなところで

 

115:カラスメイド ID:zzztensei04

リナさんが今日私のために手料理を振る舞ってくれてな

 

116:サソリ薬師 ID:zzztensei03

あ……(察し)

 

117:デンキウナギ ID:zzztensei02

よく生きてたなお前

 

118:カラスメイド ID:zzztensei04

だが、本気で悔しいな……!

あと一口で完食出来たのに、体が持たなかった……!

最後の光景はライカンさんがこっちに慌てて駆け寄ってきたところで終わっている

その後救急搬送されたらしい

 

119:デンキウナギ ID:zzztensei02

ほんとによく生きてたなお前!?

 

120:サソリ薬師 ID:zzztensei03

なんで食い切ろうとしてんだよ……(震え)

 

121:サイ男 ID:zzztensei01

まじかよそれ、毒でも入ってたんか?

 

122:軟体エンジニア ID:zzztensei05

そんなところです

彼女の料理は闇の錬金術の産物といっても過言ではないです

 

123:カラスメイド ID:zzztensei04

だって!残せるわけないじゃない!

リナさんが()()()()()ですよ!?笑顔で皿までかっ込んでやりますよ!

 

124:デンキウナギ ID:zzztensei02

体より頭を見てもらえ

 

ーーーーーーー

 

151:軟体エンジニア ID:zzztensei05

そういえばボクらのニュース見た?

リーダー以外のスーツ姿がバレたやつ

リポーターが凄い興奮してたよね~

 

152:サイ男 ID:zzztensei01

まさか、監視カメラがあるとは……

焦ってて気が付かんかった

 

153:デンキウナギ ID:zzztensei02

似顔絵もめっちゃ似てたな

もはや写真

 

154:カラスメイド ID:zzztensei04

一回蒼角ちゃんの絵が出てきたのは嬉しかった……!

あの絵頼んだら貰えないかな!

 

155:サソリ薬師 ID:zzztensei03

わかる、普通に欲しいな

てか正体ばれても特に問題ないな

今まで偶然広がってなかっただけだし

 

156:軟体エンジニア ID:zzztensei05

あの専門家たちは初めて知ったんだけど、どなたなの?

「恐らくヒールの奴らは今回の件で姿が割れたことで動揺が隠せていないでしょう……」だってさ

 

157:デンキウナギ ID:zzztensei02

そんなことないのにな

出会ったやつは大抵敵で全員壊滅させてきたから姿が割れなかっただけだし……

バレてまずかったら所属名とコードネームなんか名乗らないし

 

158:カラスメイド ID:zzztensei04

ゲンドウポーズのまま話している奴いたしな

今までバレなかったのは隠してたんじゃなくて単に偶然だし、こういう時どういう顔をすればいいか分からないの……

 

159:サイ男 ID:zzztensei01

笑えばいいと思う

後、自由奔放な”ならず者集団”なんて言われてたな

一応表では社会的義務を果たしてるんだが……

 

160:カラスメイド ID:zzztensei04

アキラとリンは凄い心配してきたな

一応大丈夫だって言ったけど

ごめんなさいほんとはこれスーツなんで……!

中身は人間なんです!

 

161:サソリ薬師 ID:zzztensei03

ああ、でも過剰なまでに脅威だと判断されるのはまずいな

結構私たちが戦闘力あるの浮き彫りになったからかな……

 

162:軟体エンジニア ID:zzztensei05

ボクとか姿が映ってただけなのにヒールのメンバーってだけで警戒対象にされたし……

 

163:サソリ薬師 ID:zzztensei03

私らも暴れたから勿論なんだけどダイさんについては特に危険視されてたな

 

164:カラスメイド ID:zzztensei04

雅さんが「次は決死の思いで臨む」って言ってたのがやっぱ衝撃的だったな

虚狩りの言葉だからか完全にダイさんが最危険人物扱いになっててウケる

 

165:サイ男 ID:zzztensei01

何もウケねーよ

 

166:デンキウナギ ID:zzztensei02

ダイさんが何したかの詳細はどのニュースでも語られて無いな……

予想通りだけど、多分情報の規制が入ってる

 

167:軟体エンジニア ID:zzztensei05

そりゃそうだよ

 

168:カラスメイド ID:zzztensei04

雅さんがやる気満々だよね

どちらが勝つにせよ戦闘で周囲の被害が凄いことになりそう

 

169:デンキウナギ ID:zzztensei02

デーモンコアの上と下かよ

絶対この二人を鉢合わせんなよ

 

170:サイ男 ID:zzztensei01

おい誰がや

 

171:サソリ薬師 ID:zzztensei03

お、そうこう話してる内に来たぞ

十四分街の報道が入った

この金髪のガタイは良いけど気弱そうな男……

 

172:デンキウナギ ID:zzztensei02

出たよ、ブリンガーや!

第一部のラスボス……!

 

173:軟体エンジニア ID:zzztensei05

完全にどもっちゃってるよ

覇気がないから日和見主義者扱いは納得できるな~

 

174:カラスメイド ID:zzztensei04

市民に良い印象を持たれようとキャラを演じてるんだろうけど初手からメッキが剥がれてるのウケるな

 

175:サイ男 ID:zzztensei01

はぁ……ブリンガーが讃頌会のメンバーねぇ……

旧都陥落で活躍したって聞いてたから、内心ちょっとショックだわ

 

176:サソリ薬師 ID:zzztensei03

まあ、世間はそう認識してるよな

ブリンガーも行方不明になる前までは高潔な治安官だったけど、いったい何を目撃したのか……

 

177:デンキウナギ ID:zzztensei02

でも今はもう関係ないな

こいつはもう変わってしまったので遠慮はいらないですよダイさん

 

178:カラスメイド ID:zzztensei04

そうそう!雅さんの所有物を勝手に盗み、嬉々として本人の前で掲げて襲い掛かってくる危険な奴です……!

 

179:サイ男 ID:zzztensei01

……変態か?

 

180:サソリ薬師 ID:zzztensei03

そうだけど、そうじゃない……!

いや、部分的にそうか……?

 

181:軟体エンジニア ID:zzztensei05

アキネ〇ターかな?

 

182:デンキウナギ ID:zzztensei02

こいつはマジで重要な証拠を持ってるからな……!

ボコボコにされた後はマドハ〇ド状態になるからそこを確保するつもりだ……!

 

183:サイ男 ID:zzztensei01

変身もするのか、この変態

 

184:軟体エンジニア ID:zzztensei05

ああ、ダイさんのブリンガーに対する印象が完全に変態に……!

まあいいや、今のブリンガーの尊厳にはそこまで興味もないし

 

185:サソリ薬師 ID:zzztensei03

朱鳶さん切れちゃう

 

186:軟体エンジニア ID:zzztensei05

まあ始まりの主?の何か強大な力に魅入られちゃってるなら、正気に戻して此方に取り込むのはどう?

その方が協力的になって情報もたくさん出してくれるでしょ

 

187:デンキウナギ ID:zzztensei02

ブリンガーが強大なフィジカルに魅入られてるなら……可能性はあるが……

 

188:カラスメイド ID:zzztensei04

ダイさんにお話合い(物理)をさせるのは?

多分タックル一発で改宗決め込むでしょ

 

189:デンキウナギ ID:zzztensei02

先にブリンガーが召されるわ……!

 

190:軟体エンジニア ID:zzztensei05

お、ついに正ーー義ーー実ーー行ーーだあああ!!!

改めてみると普通に放送事故なんよ

何でつまみ出されないの?この人

 

191:サソリ薬師 ID:zzztensei03

これは酷い

ブリンガーも内心困惑だろうな

 

192:軟体エンジニア ID:zzztensei05

まあこのニュース記者のおかげで、Fairyがアキラたちのところ行ったからね

規制音激しいけど……

……これがニュース記者の姿か?

 

193:デンキウナギ ID:zzztensei02

取り敢えずアキラが邪兎屋の二人を連れ出してくれるだろ

その後の金庫回収に同行しよう

人選は……まあマオだよな

 

194:軟体エンジニア ID:zzztensei05

ですよね

消去法で今動けるのがマオとリーダーしかいないしね

 

195:カラスメイド ID:zzztensei04

私は這ってでも行くぞ……!

 

196:サイ男 ID:zzztensei01

安静にしてろ

 

197:デンキウナギ ID:zzztensei02

俺は正直外せない用事があるので、その時が来るまで待機しておく

もし俺が行くことになったら過労で倒れちまうよ(ガチ)

 

198:サソリ薬師 ID:zzztensei03

なんで勝手に半壊してるんですか私ら

 

199:サイ男 ID:zzztensei01

もう終わりだよこの陣営

 

200:サソリ薬師 ID:zzztensei03

まあ、選ばれたのはホントに嬉しいが……

万全の準備を整えてFairyを迎えにいく

ついでに私は()()()()も果たせるからな!

 

201:デンキウナギ ID:zzztensei02

確かに都合はいいかもな

じゃあ、任せたぞ、成功することを祈っとく

はぁ、早く対象の位置情報割れねえかな…

 

202:サソリ薬師 ID:zzztensei03

了解!

 

203:軟体エンジニア ID:zzztensei05

今回ばかりはしゃーなし

LIVEで我慢するよ

 

204:カラスメイド ID:zzztensei04

……安静にしてます(血涙)!

 

205:サイ男 ID:zzztensei01

頑張れよ

……もしマオの目的が達成されたら、また俺ら世間から狙われる理由が増えるんじゃ……?

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

乾いた風が吹き抜ける駐車場で、三人は沈黙を守っていた。

陽が落ちきる前の微かな光が、コンクリートの上を赤く染めている。

 

「……店長、遅えな」

一人が口(口は存在しないが)を開いた。赤いジャケットを着こんだ知能機械人、ビリー。その声にはかすかに困惑が混じっていた。

 

「まさか、約束を破るなんてことはないでしょうね……!」

 

桃色の髪を揺らしながらニコが言いかけ唇を噛む。

それを制するように、ヘッドホンを装着した白い髪の少女、アンビーが冷静な声で言った。

 

「落ち着いて、ニコ。プロキシ先生は強力な助っ人を連れてくるといっていた……。」

 

三人は《邪兎屋》のメンバーだ。

街の便利屋として知られるが、その裏ではホロウにも踏み込む危険な依頼も扱っている。

実力に対する評価は高いが金銭感覚や管理能力はだいぶ怪しく、ニコの無鉄砲な性格もあってインターノット上で不満を持たれることも多い。

 

ある日、不幸なことに依頼の最中十四分街に存在するクリティホロウに従業員のビリーとアンビー、そして依頼品の”金庫”を落としてしまった。

 

事態を重く見た邪兎屋の社長であるニコが、伝説のプロキシ『パエトーン』に助けを求め、ビリーたちと金庫を無事にホロウから救出する任務を依頼するのだった。

 

そして無事に従業員は救出されたが肝心の金庫は未だにホロウ内部である。

 

本日、遂に金庫を取りに行く計画の決行日であった。パエトーンを待っている三人であるが、時間が過ぎても現れないパエトーンに首を傾げていた。

 

だが、そのとき。

 

「……ごめんよ、待たせたかな」

 

柔らかく、どこか申し訳なさそうな声が風に乗って届く。

歩いてきたのは、優男風の青年、アキラ。三人が待っていた『パエトーン』の一人である

 

「ちょっとプロキシ、一体どれだけ待たせるつもりなのよ!?今回がどれだけ重要な依頼か、分かってるの!?」

 

当然遅れたアキラに怒気を含んだ声でニコが詰め寄る。

 

「本当に申し訳ない。……でも、重要な依頼だということは十分に理解してるつもりだよ……」

 

そう言ってアキラはふっと笑みを見せた。

 

「だからこそ、"助っ人"を連れてきた」

 

その言葉に、三人の視線が周囲を走る。だが、駐車場にはアキラ以外の気配はない。

アンビーが訝しみながらアキラに尋ねる。

 

「どこに? 一人で来たように見えるのだけど?」

 

アキラは困ったように口元だけで笑うと、無人の空間を指差した。

 

「ここにいる。……彼女が助っ人だ」

 

ビリーが目を細める。

 

「……おいおい店長、ふざけてる場合じゃねぇぞ。もしかして“見えちゃいけねぇモン”でも見えてるんじゃねぇだろうな……?」

 

ニコも怪訝な顔をして首を傾げる。

 

ーーが、その瞬間だった。

 

誰もいないはずのその空間が、かすかに歪んだ。

空気が震え、光がゆらめく。

 

「……っ!?」

 

三人は驚いて一歩、後ずさった。ニコは小さな悲鳴を上げ、ビリーはその場で跳び、体を浮かせる。アンビーは鋭くその場を睨み武器に手を掛けた。

 

突如として“それ”は姿を現した。

異形の知能機械人だった。

 

サソリのような尾を持つその機体はまるで組み立てたばかりのように輝き、真新しい金属部品で構成されていた。精密かつ高価なパーツで、外装には傷ひとつなく、関節部の可動も非常に滑らかである。

 

手には頑丈そうなケースが握られていた。

 

そして、その人物の姿を見た瞬間ーー三人は息を呑んだ。

 

「……まさか……!?」

 

ここ最近のテレビやネットで何度も見たあのシルエット。

インターノットを騒がす、伝説のホロウレイダー《ヒール》。

あの対ホロウ六課が遭遇したことで漸く露わになったその姿。コードネーム―――スコーピオン。

 

「うそでしょ……あんた、本物?」

 

ニコが呆然と絞り出すように呟いた。

 

「お初にお目にかかる、邪兎屋の諸君」

 

その声は金属的な残響を帯びながらも、確かな知性と静けさを湛えていた。

 

「私はパエトーンの協力者、『ヒール』所属の薬理開発担当――スコーピオン。今回の依頼、実に興味深い。微力ながら、力を貸させてほしい」

 

そう名乗った瞬間、彼女の周囲が再び微かに透明になり、そして元に戻った。

 

「ステルス機能……完全光学迷彩……」

 

「うおおおッ!!マジかよ! そのボディ、最新型の複合装甲じゃねぇか!?」

 

アンビーが驚きに目を見開く。

ビリーは目を輝かせてスコーピオンに詰め寄った。

 

スコーピオンはどこか照れたように顔を傾けていた。

 

アキラが苦笑交じりに言う。

 

「彼女は最近、世間に姿を知られるようになったからね。驚かせるつもりじゃなくて、姿を見せることができなかっただけさ」

 

スコーピオンは一歩前に出ると、まだ驚きの冷めやらぬニコに手を差し出した。

 

「今回の依頼、私の個人的な目的も兼ねているが……報酬は不要。同行させてもらえるだけで十分だ。どうか、よろしく頼む。邪兎屋の社長ニコ・デマラ。」

 

 

ニコはその手を見て、やがて大きく笑い、握りしめた。

 

「おほほほほ!まさか大物が自ら協力を仰いでくれるとはね!ええ、ぜひよろしく頼むわ!」

 

その上機嫌な社長の様子を見た従業員二人は顔を寄せ合い、ひそひそと声を潜める。

 

「……なあ、これってニコの親分、絶対ツケを払う羽目になるんじゃねぇか?」

 

「間違いなくね。後々値切り交渉なんて夢のまた夢よ。ーー彼女、性能だけじゃないわ。実力も相当高いわ……。プロキシ先生が許しても……交渉は絶望的ね。」

 

「ええと、聞こえてるんだけどな……二人とも。」

 

こうして伝説の二人――『パエトーン』のアキラと『ヒール』のスコーピオンを加え、邪兎屋のホロウ再突入計画は、正式に動き出した。

 

そして三陣営の影がホロウの闇へと静かに溶けていった。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

中へ足を踏み入れた。金庫の位置情報に向かい足を進めていく。

 

そして突然、エーテリアスが容赦なく襲いかかってきた。

 

邪兎屋の面々は散開し、戦闘を開始する。

 

ニコはアタッシュケースに内蔵された銃火器による射撃で敵の動きを封じ、距離を保ちながら冷静に対処していく。

 

アンビーは機敏な動きで間合いを詰め、鋭い一閃で敵を一体ずつ雷を纏ったブレイドで斬り伏せていく。

 

ビリーは軽快なフットワークで敵の間をすり抜けながら、弾幕のような連射で応戦する。

 

そして距離が離れ、孤立していたスコーピオンにエーテリアスが殺到する。

 

だが、スコーピオンは動じない。

片手にケースを携えたまま、優雅に尻尾をしならせーーその一撃で敵をまとめて吹き飛ばす。

 

一体、二体、三体。数など関係ない。

障害は瞬く間に処理され、彼女は振り返りもせず、先へと歩を進めた。

 

「すげぇ……なんつー威力と精度だよ……!」

 

「片手はケース、もう片方も使わず……最低限の動きで対処完了。少し、笑えないわ……」

 

伝説に恥じぬ実力の高さに戦慄する三人。

 

「それで……もう一人の伝説はさっきからボーっとしてばかりね……。ちょっとプロキシの『パエトーン』さん!こっちは大金を払って雇ってるんだからね!これ以上サボったらインターノットで低評価つけるわよ!」

 

ニコが大声で話しかけるが、アキラが操作するイアスは何も返さず足を進めるのみであった。

その様子に、前にいたスコーピオンがニコとイアスに近づいてくる。

 

それを見たビリーが焦ったように間に入った。

 

「ちょっと違ぇんだ!ニコの親分は本気で言ってるわけじゃなくて、じゃれて言ってるていうか……!」

 

更にアンビーがエーテリアスはもう周囲に存在しないが、武器に手を掛けて黙って此方を警戒するように窺っている。

 

「ん?ああ、それは別に気にしていないが……、少しアキラの様子が気になってな。……どうやら調子が悪いようだ。」

 

なんでこんなに焦っているのか疑問に思ったスコーピオンだが、一先ず誤解を解きイアスを片手で抱え上げる。イアスは何も答えない。

 

「ふむ……通信が不安定になっているようだ、彼が戻るまで休憩といこう」

 

「ええ!?大丈夫なのプロキシは!?」

 

現在ハッキングされている最中なのは知っているが此方からできることは無いと理解している。

 

心配ないさと言い、邪兎屋の三人に不安を与えないようにしておく。さらに向こうで戦う兄妹に此方は大丈夫だと伝えるように腕の中のイアスをしっかり抱える。ホワイトノイズの部下は此方がピンチになる映像を見せて二人を焦らせる気だろうが私がいるから問題ない。

 

「少し話をしないか?共通の知り合いが不在なんだ。世間話やアイスブレークなどして仲を深めようじゃないか。」

 

スコーピオンは周囲の瓦礫に座り、三人に語り掛ける。

 

三人も案内がいないのであればどうしようもないと思ったのかそれぞれ周りから目立たない位置に座る。

だが三人からの気まずさを感じたのか、スコーピオンことマオは軽く笑みを浮かべ、ふと思い出したように言った。

先ずは提案した本人から話題を振るとしよう。

 

「そういえば……ニコは借金王としてそこそこ有名のようだな?かなり金使いも荒いようだが……実際の所どうなんだ?」

 

「ぶふぅ!?」

 

突如としてニコが吹き出す。水を飲んでいたら確実に噴いていたレベルである。

だがその一撃に、ビリーとアンビーがしっかりと食いついた。

 

「まあ、事実だしな!店長にも随分ツケを滞納してるしな……!」

 

隣で腕を組んでいたビリーが、ニヤニヤと意地悪く笑いながら追撃をかける。もはや情け容赦の欠片もない。だがそれが彼らの間にある信頼関係を示していた。

 

「帳簿が赤字続きでボディの修理代が満足に払えねぇんだ……、同じ機械人のあんたならこの辛さ分かるだろ……!」

 

それは冗談なのか、哀愁なのか。まるで破れかぶれな訴えに、スコーピオンことマオは少し困ったように眉をひそめ、曖昧に相槌を返した。

 

「おぉう……それはつらいな」

 

それでも当の本人であるニコは、開き直る気配もなく、両手を握りしめて叫ぶように訴えた。

 

「だってお金が……!、お金が足りないんだからしょうがないじゃない!!無い袖は振れないわよ!」

 

 まるで追い詰められた庶民の叫びである。迫真の熱演に、アンビーが淡々と一言、事実を突きつける。

 

「……ニコ。確かその時、あなたはいつもより依頼の報酬が良かったからといって、孤児院に玩具を羽振り良く届けてたはず。……その後、報酬を全額使ったことに気づいて慌ててたけど」

 

痛恨の記憶に、ニコはその場で崩れ落ちそうになった。思い出すのも恥ずかしい、といった顔で小さく呻く。

 

「うぅ……! そ、それはあれよ、未来の投資ってやつ! 今恩を売っておくことで将来私たちに恩を返しに来る、先を見据えたーー」

 

 だがその言い訳も最後まで続くことはなかった。ふいにスコーピオンが、静かに彼女の肩に手を置いたからだ。

 

 その手には圧力も威圧もない。ただ、じんわりとした体温と、不思議な包容力があった。

 

「落ち着いてくれ。私は責めてるんじゃない。ただ……少し可愛いなと思ってな」

 

「可愛いって何よ!? 債務者属性が!?!?」

 

 即座に噛みついたニコの反応をマオは静かに、だがどこか楽しげに受け止めた。笑みを浮かべながら、淡々と続ける。

 

「借金してでも必死に奔走する姿、案外嫌いじゃない。研究者も似たようなものだから」

 

そう言ってスコーピオンは穏やかに笑った。

 

すると、ふと思いついたように、視線をアンビーたちに向ける。

 

「……でも、そちらに踏み込んでしまったからには、私から何か答えないと不公平だな。よかったら逆に気になったことがあれば私に質問してみないか?」

 

ビリーが真っ先に手を挙げた。

 

「じゃあ単刀直入に……あんたのコードネーム“スコーピオン”の由来ってなんなんだ? やっぱその尻尾か?」

 

「正解。初期型のプロトスーツに実験的に付けた“薬剤投射ユニット”がこの尻尾だった。スコーピオン・タイプって名称で登録されたから、そのままコードネームになったんだ」

 

中身がサソリのシリオンだからなんて言える訳もないので一先ず真実を交えつつ誤魔化す。

実際にドクがスコーピオン・タイプて命名してたしな。

アンビーが腕を組んで、鋭い目を向ける。

 

「……ヒール。あの伝説のホロウレイダー集団。噂は聞いてるけど、どんな組織なの?…… ほんとにニュースで言われてた通りの自由奔放な“ならず者集団”?」

 

スコーピオンはしばし沈黙し、それから少しだけ笑った。

 

「“ならず者”か……ああ、確かに言い得て妙だ。この荒れ果てた終末の世界で、真実を掘り起こす日々。誰の命令でもなく、それぞれが己の信じるものを追っている。でも私たちの目的は同じ……ただ、手段が過激すぎる時もある」

 

ニコが少し声を潜めて、遠慮がちに口を開く。

 

「……その中でも、あなたって、どれくらいの立場なの? “幹部”とか、“創設メンバー”とか……」

 

スコーピオンはしばし考え、ゆっくりと答える。

 

「立場で言えば、どちらもかな。それぞれが自分に合った役割を担当しているが……メンバー同士の関係が希薄ということは無いな。むしろ毎日交流してるといってもいい。」

 

ビリーが腕を組んで頷く。

 

「なるほどな!ヒールは過激だけど理にかなったことをしているっていう噂もある。……その真意を知れるなら今日の突入は収穫が多くなりそうだな……!」

 

スコーピオンも頷き返す。

 

「こちらこそ、君たちとのやりとりは予想以上に楽しい。同業としてのよしみだ、何か困ったことがあれば今回のように手を貸そう。……あ、すまないがお金は貸せそうにないな。これ以上ニコの借金を増やすのは忍びない。」

 

「ちょっと、それをいじるの止めなさいよ!!」

 

笑いが弾けた。

 

その後も、何気ない話題で花が咲いた。

ニコの浪費癖。ビリーの安物パーツを使った時の失敗談。アンビーのハンバーガー狂い。

ヒールの活躍や六課と出会った時のことーー

 

話すほどに、警戒心は解けていく。

 

ーーーーーーー

 

語り合い話題もひと段落したところで、沈黙が流れた。

 

「遅いな店長、もう随分長いことホロウにいるよな、俺たち。ホロウ内安全活動推奨時間が過ぎたぞ」

 

未だにアキラは戻らない、腕の中で沈黙を続けたままだ。

 

「……少し待て、足音がする」

 

その一声で全員が意識を切り替え、周囲の建物の壁に身を隠す。

何か近づいてくる。エーテリアスではない規則正しい足音が複数、これは……

 

「……どうやら調査協会のホロウ調査チームのようね。」

 

アンビーが様子を窺い、ぽつりと漏らす。

 

「ふむ、彼らならキャロットを持っているだろうがどうする?」

 

「……」

 

スコーピオンの問いに邪兎屋の面々は黙ったまま、答えない。何やら難しい顔で此方と調査員たちの様子を見ている。

 

不思議に思い首を傾げる。

 

「……?」

 

なぜ三人は黙ったままなのか?ここは一瞬だけプロキシを自分たちの身の安全のために調査員たちに差し出す考えが浮かび葛藤するが、最終的に却下し、先に進む……。ニコの義侠心溢れる素晴らしいシーンだったはずだが。

 

スコーピオンことマオの与り知らぬことであるが、そのプロキシは彼女の手の中にある。はたから見れば割れ物を扱うかのように、優しく包むように大事に抱えている。そんな中で恐ろしい戦闘力を持つ彼女に言い出せる者がいるだろうか。少なくともこの場にはいなかった。

 

彼女との敵対を恐れている邪兎屋が何も言い出せないのは当然である。提案するだけで即戦闘に移行する可能性があるのだ……!

 

「……確認だが、君たちは治安局の政策を知っているか?プロキシを差し出せば減刑されるという……。」

 

「!?……いや~知らねえな。そんなのあったのか、じゃあもし!仮にだが!店長を差し出せば俺たちが助かるってことか……?」

 

「……ええ、その政策は私も知らなかったわ。もしかするとビリーの言った提案は実現できる可能性はあるけど、判断はそちらに委ねるわ……。」

 

従業員の二人は頭を素早く回していた。スコーピオンとの敵対を絶対避けるため、自分たちからは先の提案を出さず、相手の意見を受け入れる体制を作り“スコーピオンの判断に委ねる”という形を保つ。まさに怖い上司の顔色を窺い、当たり障りない意見を出していく部下そのものである。

 

違う、そうじゃないとスーツの中で顔を顰めるマオ。

このままではまるで自分がアキラを売ろうとしているかのような構図ではないかと、妙に気まずさを覚え始めたころ、沈黙を続けていたニコは口を開いた。

 

「……いや、ここは長く留まっていい場所じゃないわ。早く先に進みましょう。」

 

スコーピオンの目を真っ直ぐ見据え、そう力強く言うニコ。その瞳には強い決意が読み取れた。

 

「お、おいニコの親分」

 

「ニコ……」

 

二人からは自分たちのボスがスコーピオンの提案を真っ向から反対したように見える。ちなみにスコーピオン本人は提案したつもりもなく、その気もまるでない。だが一先ずニコの真意を探る。

 

「何故だ?案内もいないのであれば先に進むもないだろう……、まるで今すぐ調査チームから離れたいような意思が見えるぞ」

 

「兎に角よ!今回あんたは私たちに同行を求めてきて、それを私たちは仕方なく了承した。つまり、ホロウ内での動きは私たちが決めるの!あんたは黙ってついてきなさい!」

 

「……」

 

堂々たる言葉。だがその手は、微かに震えていた。

 

無言で見つめ合う両者。ニコはそれを表に出さずに目線も切らさないよう努めた。

ビリーとアンビーは緊張した面持ちで二人を見つめる。いつでも戦闘に入れるように武器に手を掛けておく。

 

既に調査チームの足音は遠のき、聞こえなくなっていた。

空気が急に張りつめていくのを感じる。

 

スコーピオンはしばし沈黙しーーやがて、静かに腕の中のプロキシを見つめた。

 

「……どうやら、金銭至上主義という訳ではないようだ。……良かったなアキラ、リン、信頼できる仲間が増えたようだぞ。」

 

その声は機械を通した音声でありながら、どこか温かさを含んでいた。先ほどまでの剣呑な雰囲気が消え、緊張がふわりと解けていく。

 

「試すようなことをしてしまってすまないな。確かに私は“同行”を願い出た立場だ。……なら、君たちの決断に従おう。」

 

「はぁ~……、マジで寿命が縮んだぜ。」

 

ビリーが緊張を解いて、肩の力を抜く。アンビーもほっとしたように軽く息を吐き、ニコの様子を窺う。

 

「……ニコ?」

 

アンビーが俯いたままプルプルと震えるニコに不思議そうに声をかける。

 

「ちょっと、ほんとに急に何なのよ!?すっごい怖かったんだから、慰謝料請求するわよ!」

 

ニコは鋭い視線に晒され続けていた緊張から解放され、爆発した。

 

スコーピオンは申し訳ないとニコを宥め、後ろの尻尾の先端を変形した。

 

「悪かった、慰謝料はこれで勘弁してくれ。」

 

突如尾から噴出される白い煙。瞬く間に全員を包み込み始め、邪兎屋の面々を驚かせた。

 

「!?突然何を……!」

 

「うおぉ!?この煙……!」

 

白い煙に包まれた瞬間エーテルの圧迫感が消失した。周囲には薬品のような匂いが漂っている。

 

「私の開発した薬剤を周囲に散布した。効力は一定時間持続するはずだから暫くは問題ないはずだ。アキラとリンが君たちを評価する理由も今なら理解できる、私も君たちに少なからず好感を抱いている。だからこれは君たちの決断に対する礼として、どうか受け取ってほしい。……ニコ、『パエトーン』のためにありがとう。」

 

ニコの正面に立ち頭を下げるスコーピオン、ニコは驚いて目を見開いていたがやがて顔を背けた。

その耳は赤く染まっている。

 

「ふ、ふん。別にお礼なんていらないわよ……!私がしたいからそうしただけよ!」

 

「……ニコの親分、分かり易く照れてるぜ。」

 

「ええ、きっとこんなにまっすぐ感謝を伝えられたことが無いから耐性がないのね。」

 

ニコの様子を察したビリーとアンビーは呟く。当然それは本人の耳に届いているのだが……。

 

「ちょっと、二人とも黙ってなさい……!」

 

顔まで真っ赤にして否定する姿はどこか必死で、かえって笑いを誘った。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

タイムリミットが伸びたからか、全員精神的に余裕ができていた。

 

あの後、随分時間が経ったが遂にプロキシが復活した。

 

「ーーみんな!大丈夫だったかい!?」

 

焦りを多分に含んだ声が響く、抱き抱えられていた腕から降り、辺りを見回して全員無事なことを確認すると、ホッとしたように胸をなでおろした。

遅れたことを気にしているのか、少し申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 

「遅いわよ、プロキシ!あんたがいない間こっちは色々大変だったんだから!」

 

ニコが真っ先に声を上げた。いつも通りの調子……に見せかけてどこか微妙に声がうわずっている。

本気で怒っているわけではない。けれど、心配した分だけ、感情が突っ走ってしまったのだ。

 

「確かに色々とあったな。だがそれだけでは説明不足だな……。ほら、アキラがいない間自分がアキラを守っていたことを直接本人に伝えるべきじゃないか。いやあ、あの義侠心は素晴らしかったなぁ!」

 

スコーピオンがわざとらしく口を挟む。

視線をニコに向けるその表情は、どこか優しく、冗談の裏にほんの少しの賞賛を滲ませていた

 

「~~!うるさいわよスコーピオン!」

 

「あはは、ずいぶん仲良くなったみたいだね。ニコありがとう。実はもうその場面は見ることができたから知っているんだ。もう長い付き合いなんだから恥ずかしいと思わなくても大丈夫だよ」

 

アキラは、柔らかく微笑んで言った。

その声音には、からかいでも呆れでもなく、ただまっすぐな感謝の気持ちがこもっている。

だからこそ、ニコは反論の言葉がうまく出てこなかった。

 

「っ!恥ずかしいなんて思ってないわよ!無駄話は良いから復活したなら、さっさと金庫まで案内しなさいよ!」

 

これ以上話を広げないように足を早めるニコ。

その場にいた全員が彼女を見てどこか微笑ましく思う気持ちが滲んでいた。

 

ーーーーーーーー

 

その後、一行は順調に金庫に近づいていた。廃棄した地下鉄の深部に辿り着き、アキラは手短にH.D.D.システムの接続が切れた理由を皆に説明した。

 

事件は複雑であり、一連の騒動には背後に黒幕がいる可能性が挙げられた。

詳細を聞き終え、スコーピオンはアキラを労わる。

 

「そうか……大変だったなアキラ、それにリンも……。二人が大変な目に合っていたというのに何もしてやれずすまない。」

 

「謝らないでくれ、君のせいじゃない。それにここまで多くの陣営が狙う金庫……、ハッカーも言ってたけどやっぱり……」

 

「ああ、恐らく()()()()()()()()

 

二人は目を合わせ小さく頷く。そこで、アンビーが口を開く。

 

「皆聞いて、この先にはアクシデントが待ち構えてる。浸食の影響はスコーピオンの薬のおかげでまだ出てないけど戦闘力が下がったら対応できなくなる。金庫の捜索を急ぐべきだと思う」

 

仲間たちは立ち止まり、その真剣な視線を受けて自然と表情を引き締める。

アンビーの言葉に心当たりがあるのか、ビリーは顔を手に置きながら話す。

 

「アクシデント?ああ浸食で異化しちまった赤牙組のおっさんーーつまり、あの上級エーテリアスのことだな?」

 

「そう。恐らく『デュラハン』は、今もホロウの中で私たちを探している。」

 

アンビーの忠告にスコーピオンが訊ねる。

 

「ちょっと待ってくれ、確認だが。その異化が起こったのを二人が目にしたのはつい最近だな?」

 

「?……ああ、そうだぜ」

 

ビリーは質問の意図に疑問を持ちながらも答える。アンビーも訝しみながらも頷く。

 

「わかった、ありがとう。先を急ごう……。」

 

謎の確認を終えたスコーピオンはずっと手に持っていたケースを強く握り締めた。

 

ーー()()()()()()()()()()()()()、だから私も今から自分の仕事を、目標を果たす……!

 

その眼には強い決意が宿っていた。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

「い、今に見てろ!後悔させてやる……!」

 

そういってアキラたちのH.D.D.システムを乗っ取っていたハッカーは接続を切断した。

 

目の前には警告音が鳴り響いていた。

複数のセキュリティフラグが同時に立ち、画面のログにアクセストレースが刻まれていく。

ハッカーは忌々し気に画面を見つめ、血の気が引いていくのを感じた。

 

「クソ、おのれパエトーンめ……!」

 

手が震える。だが迷っている時間はない。

この端末にはまだ組織関係データが残っている。

機密のデータ。もし押収されれば、間違いなく一生を棒に振る。

すぐさまデータを削除し、この場から逃げ出さなければならなかった。

 

 

外からはすでにサイレンの音が近づいていた。一分もすればここは封鎖される。

 

「(ーーまだ間に合う……!)」

 

ハッカーは身を乗り出すようにして、キーボードに手を伸ばした。

削除コードを入力しようとしたその瞬間ーー

 

「そんなに慌てなくても大丈夫だ。データの削除なら、私がやっておいてやる」

 

ぞわり、と背筋が凍った。

背後から聞こえたのは、低く、落ち着いた機械音声。

だが、間違いなくこの部屋には自分一人しかいないはずだった。

 

振り返る。無意識に。

その瞬間、視界がぐらりと傾いた。

 

「がっ……!」

 

首元に何かが巻き付いた。

手。人の手だ。それも信じられないほど冷たく、異常なほどに力強い。

 

抵抗する暇もなかった。椅子ごと床に引き倒され、肺から息が漏れる。

 

「く、苦しい……ッ! だ、だれ……だ……!」

 

見上げた相手は、フードを深く被っていて顔は見えない。

ただその目だけが、仄暗い部屋の中で、静かに光っていた。

 

「データはいただいておくよ。もっとも、消すのは私が手に入れてからだが……」

 

声は感情の読めない冷たいトーンだった。

ハッカーの意識が、どんどん薄れていく。

 

視界の端で、ディスプレイに映るコードが崩れていくのが見えた。

侵入されている。あの男が、自分のシステムを乗っ取っているーー

 

「や、め……ろ……っ……」

 

喉を潰されかけながら絞り出した声は虚空に消えた。

 

やがてーーー完全な闇。

 

 

 

数分後、治安官が突入した。

扉を蹴破り、銃を構えて部屋へなだれ込む。

 

だが、そこにいたのはただ一人。

 

床に仰向けに倒れ、かすかに呼吸だけを残して気を失っているハッカーだけだった。

部屋には争った形跡も侵入の痕跡もない。

ただ、青白い画面だけがまだ動いており、モニターに謎のコードが最後のログとして残されていた。

 

それはまるで、“誰かがそこにいた”ことだけを記録する、無言の痕跡のようだった。

 

 




後日談ですが、

プロキシ兄妹はドクが倒れたので心配してお見舞いに来てくれます。

そのおかげで隣にいたクロエは過呼吸と興奮状態で入院が長引きました。(アホ)
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